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百六話 美結の修行(一)

 

 二日目


 昨日は銀千に手合わせをして、実力を見せた。

 今日は昨日のを参考にした月下の修行が始まる。


 修行内容は美結がいろんな亡者と闘い、その技能を『模倣』で覚える。

 それは見たり、体で実際に動かして覚える。

 摩利は初めに格闘家の亡者とやって技能を覚え、魔法格闘術の熟練度を上げる。その後に色んな亡者とやって対策を考える。

 そして、迅澄はまさかの月下。相手をしない訳ではないのだが、それでも三人共ではなく、迅澄だけということはちゃんと修行するつもりがあるということになる。月下が言うには単なる好奇心らしいけど、とりあえず闘ってから、どうするかを決めるらしい。



 ーー美結視点ーーー


 美結は別の部屋に案内され、そこに入ると一人の男性がいた。

 それは銀千だ。


「やぁ、また会ったな」


 銀千は気軽に挨拶したが、美結は少し後退る。


「おいおい、逃げるのか?別に逃げてもいいさ。確かに君は能力者だけど、才能はない」


 能力者だから選ばれし者なのが事実でも、その能力以外のことは普通の人間と変わらない。


 美結の『模倣』にしたって、見た目は真似できても、運動神経がいい訳でもないし、頭がいいということはない。


 かろうじて能力者としての身体能力上昇の補正があるにしても、一般の天才と比べれば弱いもの。

 最低でも戦える状態にしてくれているだけだ。


 銀千は美結に対して半分煽りと半分本気でやめさせようとしていた。


 それは何故か。

 それは能力者だろうと、人間であることは変わらないからだ。


 結局必要なのは生きるための闘争心。

 本来闘争心とは戦いたいという気持ちではあるが、戦いの場に置かれた時に腰抜けたり、ただ逃げるだけでは生けていけない。


 攻撃するだけではない。

 防御する時、殿しんがりをする時、時間稼ぎをする時、逃げる時だってそこには戦い方があり、やはり闘争心が必要となっている。


 どんな時だって生きるためのもの。

 逃げ腰では生き残れない。

 そんな者には戦場に行かせたくない。


 銀千は人生の先輩として守るべきだと思っているから。


 しかし、守ってくれる人は能力者ではなく、銀千の様な人間や元人間、能力で生み出された生物くらいで、守れるかというと難しい。


 これが『解放者フリーダム』が今回のことをした理由。

 守れないから自分自身で守って欲しいという結果となった。

 単純に能力を上げた方が生存率が高いというのもある。


「俺は指揮能力や指導能力があるとはいえ、頭がいい訳じゃない。どうやって君を戦場に行かせることができるかなんて分からない。どうするかは君次第だ」


 銀千は「時間をやる」と言って、美結に考えさせることした。

 答えは昼食時。

 それまでは銀千が部屋の外で待機し、見張る。




 一人残された美結は強制的に考えていた。


 美結は今戦いに恐怖している訳ではなく、原因は父親にある。


 父親は美結と美結の母親に暴力を振るっていた。

 それにより、男性への恐怖心は女性よりも大きい。

 そして、暴力には特に恐怖している。


 これから行われる戦いにはそれが蔓延る。


 これまで戦うことが無縁だった美結にとってモイヒェルメルダー学園に来てからは大きく変わった。


 モイヒェルメルダー学園に自分の意思で来たとはいえ、トラウマを克服はできていない。


