スフィアVSシュバルツ
「フッフッフッ、さぁ、どうしてやろうか…我が女神、ルミリア様を拐おうとする者に、一片の慈悲もかけてやるものか…」
(シュバルツ・ユーベリア…彼は一体どんな戦いを?)
完璧ノーマークだっただけに、彼には疑問しかない。
彼のグループには、騎士特待クラスの生徒も複数居たはず。
ならば、勝ち上がるだけの腕があるのは間違いないだろう。
そもそも、シュバルツは『フェア恋』の攻略キャラでもなければモブでもない。
あんな強烈なヤンデレキャラなら攻略対象者でも不思議じゃないが…まぁ、『フェア恋』のコンセプト的にヤンデレはいらなかっただろう。
「シュバルツ・ユーベリア。魔法省を管轄するユーベリア伯爵家に、五歳の時に養子入り。まるで芸術作品かのような漆黒の美貌をもちながらも、フェリスの至宝、ルミリア・ランフォート様を病的かつ狂信的に敬い愛する非常に残念なおと…お方です。」
「ミシル!どうしてここに?」
「遠目にルミリア様が面白い顔をしていたので、教えて差し上げようかと。情報料はお安くしておきますよ。」
流石情報通。
まさか攻略対象者以外の情報も持っているなんて。
「ありがとう。それじゃ聞きたいのだけど…彼はどうしてあんなに余裕があるのかしら。ただスフィア様を侮っている様には見えないのだけど。」
「それは…あ、試合が始まりましたよ。先にあの剣を見てもらった方が早いかと。」
「剣?…うわぁ…」
黒い刀身の…波打つ剣。
なにあれ、禍々しいにもほどがあるんですけど…
でもあの影…魔力を帯びている?魔剣?
「あれは魔法省が最近開発した魔剣です。学園側には常用の武器として帯剣許可が降りているので、大会の違反にはあたらないそうですよ。まぁ、当然揉めたそうですが、今年はグリフィス様とオンディーヌ様という魔力保持者が参加しているので、魔法省を管轄する一族が魔剣を使用することを正当化してきたそうです。ま、息子を使ってのデモンストレーションでしょうね。軍の関係者が集まるこの公の場で魔剣の力を見せつければ、魔剣の有用性を知らしめることが出来るでしょうから。」
「ミシルは人の心が読めるのかしら…」
「いや、実際読めちゃうルミリア様に言われても…。私は出来ませんよ。ルミリア様は顔に出過ぎなだけです。」
「私だってそんな非常識な真似はしないわ。でも魔剣開発だなんて、魔法省はなにをしてるのよ。」
フェリス王国の貴族にとって、男は剣、女は魔法は常識だ。
それはこの国の男女平等の根幹と言ってもいい。
互いの持つ力で互いを支えあう。
オベロンとティターニアが並び立つ姿こそが、フェリスの民の理想とする姿。
「名分だったら腐る程。他国からの侵略防衛力強化。混沌の森完全平定。「愛し子」を輩出できない貴族の格差問題に、魔法省の権力強化、女性による魔力独占の危険視、あとは…」
「…試合、見ましょうか。」
「それが良いかと。」
にっこり笑うミシルが怖い。
この子の情報収集能力はどこからくるの⁉︎
「よくご覧下さい。あれが魔剣の力です。」
「あ、はい!っ…⁉︎」
会場に視線わ移した瞬間、ゾッと背筋が泡立った。
黒い刀身から、湧き上がる様な黒い影。
スフィアの剣と打ち合う度に、飛散する影がスフィアの鎧に黒い染みを作る。
まるで黒い血のように…
「基礎体力も剣術も並の実力しかないユーベリア様が、剣士として名高いスフィア王子と互角に渡り合っている。肉体能力向上効果もあるようです。」
「けどあの影は…」
「影?」
すぐに理解した。
あの影はミシルには見えていない。
だとすれば、あの影は魔力ではない。
魔力であるとすれば、女生徒達は今頃あの異様な光景に怯えているだろうし、何より教師達が止めるだろう。
他国の王子に何かあれば、国際的な問題になってしまうのだから。
「しかし…本当に残念な方ですよね…」
冷めたミシルの視線の先には、漆黒の美貌を歪ませて笑う シュバルツの姿。
「アハッ、アハハ、どうしました⁉︎その程度の力で我が女神を勝ち得るとでも⁉︎あの笑顔を向けていただけるとでも⁉︎」
「流石は俺の妃になる女だ。ここまで狂信的な信者を生み出しているとはな!」
「アハハハハッ‼︎妃⁉︎妃だと⁉︎お前の、北の小国の妃などに、ルミリア様が収まるものか‼︎ルミリア様はこの世の全てを傅かせるお方‼︎ルミリア様は至高の女神‼︎さぁ、地に伏して崇め讃えよ‼︎」
…ドン引きだ…
これ、不敬罪で試合終了後に死刑にされたっておかしくないんじゃないか?
