第百一話 太助と小雨の修行(三)
遅れました。
色々と詰め込み、一話に詰め込んだので長くなりました。
翌朝、まだ気持ちが落ち着かない二人に陰秀は話し始める。
「昨日のことですぐに移行するのは難しいと思いますが、今は時間がありません」
「分かっています。ですが…」
「そうですよね。こんな気持ちでは…」
久しぶりに再開したこと、家のこと、これからの方向のこと、そして別れ。
あまりにも動き過ぎている。
気持ちが追いつかない。
「そんなことでは『半呪化』にはなりません。次に行うのは諸刃、『半呪化』を獲得出来るかもしれませんが、逆に堕ちることもあります」
「どういうことですか?」
「今から行うのは『呪化』を使用しながら、修行して貰います」
これは陰秀が実際にやったこと。
「『呪化』とは堕ちるか堕ちないかの境目。悪感情を持つほど、それは『怨化』に近づく。私は何とか戻ることはできましたが、今まで『呪化』の者を見てきた中で、『怨化』に堕ちた者はその能力により、数分後または数時間後に死に絶えます。一日保つことはないでしょう。まぁ、例外はありますが…」
この『怨化』は『呪化』が堕ちたもの。
違いは対象が複数になり、敵味方関係なく暴走する。
そこから救い出すことは非常に難しい。
「例外?」
「えぇ、『解放者』にはそういう方がいます」
「では死なない可能性はあると?」
「いえ、これは絶対に等しいでしょう。彼は能力で補っています。特殊なタイプということでしょう」
回避方法があるかないと言えば、ある。
でも、あるにはあると言った方が正しい。
身も心も終わっているから。
そのどちらかが生きていれば、死ぬことはない。
しかし、大抵はそんなことはできないのが現実。
「そう言えば、彼が担当する者は貴方方の友人でしたね。生きているといいのですが…」
「それはどういうことですか?」
「彼は少し特殊な性癖をお持ちで、人間嫌いですぐに殺そうとする。そしてすぐに死人として生き返らせ、弄ぶ。そうすることで性的興奮するそうです」
この人物は恵美と隆雪の魂を呼び、陰秀の傀儡に入れた人。
陰秀は『解放者』の中で数少ない彼と会話できる者。
簡単には仲良くすることはできず、それよりも人を殺そうする。
「何でそこに行かせたんですか!」
「その理由は迅澄という方の可能性を試そうとしているのです」
「迅澄さんの可能性?」
「彼は力で貴方方の『呪化』を解きました。『呪化』は確かに解くことはできます。ですが、それは能力を使っての話で、彼の場合は単純な力だけで解いてしまったのです」
元々、『呪化』の暴走状態を解くのは難しい。
一番簡単なのは対象者を本人が殺すこと。
しかし、そんなことをしたいとは思わない。
そこで必要なのは『解呪』、もしくはそれに似た能力でしかできない。
でも、一つ言えるのはこの状態を殴っただけで解くはできない。
それは陰秀自身も分かっていること。
それを迅澄がやってしまった。
「ただ、そういう類の能力であれば、やれてしまう可能性はあります」
「なら!」
太助が激怒するところを陰秀が手で止める。
「ご心配なく、監視はいますので、何かあれば間に入ります。犠牲者を出すのは『解放者』の理念に反しますのでね」
幾らそのような者がいようが、人殺しだけはさせない。
それは『解放者』の理念である手助けに反する。
態々、修行に巻き込み、能力を開花させるのも、これからの戦いに必要だから。
それにも関わらず、殺されてしまえば意味はないし、敵対視されてしまう。
それだけは避けなければならなかった。
「ですが、今貴方方が気にするのは堕ちずに『半呪化』を手に入れること。昨日、堕ちないためにお二人方をお呼びなったのに、それを無意味しないようにして下さい」
昨日、恵美と隆雪を呼んだのは気持ちの方向性を変えることだけ。
気持ちさえ変われば簡単に堕ちてしまう。
