71:ア→ト
七日後、アソールの町にドワーフたちがやって来た。
荷車を押し、野菜やその種、苗も運んできていた。これならすぐに農業も始められるだろう。
あとはこっちでスコップやツルハシ、鍬といった道具をクラフトするだけ。
「エリクサー草も随分育ったなぁ」
「えぇ。私の背丈とそう変わらないわ」
エリクサー草は蔓植物に近い。芽が出たときに長い棒をクラストして、そばに立てておいた。
蔓は棒に巻き付き、その長さはレイアの身長に届きそうな高さにまで成長している。
『収穫、してもいい、ですよ』
「本当? 志導くんっ」
「あぁ。収穫してインベントリに入れておこう」
俺がクラフトするより、エリサに製薬してもらった方が完成するポーションの量が違う。
葉っぱを摘み取り、だけど先端にあるぷっくりとした蕾の周りの葉っぱだけは残す。
「ニト、これで種は大丈夫かい?」
『うん。エリクサー草の種は、葉っぱ、いっぱいだと実らないから。これでいいです』
「葉を摘み取らないと、次の種ができになんて不思議ねぇ」
実った種はそのまま、ここに植えることになる。
だから床石を捲った部分を、花壇のように装飾した。
「種ができたら、わしらがちゃんと植えて水やりもしとくぜ」
『僕、神力戻ってきたら、お世話するね』
「ニト、ありがとう。でも絶対に無理はするなよ」
「そうよ。ニトくんが倒れたら、ニーナちゃんやニルスくんが心配するんだから」
『えへ、へ。ありがとう。ニーナたち、無事でよかった』
まだまだ色が薄いニトだけど、その表情は明るい。
ニーナが無事で、アリューケにはニルスも来ている。そう伝えたときのニトは、目に涙を浮かべて喜んだ。
そして……ニトもニーナ同様、自分が人工精霊であることを忘れてしまっていた。
モンスターの襲撃を受けたときのショックなんだろうな。
ドワーフ族も、土地神様が人工精霊だとは知らない。
きっとこの世界のほとんどの人が知らないのだろう。
今はまだ、話すべき時じゃないとそう思ったから黙っていることに。
祈り……いや、想い、かな。
土地神という存在を想うことで、人工精霊たちは力を得る。
人工精霊の力が安定することで、町も安定法がするのならこのままの方がいい。
「それじゃあ、俺たちは次の町へ向かいます」
「本当に一緒に行かなくて……いや、ユタドラゴンはいるんだ。心配するだけ野暮ってもんか」
「えぇ。私がいるんですもの、大丈夫よ」
「オイラモ!」
それから、物は試しとばかりドワーフたちにあるミッションを課してみた。
「二カ月間、週休二日制で……瓦礫の片付け作業、畑作業、穴掘り掘削作業を行う。女性陣は畑の作業と一日一回以上の食事の準備。子供たちは……」
とここで子供たちが顔を左右に振る。
そんな程度で俺の心は微動だにしないぞ。
「子供たちは家の手伝いを一日三十分、畑仕事を一時間手伝う。これなら遊ぶ時間もあるだろう?」
「うえぇぇぇぇ」
「何言ってんだいこの子はっ。志導さん、家の手伝いなんて三時間でも四時間でもいいんだよ」
「ヤダよ母ちゃん! 三十分! 三十分だけだからな!」
はっはっは。手伝いをする約束をしたな。今のはお母さんの勝ちだ。
今までは毎日ミッションを設定してきたけど、それだと離れて暮らす人たちに出せなくなる。
できるかどうかわからなかったけど、今、俺の視界には彼らへ出したミッションが表示された。
UIのように表示されるこれも、消すことができるようになったし……スキルのレベルアップ効果なのかな?
