mission1.交友関係を広げよう
「ルミリア様、今日は昼食をご一緒してもよろしいですか!」
「えぇ、一緒に行きましょう。」
アヴァロン学園編入から二カ月。
学園生活はものすごく充実している。
(これが青春なのね!)
毎日の授業、実習、演習…
家で家庭教師を付けて学んでいた頃より、クラスメイトと学ぶ方が楽しい事を知った。
テストに向けて一緒に勉強したり、解らない所を教えてあげたり、意外な発想に驚かされたり。
しかも友達は大好きな【フェア恋】のヒロイン、フィオナ・ルミニスちゃん!
病床で夢を見た事が、一つずつ叶っていく。
(そう言えば、やりたい事リストを作ってたっけ…)
あれがしたい、これがしたい、あれが欲しい、これが欲しい、行ってみたい、見てみたい…
「あ…今なら出来る…出来るじゃない!」
「ルミリア様?」
「あ、ごめんなさい。」
食事中に大きな声を出すなんてはしたない!
(食事と言えば…)
フェリス王国の食事は、前世でのフランス料理に近い。
上品な味付けで周辺諸国からの評価も高いが、前世の記憶が戻ってからは、日本食が恋しいと感じていた。
「日本食…作れないかしら。」
「にほんしょく?」
「えぇ、遠い国の料理なのだけど、とても美味しいって聞いたのよ。」
「料理⁉︎ルミリア様はお料理をなさるのですか⁉︎」
貴族の令嬢はキッチンに立つ事はない。
だからフィオナちゃんが驚くのは当然の事だ。
実際ルミリアの姿で料理をした事はない。
コック達が許してくれないのだ。
けど実は、ルミアの姿でなら料理した事がある。
いや、料理と呼べるかは微妙な所だ。
なんせ討伐隊でお祖父様から教わったのは、いわくミリ飯という代物。
缶詰めや干し肉を食べやすいようにアレンジしたり、野草を摘んでサラダにしたり、野生動物を狩って捌いたり。
初めは抵抗があったものの、10年も経つと慣れてくるもので、今では鳥と魚は捌けるようになった。
(肉じゃが食べたい…お味噌汁飲みたい…お漬物は作れるかしら?あぁ、ハンバーグやピザも食べてみたかったのよ‼︎お菓子も作ってみたかった。学校帰りに友達とファーストフードに寄り道もしたかったし、クレープを食べ歩きしたかった。どうして今まで忘れていたのかしら…)
思い出したらいてもたってもいられなくて、体がうずうずしてしまう。
「フィオナさん、あの…フィオナさんは街へ買い物に行ったりなさるの?」
「はい。友達のミシルが新しい物好きなので、よく市場にお店を見に行きますよ。」
「まぁ‼︎そうなの⁉︎実は私探したいものがあって、良かったら今日放課後に街へご一緒しない?」
「今日ですか⁉︎でも護衛の方がいないと…」
そうだった。
普段転移魔法でランフォート家へ戻る私は、護衛を付けていない。(※必要もない)
けれど常識として、貴族が街へ出る時には護衛が必須だ。
公爵家令嬢ともなれば、護衛の数も一人や二人じゃない。
四方八方取り囲む、ちょっとした御一行様状態。
(そんなの全然楽しくないわ‼︎)
かと言って、男爵家令嬢のフィオナちゃんを護衛なしでは誘えない。
(う〜っ、ルミアとルミリアが分裂出来たらいいのに‼︎)
「あ、ルミリア様!こんにちは!」
「ミスティ、こんにちは。貴方がカフェテリアに来るのは珍しいわね。」
「はい、今日は自習で魔法を使った実戦練習をしていたので、お腹が減ってしまって…」
白い頬をピンク色に染めて笑う姿に、まさに!まさに心臓を撃ち抜かれたっ‼︎
「あの…ルミリア様?」
「そ、そうね、ミスティ。貴方は成長期だものね。沢山食べて大きくならなくちゃ。」
ふわふわの水色の髪をよしよしと撫でると、照れたような、ちょっとむくれたような表情をするのがまた可愛い。
「ルミリア様、ミスティアナ様は同級生ですよ?」
私が子供扱いしているのが気になったのか、フィオナちゃんがこっそりと耳打ちした。
けどね、フィオナちゃん…それは私が一番知っているわ!