「そもそも『呪化』は力不足が大いにあります。次からはそれを行います。暴走仕掛けたら、容赦なく殴りますので」
暴走なりかけは暴走状態とは違い、まだ正気になる可能性がある。
ただ殴っただけでもその衝撃で戻る。
暴走状態になってしまったら、陰秀でさえ戻すことはできない。
だから、陰秀は気にしながら修行するしかない。
「では、やりますよ」
そうして、陰秀は傀儡を呼び出し、糸で操り始めた。
数時間後、幾度も『呪化』の暴走状態になりかかる太助と小雨。
それを陰秀が傀儡を操って、正気に戻す。
陰秀の能力は『糸』。
そして『半呪化』は『人形操者』。
能力『糸』はそのまま糸を出して操る能力。
もう一つの『半呪化』である『人形操者』は傀儡を呼び出し、操る。
さらには熟練度次第で人も操れる。
能力『糸』の熟練度によって呼び出せる傀儡を人間に近い形にすることも可能。
しかし今は普通に木の傀儡を使って二人を相手にしている。
最初は『呪化』を発動しただけで暴走しようになっていたが、今は我慢しながら耐えている。
でも、長くは続かない。
太助の『呪化』である『ウェポンジェネレートマスター』は武器生成速度が上がるごとに暴走状態に近づく。
小雨の『呪化』である『パワーアンドアジリティハイ・ディフェンスロー』は攻撃力と素早さが上がるごとに暴走状態に近づく。
因みに陰秀の『呪化』時代の『人形操者』は操作可能な傀儡の数の増加と傀儡の素材の数の増加で暴走状態に近づき、デメリットは『糸』の本数制限が付けられること。
しかし今は『半呪化』となり、デメリットはなくなっている。
それで陰秀はどうしてこんな危険なことをしているかというと、それは慣れと成長である。
慣れは暴走状態ではない状態で『呪化』を使わせる。
そうすることでその状態を慣れさせ、馴染ませる。
さらにその状態を伸ばす。
成長は技量と熟練度を上げるため、しかしこれは今の段階では微々たるもの。
それを陰秀はこの一日で確認をとり、少し追い込むにする。
三日目。
「もう少し集中して下さい。これは生死を分かれる修行です」
『マルチ・コンダクター』
傀儡が十体現れ、指一本に糸が出てきて、途中で糸が分かれて、傀儡の各場所に付く。
一人に五体と相手させる。
「くっ!どこを見ていれば」
太助は五体のどの傀儡に目を向ければいいのか分からなくなっていた。
それでも瞬時に防具を生成して、防いでいる。
対して小雨は『パワーアンドアジリティハイ・ディフェンスロー』により、防御力がほぼないので、攻撃を受ける訳にはいかないため、必死に躱している。
でもやはり、武人の家系だけあって集中力は太助よりも高い。
余計な言葉を発しない。
四日目。
さらに陰秀は十体増やし、一人十体になるようにした。
(堕ちることを考えないで下さい。集中していれば呑まれることはありません)
陰秀の考える『呪化』の暴走状態は結局精神的なことだと思っている。
何故なら、『呪化』は恨みから生み出された能力。
その原因と思うものを思うほど、堕ちていき、『怨化』へと導く。
だけど、戦闘に集中すれば、考えないようになる。
少し難しい話だが、『呪化』を発動しながら、『呪化』を考えないようにしろと言っているようなもの。
簡単にできることではない。
だけど、そうしなければ、呪いなしの『呪化』である『半呪化』にはならない。
それでも強い意志を持つことになったのは小雨だった。
『城月流−月裏−五芒星』
それは一日目に隆雪から教えて貰った城月流−月裏を改良したものだった。
隆雪は月を描くように周りを踏みつけ、中心を凹ませた。
しかし、小雨は上空に五芒星を描くように動き、その点の場所で、同じように踏みつけ、中心を凹ませた。
そして…
『月光』
太陽の影に隠れて使っていた城月流とは違い、月(地面)の周りを駆け巡る月の光(小雨)。
