女神降臨 2
「庭、ですか?」
「時間がないのでしょう?」
魔法で制服を動きやすい服装に変えて、広い庭の真ん中に立つ。
空間から取り出した剣をイグニスに渡すと、直ぐに察したイグニスは呆然と私を見つめた。
「イグニス、貴方の剣技はとても素晴らしいわ。スピード、パワー、機転、どれも申し分ない。けれど攻めてばかりで守りが甘い。」
握ったスピアで突きを放つと、紙一重で避ける。
動体視力も申し分ない。
けれど
「重心が高いわ。守りの基本が甘い!」
連撃を繰り出し続ければ、徐々に体制が崩れていく。
これがイグニスの弱点だ。
烈火の騎士の名の通り、激しい攻めの戦闘スタイル。
だが、気持ちが攻めに集中し過ぎているのだ。
「グッ、」
「次はギルベルト。」
「えっと…」
「貴方の悪い癖は、基本を疎かにしている所ね。天性の才に頼り過ぎているのよ。」
スピアをダガーに持ち替えて、一気に懐へ飛び込む。
変則的な攻撃を回避する事が出来るのは流石だが、次の行動に繋げる事が出来ていない。
並みの相手なら問題ないが、懐に入ってこられれば、次の一手の遅れは致命傷になるのだ。
案の定、防御の体勢が整う前に、ダガーはギルベルトの首筋を捕らえた。
「次はライラック。」
「ルミリア嬢、待っ」
「貴方の分析能力は高い。けれど、相手は分析される前にケリをつけようとするでしょう。変則的な攻撃への対応を身体に覚え込ませる事が必要ね。」
ダガーをランスに持ち替えて、ライラックの剣を弾く。
イグニスとギルベルトを見ていたからか、ライラックの剣は確実に私の攻撃を受け止めている。
(でも…これなら?)
ライラックが踏み込んだ瞬間、ランスは三等分に分かれて三節棍に姿を変えた。
そして武器の攻撃範囲の変化に対応出来ず、がら空きになった脇腹にランスの先端が触れた。
「次はアレクティス。」
「ご指導願おう。」
剣を構えてこちらを見つめる姿に隙はない。
「流石はアレクティスですね。隙が見えません。」
三節棍のランスをバスターソードに持ち替えて、正面から対峙する。
アレクティスルートでは、フィオナもこれといったアドバイスなどはしていなかった。
ただ側にいて微笑むだけで、アレクティス様は優勝したのだ。
「私がお伝えする事は一つだけ。非情になるお覚悟をお持ち下さい。」
実力が五分の戦いで必要なのは、覚悟と気概。
絶対に負けない、絶対に譲らない。
そんな強い意志が勝敗を左右する。
数十回の打ち合いの後に剣を引くと、アレクティスは柔らかな笑顔を浮かべて私の手を取った。
「貴女には驚かされてばかりだ。ルミリア、私はここに誓おう。貴女を他国の王子に渡しはしない。」
跪いたアレクティスの後ろに、イグニスとギルベルト、ライラックとミスティが跪く。
「貴女はフェリスの至宝。麗しの戦女神。我が身に代えても、御身をお守りすると誓う。」
「えっ?えっ?」
アレクティスの誓いに、間抜けな顔で戸惑う。
「私も全力で皆さんのサポートをします‼︎絶対あんな俺様王子達にルミリア様は渡しません‼︎」
「フィオナまで何を…」
「うちの大切なお姫様は、あんな奴らにはもったいないって事だよ。」
「もとより主人をお守りするのが騎士の務め。」
「僕達はルミリア様に幸せになってもらいたいんです!」
「貴女のような清廉な女神を、あのような野蛮な者達に汚させはしない…。そうだ、あんな私欲に満ちた獣など、私の剣で切り刻み…いや、鉄槌を…」
「あの…ライラック?ちょっと暴走してない?」
一体急になんだと言うのか!
なんでみんな目がキラッキラッなの⁉︎
至宝とか戦女神とか清廉とか、どうしちゃったわけ⁉︎
「き、気持ちは嬉しいけど、私はただ、王子達に邪魔されず、本来あるべき剣術大会をみんなに戦って欲しいと思っているだけよ?切り刻むとか鉄槌とか望んでないわよ?」
「大丈夫だよ、姫。俺たちがしたいだけだがら。」
「ダメでしょ!他国の王子を切り刻んじゃダメだからね⁉︎全然大丈夫じゃないから‼︎」
「ルミリア様は本当にお優しいです!やっぱり僕の女神様です‼︎」
…なんなの?
差し入れイベで好感度がおかしな方向に振り切れたの⁉︎
いやいや、私に差し入れイベは関係ないし!
そもそもなんでみんな跪いてるの⁉︎
「でも私びっくりしました!ルミリア様は武器の扱いも上手なんですね!」
「…え…」
「とってもカッコ良かったです!僕の持ってる神話の本に出てくる、戦女神ナリス様のようでした!」
『女の子はティターニア様のように淑やかであれ』がモットーのフェリス王国ではマイナーな、南の大陸に伝わるマナサス神話に出てくる女神…だったかな?
って‼︎
なんで私ルミリアのまま武器振り回してるの⁉︎
なんでルミアになってないの⁉︎
気抜き過ぎ!
ど、ど、どうしよう‼︎
まさか私がルミアだってバレたんじゃ…
「あぁ、素晴らしい動きだった。流石、英雄アラン・グリフィス様の孫だ。」
「ランフォート家ほどの名家にもなれば、きっと護身術も必須なんですね!」
「剣武の才と魔法の才を併せ持つお姫様か…。シビれるなぁ。」
(バレて…ない?)
ホッとしつつも、自分のバカさ加減に呆れてしまう。
これじゃ、フィオナの差し入れイベントは成立してないんじゃないだろうか…
仲良くおしゃべりはしていたみたいだけど、好感度が上がったかどうかは分からない。
「さ、さぁ、まだフィオナお手製のお菓子がいっぱい残っているわ。サロンに戻りましょう?」
再開したお茶会は、ちょっとした剣術討論会みたいになってたけど、フィオナにとっても有意義な時間になったと思う。
…思いたい。
後日、学園内に密やかな噂が広がった。
『騎士特待クラスに、天使を共に連れた女神が降臨なさった。』
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