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第百七話 美結の修行(二)

 

「それでは始めましょう。これを」


 迅澄は短剣を美結に渡す。


「とりあえず一通り武器を試しましょう。どれか一つ合う武器があるはずです。多分ですが、軽くて短い武器がいいと思うので、最初は短剣から行います」

「今からやって、今日中に終わるのか?」

「終わらせます」


 時間はあと半日。

 一応迅澄が使える武器は制限があるとはいえ、教えるにはそれなりに時間がいる。


 迅澄も承知の上で美結に向かい合っている。


「なんで…なんでアンタはそこまでするの!」


 そこで黙っていた美結が言う。


「ですから、友達だからと…」

「違う。アンタは心からそうは思っていない」


 美結は頭がいい訳じゃない。

 だけど、『模倣』を使うために人間観察を行っている。


 それで性格とかが分かる訳ではなく、こんな感じの人と分かるくらいしか分からない。


 だから、これは勘みたいなものだから、美結はなんとなくで言っている。


「誤魔化すことはできませんか。でも、友達だからというのは本当ですよ。ですが、実際のところは羨ましい」

「私が羨ましい?」

「えぇ、僕は元々感情の欠落またはその感情を生み出す能力が弱いです。喜怒哀楽に限らずそれ以外も。もちろん恐怖という感情も含みます。まぁ有っても好奇心くらいですかね。ただそれが何かに繋がる可能性は低い」


 迅澄は他のみんなを友達と思っていながらも、みんなだけでなく今まで会ってきた人達に対しても羨ましいと思っていた。


「美結は楽しいとか嬉しいがあると思います。しかし、今は殻に被っている。いくら善感情が有っても表に出ない」


 美結は迅澄とは違い、喜怒哀楽が普通にある。

 ただそれよりも恐怖の方が強いため、そう感じることが難しくなっている。


「結局美結は色々と気にするタイプなんだと思います。気にしなければもっと前向きになりますよ」

「アンタに何が分かる。どれだけ人と関わることに抵抗を持つ気持ちがあるなんて…」

「分かりません。何故ならそれは美結が感じたこと。それを他人が理解できることはないです。しかし、人間は上か下で言動が変わる。それは気にするから起こります。特に美結はそれが強い。それから僕が言えることは気にするなまたは無視です」


 迅澄から言えることはいくつかあるが、一番行っている行動としてそれを言っている。


「そんなことができるなら、とっくに…」

「だったら、今ここでやってみたらどうです。修行をしたくないのでしょ?」


 迅澄からそう言われて行動を移す美結。


 そこに迅澄が割って入る。


「邪魔しないでよ!」

「邪魔しないとは言ってませんよ」


 剣を持った迅澄が攻撃し、美結が短剣で受ける。


「いつどんな時でも邪魔が入ります。逃げるにしてもそれを乗り越えなければなりません」


 その後も美結が迅澄を避けて扉に向かおうとし、逆に迅澄は美結の行き先を阻め、攻撃を加える。


「あ…」


 迅澄が美結が持っていた短剣を飛ばす。


「武器ならありますよ」


 武器をなくした美結に迅澄が木製の槍を渡す。


 美結は疑問に思いながらも受け取り、一瞬槍の重さでよろけたが、すぐに体勢を整え、扉に向かう。


 それを繰り返す。


(これは修行か)


 銀千は二人を見て、そう判断した。


(相手の逃走本能を利用した修行方法。大抵の人は逃げている時だろうと攻撃に対して何もしない訳がない。それを利用して武器の適性を見ている)


 今、美結は戦いから逃げたい本能と修行をしたい意思の二つがある。


 それが天秤で本能が勝ち、逃げを選んでいる。


 だから迅澄は無理に修行をさせるのではなく、その選択をさせながら、自分はそれを阻止する体で、美結の武器の適性を見ている。


(しかし…それは正しいのか?それは戦意喪失を促す)


 現状今の状態ならば、今日の目標ができるかもしれないが、美結が逃げることを諦めてしまえば、戦うこともしなくなる可能性がある。


 銀千はそれを懸念している。


(ん?押されている?いや、演技なのか?)


 迅澄が美結に押されている。

 ジリジリと扉の方に押し、偶に迅澄の攻撃を弾いたりしている。


 しかし、これは迅澄の演技である。


(いける、と思えば誰だってこのまま押し通そうとする。それを上手くやっているのか)


 銀千は迅澄が今の状態を保つために色々とやっているのだと思った。


(それでもやはり全然戦えないことと善戦していることは逃げられない限りは同じだ。長くは続かないんじゃないか?)


 ただ、行き詰まりは気力をなくす。


 その証拠に美結の動きが悪くなってきている。


(限界か?)


