ヒロインじゃない
お久しぶりの更新です。
「どういうおつもりですか?」
スフィア王子達が演習場を出た瞬間、戸惑う周囲の声を聞くより早く、王宮にある宰相の執務室に飛んだ。
「…はぁ。宮廷魔導師達が泣くぞ?」
仮にも王宮の深部にある要人の部屋。
王宮全体に魔法防壁の術式が張られた上に、主要な部屋には更に強力な魔法障壁の施されている。
それを容易く破られ侵入者を許したとなれば、魔導師達の首が飛ぶような事態だ。
「ご安心下さい。術式に感知されないようにしましたので、誰一人として気付いておりません。」
「我が娘がプロの暗殺者も真っ青なスキルを持っている事が悲しいよ。」
わざとらしい泣き真似に、今はイラッとする気持ちを押さえられない。
「そんな扱い辛い娘を、お父様はどうして【賞品】になさったのです?」
「【賞品】だなんて、人聞きが悪いな。」
「では言葉を変えましょうか。何故【景品】にしたのですか。」
「いや、同じじゃないか…」
「…どういうおつもりで『優勝者と婚約』なんて仰ったのですか?」
こう口にしてはいるけど、大方予測はできる。
他国とはいえ、王族からの婚姻の申し出を断るには、何かしら表向きの名分がいる。
今回の場合、どちらか一方の手をとれば、一方の国に禍根を残す事になる為、どちらの求婚も受け入れる事が出来なかったのが現状。
それは理解している。
けれど、だからといって…
「そこまで分かっていたか。流石は我が娘だね。」
「お父様もご存知の筈です。剣術大会が生徒達の未来に関わる重要なものであることを。」
剣術大会の成績如何で、軍や騎士団からのスカウトなどの伝を掴むことも出来る。
謂わば自己アピールの場であり、学んで来たことを試す場でもあるのだ。
なのに、一個人の都合で引っ掻き回すような事が、許されるわけがない。
「これは学長から承諾も得ているよ。」
「なっ!お父様程の方が、何故この様に無関係な者を巻き込む事をなさるのです⁈もっと他にやりようがあったのではありませんか⁈一体何をお考えなのです⁉︎」
他国の王族からの求婚を断る名分は、ランフォート公爵家なら幾らでも用意出来る筈。
国一番の知恵者と呼ばれるお父様が用意した舞台には、何かしらの思惑があるのは間違いない。
それは理解しているが、今回はあまりに横暴が過ぎる。
(よりによって、トゥルーエンドの必須イベントをぶち壊す様な事をするなんて‼︎)
優勝者は、その勝利を手にフィオナとの距離を一気に詰めるのだ。
間違っても公爵令嬢との強制婚約なんてバッドエンドのルートではない。
フィオナの幸せな未来を守ることが生き甲斐だと感じている今の私には、どんな理由があったとしても受け入れられない話だ。
「…ルミリア、お前は昔から変わらないなぁ。」
「意思が強いのは両親譲りですから。」
「お前ほどじゃ…いや、話が逸れたね。けど、これは最善の方法だと私は思ってる。」
真剣な声に、私は黙ってお父様を見つめた。
ここまで言い切るなら、お父様の考えを聞かなくてはならない。
例え納得いかない事であれ、ランフォート家の意向ならば無碍には出来ないからだ。
そんな私の考えを見抜いてか、お父様は困った様に笑った。
「剣の道へ進むと決めたお前が…同時に公爵家令嬢としても認められている。それにはどれだけの努力が必要だったか…私はね、心からお前を誇りに思うよ。けどね…」
不意に、大きな手が頭を撫でる。
「父としては…複雑なんだ。」
「………」
「親としてはね、もっと自由に生きてもらいたいと願ってしまう。私がクリスティナと出会い、恋に落ちて結婚したように、ルミリアにも幸せな恋を…結婚をして欲しいんだ。」
ランフォート家当主ではなく、父親としての願い。
そう言って笑うお父様の瞳は優しい。
「では何故剣術大会で婚約者を?」
「学園長からね、ルミリアが沢山の友人に囲まれて楽しそうに学園生活を送っていると聞いていたんだ。その中でも、騎士特待クラスの生徒数名とは親密な仲だとね。」
「し、親密⁉︎」
「イグニス・サラマンディと、ギルベルト・グノームが、ルミリアの騎士になったと聞いたよ。」
確かに騎士の誓いなど、親密過ぎて反論も出来ない。
だがしかし‼︎ここは一言申さねばならない。
イグニスもギルベルトもフィオナの為の攻略対象者であって、私は…
