ミシルの教え
目から鱗…とは、こう言う事なのだろうか。
『例え五人の方がフィオナを好きだとしても、フィオナは一人ですからね。四人の方は失恋決定です。』
確かにその通りだ。
無意識のうちに、私の恋愛対象から外れていたが、フィオナと結ばれるのは一人だけなのだ。
(でも、まだフィオナが誰を選ぶのか分からない以上、恋愛対象には入れられないわ。それに…そもそも私を好きになってくれるはずがない。)
大好きだった『フェア恋』のキャラクター達。
皆一途にヒロインを想っていた。
美しいライバル令嬢達からの誘惑にも揺るがず、騎士らしい誠実さで想いを寄せてくれる騎士達は、本当に本当に素敵だった。
(そうよ。彼らの心が揺るぐ筈がない。それはゲームをやり込んだ私が一番良く知ってるわ!)
『ルミリア様、落ち着いて下さい。一度冷静になって周囲の人間を見て下さい。』
『貴女が信頼して下さる私の情報収集は、人をよく見て観察することから始まります。ですから、ルミリア様もよく観察してみて下さい。一人一人の表情を。どんな風に笑い、どんな風に話し、どんな風に側にいるのかを。』
「一人一人の表情…」
表情なら、見てきた。
私の秘蔵スチル集は、既に辞書並みに厚さを増している。
細かなイベントも回収して、ゲームにはないスチルも念写で収集してきた。
ミシルと別れてランフォートの自室に飛び、空間からスチル集を取り出す。
ずしりと重い一冊。
その一枚一枚が、ゲームでは得られなかった貴重な思い出だ。
「ゲームでこのスチル量はあり得ないからね。転生して良かった〜!」
ゲームで見たことのない表情。
女の子の様にフィオナとはしゃいで笑うミスティ。
慣れない箸の使い方に四苦八苦するギルベルト。
貴重な歴史書に目を輝かせるライラック。
甘いお菓子を嬉しそうに食べるイグニス。
ミーハーな令嬢に囲まれ困っているアレクティス。
私しか知らない、彼らの一面。
私…しか…
「ゲームじゃ…ない…から…?」
ルミアに負けたライラックは悔しそうだった。
頭を撫でたミスティは嬉しそうに笑った。
私に騎士の誓いをくれたギルベルトとイグニスの表情は真剣だった。
幼い夢に微笑んだアレクティスは綺麗だった。
「あれは全部…私に向けられた表情だった。」
この世界はリアルだと理解していた。
みんな意思を持って生きているって。
けど、やっぱりゲームの感覚は抜けなくて、ゲーム通りの進行が当たり前だと思ってた。
「ダメね。お母様に誠実じゃないって叱られたばかりなのに、私は全然…分かってなかった。」
頭の中は、フィオナと攻略対象者のことばかり。
周囲の人間に目を向ける事もなかった。
私に求婚して下さる王子達にも、好意を寄せてくれるシュバルツにも、誠実さが欠けていた。
イグニスとギルベルトの騎士の誓いでさえ、ルートの違いに戸惑いながらも、フィオナの為なのだろうと深く考えもせずに受け入れた。
「このままじゃダメだわ。ミシルの言う通り、一人一人をもっと観察して、誠実であるべきよ。」
愛とか恋とかじゃない。
一人の人間として、友人として、誠実でいたい。
ゲームのプレイヤー気分のままなら、近づくべきではなかった。
遠くから見ていれば良かったのだから。
「私はみんなと一緒にいたい。だって私はルミリア・ランフォート。プレイヤーではなく、彼らの友人なんだから。」
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