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乙女無双




「よし、バッチリね‼︎」


早朝のランフォート家の自室。

鏡に映るのは、いつもより輝く髪に、いつもより気合いの入ったメイクをした私。

ランフォート公爵家令嬢 ルミリア・ランフォートの姿。


剣術大会前日の今日、重大なイベントが発生する。


それは私にとって、剣術大会よりも大切なこと。


「フィオナ…貴女は私が守るわ。」









大人気乙女ゲーム『フェアリーガーデン☆恋する騎士との物語』は、徹底して疑似恋愛を楽しむゲームだ。

他の乙女ゲームとはちょっと違い、目立つような悪役令嬢やライバルキャラが出てこない。

モブ令嬢達の陰湿なイジメはあるものの、それは騎士が助けに来る為の前振りのようなもの。

むしろ助けに来てくれる騎士が誰なのかで、好感度が一番高いキャラを測れるイベントでもある。


(けど、今回は違う。)


今日発生するイベントは、誰も助けにこない。

差し入れや応援で騎士と急接近するヒロインを、堪忍袋の緒が切れたモブ令嬢達が取り囲むのだ。

そこでヒロインは罵詈雑言を浴びせられ、引っ叩かれ、転ばされる。


その名も悲劇のヒロインイベント。


泥にまみれたヒロインは、着替えに戻った自室で泣き崩れ、身分違いの恋を諦めるべきかと思い悩む。

しかし、翌日の剣術大会で優勝した想い人の姿を見て、捨て切れぬ想いに気付くのだ。


(だとしても…放っては置けない。)


イベントを邪魔してシナリオが変わってしまうのは怖い。

でも、あそこまで酷い目にあう必要はないと思う。


(罵詈雑言までは耐えるけど、引っ叩かれる前に止めてやるわ。大丈夫。私はモブのセリフすらコンプしてるんだから、タイミングはバッチリよ‼︎)


鏡に映る不敵な笑みを浮かべた自分こそが悪役っぽいな…と思いながらも、勢いよく部屋の扉を開いた。















(ついに来たわね…)


昼休みの裏庭。

王道の呼び出しポイントに連れて行かれるフィオナを、気配を消して追いかけた。


モブ令嬢の人数は七人。

イベント通りだ。


あまり近くに居ると、罵詈雑言の時点で飛び出してしまう自覚があるので、姿が見えるギリギリの位置で待機する。


(あの栗毛の令嬢が前に出たら、テレポートで一気に飛んで止めてやる。)


こうなったら、騎士以上にかっこ良く助けに入ってやろうか…と考えた時、令嬢達が一層声を荒げた。


(今だ‼︎)


フィオナに栗毛の令嬢が詰め寄った瞬間、二人の間に転移した。


「おやめなさい!」


「ルミリア…様?」


背中にフィオナの小さな声が聞こえる。

可哀想に…こんなに大人数に囲まれて、怖かったに違いない。


「もう大丈夫よ。…貴女達、一体フィオナに」


「まぁ!まぁまぁ‼︎まさかご本人が!こうなったら、無礼を承知でルミリア様にお伺いしましょう!」


「そうね!それが確実だものね!」


…あれ?

なんか…思ってとのと違う…


なんでみんな瞳をキラキラさせてるの?

てか、なんかワクワクしてない?