 それでも美結は自分を裏切りたくないし、ここまで育ててくれたおじさんやおばさんを裏切りたくない。


 だから、進むことも戻ることもできないでいた。


 数時間後、銀千が部屋に入ってきた。


「決まったか?」


 美結は返事しない。


「その様子だと決まらなかったようだな」


 結局、美結は決めることができなかった。


「とりあえず、飯に行くぞ。ついて来い」


 銀千は特に何も言うことなく、昼食に美結を連れて行く。


「あ、銀千さん」

「銀千さん、どうしたんですか?」


 ある部屋に入るとそこには既に昼食を食べていた迅澄と摩利がいた。


「あぁ、美結を連れてきた」

「美結さんの相手をしていたのですか?」

「そうだ」

「その割には美結は疲れていない。いや、何か疲弊している様子は見られますか」


 三人はそれぞれ誰が相手をしているかを知らない。

 美結の相手が銀千だと聞くと、少し驚いている。


 迅澄は美結の様子を見て、修行をした様子は見られなかったが、何か別のことで疲れていると気づいた。


「よく分かったな。まぁ、今から話すことに関係することだと思う」

「話すこと?」

「実は午前、何もしなかったんだ。美結が迷っていたから考えさせていたんだけど、決められなかったようで、君達に手伝って貰おうと思ってな。時間は取らせない。今の時間だけ貸して欲しい」

「いいですよ」

「大丈夫ですわ」


 銀千は二人の近くに座り、美結は少し離れたところに座った。


「まず前提に今回の修行は『解放者フリーダム』が行っていることは分かるな」

「はい」

「えぇ」

「これは半分強制的なところがある」

「確かに急遽行われていますし、事前に準備されている。僕達のほとんどの者は戸惑いというのはあると思います」

「それが普通だ。それは美結にも少し違っている部分はあるが、戸惑いというのはあるだろう」


 今回の修行は全て『解放者フリーダム』が行っていること。

 銀千も直接ではないとはいえ、月下からそう伝えられている。


 裏世界にいる銀千とは違い、モイヒェルメルダー学園の生徒達は裏世界であるものの、表世界における裏世界でしかない。


 裏世界あろうと記録として知らさせている。

 日記や表世界の者によって書かれた書物もあるだろう。


 しかし、『母の元に(オリジン)』と『解放者フリーダム」はその記録さえもない。

 あっても『母の元に(オリジン)』の表世界の記録くらいかで、基本的に記録を残さないようにしている。

 その点で言うとユニークニストスクールにあった戦争記録は信正が調査させるようにあってはならないこと。


 それだけ慎重な者達が突然現れ、強制的に戦場へ行かさせることになる。

 そのために今修行をさせられている。


 そんな状況でも先日の『母の元に(オリジン)』の経験は自分の力の無さを実感できるほどの出来事であったこともあり、この修行に力を入れている者も少なくない。


 そういう点では高等部一年の迅澄達はその傾向にある。


 今生徒達は大きく二つ。

 戸惑っている者と修行に力を入れている者がいる。


 まぁ、美結の場合は戸惑いというよりかは戦争への恐怖、戦いへの恐怖、暴力への恐怖の方が強い。


「強制にはしないんですか?」

「俺はしない。何故なら俺がいた時代は戦いの時代。戦いに意欲を持たない者を行かせても、死に行くようなもの。だったら、戦いに意欲を持つ者が守ればいいと思っているからだ」


