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デスターン  作者: 春川立木
81/83

77話 最新技術で最短距離を

金がない。

理由は一つ。

課金しすぎた。

好きなキャラを完凸させれなかった。

あと一体だったのに……

はぁ。

日の出も来ていない朝早い時間。


「さみぃ……」

「眠い……」


ベルセンの正門で私達は集合していた。


「フォルトは?」

「遅れるって、なんかアリア先生と少し話すだとよ」


あくびをしながらニーナが返事をする。


「でもよクエン先生。ノアリアってすぐ行ける距離じゃないよな」

「はい。馬車でも2ヶ月ですね」


ノアリアは隣国ではあるが、距離は結構ある。

整備されていないこの世界だとなおさらかかるだろう。


「2ヶ月は長すぎんぜ」

「なので、ノアリアの最先端技術を使います」

「?」


私たちは首を傾げる。


「ノアリア=ご飯になったのはここ最近の話。元々は産業で有名なとこだからね」


博識のロズは指を立てながらそう話す。


「産業? なんだそれ」

「流石はルト、何にも知らないじゃん」


朝っぱらからニーナが突っかかる。


「じゃぁ、お前は知ってんのか?」

「知らなーい」








「本当に大丈夫ですか?」

「……はい」


フォルトのその返事にアリアがため息をつく。


「別に断っても良かったんですよ」

「で、でも、みんな行くのに僕だけ行かないのは……」


アリアは少し屈み、フォルトの目線に合わせる。


「あなたは自分の意見を持ってないのですか? いつも誰かの意見に合わせて……だから魔術だって──」


少し考えた所でアリアが首を振る。


「いえ、それは今は関係ないですね」

「す、すみません」

「そのすぐ謝る癖もやめた方がいいですよ。今度マザードの爪の垢でも飲んでみます?」


フォルトは首を振る。


「まぁ、行くと決めたなら少しぐらいは変わってきてください」

「……?」


その言葉に理解していない顔を浮かべる。


「逃げ出した自分の責任を背負うタイミングだと言ってるんですよ」

「……は、はい」









馬車に揺られて半日経った。


「腰が痛てぇ」


みんなの気持ちを代弁するように、ルトがこぼす。


「もう少しの辛抱です。我慢です」

「我慢って、最先端の産業って面影もないんですけど」


文句を垂れるルトに誰もが納得する。


「この調子じゃ、2ヶ月以上かかっちゃうじゃん」

「それな、荷台だと動けねーし暇だ」


確かに暇だ。

やることない。

ロズは本を読んでるし、フォルトはずっと下を向いてる。

筋トレするスペースもないし、ただボーッとするしかない。


「お、見えてきましたよ」


クエン先生の声で飛んでいた意識が戻る。


「すげぇ……」

「何あれ……」

「聞いてはいたけど……大きいな」


産業が活発だとは聞いていたけど、これほどまで大きく発展してる所が近くにあったんだ。


「ここがノアリアへ行ける駅です」

「駅?」


初めて聞く単語なのか、ルトが復唱する。


「こっからだったらノアリアまで一週間もかかりません」

「ショートカットか!? もしかしてワープか!?」

「ワープなんてできっこないでしょ。バカね」


ニーナは鼻で笑って私にもたれかかる。


「じゃぁ、どうやって行くんだよ」

「飛ぶんじゃない?」

「それこそ無理だろ」


駅……。

電車だろうか。

産業なら発展してるって言っていたし、系統はそっちだろうか。


「それにしても煙突が多いな」

「蒸気機関が発展してるからね」

「あー、うまいよなジョウキキカン」

「違うわよ、ジョウキキカンは強いんだから」


どっちも違う気がするけど……。


「蒸気機関って、ボイラーで蒸発した蒸気を使うやつだよね……」

「お、流石ですねセリーヌさん。よくご存知で」

「あ? ボイラーで使う蒸発?」


知ってるも何も、前世の学校でよく出てた。

産業革命だとか、ジェームズ・ワットだとか。


「もともと蒸気機関はあったんですよ。火に当てるとぐるぐる回る何に使うかもわかんない機械が。それを見た発明家がそれを改良していろんなものに応用したんです」


それも前世で聞いたことあるヘロンだっけ?


「それがなんだよ? ワープ出来んのか?」

「あんたはワープから離れなさい」

「駅ってことは蒸気機関車!?」


この世界のこの時代に、電気もガスもないこの世界に蒸気機関車が通ってるの?!