凹んだ穴の横が丸くなっており、通常よりも速く、傀儡達を斬り付けている。
その十体が粉々になった頃、
「うっ」
突然膝を落とす小雨。
これは暴走状態に入ろうとしている。
そう判断した陰秀は新たに傀儡を一体生み出し、小雨を殴ろうとする。
「だ、大丈夫です」
そのパンチを刀で払う。
「しかし、そのままではいけません」
「も、問題…ありません」
再度パンチをしようとする陰秀。
小雨は必死に暴走状態にならないと踏ん張っている。
その間も陰秀の右手は太助の方に力を向けている。
「い、陰秀さんは…呪いが効かな…い人がいると…言い…ました…よね」
「それはイレギュラーなだけです。皆さんが使える訳ではありません」
「そう…ですよね。でも…やれる…ことは…ある!」
小雨は刀を地面に突き立る。
「た、太助さん!」
「な、何だ?」
同じく太助は『呪化』の暴走状態を我慢しながら、陰秀の傀儡と戦っている。
「何でも…いいですから、軽い…鎧を…」
「軽い…鎧?分かっ…た」
太助は軽く強度なチェーンメイルを生成し、小雨の前に投げた。
その間、小雨は微量ながら防具の役目となっていた鎖帷子を外し、その前に転がったチェーンメイルに手をかざす。
「何をするつもりですか」
陰秀は小雨の行動に疑問に思った。
全く理解できない行動している。
確かに防具を装着すれば、『呪化』の影響を受けない。
だから、小雨は微量ながらの鎖帷子を防具として扱った。
しかし、ゴツゴツの全身鎧にはしない。
何故なら、それをしてしまえば、小雨の利点である素早さが制限してしまう。
でも、小雨はそれをしようとしていなかった。
「はぁぁぁぁぁぁ」
小雨はチェーンメイルに手をかざしながら、叫ぶ。
何をしているかというと、可能性に賭けている。
この『呪化』のように、また別のものがあるのではないかと。
その可能性を信じる理由はバロンの『分析眼』だ。
あれはバロンの『爪』とは別のもの。
なら、小雨の『刀』とは違うものも生み出されるかもしれないと。
試しているのは『固有能力』。
しかし、小雨は根性で生み出そうとしている。
呪いに対抗するためのものを。
小雨を中心に空気が渦を巻く。
そして一分後、
小雨の体にはチェーンメイルではなく、日本の武具である当世具足。
全身に紫色、所々に黒や赤が見え、その具足の上に青紫色の陣羽織を羽織っていた。
「では、続きをしましょう」
「分かりました。少し数を増やします」
陰秀は小雨に対して傀儡を二十体生み出し、攻撃に向かう。
小雨は居合の構えをし、目を閉じて集中モードに入る。
それは以前に匠と真剣勝負をした時と同じ。
周りが凍りついていた。
『一閃』
小雨は縮地のように一回の踏み込みで、傀儡の背後に。
『一閃』
さらに同じように踏み込み、先程いたところよりも左に。
『一閃』
また踏み込み、戻って右に。
それをあと三回を行った。
そして今度は傀儡の上空に。
『月光−六芒星』
最後に刀で描いた六芒星の中心を突き刺すと、そこにいた傀儡達が粉々になった。
「くっ。やっぱり、完全に防げませんか」
そこにまたも『呪化』の暴走状態になりかけ始める。
「抑えれるように鎧がしたかもしれませんが、完全にということはできません」
「そ、そのようですね」
「しかし、その鎧はどんな効果を?」
完全とはいかなくても、抑えているように見えた陰秀は聞いた。
「それよりも一度休憩に入りますか。そちらもいいですね」
「分かりました」
一旦、休憩に入り、太助の方も終わらせる。
「二人とも落ち着きましたか?」
「少しは」
「はい」
数分後、『呪化』を解き、危険な状態から解除された。
「それでその鎧は何ですか?」
「本当は呪いとか暴走状態にならないような鎧になってくれればよかったんですが、そこまでいかなかったので、抑制する鎧って言った方がいいと思います」