そう!成長したミスティがどれだけ素敵な騎士になるかもバッチリよ‼︎
「ごめんなさいね、ミスティ。可愛い貴方を見られるのもあと僅かだと思うと、名残惜しくなってしまって…。」
「えっ?ルミリア様…何処かに行かれるんですか⁉︎もしかしてまた留学に?」
そう言えば、ルミアとしてグリフィス領で討伐に明け暮れている間、ルミリアは海外へ留学中という事になっていたっけ。
「違うわ。そうではなくてね、成長期が来てしまえば、貴方はどんどん素敵な騎士になっていくでしょう?可愛いと男性に言うのは失礼かも知れないけど、私は可愛い貴方も大好きだから、ちょっとだけ寂しいのよ。」
まだ柔らかさの残るミスティの頬を撫でると、ふわふわでサラサラで気持ち良かった。
(前世でずっと思ってたんだよね。こんな可愛い弟がいたらいいなって。でも前世の私じゃ泣かせてばかりだったかな。けど…私の死後、お父さんとお母さんを支えてくれたかもしれない…)
最後…両親はどんな顔をしていただろうか。
余命宣告に頭が真っ白になって、何も考えたくなくて、【ティル・ナ・ローグ】に夢中になって…
「る、ルミリア様!ミスティ様が倒れてしまいますよ⁉︎」
「………え?あ、ミスティ⁉︎顔が真っ赤よ⁉︎大丈夫⁉︎」
「ふぇっ⁉︎だ、だだだ大丈夫です!」
いかんいかん、ちょっとトリップしてしまったわ。
「本当にごめんなさいね。あまりにすべすべで羨ましくって。…それにしても綺麗な肌ね。何か使っているのかしら?化粧水?美容液?」
「あ、あの、姉様、いえ、姉上達が色々僕で試すので…。今はコルネット商会の美容液を試されてるんです…」
「コルネット商会ですか⁉︎ミシルも言っていました!新しく出た美容液がとっても良いそうです。けど品薄で、普段付き合いのある貴族しか手に入れられないって。」
「そうなの…。コルネット商会と言えば、化粧品を取り扱う老舗ね。うちとは取り引きがないから残念だけど…」
「る、ルミリア様‼︎もしよろしければ、僕にプレゼントさせてはいただけませんか?」
「えっ?私の誕生日はまだ先だけど?」
「いえ、ルミリア様とルミア様のおかげで魔力操作の講義を受けられるようになったお礼をしたいのです!オンディーヌ家はコルネット商会とは長い付き合いですし、今日早速買って」
「今日?買い物?ミスティ、今日貴方は街へ買い物に行くの?」
「えっ?あ、はい、ルミリア様がプレゼントをお許し下さるのでしたら…」
「お礼など不用…と言いたいけれど、魅力的なプレゼントだもの、嬉しいわ。」
「良かった!あ、フィオナさんにもプレゼントしますね。」
「えっ?私にまで良いのですか?嬉しいです!」
「はい!魔法クラスで良くしていただいているお礼です。」
ふむ、ミスティもなかなか抜け目がない。
ん?もしかして私はダシにされたのかしら?
最近は魔法特待クラスに馴染んで来たミスティだけど、やっぱり男子一人の環境は落ち着かないようだった。
けど、そんなミスティをフィオナちゃんは持ち前の優しさでフォローし、教室では私とフィオナちゃんとミスティはいつも一緒にいる。
一時はミスティルートに入ったかとも思ったが、二人は恋仲…ではなく、姉妹、もしくは女友達のように仲良くなっていた。
それはそれで眼福だからいいのだけど、やっぱりミスティも男の子だったわけね!
