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乙女無双 2



「貴様らに話がある。だがここでは目立つな。場所を変えるぞ。」


騎士特待クラスに現れた二人の王子に、生徒たちが騒然とする。


誰…と指名されたわけではなかったが、アレクティス、イグニス、ライラック、ミスティアナ、ギルベルトが教室を出た。


「…どこに行くんでしょうか。」


「どこであろうと、正面から受けて立つまでだ。」


イグニスの言葉に頷いた時、よく知る声が聞こえてきた。


「おやめなさい!」


「今の声…ルミリア様?」


ミスティアナの声に皆が足を止め、裏庭の方を見る。


「まさか…またフィオナちゃんが呼び出されたのか?彼女たちも懲りないなぁ…」


ギルベルトが脚を向けると、ガリューがそれを止めた。


「まぁ待て。俺の妃がどう出るのか見てみたい。」


妃発言に異論はあるものの、令嬢達の雰囲気から険悪なものは感じられない。

むしろフィオナも令嬢達と同じ様に、ワクワクした表情でルミリアを見ているのが分かる。


「お前達、気配を消せ。もう少し近くで様子を見たい。」


「ガリュー…王子が盗み聞きか?情け無い。」


「まぁ待て。俺の勘が聞いておけって言ってんだよ。」


軽蔑の眼差しを向けるスフィアを諌め、ガリューはニヤリと笑った。

アレクティス達も、令嬢達に囲まれるルミリア達を放ってはおけず、ガリューに従い気配を消した。


「フィオナ…一体どういう状況なの?」


「皆様気になってしょうがないんですよ!ルミリア様の恋の行方が!」


「えっ。…………えぇっ⁉︎」



その単語に全員の肩がピクリと動く。


「皆様が何を期待されているかは存じませんが、私になを聞きたいとおっしゃるの?」


「それは勿論、ルミリア様のお気持ちですわ!ルミリア様はどの方の優勝を願ってらっしゃるのです⁉︎」


優勝を願うとは、つまり婚約者に誰を望むかという事。


「なるほど。これで剣術大会を前に答えが分かる。」


スフィアの自信満々な様子を他所に、皆ゴクリと息を飲んで耳を澄ました。


「イグニス様ですわよね⁉︎勇ましく情熱的で、頼り甲斐もありますし、精悍なお顔立ちも素敵ですもの!何よりルミリア様に騎士の誓いまで立てておりますしね!」


「あら、何をおっしゃるの⁉︎騎士の誓いならギルベルト様も立てておりますわ!あの甘いマスクと逞しいお身体‼︎色香漂うお声に心溶かされない女がいるとでも⁉︎」


「誠実さが足りませんわ!その点、ライラック様は誠実で知的で、見目麗しく、ルミリア様に相応しいお方でしてよ⁉︎」


「愛らしさなら、ミスティアナ様に勝る者がおりますかしら!あの小動物を思わせるつぶらな瞳と、庇護欲をそそる愛らしさ!きっとルミリア様を癒してくださいますわ!」


「皆様何を見ていらっしゃるのかしら。ルミリア様のお隣に相応しいお方は、アレクティス様しかいないでしょう?家柄、実力、美しさ、頼もしくもお優しい!何より美男美女が並ぶお姿は、もう奇跡のカップルでしてよ⁉︎」


「皆様甘くってよ!ルミリア様はフェリスの至宝!その御身に相応しいのは王妃として立つお姿‼︎もう絶対にスフィア王子一択‼︎俺様強引王子に翻弄され、頬を染めながら身を委ねる可憐な姫‼︎おとぎ話の様ではありませんか!」


「ホホホッ、貴女方は知らないのね?本物の俺様とはガリュー様の様な方を言うのよ!まさに美女と野獣!野性の獣の様なワイルドさに、鋼の様なお身体!あの瞳に見つめられれば、従わずにはいられない!…いえ、でもルミリア様なら逆に調教という道も…えぇ、ありですわね!野獣を従えるルミリア様…良いですわ!」


令嬢達の賛辞に、盗み聞きしている気まずさを覚えるが、ガリューだけは微妙な顔をしている。


そして当のルミリアと言えば…ポカンとしていた。


「皆様…お言葉ですが、皆様は少し思い違いをなさってますよ?」


「フィオナ!そうよ、言ってやって頂戴!」


「まずイグニス様ですが、実は女性の扱いには慣れておられないので、アタフタする姿が可愛い方です。ギルベルト様は一見チャラく見えますが、実は思いやりの深い寂しがり屋さんです。」


(なっ⁉︎あ、アタフタ…)


(さ…寂しがり屋って…フィオナちゃん…)


「ライラック様は堅物に見えますが、実はかなりのツンデレさんで、ルミリア様への女神崇拝は私に引けを取りません。」


(崇拝ではなく尊敬だ‼︎ん?ツン…とは?)