 銀千がそう思った時、突然迅澄が攻撃をやめ、美結の腕を掴んだ。


「もう終わりしましょう」

「な、何言っ…てんだ…」

「もう限界でしょう。それに頑張ったところで突破できないことくらい分かっているはずです」

「それ、さっきと矛盾してないか?」

「確かにそうですが、戦いはしたでしょ?」

「……」

「おい!」


 美結は困惑し、部屋から飛び出していった。


 銀千が止めようとしたが、迅澄が銀千を止めた。


「何故だ?」

「考えさせます」

「考えさせる?どういうことだ?」

「本当なら修行させるしたかったのですが、僕には無理なようです。そこで、恐怖の上書きを行いました。恐怖から逃げることよりも逃げることが恐怖になるようにと」


 迅澄は元々人との関わりをして来なかった(苦手という訳ではない)ため、心の接し方が分からず、うまくいかなったようだ。


 だから、やり方を変えて、逃げても無駄だと思わせるように恐怖の上書きを行った。


 これが上手くいくかは美結次第。


「逃げてもいいって言ってなかったか?」

「逃げるにしても、ただがむしゃらに逃げるのと敵を警戒しながら逃げるのとでは逃げることでも違いがあります。まずはがむしゃらに逃げることだけでもなくすために『逃げる』という選択をなくさせる。その後で戦わせて、さらにその後に戦いながら逃げる戦い方を教える。少し遠回りですが」

「さっきのはそんな感じに見えたが?」

「今回は逃走本能を利用した修行法。実際の恐怖にあった時、人はその場から逃げようとする逃走本能も自身を守ろうとする防衛本能も効かない状態になる。ちゃんと恐怖に打ち勝てるようにならなければ戦いに生き残れない。そうでしょ?」


 一定よりも超えた恐怖は人の思考を鈍らせる。

 行動としては腰を抜かすということだ。


 それはがむしゃらに逃げるよりもあってはならないこと。


 迅澄は美結の選択肢をなくそうとしている。


「確かにそうだが。しかし、どうすんだ。あれじゃあ、修行しなくなるぞ」

「それは美結が本能に負けたらの話です。僕は『逃げる方が怖い』と印象付けただけで、実際に来るかは本人次第でしょう」

「君は割と素っ気ないな」

「まぁ、否定しません。自分でも『感情ない狂気』と思っているくらいですからね。例えば、相手が僕に対して悪戯をした場合、僕はその行為が面白いのかどうか確かめるためにお返しをします。それは客観的に見れば、単なるやり返しでしかありませんが、僕にそんな感情はありません。単なる興味でしかない。人を傷つけたり、人に痛みつけられたりしても笑い叫んだり、泣き叫んだりはしない狂気。僕はそのような人です」


 迅澄に何をしても感情に直結することはない。

 何故ならその感情自体がない等しいから。


 ただ、迅澄にとってユニークニストスクールでの「怒り」の件は少し気になっているが、元々その感情がなかったため、今でもまだ「怒り」の感情を表すことが難しい。


「主人様とはまた違った怖さを感じる」


 銀千は冷や汗を流しながら言った。


「それではいくつか美結の件で言っておきたいことがあります」

「なんだ?」

「まず今日の結果です」

「短剣。つまり、短剣がいいと判断したのか?」

「はい。美結は戦闘特化ではなく、あくまでも逃げを組み込んだ防御型。敵を攻撃しないのであれば、武器が小さくていい。できることなら双剣したのですが、とりあえず一本でお願いします」

「分かった。受け取っておく」


 銀千は受け取った短剣を仕舞う。


「次は美結に助言を代わりに伝えて欲しいです」

「助言?直接言えばいいじゃないか?」

「今は難しいですね」

「まぁ、あの様子だから仕方ないか」


 迅澄に限った話ではないと思うが、今は一番関わるべきではないし、迅澄は美結の解決に手を加えることすらないくらいに美結が復活するまで会うつもりはないと思っている。


 それに自分の修行にも力を入れていきたいとも思っているため、最後の助言だけを伝える。


「分かった」


 銀千は迅澄からの助言を受け取り、二人はその部屋を出た。


最近一ヶ月周期投稿になりつつある今ですが、結構美結で詰まってます。

正直、素直に修行させるのは難しく、どのようにすればいいのかが分からない。

ただ今のところ、難航しているということにしています。


今回は美結に合う武器を見ると同時に修行もさせる感じにしました。

迅澄は友達のために、というのは薄く、美結の(感情を)観察している。

現在の銀千は言われたことしかやらないようにしてします。


次話は銀千が美結の部屋の前にからになります。

迅澄により美結は迷い、選択を決めなければならない。

どちらに選んでもそれは美結の道。

その先に何があるかは分からない。

しかし、戦いを選ばなければ、死への近道を歩く可能性が出でくるだろう。

美結が決めたのはどっちだろうか。

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