ミッションクリア後にどうなるか。それも知りたい。
二カ月分の効果が一度に与えられるのか、それとも一回は一回なのか。
瓦礫や木材、ミスリルとアメジストをたんまり補充して出発。
次に目指すのは――。
「アトランの町ね」
「アトラン……アリューケにアソール、アトラン……」
「ぷふっ。町の名前、全部アで始まるのよ」
土地神様はトから始まり、町はアから。
古代魔法王朝の人たちのネームングセンスって、いったい。
「うっわ……ここはまた酷いな」
アトランに到着したのは八日後だった。モンスターの数が多く、移動に時間が掛かってしまった。
そして町の方は悲惨な状況で、残っている建物も一切ない状態。
魔導装置がどうなっているか……それに教会。
精霊石が破壊されていたら、土地神様は……蘇らない。
「とにかくまずは魔導装置を探そう。町の中心部にあるだろうし」
「志導。モンスターがいるから、注意して」
マジか。ユラが後ろ、そしてユタとゴー助が俺たちの左右に分かれて警戒をしてくれる。
「志導くん、私も」
「いや。今から服を着たりなんたりする間に襲われるだろうから、このままで」
猫の姿のレイアは、俺の肩の上だ。
着替えができそうな場所もないし、だからといって俺かレイア、二手に分かれるわけにもいかない。
「来たわ」
ユラの言葉が合図にでもなったように、モンスターが次から次へと襲ってきた。
俺もインベントリに入れた瓦礫を槍の形にして、それを画面フリックで飛ばして援護する。
「志導。もっと小さなものを、たくさん同時に飛ばせないかしら?」
「できるけど、殺傷能力が」
「十分よ。当たらないものを一本ずつ飛ばすよりずっといいもの」
すみません。全然当たらなくって。
それなら、鉛筆より少し大きくした程度のものを……はっは。千本クラフト!
千本だろうが、クラフトにかかる時間は一、二秒だ。
それを一度に百本、飛ばす。
「ギャピ!?」
「よし!」
「凄いわ志導くん!」
俺だってやるときはやるんだ。
「ソレダケ飛バセバサスガニ当タリマスデスネ」
「ヨクデキマシタ!」
……ユタに褒められても、なんだろう……この虚しさは。
魔導装置を見つけるまでに、当面の食用肉をゲット。
塔はなく、瓦礫に埋もれた魔導装置を見つけたのは、辺りが薄暗くなり始める頃だった。
「まずいな。今日はここで野宿になりそうだ」
「瓦礫を撤去しなきゃ、魔導装置の修理もできないわよね」
「だね。とりあえずささっと小さな小屋をクラフトするよ」
辺り一面瓦礫だらけで、開けた場所はどこにもない。だけどそろそろレイアが元の姿に戻る時間だ。
畳一枚分の空いたスペースをがある。そこに瓦礫で極小さな小屋、というより更衣室だな、それをクラフトしてレイアの荷物を入れてやる。
「ちょっと周りの瓦礫を片付けてるよ」
「えぇ、ありがとう志導くん」
ゴー助を中心に、辺りの瓦礫を集めてもらう。俺もインベントリを直接瓦礫に押し付け、どんどん収納していく。レイアが着替え終えたら、更衣室をもう一度撤去。
広くなったスペースに、今度は四畳半程度の小さな小屋をクラフトする。
「志導。念のため、壁はぶ集めに。それと、屋根に登れるようにしてくれるかしら?」
「できるけど、どうしてだい、ユラ」
「あたりが瓦礫で見晴らしがよくないから、上から見張るのよ」
なるほどね。
クラフトした小屋は豆腐型。四角く、屋根は平らなタイプだ。
「しばらくこの町での滞在になりそうだな」
「そうね。装置を直す前に掘り起こさなきゃいけないし、周りの瓦礫を撤去しなきゃ新しい塔も建てられないものね。明日は私も人の姿でいるわ。瓦礫を運ぶ代わりに、周囲の警戒をするから」
「たのむよ、レイア」
教会を探して、精霊石の状態を確認もしておきたい。
でも安心して町を歩けるようにするのが先だろうな。