「他にも、シルフィード、オンディーヌ、ユーベリア、どの家もランフォートと婚姻を結んでもおかしくない爵位を持っているし、優勝者はこの中の誰かだと私は思っている。だから後はお前の意思次第だ。」
「私の…意思?」
「お前の腕があれば、短期間に相手を鍛える事も可能だろう?お前が望む相手に手を差し出せばいい。」
「そんな卑怯な真似はっ!」
「好きな男を応援するのは卑怯な事かい?」
確かに、ゲーム内でのフィオナも、騎士達に様々なアドバイスをしていた。
戦いの癖を指摘したり、新技開発に協力したり、練習中に回復魔法でサポートしたり。
この応援イベントで、好感度はかなり上がる。
(でも…でも私は…)
「ルミリアの応援する騎士が優勝すれば、王子達も引くしかあるまい。加えて好きな相手と婚約も出来る。マイナス要素はないだろう?」
「いくら私が鍛えたところで、想い人が優勝するとは限らないのでは?」
「想い人を応援するお前を見て、尚も婚約を迫る相手はいないさ。それより…」
ニヤリと浮かべた笑みに、嫌な予感がする。
「想い人がいる事を否定はしないんだな!いやぁ、正直寂しいが、堅物の娘が恋をしたなら嬉しい事だ!頑張るんだよ、ルミリア!」
「お父様‼︎ちがっ、私は本当に困って…」
「さぁ、私は仕事に戻らねば!可愛い娘との会話は嬉しいが、宰相として仕事が山積みだからな。」
手慣れたエスコートで扉に促される。
もう話しは終わりと笑顔が物語った。
「あぁ、そうだ。言い忘れていたけどね、さっきは爵位なんて言ったが、ルミリアが愛した相手なら、私は反対なんてしないよ。」
うってかわった優しい笑顔。
「他国の王族でも、商人でも、平民でも…」
一体お父様は私のプライベートをどこまでご存知なのか…。
いや、ランフォートの力があれば容易いのは…
「例えば、ロクレーヌ家であってもね。」
パタンと音を立てて閉まった扉を前に、私は立ち尽くす事しか出来なかった。
今…お父様はなんて仰った?
ろくれ〜ぬ?
幻聴…?幻聴よね?だって、今その名前が出る意味がわからないし!
そもそも、ランフォートとロクレーヌなんて、無茶な話に決まって…
『私と…恋をしませんか。』
(っ…アレクティスと私が…?)
ガチャガチャと、鎧の音が遠くに聞こえてハッとする。
もう一度お父様に物申したいところだが、見廻りの兵士に見つかると、色々厄介な事になってしまう。
※登城手続きしてないのは大問題!
(お、お父様のバカッ‼︎)
慌てて自室にテレポートして、ガクリとその場に座り込む。
もう色々とキャパオーバーだ。
私はただ、フィオナの邪魔をせず、フィオナを応援し、フィオナが幸せなエンディングを迎える未来を願っているだけ。
私自身は、国や民にとって有意義な相手と結婚し、出来ればその方と愛や情を育んでいけたら嬉しいと思っている。
もちろん大恋愛だって諦めてはいないが、それは公爵家令嬢の婚姻に相応しい相手となら…という、限りなく厳しい条件付き。
(なのになんで攻略対象者が私の婚約候補者に⁉︎どうすればいいのよ〜‼︎)
フィオナが応援した攻略対象者が優勝しなければ、トゥルーエンドは迎えられない。
いや、例え優勝しなくても、応援イベントなどで好感度を上げなければ、ハッピーエンドも厳しくなる。
特にフィオナは一年生で自分磨きをしていた分、交流自体が二年生からのようだし、現時点で誰か一人に絞っている様子もない。
(この剣術大会で、なんとしても最高値好感度を回収しなきゃ‼︎今こそ私の知識が活きる時よ!フィオナ…絶対に私が貴女をトゥルーエンドに導いてみせる‼︎)
拳を握り締めて立ち上がった姿が、不意に壁の姿見に映る。
小さくて可愛くて、儚くて可憐なフィオナとは、まったくもって正反対の自分。
大柄で性格のキツそうな、いかにもな公爵家令嬢。
そりゃ…前世の私と比べたら、すっごく恵まれたと思う。
ルミリアは、可愛くはないけどかなり美人だし、スタイルだってすごく良い。
食べても全然太らないし、ウエストとか闘病してた前世の私より細いし、なのに胸とか…メロンなの?ってくらいだし。
前世の私が見たら、海外のモデルさん⁉︎女優さん⁉︎って憧れちゃうレベル。
でも…
「ごめんなさい、お父様…私はヒロインじゃないの…」
それを私は誰よりも知っている。
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