公爵の決断
最近ちょっとリアルぎ落ち着いたので、ゆっくりですが更新していきたいと思います。
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「えっ…お父様…今なんと?」
「ん?聞こえなかったか?クリスタリアにも、ガラシアにも、断りの返事をすることにした。」
和やかな朝食の席で、なんでもない事を告げるようにそう言ったお父様を、私は呆然と見つめた。
昨日のうちにクリスタリアから正式な申し入れがあった事にも驚いたが、何よりどちらの縁談もお断りするというお父様の判断が分からない。
「わぁい!お姉様まだお嫁に行かないんだね!」
「わぁい!お姉様と離れなくていいんだね!」
無邪気にはしゃぐ双子にキュンとしながらも、納得いかないまま「そうですか」とは引き下がれない。
「お父様、理由をお聞かせ下さい。両国は我がフェリスにとって有益な国。深い関係を築くチャンスではありませんか。」
「確かにそうだ。が、私の意思は変わらない。それより、剣術大会の件だが、」
「お父様‼︎国益に関わる大切なお話です!はぐらかさないでくださいませ!」
「これは当主である私の決定だ。異論は許さん。」
いつも優しく穏やかなお父様が、私の目を見てキッパリと告げて席を立った。
はしゃぐ双子達はメイド達が庭へと連れて行き、テーブルには私とお母様だけが残った。
「…お母様は…ご存知ですか?」
「お断りする理由?」
「はい。」
「もちろんよ。」
「なら教えて下さい!どうしてです?何故こんな良縁をお断りに?何故お父様は理由をお聞かせ下さらないのです?」
「お断りする理由なら山ほどあるわ。」
呆れたようなお母様の視線に、ますます意味がわからなくなる。
もしかして、王族へ嫁がせることが不安なのだろうか。
公爵家の令嬢として、恥ずかしくない教養や礼節は身につけてきたと思っているが、皇太子妃になるには相応しくないのかもしれない。
実際私自身も不安はあるが、国の為なら努力は惜しまないつもりだ。
「教えて下さい。お母様…」
「…いいでしょう。まず一つ。先にお話しが来ていたガラシアだけど、あの国は今から世継ぎ争いが激化する国よ。そんな危険な国に、貴女を嫁がせることが出来るわけがない。」
確かに、ガリュー王子はお兄様達を蹴落とす気満々だった…
「次に、クリスタリアは昨晩書状を送って来たのだけど…とても礼儀にあったものではなかったわ。クリスタリアからの使者は、この書状を渡す時、何か脅迫めいた言葉を残していったそうよ。それがスフィア王子の指示かは分からないけどね。」
脅迫って…
「次に」
「まだあるのですか⁉︎」
「山ほどあるって言ったでしょ?これはアスタルの意見だけど、根本的な性格の不一致ね。」
「アスタル兄様が⁉︎性格の不一致って…」
お母様の話だと、クリスタリアから書状が届いたと同時に家族会議が開かれたらしい。
騎士団の寄宿舎にいた兄様達を呼び戻し、話し合いは深夜にまで及んだそうだ。
いや、お断りするのはすぐに満場一致で決まったらしいんだけど。
「だって、ガリュー王子もスフィア王子も俺様系でしょ?気の強い貴女とじゃ、必ず意見がぶつかってしまうわ。」
否定…できない…
「そしてアベルの意見だけど、あの二人は貴女に相応しくないそうよ。」
「えっ⁉︎王族相手に何を…。あの、それはいつものシスコン的な意見では…?」
「それもあるわね。でも、今回ばかりはそれだけではないようよ。」
アベル兄様は、家族の誰より私の持つ力を理解している。
好戦的な二人は、強大な魔力を持つルミリアを、必ず戦力として利用する。
それが王子としての地位を守る為なら尚更だ。
と、危惧しているらしい。
「血生臭い奴らなど、ルミリアに相応しい筈がない。だそうよ。」
「アベル兄様らしいですね。」
「そしてこれは私の意見だけど、貴女…王太子妃になったとしても、混沌の森討伐を続ける気なのでしょう?」
「っ…」