「ルミリア様!私も聞きたいです!」


「フィオナ…一体どういう状況なの?」


「皆様気になってしょうがないんですよ!ルミリア様の恋の行方が!」


「えっ。…………えぇっ⁉︎」


女の子って、いつの時代も、世界を超えても、恋バナには目がない見たい。

キャアキャアと周囲を取り囲まれては逃げ出す事も出来ず、仕方がないので質問を受けることにした。


「皆様が何を期待されているかは存じませんが、私になを聞きたいとおっしゃるの?」


「それは勿論、ルミリア様のお気持ちですわ!ルミリア様はどの方の優勝を願ってらっしゃるのです⁉︎」


「イグニス様ですわよね⁉︎勇ましく情熱的で、頼り甲斐もありますし、精悍なお顔立ちも素敵ですもの!何よりルミリア様に騎士の誓いまで立てておりますしね!」


「あら、何をおっしゃるの⁉︎騎士の誓いならギルベルト様も立てておりますわ!あの甘いマスクと逞しいお身体‼︎色香漂うお声に心溶かされない女がいるとでも⁉︎」


「誠実さが足りませんわ!その点、ライラック様は誠実で知的で、見目麗しく、ルミリア様に相応しいお方でしてよ⁉︎」


「愛らしさなら、ミスティアナ様に勝る者がおりますかしら!あの小動物を思わせるつぶらな瞳と、庇護欲をそそる愛らしさ!きっとルミリア様を癒してくださいますわ!」


「皆様何を見ていらっしゃるのかしら。ルミリア様のお隣に相応しいお方は、アレクティス様しかいないでしょう?家柄、実力、美しさ、頼もしくもお優しい!何より美男美女が並ぶお姿は、もう奇跡のカップルでしてよ⁉︎」


うぁ〜…ごめんよ、お嬢様方。

彼らは私じゃなくて、フィオナが好きなのよ〜

だから落ち着いて〜


「皆様甘くってよ!ルミリア様はフェリスの至宝!その御身に相応しいのは王妃として立つお姿‼︎もう絶対にスフィア王子一択‼︎俺様強引王子に翻弄され、頬を染めながら身を委ねる可憐な姫‼︎おとぎ話の様ではありませんか!」


そんなアダルトなおとぎ話は聞いた事がない。

もし販売されてたら、私の権利で販売禁止するわ。


「ホホホッ、貴女方は知らないのね?本物の俺様とはガリュー様の様な方を言うのよ!まさに美女と野獣!野性の獣の様なワイルドさに、鋼の様なお身体!あの瞳に見つめられれば、従わずにはいられない!…いえ、でもルミリア様なら逆に調教という道も…えぇ、ありですわね!野獣を従えるルミリア様…良いですわ!」


調教⁉︎

いやいや、何を妄想してるの⁉︎

そんな趣味ないから‼︎

やめて〜‼︎うっとりしないで〜‼︎


「皆様…お言葉ですが、皆様は少し思い違いをなさってますよ?」


「フィオナ!そうよ、言ってやって頂戴!」


流石はヒロイン!流石親友‼︎

ここはビシッと言ってやって!


「まずイグニス様ですが、実は女性の扱いには慣れておられないので、アタフタする姿が可愛い方です。ギルベルト様は一見チャラく見えますが、実は思いやりの深い寂しがり屋さんです。」


あ、うん、流石ヒロイン。


「ライラック様は堅物に見えますが、実はかなりのツンデレさんで、ルミリア様への女神崇拝は私に引けを取りません。」


…え?女神崇拝?


「ミスティアナ様は可愛い姿の裏に、ブラックな一面があるので、ルミリア様の敵には容赦がありません。」


なにそれ、そんな設定なかったような…


「アレクティス様はちょっと強引さに欠けるかと。押す時は押さないと、獲物は逃げてしまいますから。」


獲物⁉︎


「スフィア王子はライラック様とはちょっと違うタイプのツンデレさんですね。多分めちゃくちゃ甘やかしたり可愛がりたいけど、恥ずかしくて出来ないタイプかと。なので俺様の仮面を被って『可愛がってやるよ』とか言っちゃう系ですね。」


フィオナ…


「ガリュー王子は…ちょっと残念な方ですよね。粗野とワイルドさを履き違えてますから、魅力的に感じるのは一瞬で、後々飽きられるタイプかと。」


やめて〜!もうやめたげて〜!


