69:穴掘り→泣き虫。
ドワーフの住居の入り口は、一世帯につきひとつ……ではなく、まとめてひとつにしてある。
もちろん、何カ所か非常口みたいなのは作る予定だ。
そのあたりはドワーフのディノさんと相談しながら掘っていく。
入口は瓦礫をクラフトしてドーム状にしてある。雪で作るかまくらの瓦礫版だ。
「雰囲気だけでも岩穴っぽくするためにね」
「いやいや、なかなかいい作りだぜ。確かにこれなら、ドワーフらしい住居になる。ありがてぇぜ」
「これの利点は、少し地下深めにすることで、地上部分にも住居が建てられるってこと。もちろん、畑にしたっていいし」
「そうだな。先々、他の種族も暮らすことを考えりゃ、教会の周りは畑よか住宅の方がいいだろう」
そうだな。やっぱり教会の周りは、住宅の方がいいか。
土地神様と気軽に言葉を交わすようにと考えれば、それが最適だろう。
となると、畑をどこにするかだ。
三日かけて周辺の瓦礫を撤去し、教会を修繕して地下にドワーフ用の広間的な空間を作った。ここから各世帯へ続く通路を掘っていくわけだ。
「ここまでできりゃ、あとはわしらが自分たちで掘るさ。いや、掘りたいんだよ、わしらドワーフは」
ディノさんはそう言って、完成した地下の空間を見つめた。
魔王が現れる前の平和な時代には、きっとドワーフたちは岩を掘り、日常を送っていたんだろう。
広めに作ったここは、ドワーフたちの集会場や奥様方の井戸端会議の場になるだろう。
ここから東西北に延びる通路を掘り、三ケ所の出入り口を追加でクラフト。
雨水が流れ込まないよう、階段の先は地面より二、三段高くしてある。これで空気もしっかり行き渡るだろう。
明日からは町全体を見て回って、何があるのか確かめよう。
あとは……レイアの方だな。
朝から日が暮れるまで、いや、その後も、彼女はずっと土地神像の前にいる。
何か話しかけているようだし、ユラに「静かにしてあげなさい」って言われて、日中はなるべく礼拝堂には入らないようにしていたけど。
「レイア、お疲れさ……うわぁっ!?」
「へ? あ……キャァァーッ!」
日も暮れて、大丈夫だろうと思って礼拝堂に入ると……人の姿に戻ったレイアが土地神像の前にいたんだけど彼女は服を着ていなくてつまり裸でそこに座っていて俺は見てしまったわけで見ちゃいけないのはわかっているけど見てしまうわけで何を言っているかというと。
「アァーッ。シド、エッチナヤツ」
『主ハエッチナノデスカ?』
「いいからあなたたち、黙ってなさい。ほら志導、いくわよ」
ユラの鼻に押され、礼拝堂から出ていく俺。
「なんでぇ、お前ら。そういう関係じゃねーのか」
「そういうってどういう!? ディノさん!」
「あー、前々から言おうと思ったがな、さんなんざつけなくっていい。ディノでいいよ」
「なんかはぐらかされた……」
しばらくして中からレイアの声がして、服を着たというから入った。
入ったはいいが……どう反応していいやら……。
彼女の裸を見てしまったのはこれで二回目だけど、わざとじゃない。わざとじゃないけど、やっぱり悪いことをしたと思って。
もう少し俺が注意していれば……。
そうだ。土地神像を囲むように、衝立を置こう。棚も用意して、レイアの衣類を置けるようにもして。
「す、すぐに夕飯の支度するわね」
「て、手伝うよ。えっと、野菜は……」
パパッとできる炒め物にするか。
タマネギ、ニンジン、キャベツでいいかな。それから、道中で仕留めたキラーボアの肉っと。
「食料は大丈夫なのか?」
「えぇ、まったく気にしなくていいですよ」
ユタとユラは肉でいいし、肉ならモンスターを狩ればいい。ゴー助の食事は、魔導装置でエネルギーを充電するだけ。数分で終わるし、一度充電すれば一ヵ月動けるそうだ。燃費がすこぶるいい。
夕食は野菜炒めと蒸かしたサツマイモ。芋を蒸かすのは少し時間がかかるから、ここは万能クラフトの出番だ。
一秒で完成する。
「ごめんね、志導くん」
「え? な、何が?」
「その……全然手伝えなくって。私……本当に土地神様を呼び出せるのかしら」
「何弱気なこと言っているんだ。風見さんらしくない。あ……つい昔の名前を出しちゃったな」
今の彼女はレイアだ。
でも、俺にとっては風見さんでもある。
いつも前向きで、俺を励ましてもくれていた風見さん。
俺の家庭環境を知っても、態度をまったく変えることなく……いや。風見さんは、むしろ最初から俺のことを知っていたような感じだった。
入学式当日に、職員室で教師たちが話していた俺の親のことを、どこかの生徒が聞いて、それが原因で校内に知れ渡ることになったんだけど。
実際にクラスの連中が噂しだしたのは、入学式翌日だったっけ。
あれ?
入学式が終わって、彼女と同じクラスになって、教室に戻るとき……言ったよな。
――悪い方に考えないでね。これからきっと、今までできなかったことができるようになるって。
――そう、良い方に考えようよ。
その通りだった。父親が刑務所送りになったから、俺は自由を手に入れた。
施設に入ったから、完全な自由ではなかったけれど、それでも親と暮らしていた時に比べれば圧倒的な自由が待っていた。
テレビを見て、漫画を読んで、ゲームもできたし。
何より、友達もできた。
風見さんの言葉に疑問を抱かなかったけど、あのタイミングで俺の家庭環境を知っているって……。
職員室で俺の家庭環境を聞いたのは、風見さん?
いや、そんなはずはない。
彼女が学校中に噂を広めるわけないし、それに。
あまりにも的を得た内容だった。
まるで……最初から知っているような。
でも、風見さんとは中学が違った。近くでもなかったし、さすがに他校の彼女が知っているわけない。
「どうしたの、志導くん?」
「あ……いや、その……そう言えば風見さんは……んー、やっぱりいいや」
「え!? やだ気になる。私がどうしたの?」
「はは、なんでもない」
「なんだ、さっきから。カザミってのは、レイアのことなのか?」
は!? しまった。ディノさ、ディノは俺たちが異世界人だって知らないんだった。
無用な混乱を避けるため、これまで通り秘密にしておこうってことにしたんだけど。
「わ、私の名前がね、レイア・シュヴァイザ・カザミっていうの。カ、カザミは母方の名前でね」
「ほぉ。そうだったのか」
「そ、そう。子供の頃はカザミって呼ばれることもあったから」
シュ、シュヴァイザ!?
なんてカッコいい名前なんだ。
「ふぅ……私も頑張らなきゃね。うん、弱気になんてなってられないもの」
「風見さん……。うん、それでこそ風見さんだ。いつも元気はつらつな君に、落ち込んだ顔は似合わないよ」
「ふふ、ありがとう。それもこれも、志導くんが泣き虫だった私を慰めてくれたからよ」
ん? 泣き虫だった彼女を?
「あっ。な、なんでもないわ。さぁて、夜も少し頑張ろうかなぁ」
そう言って風見さんは慌てて土地神像の方へ向かった。
風見さんが泣き虫? そんなまさか。
彼女が泣いている姿と言ったら、卒業式ぐらいでしか見たことがない。
でも……確かに昔、俺は……泣き虫だった女の子のことを、知っている。