「確か……ノアリアの料理の発展もこの蒸気機関が由来だとか……」

「へー、便利なんだな蒸気機関ってやつは」







駅の中は広く賑わっていた。


「はぐれないでくださいね」

「旗とか持っときます? 目立つように」

「嫌ですよ、恥ずかしい」


あちこちに店が並び、美味しそうな食べ物が多い。


「カステラ……ドーナツ……バームクーヘン……シュークリーム……」

「見たことない食べ物もあるな」


スイーツだけではなく、駅弁もある。

さらには真っ白に輝く三角のおにぎりまで。


「お米だ……」

「何か買いますか? どうせ移動中に食べないとですし」


おにぎり……。

ベルセンの食堂では見かけなかったお米。

こんなところに居たとは……。


「セリーあれ食べたいの?」

「……ジュルリ」

「よだれで返事しないでよ」


ニーナの声を無視して、店に近づく。


「すみません、これいくらですか?」


おにぎりを指さす。


「一つ聖玉一枚だ」

「高っ」


ニーナが横で声を上げる。


「米は貴重なんだ。なんせ最近作られたモンだから供給が少ないからな」

「三つ下さい」


即答。

高かろうが、かまわない。

目の前にあって食べないのは元日本人としてあるまじき行為だ。


「買うの?!」

「買う。食べたい」


硬貨3枚を手渡し、紙袋に入ったおにぎりを大事に受け取る。


「ムフフ」

「にしても変わってんな嬢ちゃんは」

「え?」


店員のおじさんが笑う。


「米なんてみんなビビって食わないんだよ。みんなパンが主食だろ? 高価だし、見たことも聞いたこともない食べもんをわざわざ買って食うやつなんて少ないんだよ」

「でも、ノアリアの食べ物は全部美味しいですよ。これもきっと美味しい」

「ほんとほんと、美味しすぎて困るんだから」


おじさんは頭を掻きながら答える。


「あぁ、美味しいのは知ってるよ。でもな、米なんてなくても美味しいもんが多いだろ? だから誰も買わん。間違えたよ売れると思って買い込んだのに毎日赤字だからな」

「そのうち分かりますよ、このお米の万能さに」


初めて買って、まだ食べてないのに自信だけはある。

お米さえあれば世界は平和になるんだから。


「そんなにセリーが言うんだったらうちも三つ貰お」


ニーナもおにぎりの良さに気づいたのか、紙袋を受け取ってる。

あぁ、お米よ。あなたがいればこの世界はより良い方向へ向かうでしょう。

きっと、世界は一つに向かう。


「おーい、俺らが乗る汽車が来るぞー!」


ルトの声に邪魔をされ、我に帰る。


「今行くー!」







ホームに滑り込んできたのは、重厚な金属音を響かせる巨大な塊。

漆黒の鉄に覆われた車体。

その先頭からは、空を焦がすような真っ黒な煙と、耳を劈くような咆哮——蒸気笛が吹き鳴らされる。


「うおぉっ!? バケモン見てぇな見た目だな」

「……これが、蒸気機関車。本当に、鉄の塊が動いてる」

「ねぇセリー、これ本当に安全?  爆発したりしない?」


ニーナが私の制服の袖をぎゅっと掴み、不安そうに顔を寄せた。


「大丈夫。爆発することはないと思うよ、下手なことをしない限り」


私はそう言いながら、手の中にある紙袋の温もりを確かめる。


まだ暖かい。

冷める前に早く食べたい。


「さぁ、乗り込みましょう。一等客車を予約されているそうなので」


クエン先生の先導で、私たちは車内へと足を踏み入れた。








客車の内部は、外見の無骨さからは想像もつかないほど豪華だった。


ベルベットのソファに、磨き上げられた真鍮の装飾。


ルトとロズが向かい合わせに座り、私とニーナは窓側の席を陣取った。


列車がゆっくりと、だが力強く動き出す。

規則的な振動が、全身に伝わってくる。


「ははっ! すげぇ、馬車よりずっと速いぞ! 景色がどんどん後ろに流れていく!」


窓に張り付いて子供のようにはしゃぐルト。


「……効率的だ。これだけの重量を、魔力も使わずに熱と圧力だけで動かすなんて」

「このソファめっちゃフカフカなんだけど! うちの部屋にも置きたい」

「やめてよ、ただでさえニーナの私物で狭いのに」


それにしても立派な部屋だ。

ソファだけでなく、ベッドも完備、テーブルに暖炉まで……まるで高級ホテルの一室だ。


「ノアリアは太っ腹ですね。わざわざ一等室を予約してくれてるなんて……」

「いくらすんだろう……」

「今の職業だったら到底届かない金額でしょうね」