 銀千の時代は戦国時代。

 少し前までは貴族、武士、国司や守護・地頭など、確立された地位や任命された地位はあったが、戦国時代は農民が武士(足軽)に変わったり、一揆を起こしてきた。


 基本的に上下関係がありながらも、自己判断で行動している人がこの時代増えていた。


 だからと言って、それは農民や足軽などの身分の低い者達だけで、身分の高い者は強制することの方が多い。


「とりあえずだ。迷いはそれ以上に死へと誘う。それだけは避けなければならない」


 強制をしない銀千でも、それだけは避けたいようだ。


「つまり、戦いに出せるようにするか、行かないようにするかを決めさせればいいんですか?」

「そういうことだ」


 なら自分がすればいいのでは…と思う摩利だが、言うことはなかった。

 何故なら、自分達に言う時点で一度やったか、そもそも苦手でやらなかっただろうと気づいたからだ。


 実際銀千は修行や訓練に付き合ったり、体を動かすようなことには手伝いや相談に乗ることはあっても、精神面のことには複雑な面もあり、うまく応えることができない。


「別に無理をする必要はないと思いますわ。どう思います?迅澄?」

「同意見ではありますが、いざ戦いとなるとどうなりますか?」

「一応保護対象にはされるが、推奨されないだろうな」

「余程守れる自信はなさそうですが?この状況だと」

「仕方ないだろ。人数はあっちの方が上。守りにつく戦力はない。そっちに行かせる戦力なんて俺らみたいな能力者じゃない奴らしかいないんだよ」

「そうですか」


 迅澄は少し考え、言った。


「やはり、修行は必要。最低でも自分を守れる武器が欲しいですね」

「つまりは俺らじゃ無理だと言いたいのか」

「いえ、結局守れるのは自分自身。必ず誰かが近くにいるとは限りません。それは『解放者フリーダム』が求めるもの。若者に手を貸す戦力はないのでしょう?『解放者フリーダム』としては戦力を防衛に入れず、攻撃に組み込みたい。ちゃんと自分達組織の方針を守りながらも、戦力を割くことをしていない。だから、正直に言えば何もしないのが『解放者フリーダム』にとって一番ダメなパターンなのではないですか?」


 迅澄は信正の発言と今回の状況で、『解放者フリーダム』の行動を少し理解した。


(こいつ、どれだけ理解をしているんだ)


 銀千は驚いた。


「それは応えられん。俺はあくまでも『解放者フリーダム』に所属しているだけで、主人様の部下であり、兵士だ。組織の内情は知らない」


(だけど、今までの行動や主人様から経由される情報から何をしているか、ある程度の戦力は分かる)


 銀千は月下が『解放者フリーダム』に所属しているため、自分も入っている。

 しかし、主な仕事はここの防衛で、戦争に駆り出されることもあるが、ほとんど月下の行動で変わることが多い。


「まぁ、予想するに、時間があるようなので」

「時間がある?」

「何を言ってんだ?『母の元に(オリジン)』が動き始めているんだから、時間はないだろ」

「なら、何故一週間という期間にしたのか疑問に思う。そんなこと戦争が決まってないと難しい」

「そんなの準備が必要だから、その時間を作るためじゃないのか?」

「その可能性はなくはないですが、もし僕達が一週間という期間で自分を守れるだけの力が手に入ると思いますか?」

「普通は無理じゃないかしら。結局勝負には熟練度の差があり、長年の経験が向こうとはかけ離れています」

「そう、僕にはそこが気になります」


 迅澄はこの修行に疑問を持っていた。

 修行次第では新たな力(能力)が身につける可能性はあるにはある。


 しかし、それが『母の元に(オリジン)』に効くとは限らない。


 だから、修行期間を一週間にしたことが気になっていた。


「ただ一つ言えるのはこの期間は修行だけをしなければならないという訳ではない」

「いや、修行させるために君達をここに来たんじゃないのか?」

「いえ、正しくは自分を守れる武器が持てるなら、何をしてもいいということです」


 信正が言ったのは「修行相手が試練を与え、それを達成しないと戦争に耐えられない」と言っていた。


 そこには過程など言っていない。


「一度お時間を頂きたい」

「時間を与えるにしても、主人様の許可が必要だ」


 銀千はみんなを連れて、月下の下に向かった。




「ダメだ」


 それが月下から返って来た言葉だった。


「何故ですか?」

「外に出すなと組織から言われたことだからだ」


 月下はこの修行についてのことで組織から修行中に外から出さないように言われていた。


「理由は?」

「知らん。聞く気にもならん」


 月下はその理由については知らない。

 そもそも月下から何か言うということ自体あまりないため、そういう気にもならないらしい。


「なら、一つお願いがあるのですが?」

「何だ?」

「それが許可して貰えないのならば、午後の修行は美結の修行に参加してもよろしいでしょうか?」

「はぁ!?何言ったんだぁ!?」


 迅澄から出た言葉に驚き隠せない美結。


「美結さん、落ち着いて。迅澄、どういうことなんでしょうか?」


 美結を抑え、迅澄に聞く摩利。


「美結は心を閉ざしている。それは自己防衛を無意識に行っていることで、前に進もうとしても前に進めない。逆に前に進もうとしているからこそ、逃げることもできない。つまり、留まりであり、そこには迷いがある」