「確かにそう思った方が正しいようですね」
鎧(陣羽織も合わせて)は『呪化』の暴走状態を遅らせていた。
そのため、抑制していると判断した。
ただ、気になるのはそれだけじゃない。
「それと何故身軽なんですか?」
「一つは基がチェーンメイルだったからです」
「そのために僕に『武器生成』を?」
「はい。まず、基となる鎧が必要だった。さらになるべく軽い方がいいと思いました」
チェーンメイルは比較的に軽い部類の鎧だ。
鎖と布の鎧。
普通の鉄だけの鎧とは違って強度こそ低いが、軽い。
因みに着ていた鎖帷子は東洋側の言葉のチェーンメイルなので、太助の生成したチェーンメイルと合わせている。
「一つということは二つがあると?」
「はい。こちらは単純に願ったというか、普通にチェーンメイルからにしても重い。だから、防御力がありながら、軽量化して貰おうと思いました」
チェーンメイルだけでも軽いが、小雨からすれば重い。
だから、さらに軽くして貰うように願った。
「そうですか。とりあえず、それは固有能力です」
「固有能力?」
陰秀は二人に固有能力を説明する。
さらにバロンの『分析眼』も固有能力であることも教える。
二人は驚きながらも、その後の反応は違っていた。
小雨はどのように使ったらいいのか思案し、太助は少し焦りを見せた。
「確かに固有能力は強力ではあります。しかし今回、お二方は『半呪化』になることを目的としています。『半呪化』でも強力であることは間違いありません」
固有能力は自身の戦闘力を飛躍的に上げてくれるが、陰秀の言うように二人の目的は『呪化』を『半呪化』にすること。
そもそも『呪化』は固有能力ほど強力な能力じゃないにしても、特有の能力で真似することはできない。
つまりは名前こそ固有能力じゃないにしても、性質は固有能力とそんなに変わらない。
それでも固有能力を使えるようになった小雨は自分のフェアベルゲンの攻撃力だけでなく、防御力を持つことができ、より一層戦闘に磨きがかかることができる。
ただ、困ったことに太助は兆しが見えていない。
呪いの緩和はしてきているが、何かを期待するような向上は難しく、『武器生成』にしても『ウェポンジェネレートマスター』にしても、さらに恵美から付与された『武器付与』にしても何か変わった様子はない。
そもそも『武器生成』に技というものはない。
生成というのが技と言えば技だが、そこから派生する技はない。
そして、『武器付与』は恵美から付与されたとはいえ、すぐに使える訳ではないようで、今は使えない。
この日は小雨が固有能力を手に入れただけで終わった。
固有能力は『緩呪当世具足』と呼ぶことになった。
五日目。
小雨は固有能力を覚えたことで、呪いに耐えていくようになっていた。
陰秀も…
(このままやっていけば『半呪化』になるのも近い)
そう思う。
(しかし、あの方はどうだろうか…)
太助の方を見ればそう思うのだった。
「集中、集中、集中…」
太助はそう言いながら、傀儡と戦っていた。
幼少期から『武器生成』を使ったり、初等部から戦闘技術を上げたりしてきたが、だからと言って戦闘に才能がある訳ではない。
今までは復讐心や自身の対応力と応用力でどうにかしてきた。
でも根っからの戦闘センスは実際のところを言うとない。
だからというか…
太助は鉄のガントレットに鋭い爪を付けて、傀儡を突き刺す。
これは過剰な攻撃…つまりは暴走状態になろうとしていた。
しかし、その前に陰秀は傀儡を操って、太助を殴り飛ばして、正気を戻す。
「すみません」
「気にしないで下さい」
太助から焦りが見えるようになっていた。
別に陰秀は期限までに達成すればいいと思っているのにだ。
それでも、さらに焦りを見せることになる。
小雨は刀を『緩呪当世具足』に当てる。
『呪刀化』
刀に紫色の線が何本か現れる。
そして…
(何を?)