「ふふっ、本当に二人は仲良しね。では今日の放課後、早速買い物に行きましょう!美容液は肌に合うか試さなければいけないものね。あ、ミスティ、よろしければ私の買い物にもお付き合い下さらないかしら。食材を買いに市場を回りたいの。」
「えっ?今日⁉︎は、はい、僕は構いませんが…」
「嬉しいわ、ミスティ!騎士特待クラスの貴方が一緒なら、護衛の問題は解決ね!」
多少強引なのは分かっているけど、もうさっきから身体がうずうずして仕方がない。
18年間我慢してきた事を自由に出来るのだから、我慢できないし、する必要もない!
「ぼ、僕がお二人の護衛⁉︎そ、そんな大役務まりませんよ‼︎僕なんかまだ魔力操作も勉強中なのに!」
「あら、貴方の実力が確かなのはルミアに聞いているわ。範囲魔法に秀でていて、水の結界は素晴らしいって。」
「ルミア様が⁉︎」
「有事の時は結界を張って下さる間に、私が転移魔法を使えば問題ないでしょ?帰りは転移でミスティとフィオナさんを送り届けるわ。ね?お願いよ、ミスティ…」
どうしても‼︎
どうしても肉じゃがが食べたい‼︎
お米と、肉じゃがと、お漬物が食べたい‼︎
「っ〜〜〜‼︎で、でででででも、僕一人では心配です‼︎ルミア様とはご一緒出来ないのでしょうか!」
「ルミアは混沌の森へ遠征中なの。」
ここまで押してもダメか…
ならフィオナちゃんとの買い物は諦めて、ルミアになって市場へ…
でも市場に行った事もないのに、探しきれる自信がない。
そう考えていた視界の先に、鮮やかな髪色を見つけて思わず立ち上がる。
「ルミリア様?」
「一人でなければいいのよね?少し待っていて!」
食事の途中で席を立つのははしたないけど、今はそれより買い物だ。
「サラマンディ様、お待ち下さい、イグニス・サラマンディ様!」
「ん?なっ、ランフォート嬢⁉︎」
呼び止めたのは、食事を乗せたお盆を持ったイグニス・サラマンディ。
兄貴気質の彼なら、無碍に断ったりはしない筈。
「お呼び止めしてすみません、サラマンディ様。」
「い、いや、か、構わない、です。それで、おれ、いや、私に何かご用でしょうか。」
あ、そうだった。
イグニスは女性に免疫がないから、仲良くなるまでは女性に対しぎこちない設定だったっけ。
…これは使えるのでは?
「実はお願いがあって…サラマンディ様は今日の放課後お時間はありますか?」
自分でも若干引き気味な上目遣いで見上げてみる。
「ほ、放課後⁉︎な、何故、いや、今日は何の予定もありませんが…」
「でしたら、私達の護衛をお願い出来ないでしょうか。」
「護衛?もしや誰かに狙われておいでか?」
眼光鋭く真っ直ぐに瞳を向けられて、ドキッとした。
さっきまでぎこちなさ全開だったのに、今の彼は「護衛」の一言で騎士スイッチが入ってしまったらしい。
(綺麗な紅の瞳…。ヤバイ〜、胸がキュンキュンするっ‼︎)
「いえ、そうではないのです。街で買い物をしたいのですが、私は普段転移魔法で帰宅しているので護衛を連れておりません。ですから、私と…ルミニス男爵家令嬢のフィオナ・ルミニス様を、ミスティと一緒に護衛していただけませんでしょうか。」
手を組んで懇願するような声を向ける私に、イグニスは一旦息を止めてから頷いてくれた。
「わかりました。淑女を護るは騎士の務め。お任せ下さい。」」
「ありがとうございます!サラマンディ様!私街でのお買い物が初めてで、とっても行きたかったんです。本当にありがとうございます。」
「っ…!い、いえ、貴女の護衛が出来ることは格別の喜び。私でよければいつでもお声がけ下さい。」
イグニス兄貴は本当に優しい。
頼まれれば大抵のことは受け入れる、懐の深い兄貴気質。
