70:ニトくん→カブ。
アソールの町に到着して五日目。
町の広さはアリューケとほぼ同じ。たぶん他の三つの町もそうなんだろうな。
でも街並みまでは同じではなさそうだ。
ここの教会は、比較的町の中心部に近い場所にある。おかげで畑の方が遠くなった。
「まぁ構わねえさ。地下を通れば瓦礫を気にせず歩けるしな」
「じゃあ、地下のトンネルを畑の方に伸ばすかな」
『主、オ掃除終ワリマシタ』
「ゴー助、ありがとうな」
ゴー助の言う『お掃除』は、瓦礫を一カ所に集める作業のことだ。
大きさ自体はドワーフとそう変わらないっていうのに、そのパワーは彼ら以上だ。さすがロボット。
いやロボットとは違うのか?
とのかくパワフルだ。
一日で七、八軒分の瓦礫をまとめてくれるから、大助かりだ。
レイアが土地神様の召喚に成功する頃には、アソールの町はスッキリしているかもな。
そう思っていたのだけれど。
五日目の夜、ついに。
「と、土地神様の像が光ったわ!」
「本当か、レイア!」
レイアの声が聞こえて慌てて像を見ると、確かにうすぼんやりと光っていた。
「ニト、頑張れ」
「頑張って、ニトくん」
「頼むぜ、ニト様よぉ」
『オ寝坊デスネ、ニト様ハ』
「ネボーダゾ」
「もう起きても大丈夫よ」
みんなが声をかける。その声に呼応するように、像はチカチカと点滅した。
「ニトくん……私の声が届いているなら……姿を見せて」
レイアが土地神様――人工精霊に呼びかける。
そんな状態が三十分ほど続くと、土地神像が力強く輝きだした。
「うわっ。眩しいっ」
「うっほ。こりゃ目覚めるぜ」
「ガンバレ!」
『ガンバリマショウ』
「ニトくん」
祈るようなレイアの声。そして。
『僕を……呼んで、くれた?』
うっすらと、ほんとうにうっすらとした男の子が、像から現れた。
「アーッ。葉ッパ。葉ッパ出テル!」
土地神ニトが復活してすぐだった。ユタが礼拝堂の床を見てそう声を上げた。
土を浄化するために床石を剥ぎ取ったあの場所だ。
「エリクサー草だ! 解析眼でも鑑定済み。やった。自然に発芽したんだな」
『僕……成長、させる?』
「いや、いいよ。このまま自然に成長するのを待とう。それに、神力がまだまだだろう?」
そう聞くと、ニトは素直にこくんと頷いた。
長い、とても長い眠りからようやく目覚めたばかりだ。今は神力を使わせるべきじゃない。
「となると、早くうちの連中を連れてきた方がいいな。大勢で話しかけた方が、土地神様の神力も溜まりやすいだろうからよ」
「そうだな。ディノ、また呼べるのか?」
「あぁ。大地の精霊に頼めば、呼ぶことはできる」
このドワーフ族のネットワークがどうなっているのか聞いてみたけど、言葉を直接届けたりするものではないようだ。
「呼ばれている気がする」その程度のもので、大地の精霊を介して呼びかけるものらしい。
極端な話、相手が地面に立っていないとわからないもので、例えば船の上にいたり木に登っていたりすると、まったく聞こえないらしい。
足の裏から電波を受けているのか?
「十日間の移動だけど、魔素とか大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。浄化の石ひとつありゃ、途中の魔導装置小屋ん中で休めるしな」
二、三日なら、魔素の中を歩いても平気らしい。
じゃ、その間にできることをやってしまおう。
「レイア。明日は……レイア!?」
土地神像にもたれかかるようにして、彼女が倒れ込んでいた。
慌てて抱き起すと、顔色が悪い。
「だ、大丈夫」
「魔力の枯渇みてぇだな」
『ご、ごめん、なさい……僕、起きたときに、お姉さんの魔力、たくさん……』
「大丈夫よ、ニトくん。魔力は、休めば回復する、から」
そうだ。レイアは召喚魔法を使っていたんだ。
魔法なんだから、魔力を消費していてもおかしくはない。
この五日間、ずっと魔力を消費し続けていたのか。
「気付かなくってごめん」
「いい、の、志導くん。だって、ニトくんを、呼び出せたんだもの」
疲れているだろうに。だけどレイアの表情は、達成感に満ちていた。
しばらくゆっくり休ませてやらないとな。
「ユラ。明日、狩りに行きたいんだ」
「えぇ。滋養のある獲物が欲しいんでしょ? ドワーフ族がくるのなら、彼らのための食用肉も十分に用意してあげましょう。ユタ、あなたも来るのよ」
「ガッテン!」
ディノにはレイアを頼み、ゴー助には畑の草刈りを頼むことにした。
ゴー助は体を高速回転させることができる。刃物を持たせて回転させれば、草刈りマシーンと化す。
近づくと危険だけど。
翌日、ユラに案内されて町の西側にある平原へとやってきた。
そこにはなんと。
「カブのモンスター?」
白くはない。黒いカブだ。
ただし大きさはスイカ並みで、根っこのような触手のようなもので地面を歩いていた。
不気味だ。
「実は栄養があるのよ。それにあいつ、魔素の吸収率が低いから、たいして汚染もされていないの」
「へぇ……」
実……顔があるんですけど?
ま、まぁ、顔のないところなら……いい、か……。
どうやって奴を狩るのかと思えば、ユラはその鋭い爪で根が生えている部分を切り落としただけ。
なるほど。動けなくさせるのか。
ん?
「え、まさか死んだ?」
「これの心臓はね、ここにあるのよ」
ここ、というのがまさに根っこの付け根。
切り落とすだけで死ぬとか……。
「こいつら、どうやって生きているんだ? 攻撃手段とか持ってなさそうだし」
「攻撃手段ならあるわ。頭突きをしてくるのよ。志導がまともに食らえば、きっと痛いと思うけど」
痛い……痛いですむんだ。
「あと、こいつらは土から養分を吸い取って成長するから、植物と同じね」
本当にただのカブかよ!
いや、それを聞いて食べることに抵抗がなくなったからよかったのかも?