「ミスティアナ様は可愛い姿の裏に、ブラックな一面があるので、ルミリア様の敵には容赦がありません。」


(えぇっ⁉︎僕ブラックですか⁉︎)


「アレクティス様はちょっと強引さに欠けるかと。押す時は押さないと、獲物は逃げてしまいますから。」


(………強引さ…)


「スフィア王子はライラック様とはちょっと違うタイプのツンデレさんですね。多分めちゃくちゃ甘やかしたり可愛がりたいけど、恥ずかしくて出来ないタイプかと。なので俺様の仮面を被って『可愛がってやるよ』とか言っちゃう系ですね。」


(あ、あの女はなんなんだ‼︎)


「ガリュー王子は…ちょっと残念な方ですよね。粗野とワイルドさを履き違えてますから、魅力的に感じるのは一瞬で、後々飽きられるタイプかと。」


(そ…粗野…飽きられる…)


「あ、でも調教は良い案だと思います!」


(⁉︎)


それぞれ思いは複雑だが、この時ばかりは皆の憐れんだ視線が集中する。


(なんだよ‼︎こっち見るな‼︎)


「で、ルミリア様はどなたを選ばれるのですか⁉︎」


「いや、どなたって…そもそも私は公爵家の娘。結婚相手は当主の決定で…」


「私共がお聞きしているのは、ルミリア様のお気持ちですわ!貴族である以上、婚姻は政治。それは皆理解しておりますが、私達も人間ですもの。恋をしたってよろしいではありませんか!」


言い淀むルミリアに、令嬢達がジリジリと距離を詰めていく。


「そうね。でも急に聞かれても、誰かを選ぶなんて…」


「ふふっ、じゃあ想像してみて下さい!」


「想像?」


「手を握られてドキドキしたり、抱き締められてドキドキしたり、そんな気持ちを想像するんです。」


フィオナに促されるままに瞳を閉じて想像を始めただろうルミリアに、可愛すぎるだろ‼︎と、みんな突っ込んだに違いない。


そしてみるみる赤く染まっていく頬に、心の中で叫んだに違いない。


「まぁまぁまぁまぁ‼︎ルミリア様ったら、なんてお可愛らしい‼︎」


「恋する乙女ですわね‼︎」


「貴きルミリア様が恋を意識した瞬間に立ち会えるなんて、我が一族始まって以来の吉事ですわ!」


「尊い!ルミリア様はなんと尊い存在なの!」


「お、お願いですから、もう許して下さい!」


「まぁ、まだ始まってもいませんわ!ルミリア様は何を想像なさったのです?」


「抱擁ですか?キスですか?ま、まさか…」


令嬢達からの令嬢らしからぬ発言の数々に、正直男達の頭はついていけてない。


「なんの羞恥プレイですか‼︎」


「羞恥プレイ?まぁまぁまぁ‼︎なんて素敵な響き!」


(((羞恥プレイ⁉︎)))


(悪くねぇ響きだな。)


(調教の挙句羞恥プレイとは…なんだお前、変態だったのか。)


(違げぇよ‼︎)


「もぅ本当に許して下さい…。他の事なら何でもしますから…」


「「「何でも⁉︎」」」


(こ、怖いです‼︎なんだかご令嬢達の目が怖いです〜!)


(見るなミスティアナ!夢に出るぞ!)


「コホン、仕方がありませんね。ルミリア様がそこまでおっしゃるなら、今日は引き下がりましょう。では、ルミリア様、フィオナ様、御機嫌よう。」


ウキウキしながら引き上げていく令嬢を見送って、真っ赤になったルミリアはホッと安堵の息を吐いていた。


「ふふっ、皆様ルミリア様の恋路に興味深々ですね!」


「やめて…」


「でも良かったんですか?あんなお約束してしまって。」


あれは確かに失敗だっただろう。

今後令嬢達がルミリアに妙な事をしないか、気を付けなければならない。


(我が妃は可愛いもんだ。)


(ガリュー…今ここで死ぬか?)


(王子、そろそろ参りましょう。我々にお話があるのでは?)


ルミリアが正気に戻れば、きっと自分達の気配に気付く。

令嬢達の話を盗み聞きしたなど、騎士として恥ずべき行為だ。


(面白いもんが見れたしな。そろそろ行くか。)


去り際の油断で気配に気づかれない様に…

そう思い振り返った先に見たものに、誰もが瞳を見開いた。


「だって…このままでは恥ずかしくて…死んでしまうわ。」


艶やかなピンク色の唇に触れながら恥じらう姿。

それはあまりに可愛くて、可愛くて、可愛くて…


羞恥に耐えきれなかったのか、ルミリアは一瞬で姿を消してしまった。

そしてフィオナはと言うと…


「ふふっ、婚約者様は大変そうですね。」


チラリと校舎の…こちらの方を見て、にっこりと笑って去って行った。


「あ〜…今の娘、気付いてたな。」


「流石はフィオナちゃんだなぁ。」


「王子、そろそろお話をお聞きしても?」


アレクティスの冷静な声に、スフィアはクッと笑って背を向けた。


「もういい。全ては明日決まるのだからな。」


「だなぁ。あれ見て諦めるって選択はねぇだろ。」


左右に去っていく王子達を見送り、残された五人はそれぞれ明日の大会に思いを巡らせた。






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