その上、一年生の時に高飛車令嬢達から虐められているフィオナちゃんを助けた「出会いイベント」のおかげで、イグニスにとってフィオナちゃんは「護るべき者」として認識されている。
(そこから愛情へと育っていく様が素敵なのよねぇ…)
幾度となくヒロインを助けに来るイグニスに、何度ときめいただろう。
真っ赤なマントの背に庇われるスチルを見て、思わず画面に手を触れた事もあった。
「サラマンディ様…とても頼もしいです。」
「っ⁉︎そ、そう、です、か⁉︎や、はい!ご期待に添えるよう、お護りしてみせます。」
「ははっ、そんな調子で大丈夫かい?まぁ、ランフォート嬢の美しさを前に、イグニスが惑うのもわかるけどね。」
「ぎ、ギルベルト!俺はただ、」
「心配だから俺もついて行くよ。フィオナちゃんとはデートの約束もしてたから、女性のエスコートに慣れない君のフォローと合わせて一石二鳥!いや、こんな美しい方をエスコート出来るなら、何をおいてもお供させていただきたいな。」
フィオナちゃんとのデートの約束とは、「出会いイベント」の事だろう。
一年生の時、ギルベルトが令嬢から平手をくらい、それを目撃したフィオナちゃんはハンカチを濡らして差し出す。
学園内で遊び人と評される自分に何の他意もなく優しくしてくれたヒロインに、ギルベルトは心が癒されるのを感じる。
その出会いで、ギルベルトは「ハンカチのお礼にデートしよう。素敵な一日をプレゼントするよ。」と約束して去って行く。
(確かにあのデートは素敵だった。)
女の子の夢を体現するような、甘い言葉と優しい瞳と完璧なエスコート。
繋いだ手は大きくて、ヒロインはドキドキが止まらず、ギルベルトに意識して行く。
そんな初な反応を見せるヒロインに笑いかけた、ギルベルトの素の笑顔のスチル…。
こんな風に笑いかけられたら、誰だって恋に落ちる!と、クラクラしたしたものだ。
(けど、私の中のセンサーが、ギルベルトは危険だと言っている!)
かと言って、ギルベルトは攻略対象者。
フィオナちゃんもいる以上、私の判断でフラグの可能性を消す事は出来ない。
「ま、まぁ、グノーム様もご一緒なら、頼もしい限りですわ。」
「ん〜、固いなぁ。同級生なんだから名前で呼んで下さい。な、イグニス。」
「あ、あぁ、もちろん構わない。」
「そうですか。では私のこともルミリアとお呼びください。」
「ルミリア嬢か…名は体を表すと言うけれど、貴女にお似合いの美しい名前だね。」
華やかな笑顔を向けられて、ルミリアの危険センサーが作動する。
スッとイグニスの背に半身を隠し、引き攣りそうな笑顔で曖昧に微笑む。
(ゲームでは好きだったけど、貴族令嬢のルミリアとしては、苦手意識が先立つのよね〜…)
「あはは、噂通りの可愛い人だね。って、イグニス⁉︎おま、ぶっ、なんて顔、あははっ‼︎」
「う、うるさい‼︎で、では…る…ルミリア、様、放課後教室にお迎えに上がります。それでは!行くぞギルベルト!」
「ちょ、また後でね、ルミリア嬢!」
一度も振り返らずに去って行くイグニスの耳は、鮮やかな彼の髪と同じくらい真っ赤だった。
「な、なんかこっちの方が恥ずかしいのだけど…」
「ルミリア様、イグニス様とギルベルト様をお誘いしたんですか?」
「フィオナさん、急に席を立ってごめんなさいね。えぇ、お二人が護衛に付いて下さるそうよ。ミスティとギルベルト様とイグニス様がいれば、何の問題もないわよね!」
これで市場に行ける!
これで食材が手に入る!
これで食べたかったものが食べられる!
ウキウキ、ワクワク、そんな私の様子に、フィオナちゃんとミスティが顔を見合わせて笑っていた事に、浮かれていた私は気付かないのだった。
そう、色々…気付いていなかった。
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