 美結は父親の暴力により、無意識の内に自分を守ろうとするが、自分としての意思としては変わらないと、立ち止まっていけないと思っていて、前にも後ろにも行けない状態になっている。


 俗に言う「迷い」というやつだ。


「どちらかを捨て、どちらかを決めなければならない。だから美結、美結はどうしたいんですか?美結次第で僕はそれに導きます。でも、最低限修行はして貰います。死んで欲しくないからね。そうでしょう?摩利」

「えぇ。貴女にその気がなくても、わたくし…いえ、わたくし達は貴女を友達だと思っていますわ。また、学校生活できるように頑張りましょう」


 モイヒェルメルダー学園は普通の学校よりも生徒数が少ない。

 それ故に友達なるかならないはすぐに分かる。


 必然的にクラス全員が友達同士となれば空気感は良く、逆に誰か一人でも友達になれなかった場合は空気感が悪くなる。


 現状、高等部一年は美結により、空気感が悪くなっている傾向がある。


 それでも、迅澄、摩利、太助、小雨、来栖、華花実は拒絶せず、受け入れようとしている(華花実は他の人よりも奥手ではあるが)。


 タイナはあんまり気にしないタイプだし、バロンは顔を見られなければ他の人と同じ。


 因みに匠は気にしないタイプってよりも弱い奴にあまり興味を示さないタイプ。


 全体的に見れば、もっと美結が積極的になればよくなりそうではある。


「な、何言ってんだよ」


 美結は恥ずかしそうに言った。


「分かったよ。言ったらいいんだろ。や…らない。…あれ?」


(なんでやりたいとか言えないんだ?)


 美結は何故か自分の思ったことを言えなかった。


「そうですか」

「え…いや、ち、ちが…」


 すぐに否定しよう美結は言うが。


「大丈夫です。美結が望んでいないことくらいは。でも、本能的にそれを拒否しているならば、いくら言おうとしても無意味です」


 先程の問い、実はやる、やらないの答えなのだが、内容はやる=本格的にやる、やらない=最低限やるの二択。


 それまでは実際にやる、やらないと決められていて、美結も進むか逃げるかと選択肢でしかない。


 しかし、迅澄は逃げる選択肢をなくし、やるにはやるのだが、とにかく修行させるように比較的マシな選択肢を与えた。


 一歩進むのではなく、足を前に出す。

 とりあえず歩き出すようにする。


「それで主人様、どうしますか?」

「あぁ、許可する」

「え?」


 あまりにすんなり許可したので、銀千は驚いている。


「なんだ」

「いえ、主人様ならまた『ダメだ』と言うと思ったので」

「まぁ、考える時間があったからな。やるならさっさとしろ。修行自体の時間はないんだからな」

「えぇ、分かっています」


 月下以外はその部屋から出る。


「迅澄、ちょっといい」

「どうしましたか?」


 摩利が迅澄に話かけて、美結と銀千から離れさせる。


「どうする?俺達先に行ってるか?」

「先に行っていてください」

「分かった」


 美結と銀千は先に修行する部屋に向かう。


 その時、美結は二人を見る。

 会話こそ聞こえないようにしているか、内容までは分からないが、よく見ると迅澄が摩利に対して何かを渡しているように見えた。

 しかし、何を渡したのかは分からなかった。


 そして、少し経って迅澄が部屋に来て、美結と向かい合うように立ち、銀千は少し離れたところに立っていた。


前回の投稿から一ヶ月経ってしまいました。

今回は美結に修行を本格的にやらせるか、それとも一緒のことやめさせるかを迷いました。

正直やめさせるのはちょっとないかなと思い、良い具合がいいじゃないかと思った結果です。


次回は美結の修行の続きからです。

迅澄により、美結の修行を行うことなった。

修行をさせることはできたが、迅澄はどのように修行をさせるのだろうか。


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