一応途中から影が観客席に飛散しないように風の障壁を張ったから、今の会話はスフィア王子と私以外に聞かれてないと思うけど…
って言うか‼︎聞こえてたら、私が反逆罪に問われるんじゃないの⁉︎
「あぁ、なんと尊い‼︎なんと貴い‼︎あの方にまた微笑みかけていただけるなら、俺はなんだって出来る‼︎俺はなんだって…彼女が幼かった俺に微笑みかけてくれたあの日から、俺は女神の使者なのだから‼︎」
一気に膨れ上がった影が、スフィア王子の身体に纏わりつく。
途端に身体の動きは鈍くなり、異変を感じたスフィアの表情が歪んだ。
「女神だ、使者だとうるさい奴だ。どんな手段かは分からんが、貴様にも何かしらの秘策はあったらしい。ならば手加減は必要ないな。その妄執ごと叩き斬ってくれる‼︎」
スフィアの剣が光をたたえ、魔法が付与される。
それはガリューに感じた魔力と同じものだった。
(どういう事?スフィア王子も魔力保持者だなんて、普通に考えればありえない。それともティル・ナ・ローグのキャラには魔法が使えるの?…いや、それはないわ。この世界に魔法が使える国がほとんどないのは、王立図書館でもアヴァロン学園の図書館でも、調べ尽くしたもの。)
正直、最初に感じていたこの試合への好奇心は消えていた。
今あるのは、気味の悪さだけだ。
私達の知らないところで、何かどろどろとしたものが蠢いている。
婚約者だとか、信者だとか、そんなこと言っている場合じゃないんじゃない?
今すぐに影と魔力の出所を探るべきでは?
「ルミリア様、どちらへ?」
「あ…、少し用事を思い出して…」
「まぁ、貴女の為に戦う二人を放って置かなければならない程の用事なら急がなくてはいけませんね。」
「っ…」
ミシルの言葉に、立ち上がりかけた腰を下ろす。
理由はどうあれ、スフィアとシュバルツが戦っている理由は私なのだ。
なのに私が決着を前に席を立つなど、あってはならない。
そんな事すら忘れてしまうなんて、私はどうしようもない女だ。
「…ありがとう、ミシル。」
「いいえ。ですが、貴女はもう少し自分を…ルミリア・ランフォートの存在を理解した方がいい。でなければ、貴女の為に身を呈したグノーム様も、不甲斐なさに泣いたシルフィード様も、オンディーヌ様も、報われないでしょう。」
「私の、存在…」
この世界において、ルミリア・ランフォートはどんな存在なのだろう。
絶大な権力を有する公爵家令嬢。
チート過ぎる魔力と武力。
「フェア恋」にも「ティル・ナ・ローグ」にもいない筈の存在なのに、メインキャラ達とも混沌の森とも深く関わっている。
もちろんこの世界で生きている以上、これがゲームだとは思っていない。
けれど、少なくとも「フェア恋」のストーリーはゲーム通りに進行しているのだ。
内容の詳細に違いはあるが、それも全て私が関わっているせい。
剣術大会だって、本当ならフィオナの為に戦うイベントなのに…
「ルミリア様は絶対に渡さん‼︎政治の道具に利用するなど、この俺が許さない‼︎」
「俺は必ずルミリアを手に入れる‼︎貴様の様な者に許しを得る必要などない‼︎」
戦いが熾烈になる程、シュバルツの剣から深い闇が湧き上がる。
(いけない‼︎これ以上闇が深くなったら…)