教師の給料は少ないのだろうか、クエン先生がため息をついている。


だが、私は今それどころではない。

紙袋を開け、おにぎりを取り出す。

暖かいうちに食べないとこのおにぎりに怒られてしまうからである。


おぉ……、素晴らしいほどの白色の宝石箱。


海苔は巻かれていないシンプルな塩結び。

完璧な三角形は天高くそびえる純白の峰を形どってる。

一粒一粒の表情はまるで真珠の如し輝き、互いが邪魔をせず、寄り添い合う。

まるで白銀のモザイク画だ。

具材などはない。シンプルで究極の塩。

海苔すらも邪魔になるほどに美しい裸体がよだれを促す。

炊き立ての米に染み込んでいる溶けた塩。

一口含めば原子レベルで凝縮された旨みが爆発する。

塩分がお米本来の甘味を引き出し、舌が喜ぶ。


「美味しい……」


少しだけ不安があった。

日本人は米にうるさい。

だからこそ前世で食べたあの味、あの食感、全てが完璧に再現されているかどうか心配だった。


だが、そんな感情は不要──。


舌が覚えてる。

この味も、この食感も、粒本来のパサつきもない。


『──完璧なおにぎり』


そう認めざるを得ないだろう。


「合格……」

「え?」


正面に座るニーナが驚いてこちらを見る。


口についた米粒を親指を使って取り除き、口に入れる。


「ふっ……完璧よ」

「こわっ──」


おにぎりの旨さを噛み締めながら景色を見る。


「この調子だと2日もかからずノアリアに着くでしょうね」

「早すぎんだろ。2ヶ月が2日かよ」

「このスピードだったら魔物は襲撃すら出来ないね」


あ、そっか。

蒸気機関車に乗ってたから忘れてたけど、この世界は魔物が多いから発展が遅れてるんだった。


「でも足の速い魔獣とかだったらやばいんじゃない?」

「平気ですよ、この汽車には魔物魔獣が嫌う超音波が垂れ流されてますから滅多に近づきません」

「鳥を追い払う原理でしたっけ」


ロズの言葉に頷いて続ける。


「それに仮に線路上にいたとしても、汽車の先端はイタカ鉱石で作られてますからこのスピードと相まって、血肉と化します」

「想像すると気持ち悪いな」

「駅に着いたら先端を見てみるといいですよ」


美味しくおにぎりを食べてるっていうのに、なんでそんな話をするのか。

せっかくの究極おにぎりが……






周りのみんなが楽しく会話をしている中、一人だけが俯いたまま、買ったサンドイッチを見つめていた。


景色が草原から深い森へ変わる。


「フォルト……?」


ロズが自分の席を立ち、隅に座っていたフォルトに声をかける。


「もしかして酔った?」

「あ、大丈夫……」

「大丈夫って、ずっと沈んでるけど……」


フォルトの隣に座り込み、話をする。


「い、いや……具合は平気なんだけど……」


俯いたままフォルトが続ける。


「ロ、ロズは家族っているの……?」

「ん? いるよ。姉さんと父さんがね」

「優しい人?」


その質問に何かしらの意味が含んでいることをロズは気づく。


「まぁ、優しいかな? 色んなことを教えてもらったしね」

「そ、そうなんだ……」

「フォルトは優しい家族はいないの?」


その言葉に少しだけ、喉が突っかかる。


「あ、えっと……お母さんは優しい人、だった……」

「だった……か」


溢すように繰り返す。


「か、火事だったんだ。僕を……た、助けて焼死した……」

「そっか」

「……うん」


気まずい空気が部屋の隅に漂う。


決して笑い話ではない。

だからと言って大丈夫というのも違うし、ご愁傷様の言葉も合わない気がする。


でも、ロズは何か言わないといけない気がして、頭を掻く。


「でも……フォルトが生きてて私は嬉しいな」

「え……」

「フォルトのことだから自分が死ねば良かったとか思ってそうだし」


その言葉に少しだけフォルトは救われた。

だが、すぐにその喜びは責任から逃れている気がして、楽になろうと言い訳をしている気がして許せなくなる。


「もしかして沈んでる理由って──」

「う、うん。ノアリアはぼ、僕の故郷……」


そう言って、サンドイッチをつまむ。


「無理はしないでね」

「大丈夫……。いつかはこうなるはずだったし……」


手に持ったサンドイッチがかすかに震えている。


「困ったことがあったら、みんな力になるから」

「う、うん」

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