「誤魔化さなくてもいいわ。貴女は責任感が強い子だもの。例え隣国でも、貴女の魔力ならテレポートで移動可能な距離。誰が止めても続けるのでしょう?」
「…はい。そのつもりでした。出来れば…聖騎士団のお役目も続けたい…と思っています。」
「まぁ、呆れた。」
そう言いながらも、お母様の瞳は優しい。
私がグリフィス領で生活するようになってしばらくは、毎日の様に女の子の生き方を説得してきたお母様だったが、2年目が過ぎた頃からは何も言わなくなっていた。
疑問には思っていたが、お祖父様が説得して下さったのだろうと、あえて藪を突くような事は避けてきたのだ。
が、ここに来て、お母様は私を理解して下さったからこそ、何もおっしゃらないのだと理解した。
「お母様…ごめんなさい。でも私は、ランフォートの娘として、より良い縁談を結ぶ義務を忘れた事はありません!」
「ルミリア…」
そう、私は公爵家令嬢。
国の為に、民の為にこの身を捧げることこそが…
「貴女、結婚を甘く見ているのではなくて?」
「えっ?」
「王太子妃になりながら、混沌の森討伐に、聖騎士でもありたいなんて、公爵家令嬢どころか、まるで小さな子供のようね。」
優しい瞳…だった筈が、今の目は確実に呆れきってる目だ。
「あれもしたい。これもしたい。なまじ実行する力がある分タチが悪い。私が反対した理由はお父様達とは全く違うわ。」
「それは…」
「お相手に失礼だからよ。これから生涯を添い遂げるお相手に対して、貴女は最初から隠し事をするつもりでいる。妻とは、夫を心身共に支えるものです。なのに、貴女はお相手をまったく見ていない。例え政略結婚だとしても、あまりにも不誠実だわ。」
胸を…抉られたような気持ちだった。
国益に繋がる結婚をして、時間を見つけて混沌の森討伐や聖騎士としての役目を果たして生きて行こう。
私にはその力があるのだから、力を持つ者としての義務を果たそう。
ずっとそう考えてきた。
けど、お母様の言う通りだ。
(私…なんて事を…)
自分の欲ばかりに目がいって、スフィア王子やガリュー王子自身のことを考えてはいなかった。
恋がしたいなんて言っておいて、夫になるかもしれない方を、知ろうともしていなかった。
「理解出来たようね。年齢は結婚適齢期だけど、貴女はまだまだ未熟な子供。結婚を急ぐ必要はないわ。」
「…はい…」
「…まぁ、これが一番の原因ではないのだけど。あら、ルミリア、貴女学園に行く時間ではないの?」
「あっ!はい、行って参ります!」
目の前でテレポートして消えた娘に呆れながら、クリスティナは少し冷めた紅茶に口を付けた。
「一番の理由が、北と南の戦争回避の為…なんて言っても、あの子は理解しないでしょうしね。」
クリスタリアの使いが残した言葉は、まさにそれを危惧させるものだった。
『例えどのような事であれ、我がクリスタリア王国がガラシアなどに遅れをとる事はありません。どのような手段を用いても、必ずやスフィア王子はガラシアに勝利するでしょう。公爵にはこの意味…理解して頂けるかと。』
好戦的なガラシアならともかく、クリスタリアからの威嚇には驚かされた。
美しく華やかな娘に成長したとは思っていたが、まさか北と南の戦争の火種になろうとは思っても見なかった。
「まぁ…あの子の本性を知ったら、妻にしたいとは思わないと思うけれど。」
その一方で、魔力と武を兼ね備えた愛娘に、大きな戦力としての使い道があると知られればどうなるか…との心配もある。
だから国外へ嫁がせることはしない。
それがランフォートの総意と、昨夜の家族会議で決まった。
「だからって、剣術大会優勝者と婚約だなんて、本当に急な話よね。…あらあら、ルミリアに伝えるのを忘れていたわ。」
クリスタリアとガラシアを納得させる為に、国内で婚約者を探す。
ルミリアの婚約者ならば、ルミリアを守れるだけの力が必要だ。
同じ学園の生徒ならば、学園生活を通じて互いをより理解することが出来る。
では、誰が相応しいのか…
剣術大会はそれを見定めるには、都合のいい場だったのだ。
「うふふ、楽しみねぇ。」
10/10