今から小雨が行う行動に疑問に思う陰秀。
小雨は手を切り、血が刀に付く。
そして刀身が紅色に染まる。
その状態で走り出し、傀儡を叩きつけて、蹴り飛ばした。
(も、脆い…)
傀儡が簡単に壊れた。
それを見て、驚きを見せる陰秀。
「終わりました」
「終わりましたとは?」
小雨は刀を収めて、固有能力『緩呪当世具足』を解除する。
「どうやら、『半呪化』になったようです」
「そうですか。分かるのですか?」
「防御力が戻っただけなので…」
「確かにそれだけならすぐに分かりますね」
小雨は『半呪化』を獲得したようだ。
能力者による防御力は筋肉量と防具の防御力上昇にある。
それに防具本来の防御力があって、全体の防御力となる。
それを小雨の呪いはなくし、防具本来の防御力しかない。
だから、鎖帷子だけでも防御力はあった。
しかし、能力者同士の戦いになれば、簡単に突破されてしまう防御力でしかない。
そこで固有能力『緩呪当世具足』は防具本来の防御力と呪いの緩和を行うことで、防御力を上げて、能力者同士の戦いでも戦えるようにしたのだが、それでも足りない。
結局、呪いなしの『呪化』である『半呪化』にするしかなかったが、それが今可能としなった。
今は『刀』のステータス上昇と『半呪化』の『パワーアンドアジリティハイ』で力と素早さが上がり、そして固有能力の『緩呪当世具足』で防具本来の防御力がある。
そこに防御力を下げる呪いはなくなった。
これで小雨の試練は終わった。
次はステータス上昇が主になる。
問題なのは未だに何も成長を見せない太助。
六日目。
傀儡を増やして欲しいと言う小雨。
対して傀儡を減らして欲しいと思う太助。
太助は少しずつ萎え始め、少しイライラもしている様子。
「何で…何で…何ですか…」
そして混乱していた。
そこに陰秀が何かするということはできない。
陰秀は『半呪化』に早くなるように早めることと暴走状態にならないために殴ることしかできない。
太助が『半呪化』を手に入れるかどうか本人次第ということだ。
つまりは堕ちて『怨化』になってしまうということはそれだけ精神力が弱ったと結論付けるしかない。
そして七日目。
さらに太助はこの試練に対してやる気をなくし始め、ただ修行に付き合っているだけだ。
陰秀は特に何も言わないけど、小雨は心配しながら声をかけたりしているだが、返事が来ない。
太助の内面では着実に堕ち始めていたということは二人には分からなかった。
それは突然起こった。
太助は全身鎧を生成し、全身にトゲトゲを付けた。
そして所構わず攻撃し始めて、傀儡の操者である陰秀の下に向かう。
それは獣のようだ。
(これはダメですね)
既に太助は『怨化』に堕ちていた。
その『怨化』は呪いだけでなく、体の限界を超え、膨大な力を使う。
それに伴う負担は体の崩壊。
数時間でそれは死へと誘う。
場合によっては数分の場合もある。
陰秀は傀儡を大量に作り、さらには『糸』の攻撃も行う。
小雨側の傀儡も解いている。
「太助さん…」
小雨は戦闘状態を解除し、太助を心配するように見ている。
「何かすることはありますか?」
「ない。というかもう彼には死しかない」
「そ、そんなことって…」
「崩壊するのを待つか、それともこちらから死を与えるかのどちらかです」
もう『怨化』に堕ちた以上、陰秀がすることは体を綺麗に残すために殺すしかない。
「アァァァァァァ」
声にならない声が太助から発せられる。
それと共に何本も武器が現れ、それを一本一本掴み、陰秀に向かって投げてきた。
『糸網』
陰秀は糸を出し、それを網状にした。
その網の隙間に武器が入り、隙間の四方の糸からさらに糸を出して武器を掴み、止めた。
『糸縛』
そのまま陰秀は行動に移ろうし、太助の周りから糸を出して、縛ろうとする。
「待って下さい!」
小雨が割って入り、糸を切る。
「何ですか?時間はないのですよ?」
またも『糸縛』を使おうとするが、小雨が切る。
「何かあるはずです!」
「ないのだから、こうしているのですが?」