「あ、でも調教は良い案だと思います!」


聞きたくなかった…

私の可愛いフィオナの口から、調教なんて聞きたくなかったんですけど〜…


なんかもう泣きたい。

色んな意味で泣きたい。

ヒロインの心眼怖いよ〜。

攻略対象者達のプライドが〜。

王子の威厳とか粉々ですよ〜。


目の前でキャイキャイと盛り上がるフィオナと令嬢達。

私は今日、イジメからフィオナを救う筈ではなかっただろうか。

私はなにをしてるんだっけ?


「で、ルミリア様はどなたを選ばれるのですか⁉︎」


「いや、どなたって…そもそも私は公爵家の娘。結婚相手は当主の決定で…」


「私共がお聞きしているのは、ルミリア様のお気持ちですわ!貴族である以上、婚姻は政治。それは皆理解しておりますが、私達も人間ですもの。恋をしたってよろしいではありませんか。」


フィオナを引っ叩く予定だった栗毛の令嬢に微笑まれ、その愛らしさに言葉が詰まる。


ゲームではあんなに酷い人だったのに、現実ではこんなに素敵な笑顔の女の子だったのだ。

私と同じ様に、恋を夢見る普通の女の子。


「そうね。でも急に聞かれても、誰かを選ぶなんて…」


「ふふっ、じゃあ想像してみて下さい!」


「想像?」


「手を握られてドキドキしたり、抱き締められてドキドキしたり、そんな気持ちを想像するんです。」


フィオナに促されるままに瞳を閉じて想像してみる。


ふと頭に浮かぶのは、何度も繰り返した「フェア恋」のイベントの数々。


イグニスに手を引かれて歩く庭園。

ギルベルトのお姫様抱っこ。

頬に触れるミスティアナの手。

愛しさを抑えきれないライラックの抱擁。

想いが通じ合い、見つめながら交わされるアレクティスとのキス。


(キッキスって…抱擁って…)


多分、今ものすごい顔してる。

自分でも真っ赤になってるのがわかるけど、一旦想像しちゃったら、恥ずかしさで死にそうだ。


「まぁまぁまぁまぁ‼︎ルミリア様ったら、なんてお可愛らしい‼︎」


「恋する乙女ですわね‼︎」


「貴きルミリア様が恋を意識した瞬間に立ち会えるなんて、我が一族始まって以来の吉事ですわ!」


「尊い!ルミリア様はなんと尊い存在なの!」


「お、お願いですから、もう許して下さい!」


「まぁ、まだ始まってもいませんわ!ルミリア様は何を想像なさったのです?」


「抱擁ですか?キスですか?ま、まさか…」


「なんの羞恥プレイですか‼︎」


「羞恥プレイ?まぁまぁまぁ‼︎なんて素敵な響き!」


イジメだ‼︎これ絶対イジメだ‼︎


「もぅ本当に許して下さい…。他の事なら何でもしますから…」


「「「何でも⁉︎」」」


あ、これ…言っちゃいけない言葉だった気が…


「コホン、仕方がありませんね。ルミリア様がそこまでおっしゃるなら、今日は引き下がりましょう。では、ルミリア様、フィオナ様、御機嫌よう。」


ウキウキしながら引き上げていく令嬢を見送って、真っ赤になっているだろう頬を両手で隠す。


「ふふっ、皆様ルミリア様の恋路に興味深々ですね!」


「やめて…」


「でも良かったんですか?あんなお約束してしまって。」


あれは確かに失敗だった。

でも、でもでも!耐えられなかったんだもん‼︎

想像しちゃったら、一気に現実味が沸いてきて…


(ヒロインじゃなく…私が…私自身がなんて…)


そっと自分の唇に触れると、心臓がギュッと締め付けられた。


「だって…このままでは恥ずかしくて…死んでしまうわ。」


リアルって凄い。

リアルって怖い。

リアルって恥ずかしい!


隣でニコニコと微笑むフィオナを見て、ヒロインって凄いな…と思う私だった。







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恋する乙女の暴走は、チートでも止められません!

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