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乙女ゲームの世界は破壊力は凄まじい



いや、別に忘れていたわけじゃないのよ?


ただ、攻略対象者に気を取られていたっていうか…


まさか私がって感じだったというか…


(乙ゲーの破壊力半端ないなっ‼︎)


そう、ここは乙女ゲームの世界。

今こうしてこの世界に生きていると、時々その事を忘れてしまいそうになるけれど、確かにここは乙女ゲームの世界なのだ。

でなければ、こんなことが起こるはずがない‼︎


「あんたのその瞳…綺麗だな。ずっと近くで見てみたいと思ってたんだ。」


(ち、近い‼︎リアル壁ドン近いよっ‼︎)


女子なら一度は憧れる壁ドン‼︎

それを今まさにされている私の心境は、恥ずかしいやら怖いやら恥ずかしいやらで、半ばパニックだ。


シベリアンハスキーを擬人化したかの様な長身のイケメンに迫られれば、恋愛偏差値底辺の私が太刀打ち出来るはずがない。


もし私が純粋にルミリアとして生きていれば、

「お辞めなさい!無礼ですよ!」

と、毅然とした態度で振り払っていただろう。

実際頭はそうしろと指令を出している。

けど、前世成分の動揺が身体を動かしてくれない。

そんな状況だった。


「もっと、よく見せてくれ…」


(ヒィッ‼︎)


こ、これは顎クイッ⁉︎


長い指に顎をすくわれて、更に瞳の距離が近くなる。

黒と青の混ざった瞳には銀の彩光がさし、こちらの方が見惚れてしまうくらい美しい。


(って、ダメよ‼︎もう‼︎なんなの、この世界の美形率‼︎モブすら美形とか、モブすら甘いとか、私を萌え殺す気ですか⁉︎)


「逃げるなよ。…なぁ、あんた恋人はいないんだろ?なら俺のものになれよ。あんたの瞳を、ずっと側で見つめていたい…」


「は、離し、」


「スフィア王子、ちょっとばかり強引すぎやしないか?」


「なんだよ、ガリュー。まさかお前まで姫狙いか?」


(スフィア⁉︎ガリュー⁉︎)


聞き覚えのある名前にギョッとした。

このシベリアンハスキー様は、北の国クリスタリアの第一王子 スフィア様だ。

そしてライオンを擬人化したような赤褐色の髪のワイルドな美形は、多分、南の国ガラシアの第三王子 ガリュー様。


(なるほど、ただのモブではなかったって事ね。って、なんで王子⁉︎【フェア恋】にだって出てないのに、なんで学園に⁉︎)


王子が留学中なんて、そんな設定は【フェア恋】にはなかった。

もしこの美形二人が存在していたら、絶対に攻略対象になっていた筈だ。


(ちょっともう‼︎これ以上はキャパオーバーだから‼︎攻略対象者が多い乙女ゲーム程、愛情度のコントロールが難しいんだよ⁉︎一体何人出てくんの⁉︎)


ここは【フェア恋】が舞台で、【ティル・ナ・ローグ】の瘴気が混在する世界。


(まさか…【ティル・ナ・ローグ】に出てくる王子様⁉︎)


斬って斬って斬りまくる以外は全てスキップしていたせいで、【ティル・ナ・ローグ】についてはキャラの詳細などはほとんど知らない。

【ティル・ナ・ローグ】には世界マップが存在していたから、きっと細かい国や王族の設定もあったに違いない。


(言われてみれば…私が使ってたキャラと作りが似てる気がする。)


取り敢えず動きの速いキャラ‼︎と思って選んだ【ティル・ナ・ローグ】のキャラは、細マッチョな爽やか系イケメン…だった気がする。

正直、あの頃は精神状態がカオス過ぎて、記憶がほとんどない。

武器を強化して、斬って、斬って、斬って、斬って…

間近に迫る死…という、受け入れられない現実から逃げてたあの状況で、登場キャラの詳細なんか見ている余裕はなかった。


(いや、でもフェリス王国以外で瘴気が発生しているなんて聞いたことがない。純粋に勉強の為に?それとも…)