まだ手はあるはずと信じる小雨。
既に方法はない結論付けて、行動に移したい陰秀。
そんな揉め事をしていたところで、堕ちた太助には関係はない。
小雨の背後から剣を刺そうとするが、小雨は防ぐ。
幾ら『怨化』になったとはいえ、元々二人の差があったため、実力はまだ小雨の方が上だった。
「太助さんも正気に戻って下さい」
「そんなことをしても意味はありません」
堕ちた者に声をかけても、戻って来ないのは経験で理解している陰秀は小雨の行動は無駄だと思っていた。
小雨自身もそれぐらい分かっている。
だけど、信じたくないというのもある。
その鬩ぎ合いだ。
「まだ、まだ何か…ある…はず?」
先程と同じように太助が小雨に対して剣を生成し、攻撃をしようとしたが、小雨の目の前に謎の空間が現れる。
「堕ちてしまったのですか…」
その空間から手が現れて、太助が生成した剣を掴みながら、出てきた。
「じ、迅澄さん?」
そこから出てきたのは迅澄だった。
(汐村迅澄。謎多き男。情報では空間など移動の能力はなかったはずですが)
陰秀も驚き隠せなかった。
「迅澄さん、泣いているのですか?」
迅澄は涙を流していた。
「すみません。修行中に泣いてしまったものので…」
「いや、修行中では泣かないと思いますが…」
泣いている理由は修行中に何かあったということ。
しかし、今はそんなことをしている場合ではない。
「『怨化』は面倒ですね」
「知っているんですか?」
「いえ、頭に入っていただけです」
「頭に入っていただけ?」
「はい。実際に僕が調べたとか聞いたとかではない。入っていた理由は分かりませんが…」
最近、迅澄は自分が知らないことが思い出したかのように頭に入っている。
「それよりも太助です」
「どうするの?」
(どうしますか?)
陰秀は静かに見る。
この男が何をするのかを。
何かあればすぐに介入するつもりだ。
その間も太助の攻撃は迅澄に防がれていた。
「堕ちたということは精神力がなくなったのと同じです」
「だから、戻せないということでは?」
「絶対ではありません。『呪化』の暴走状態のように『解呪』系の能力なら治せます。でも、『怨化』では効きません。まぁ、呪い用ですからね」
「だったら、どうするんですか?」
「普通は精神力を上げる能力者がいれば、可能ではあります」
これは『呪化』の方でも可能ではあるが、『解呪』系の能力者よりも少ないのが現実。
だから、認知されていないのは当然。
「だけど、僕が持っている訳ではありません」
「それでは何の解決にも…。それにあまり時間はかけられません」
「うん、分かっています。僕は特殊な方法で治します」
迅澄は歩き、太助の前に立つ。
太助は迅澄に攻撃するのだが、尽く防がれている。
太助の心臓(心)の部分に手を向ける。
「戻ってきて下さい。太助」
太助が青色の光に包まれる。
数分後、太助は普通の状態に戻る。
「じ、迅澄?」
「太助。大丈夫ですか?」
「僕は何を?」
「暴走して『怨化』になったんですよ」
「え!?」
太助はそれを聞き、驚きながらも内面では嘆いていた。
「もう少し、仲間を頼った方がいいですよ。それは小雨にも言えますが」
「そうですね」
小雨は応えるが、太助は応えない。
「まぁ、それは僕に言えたことではないのですが、それでも九年間過ごしてきた二人がこんな風とは思いませんでした。何も知らない摩利の気持ちにもなって下さい」
摩利は特に復讐することはないが、相談できることはあるだろう。
それにたった一人、特に大きな目標がなく、淡々と学園生活をしていたことに悔いているのかもしれない。
「まずは摩利と話し合うのをお勧めします」
「分かりました」
「はい」
小雨はちゃんと返事をし、太助はただ返事した。
「時間もあまりないので手短にいいますが、太助」
「何?」
「一応、『怨化』から『呪化』に戻ったと思うけど…」
「戻した!?」
「そうした」
萎えていた太助は驚きを隠せなかった。
それは小雨も同じようだが。
ただ一人は少し違う。
