第百八話 美結の修行(三)
※修行ではない
迅澄と別れ、すぐに銀千は美結の部屋に向かった。
銀千はドアを叩く。
「銀千だ。返事しなくていいから、話を聞いていてくれ」
部屋の中で物音が聞こえたので、美結がいると判断し、銀千は話し始めた。
「修行をやるかどうかは君自身で考えてくれ。俺はいつでも対応可能だからな」
先に自分の言葉を言う。
「それと迅澄からの伝言が三つ預かっている」
次に迅澄から受け取ったことを話す。
「一つ目は『もし前に進みたいまたは自分を強くしたいなら、偽わって偽り続けるんです。そして、自分とは違う心を持てるようにして下さい』」
一つ目は今感じている恐怖を感じないための補強。
または上書き。
わざと自分とは違う偽りの自分を作り、恐怖を忘れさせる。
でも、一つだけでは意味がないため、偽り続ける必要がある。
「二つ目は『必ず自分の心は心の真(中心)に置いておく。そうしなければ他の心に呑まれる可能性があるから注意すること』」
二つ目は一つ目の補足。
色々と別の心を持てば、元々の自分の心は薄れてしまう。
だから、ちゃんと中心に残しておく必要がある。
だけど、一つ目をしながらだと難しい気もするが。
「三つ目は『よく考えて決めるんです。誰かに言われようと決めるのは自分自身。美結自身が自分を決めるしかないんです』」
三つ目は他人から言われようとも自分の最終決定権は自分にある。
それを迅澄は美結に知って欲しかった。
一番あってはならないことは誘導されて自分が決めていたこと以外に決めてしまうこと。
「の三つになる」
銀千は迅澄の言葉をそのまま伝えた。
ーーーーー
数分前。
迅澄から三つ聞いた後。
「その三つでいいのか?」
「はい」
「予想するに『模倣』を利用しろと言いたいのか」
「そうですね。無理に気にするなと言っていたとしてもできませんから。ただ注意する点は自分を見失うこと。見失えば、それこそ自分を迷わせ、さらなる深刻となってしまう」
「確かに間違えではないが…」
銀千はそれを腑に落ちない点もあった。
「それで成功できるのか?」
「正直に言って美結を信じるしかない。何故なら人は能力を別にして最初は学も力も精神も身体も全て0から始まっています」
「つまりどういうことなんだ?」
「恐怖というのは学がなければ恐怖を感じません。逆にあれば精神力がない者は耐えられなくなります」
「学がないと恐怖を感じないのか?」
あまりにも難しいことが続くため、銀千を説明を求める。
「例えば赤ちゃんはそれが恐怖的体験であろうと怖がることはありません。学んでいけばそれを恐怖だと思い、泣き出す結果となるのです」
「それは分からないなぁ」
実際のところそれは仮定でしかない。
銀千もそれほどまでの情報はない
「うーん、まぁいいでしょう」
「いいのか?」
「美結の件とは少し違うので。美結というか、大抵の人は精神力が高くありません。何故なら変動するからです」
「はっきりとは言えんが、そういうことはあるな確かに」
「はい。これに関しては年齢が高いから精神力が高いということは有り得ません」
精神力に限らず、学は何もしなければ忘れるし、力も同じく何もしなければ筋肉量が減り、身体も老いがある。
ただ違う点と言えば、何もしないからと言って変動する訳ではない。
何かの拍子に上がったり、下がったりする。
もちろん、自然にトラウマを忘れたり、無理やり考えないようにすることがあったりするが、可能性としては低いだろう。
「精神力を上げるには相当な苦労が必要です」
「簡単に変わったら、拷問とか洗脳とかが無意味になってしまうからな。それに能力の中には精神系のものもある。逆にどんなにその者が強くても、精神で負ける場合もあるから、精神統一をするものもいるくらいだからな」
精神というのは情報収集や誘導をされる可能性があり、逆に戦いにおいてそれを利用されて負ける場合もある。
そのため、精神統一とは数々の修行法の中でも大事だと言われる修行法の一つとされる。
「精神統一をすれば良いと思っても簡単にできるものではない。特に美結の場合はさらに辛い修行となるだろう」
恐怖心を強く持つほど精神統一は普通の人よりも時間がかかる。
この期間中にできるものではない。
「そういうことか…」
そこで銀千はあることを思い出す。
「そこで使うのが『模倣』なのか…」
「はい。美結だからこそできる精神の修行法」
「精神統一ではなく、精神力の強化をするのか」
精神統一は心を落ち着かせ、無心または余計なことを考えないようにする。
一応、精神力の強化にはなるが、常備その状態になっていることはない。
だからこそ、ちゃんとした精神力の強化が必要。
「しかし、理解はできない。やろうとしてることは何となく理解できなくもないが、そう上手くいくとは思えない」
「まぁ、ただの誤魔化しですよ。『模倣』した一つ一つの性格がちゃんと心の一つなるかは分からない訳ですし、それが集合体になるだけで自分を見失う可能性もあり、最終的には一つの心として確立してもらわないと更なる進化には難しいですから」
銀千は何となく迅澄が何をしようとしてるかを分かっているけど、上手くいくとは思っていない。
それは迅澄も同じ。
しかし現状、美結を修行させるには根本である恐怖を克服もしくは耐えられるほどの精神力が必要となる。
だから、迅澄は一か八かで美結に行わせようとしている。
全ては美結次第。
「君は頭が良さそうに見えたが、それでも一か八かなのか。分かった、しっかりと伝えておく」
銀千は自分が頭脳派ではないことはよく分かっているので、精神面の方は理由とか根拠とかを聞くだけで反論することはない。
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銀千は美結に向かってしっかりと迅澄の伝言を伝え、その場を後にした。
今回は迅澄からの助言を銀千を通じて美結に伝える話でした。
『模倣』がどのような能力かは正直なところ、「真似する」行為以外は人それぞれで個人差があります。
次回に美結の『模倣』を正確に説明できたらと思っています。
次回は美結の修行の最終回とし、結構飛ばします。
自身の意思では内に眠る恐怖心には勝てない美結。
助言をした迅澄、いつでも修行をしても大丈夫な銀千。
そして摩利はそんな美結に対して迅澄に続いて助言をするのだった。
次回、美結の修行(四)、大切な者との二度目の別れと新たな一歩のために。