「っ⁉︎⁉︎⁉︎」


思考を遮られる程の衝撃に、一瞬身体が固まる。


「これ程美しい姫だ。男なら誰でも欲しくなる。」


耳元で聞こえる低音。

薄い布越しに感じる、逞し過ぎる分厚い胸筋。

いつの間にか抱き締められていた事に絶句するも、腰を抱く腕はまるで鋼鉄のようで、驚きに揺れた身体を離してはくれなかった。


「…離せ、ガリュー。それは俺の(エモノ)だ。」


「お前の(エモノ)?フッ、おかしいなぁ、クリスタリアの王子。ランフォート公爵からは、ルミリア嬢にはまだ婚約者はいないと聞いているぞ?」


「…なるほどな。第三王子のお前が国へ帰るには、公爵家の後ろ盾が最高の手土産ということか。」


「否定はしないが、勘違いするなよ?我が国の王位は力ある者が立つ。ただ俺は、王となった自分の隣に、この美しい姫を置きたいと願っているだけだ。」


王となるって…お兄さん達蹴落とす気満々⁉︎

ガラシアは好戦的な民族ってお祖父様から聞いてはいたけど、王位継承も力業⁉︎

いや、それより…隣に置きたいって…


「ランフォート公爵には、ガラシアから正式に婚約の申し入れをした。どうだ、ルミリア。俺の妃にならないか。」


「っ‼︎‼︎」


ライオンの擬人化とは、自分でもうまく言ったものだ。

肉食獣である事を疑わせない力強い瞳。

強者として、王族としての圧倒的な威厳。

更に力強く抱き寄せられて、金色の瞳が間近に映る。


「必ず幸せにすると約束しよう。」


………………

ズッキューンだ。

これは…射抜かれる。

いや、射抜かれちゃうに決まってるでしょう⁉︎

乙女ゲーム好きな女子が‼︎

こんなセリフ言われて‼︎平気でいられるとでも⁉︎


「あ、の、私…キャッ⁉︎」


急に手首を掴まれて振り向くと、スフィア様の美しい瞳が鋭く私を射抜く。


「こいつの全ては俺のものだと言った筈だ。欠片も分けてやるつもりはねぇよ。」


な、なんなの⁉︎

本当になんなの、この状況っ‼︎


目の前で、ワイルド系イケメンが私を巡って睨み合う…

こんなシチュエーションを見る日が来るとは、人生って何が起こるかわからない…


「おい、ルミリア。お前はどちらを選ぶ。」


「ふぇっ⁉︎」


「難しく悩むな。お前の本能で選べばいい。」


本能なんてそうそう発揮できるか‼︎

なんてツッコミを、王子に入れる事も出来ない…


いや、でもここはランフォート家の令嬢として、毅然としなくてはいけない!