嫌な予感に、私は声を上げていた。
「シュバルツ‼︎」
声が届いた瞬間、彼の漆黒の瞳が見開いた。
そしてゆっくりこちらを見て…微笑んだ。
影に濡れた身体は真っ黒に染まっているのに、あまりにも美しく微笑んでいた。
「あぁ、あぁ…我が女神が俺を見ている。あの美しい声が、名を呼んで下さった。俺が貴様を屠る事を望んでおられるのだ‼︎ルミリア様、お任せ下さい!貴女のシュバルツが、必ずやお守りいたします!そして、未来永劫貴女のお側に…」
「あの怯えた顔を見て何を言う。ルミリアはお前の事など、勘違いした、気味の悪い男だとしか思っていないだろう。これ以上、俺のルミリアに呪詛のような言葉を口にするな。」
(呪詛…シュバルツ、まさか貴方のそれは…)
シュバルツの怒りと共に、影は明確な敵意を持ってスフィアへと向かっていく。
多分、間違いない。
あれは「呪い」だ。
闇魔法とは違い、魔力を必要とはしない。
「呪い」に必要なのは思いのみ。
発動者の怒り、憎しみなどの怨嗟が大きい程に、呪いは術者と対象者両方を蝕んでいく。
(どうしたらいいの?「呪い」が見えるのは私だけ。このままじゃ二人共飲み込まれてしまう。)
この戦いは即刻止めるべきだ。
けれど私にはその権限はない。
かと言って、今の状況を説明しても理解してもらえるとは思えないし、今のシュバルツに言葉が届くとも思えない。
(何か私に出来る最善の手は…)
シュバルツに私の声を届けるには…
「っ…シュバルツ!シュバルツ・ユーベリア!」
風魔法を使い、より大きな声をシュバルツに届けた。
そして顔を向けた彼に、微笑みかけた。
「ルミ…リア…様…が…笑顔を…俺に…?」
私には、シュバルツの言う幼い頃に微笑みかけた…という記憶はない。
でも、微笑みかけたその日から…と彼は言った。
なら、もうそれに賭けるしかない。
「あ、あぁ…貴女は…変わらず美しい…」
泣きそうに笑ったシュバルツの肩がふっと下がる。
それと同時だった。
影が蠢き、シュバルツを飲み込んでいく。
(お願い‼︎届いて‼︎)
祈るような思いだった。
私を想うシュバルツの心に、私は賭けた。
テレパスは相手が私を受け入れてくれていなければ通じない。
だから通じると信じて魔力を送り込んだ。
「呪い」に効果があるかも分からなかったが、光の魔力をテレパスに乗せて送れば、影を払えるかもしれないと信じて。
(シュバルツ、ありがとう。私の為に戦ってくれて。でも、心を闇に染めないで。私も貴方の笑顔が見たい…)
見つめ合う瞳が見開かれる。
そして…涙が一筋溢れた。
「これが貴女の力…あぁ、俺の…愛しい…女神…」
ガクリと膝が崩れ、投げ出された身体は意識を手離していた。
その身体に黒い影はなく、スフィアの鎧もまた何の痕跡も見当たらない。
光魔法が効いたのか、それともシュバルツ自身が抑えたのかは分からないが、勝敗は決まった。
勝者の宣言を受けたスフィアは何かを言いたげにこちらを見ていたが、私がそれに気付く事はなかった。
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剣術関係なくないか?と書きながら思いました。
すみません。
次はイグニスvsアレクティスです。