(戻したとは。不可能を可能にした。ただ、精神力を上げる能力者がいるのも、その人達を使って『怨化』を治療したことはある。もしかすると、『怨化』にもレベルがあるということですかね)
陰秀は『怨化』を『呪化』に戻したことに驚きつつも、迅澄が言っていた精神力を上げる能力者なら戻せるという説明に少し疑問を持っていた。
何故なら、陰秀は『呪化』についてよく調べている。その中で精神力を上げる能力者がいることを知っているし、それは以前に試していているし、可能な限りのことは全てやってきたつもりだからだ。
(だとしても、彼の場合は少し違うような気がします)
陰秀の見た目では迅澄が行ったことは理解できず、また違った能力だと思った。
(それでも呪い自体は治せなかったのですね)
それでも、呪い自体は凝固なんだろうとも思った。
「呪いはその人の真に近いところにありますから、それはご自分で解決して下さい」
「ありがとう」
「ですが、次はないです。この能力も一時的なものなので、あとは短い時間でものにして下さい」
「分かった」
「それでは摩利と美結のところに戻ります」
迅澄は目の前に空間を開く。
「迅澄、太助さんのこと助けてくれてありがとう。私の方は大丈夫。あとで話すから」
「うん」
小雨は迅澄に感謝した。
なんだかんだで初等部から一緒にいた友達を何もできず、死なずに済んだことが嬉しかった。
そして、ちゃんと話そうと思った。
「すみませんが、あとでお話しできますか?」
迅澄が空間に入る途中で、陰秀が声をかけた。
「いいですよ。僕も『解放者』のみなさんがあたかもすぐに戦いが起こると促していることにも気になりますから、それを聞きてもいいですか?」
「分かりました」
「それではあとで」
そう言って、迅澄は空間の中に消えた。
「迅澄、ありがとう。もう少し広く見てみるよ」
太助は落ち着き、見る方向を広くする。
「陰秀さん、お願いします」
「分かりました。行きますよ」
太助に言われ、陰秀は傀儡を十体出す。
太助は出された十体を見る。
『武器庫』
太助の周りにいろんな武器が現れる。
『発射』
銃器が発射し、遠距離武器や遠距離兵器も、さらに近距離武器も大きな弓で発射された。
その攻撃は激しく、ある一体は銃器に粉々に、ある一体は武器に突き刺されたりしていた。
「鉄の傀儡とかって出せますか?」
「出せますよ」
「一体、お願いします」
陰秀は言われた通りに鉄の傀儡を一体出す。
太助は普通の剣を生成する。
「今なら…」
剣を鉄の傀儡に斬りつけた。
これは耐久度を試している。
どちらも同じ鉄同士。
剣が折れるか、傀儡が斬れるかのどちらかだ。
太助にまだ呪いがあるならば、斬ることはできない。
なくなっていたら、傀儡が斬れるか分からないにしても、耐えることができればいい。
「はぁぁぁぁぁぁ」
太助は叫び、力を込める。
ピキッ
剣にヒビが入る。
しかし、その瞬間、一瞬だけ剣が光り、傀儡に剣がちょっとだけ入った。
だけど、すぐに光が消えて、剣もそこで止まった。
それでも、これで太助は『呪化』ではなく、『半呪化』になった。
これにより、太助と小雨の修行は終わった。
基本的に太助と小雨の修行(試練)は『呪化』を『半呪化』にすること。
固有能力と比べると『呪化』・『半呪化』は弱いですが、今回は呪いを取ることが目的なので、小雨が固有能力を持つことができ、太助はあえて持つことができなようにしました。
というか、『武器付与』がそれに近いかもしれません(だからと言って固有能力ではありません)。
恵美から貰った『武器付与』については後日しようかなと思います。
そして最後に迅澄が何故あのようになったかは次の迅澄たちの修行で分かります。
次話は迅澄、摩利、美結の修行になります。
伸戯とは違い、三人で行くことになった迅澄達。
転移先は西洋の城のような場所で、不気味さが出ている。
そして、その主人であり、迅澄達の修行相手は『解放者』でも扱いが難しいらしく、危険人物らしい。
迅澄達は無事に修行を成功することはできるのだろうか。