「王子様方を天秤にかけるなど、私如きが恐れ多い事です。そして私の結婚に関しては、当主である父次第。私がお応えすることは出来ません。」


「なるほどな。噂通り、フェリスの至宝と呼ばれる令嬢だけある。一筋縄ではいかないか。」


フェリスの至宝⁉︎

そんなの初めて言われましたけど⁉︎


「…ガリュー、クリスタリアからもランフォート家に婚約の申し入れはいく。勝手な真似はするなよ。」


「正々堂々と…か。まぁ、惚れた女を手に入れる為には、それも仕方ない。ルミリア、答えが出るまで、その美しい身体、誰にも許すなよ。」


持ち上げられた髪にキスを落として笑うガリュー様に、思わず赤面してしまう。

が、そんな私を横から攫うように引き寄せたスフィア様が、ガリュー様に見せつける様に私の頭にキスをした。


「忘れるなよ、ルミリア。俺は狙った獲物は絶対に逃がさない。お前は俺の獲…いや、俺の妃になる女だ。」


バチバチと火花を散らし、左右に去っていく王子達を見送り、一人になった途端に腰が抜けて座り込む。


「な…なんなの…」


モテ期⁉︎

これがモテ期ってヤツなの⁉︎


いや、そもそもランフォート家はフェリス王国の三大公爵家だ。

王子が基盤を築くには、力ある貴族の娘は格好の物件。

特に今のランフォート家は、家族全員が愛し子というフェリス特有の力を色濃く宿している。

魔法を持たない国からすれば、フェリスの力の一端を王家に組み入れたいという意図もあるのだろう。


「…はぁ、動揺して損した気分。」


そもそも、二人の王子とは初対面。

惚れた…なんて言葉を間に受けてしまった事が恥ずかしい。


けど、仕方ないじゃない。

前世も今生も、リアル恋愛経験値0なんだから。


「お父様は…どちらを選ぶのかしら。」


クリスタリアとガラシア。

フェリスと接する大国であり、友好関係にある国。

しかも王族からの婚約の申し入れなら、断る理由はないだろう。

私が妃になれば、戦争の危険性も回避出来るだろうし、貿易が盛んになればフェリスの国益にも繋がる。


「…きっと、以前の私なら、もっと理知的に考えていたんだろうな…。」


フェリスにとって、一番有益な結婚相手はどちらか…なんて考えてたに違いない。

そして国の為にと、喜んで嫁いだだろう。


けど…


「前世の記憶のせいで、随分と我儘になってしまったわね。」


コテン、と壁に頭を預け、ぼんやりと宙を見つめる。


私は…恋がしたい。


なんて言っても、立場上無理なんだってわかってる。

さっきの様子から、きっとどっちの王子と結婚しても、それなりには大切にしてくれるだろう。

それが分かっていても、やはり恋への憧れは捨て切れない。

フェア恋をプレイしていた時のときめきも、感動も、愛しさも、切なさも、全部鮮明に覚えているから。

あんな風に誰かを想いたい。

あんな風に誰かを愛したい。

あんな風に誰かに想われたい。

あんな風に誰かに愛されたい。

ずっとずっと…死の直前まで願っていた夢だった。


「この世界に…私を心から愛してくれる方はいるのかしら…」


フィオナちゃんみたいに可愛いわけでもない。

男に化けて剣を振るっている上、チート能力持ちだ。

表面上は取り繕えても、その実女性らしさの欠片もない。

転生したって、結局本質は…


「ルミリア…嬢…?」


「っ、アレクティスさ、キャッ⁉︎」


急に身体がふわりと浮いて、目の前に白銀の髪が映る。


「あ、あの、アレクティス様⁉︎」


「この様な場所に座っていては身体が冷えます。暖かい場所にお連れするので、しばしご辛抱下さい。」


(お、お姫様抱っことか、嘘でしょ⁉︎)


いきなり現れた事にも、抱き上げられた事にも驚いたが、多分体調が悪くて座り込んでいた…と思われたんだろう。


あまりに真剣な声に、ドキドキし過ぎて声も出せずに頷いた。


大柄な私は重いだろう…とか、はしたない姿を見られてしまった…とか、独り言を聞かれてなかっただろうか…とか、色々グルグルしているうちに、気が付けばアレクティス様の愛用するサロンに着いた。


「今暖かい紅茶を用意します。」


私を椅子に降ろし、手慣れた手つきで紅茶を淹れてくれる。

フェア恋でも、アレクティス様はヒロインに紅茶を淹れてあげていた。


(まさか本物を飲める日がくるなんて…)


夢の様な現実に、思わず感動が込み上げてくる。


「お口に合えばいいのですが。」


「ありがとうございます。いただきます。」


綺麗なカップに口を付けて、口内に広がる甘さと香りに驚いた。


優しい蜂蜜と花の香り。


ゲームで見ていたアレクティス様の紅茶は、こんなに素敵な紅茶だったのかと。


(やっぱり…ゲームとは全然違う。現実は…こんなに甘くて、優しくて、素敵なんだから…)


「ルミリア嬢…」


「あ、ごめんなさい。あまりに美味しくて驚いてしまって。このブレンドは…っ…?」


不意に伸びてきたアレクティス様の指が、私の目元を撫でて離れた。


「なにか…あったのですか?」


「え…あ、」


離れた指先は濡れていて、それを見て初めて、自分が泣いているのだと気付いた。


「ち、違うのです!何かあったとか、そうではなくて、ただ、色々、考えてしまっただけで、」


うまいいい訳も思い付かなくて、無理矢理浮かべた笑顔は、自分でも下手だと自覚出来た。


「私では…お力になれませんか。」


「えっ…」


「話して楽になる事もある。私では貴女の力になれないだろうか。」


「アレクティス様…」


真摯な瞳が、私を心から心配してくれている事を伝えてくれる。


「ありがとうございます。そう言って下さるだけで、気持ちが軽くなりました。」


「………それなら、良かった。」


苦笑を浮かべたアレクティス様が、ちょっとだけ肩を落としているように見える。


(でもさっきの事を話すのは…。ううん、どうせすぐ噂になるものね。それに、もしフィオナちゃんと結ばれなければ、アレクティス様も公爵家の跡取りとして政略結婚を強いられる身。むしろアレクティス様が一番私の気持ちを理解出来る方かもしれない。)


かと言って、ゲーム内とはいえ恋していた相手に話すのは複雑だったが、アレクティス様の厚意を無碍にする訳にもいかず、さっきの出来事を話した。


「クリスタリアとガラシアの王子が?」


「はい、ガリュー様のお話では、ガラシアからの正式な申し込みはランフォートに届いているそうです。私はまだ何も聞かされていなかったので、驚いてしまって…」


「クリスタリアからも正式に?」


「そのようです。」


「…クリスタリアとガラシアの戦争にならなければいいが…」


「ふふっ、アレクティス様もそんな冗談をおっしゃるのですね。」


「いや、冗談では…。しかし、ルミリア嬢は悩んでおられるのですね?」


「どうぞルミリアとお呼び下さい。…私は公爵家の者として、当主の意向に従うだけです。その考えは揺るぎません。ただ…」


「ただ?」


「お恥ずかしい話ですが、恋を…してみたかったなって、思って…しまって…」


「っ…」


「あ、いえ、わかっております。貴族の政略結婚は政治であり、義務であると。ただ、ちょっとだけ、憧れているだけで…」


「だからあんな事を…」


「え?」


「いや、貴女の気持ちはよく分かります。政治だと理解していても、生涯を愛する者と共にありたいと願うのは当然の事だ。」


やっぱりアレクティス様は素敵な方だ。

ロクレーヌ公爵家は、どの貴族より厳格に格式や血筋を重んじる。

アレクティス様のお母様も、ロクレーヌ家の繁栄の為に選び抜かれた方だった。

そんな公爵家の跡取りでありながら、彼はヒロインとの真実の愛を貫かんとして、様々なものと戦った。

男爵家の令嬢との結婚が叶ったのは、ヴェルトラム学園長の助力があったとは言え、アレクティス様の強い意思と深い愛情の賜物だったのだ。


「ふふっ、アレクティス様がお相手であれば、きっとお相手は幸せになれますわ。」


「っ、…そうでしょうか。私には女性の気持ちを理解することが難しい。きっと不快にさせてしまう事が多いでしょう。」


「そんな事ありません!アレクティス様は素晴らしい方です!」


「いや…私は父にそっくりだ。父は母を愛していないわけではないが、二人の間に貴女の憧れるような恋愛感情はないし、私から見て母が幸せだと感じたことはなかった。」


アレクティス様のお母様であるマレーネ様は、フェリスでも力のある侯爵家の方で、幼い頃にロクレーヌ家に嫁ぐ事が決まり、厳しい教育を受けたと、ゲームの中でアレクティス様から聞いた事がある。


「自分の母にも何も出来ない私が、女性を幸せに出来るとは思えない。」


「アレクティス様…」


「だからかな。私は政略結婚である方がいい。愛した人を悲しませるくらいなら、初めから…」


「そんな、そんな事おっしゃらないで!大丈夫です。アレクティス様なら、絶対に大丈夫です。」


だから、そんな寂しそうな顔をしないで。

ゲームで見た貴方は、いつだって幸せそうだった。

ヒロインと出会い、愛を知り、愛を育み、愛を成就させて結ばれる。


「ふっ、貴女は優しいな。」


「…大丈夫ですわ。」


フィオナちゃんなら、きっと、絶対に、貴方を幸せにしてくれる。

二人で幸せになれる未来を、私は誰より見てきたのだから。


「アレクティス様、愛する事を恐れないで下さい。」


「っ…」


「生涯を愛する人と共にありたいと願うなら、きっと願いは叶います。」


「ルミリア…なぜ貴女は…」


「私は知っています。アレクティス様がどんなに素敵な方か。とても誠実で、真面目で、純粋で、情熱的で、理知的で、人に優しく、自分に厳しく…とても美しい方だって。」


トゥルーエンドは結婚式までだったけど、様々な障害を乗り越えて結ばれた二人の未来は、きっと愛と幸せに満ちていたと確信してる。


(フィオナちゃんが誰を選ぶのかはまだ分からない。けど、どのエンディングでも攻略対象者は恋する気持ちを知り、愛する幸せを知る。だから大丈夫…)


「貴方には…幸せになってもらいたいのです。」


これは私の心からの願いだ。


「ルミ…リア…」


(………あ…)


わ、私は何を口走っているのだろう…

ルミリアとアレクティス様にはほとんど面識がないのに、何を知ったような事を!って思われる!

いや、そもそも何様だって話だ!

今まさに政略結婚直前の私が、きっと願いは叶いますとか、どの口が言うの⁉︎


「ルミリア、貴女は…」


「あ、いえ、その、申し訳ありません!出過ぎたことを…」


すみません‼︎

ごめんなさい‼︎

恋愛経験値0なのに、身の程知らずでした‼︎

ゲーム脳が…

全部ゲーム脳が悪いんです‼︎

生き甲斐が乙女ゲームだったんです‼︎


「ルミリア…私と…」


だってアレクティス様が自分の魅力を分かってないから‼︎

私の推しキャラだったんですよ⁉︎

好きなキャラを熱く語っちゃうのは仕方が


「私と…恋をしませんか。」


「……………え…?」


えぇぇぇっ⁉︎






な、なにがどうしてこうなった?

いや、私が悪いの?

いやいや、攻略対象者がなんで私に⁉︎


って言うか…


アレクティス様、見つめ過ぎです‼︎






もうやだ。

イケメン怖い。

乙女ゲームキャラの破壊力、半端なさ過ぎるから〜っ‼︎






9/30
















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