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第百話 小雨と隆雪−妹と兄−

結構時間がかかり、遅くなりました。

 

 小雨と隆雪。

 二人は木刀で打ち合いをしていた。


 太助と恵美とは違い、隆雪が生きていた時は小雨の指南役として小雨に剣術を教えていた。

 だから、お互いに攻撃というよりかは稽古の一環として打ち合うことができていた。


 元々、以前に呪刀村驟雨が迅澄に壊され、念のために小雨は太助に刀を生成してもらっていたが、隆雪は木刀を小雨に渡した。


 真剣同士でもいいのだが、あえて隆雪は稽古のようにしたくて、木刀を選んだ。


 そして、その打ち合いは隆雪の方が強かった。

 それは何故か。


 小雨はフェアベルゲンにより、あらゆる面でステータスが上げられている。

 それに関してはフェアベルゲンを持たない隆雪とは大幅な差がある。


 でも、それだけで勝ち負けが決まらないのが、剣術の世界であり、戦いの世界である。


 小雨だって剣の才能はある。

 しかし、隆雪の方が剣の才能では上。


 例えば、城月流・城の月。

 体を後ろに大きく反らし、どこかフィギュアスケートの技のようであり、マ○リックスのような状態になり、刀を上空に向ける構え。


 見た目はあまりにも醜く見えるのだが、この状態は地面以外全ての方向を見ることができる。


 残念ながらこの状態は腹筋と背筋、さらには足の筋肉を使うことになる高難度な構え。


 この構えから放たれるのは上弦、下弦、弦(半月)、望(満月)、朔(新月)の五つ。


 上弦:上から斬り付ける

 下弦:下から斬り付ける

 弦:横に180°斬る。

 望:横に360°斬る。

 朔:足を上空に上げ、それ同時に刀で地面に叩きつけ、逆立ち状態で跳躍し、自分が太陽の影になり、地上の敵を斬り付ける。


 この中で朔だけがさらに別格で難しい。

 それはこれが地面から来る敵に対して使う剣術だからというのと、逆立ち状態で跳躍しないといけないこと。


 城の月の構えの時、唯一地面だけが視認できない。

 こちらからの場合は察知能力が必要。


 そして、これだけは隆雪でもできない。

 城月家でもできる者は少ない。

 まぁ、そもそもやりたいと思う者も少ないけど…。


 だから代わりに城月家・月の城がある。

 これは城月家の表の奥義。

 片足を中心にもう片足で方向を変えるコンパスのような動きで、全範囲に対処する。


 城の月との違いは視認ではなく、察知で対処するしかない。

 そして、対処に少し遅れるということ。


 それでも上弦、下弦、弦(半月)、望(満月)、朔(新月)が存在する。


 弦まで一緒だが、望は一回転ターンすること、朔はジャンプして地上を攻撃する。


 比べればほとんど一緒だし、どちらかと言えば月の城の方が動きやすく、強いんじゃないかと思われているが、それでも城の月は裏の奥義。


 今回、隆雪は月の城を使っている。

 城の月が使えるとはいえ、朔はできない。

 だから、使える城の月を使っている。


 対して、小雨は自分の剣術を使っている。

 速く、速くと走り、隆雪へと向かっていく。


 しかし、隆雪は尽く防いでいる。

 何もかもが小雨の方が上なのにだ。


 城月家の剣術は防御型の流派と言われており、月の城も城の月も防御型。

 あまり動かず、その場で敵の攻撃を防いだり、カウンターを狙ったりする。


 それでも、攻撃型の型がない訳ではない。

 それは小雨のようなもの。


 小雨は城月家の攻撃型を基にフェアベルゲンと合わせたもの。

 でもこちらは他の流派とあまり変わらず、特徴性はない。


 だから、城月家は相手しないということもしばしあり、別物という扱いを受けている。


 ただ、フェアベルゲン持ちが産まれたり、それなりの年月がある城月家は剣術界では評価を受けている。


 隆雪も同じように奥義を身につけ、引き継いでいた。

 ある意味、小雨よりも正統な後継のように。


「戦いながらでいいから、僕の話を聞いてくれ」

「はい」


 隆雪は本題に入ることにする。


「僕達の家系は防御型の者が多い。師範の父上も当主のお爺様もご隠居されている前当主のひいお爺様もそして、僕も皆同じ。唯一小雨だけは攻撃型でスピード特化、流派とは違う。正直に言えば、小雨は当主候補にはなりにくい」


 城月家は少なけれども攻撃型の者はいた。

 それでも当主、当主候補は防御型が務めた。

 それは城月家の流派が防御型だったから。


 なら、小雨が当主候補になる一番の理由はフェアベルゲンを持っているから。

 それさえあれば、家系は安泰、家柄も高まる。


「僕は家に従っていたが、もし小雨が当主となれば、今までの流派はなくなり、小雨独自の流派が新たなに生まれる。それに予想するに今の当主はもう少しで代替わりするだろうし、父上も小雨が大人となればすぐに代替わりをしようとするだろうから。僕としては小雨に荷を持たせたくなかった」


 隆雪は小雨から生まれてから家族が変わり始めていたことに気づいていた。

 早めに小雨を当主にし、城月家の家柄を高めようとしていたことを。


「兄さん、何のことか分かりませんが?」


 小雨は日々鍛錬を詰め、褒められることに嬉しかった。

 兄の隆雪には特にその気持ちが大きかった。


「つまり、僕は小雨を当主にしたくなかった。このままでは大人になれば小雨は当主にされてしまう」


 もし、隆雪が今まで通りに受け継ぐことになれば、五十代(生きていたら今だいたい三十代)くらいになるだろう。


 それを小雨に変えて、さらには前倒しをしようしていた。


 隆雪からすれば、妹に対して嫉妬していたかは分からないが、小雨を自由をなくす行為を許さなかった。


「私は覚悟の上です」

「それが今いる友達に会えなくてもか?小雨の恋人も親が決めるとしてもか?多分あそこにいる友達でも了承しないと思うけど?」


 小雨が当主となれば、ほぼ隔離状態。

 いくら小雨が当主だろうと、実権は親達が持つことになるだろう。

 小雨の思い通りになるとは隆雪には思えなかった。


 因みに友達というのは太助のこと。

 太助は金持ちだろうけど、城月家に比べれば新参者。

 家柄を大事する城月家は許可しない。


「小雨に思い人がいるのかは知らないけど、少なくとも友達とは会えないと思う」

「そ、そんなことはない!家族のみんながそんなこと思うなんて…」


 小雨から見る家族は優しい家族、仲良し家族。

 嫌とは思えなかった。


「僕は小雨が学園に入学したら、家を出るつもりだった」

「え?」


 それは小雨が知らないこと。


「小雨のいないあの家は僕にとって辛すぎる。まぁ、出ると言ってもご隠居しているひいお爺様のところに行く予定で、もうそれからは家族にも小雨にも会うつもりはなかった」


 小雨以外に唯一、前当主だけは隆雪を大切にしていた。

 それも当主は小雨ではなく、隆雪するべきだと。


 それでも前当主は家から離れた身。

 それに口を出すことはなかった。


「ひいお爺様はいつも言っていた。『小雨は家を継ぐべきじゃない。家に縛られず、自分で未来を切り開いて欲しい』と」


 隆雪は何回か前当主と会うことはあっても、小雨は一回か二回しかあったことない。


 その度に打ち合うはあった。

 それを見て、言ったのだろう。


「だけど、それは変わることはなく、僕は家を出ることはできずにあれが起きてしまった」

「暗殺…」


 小雨が知らないところで、隆雪は悪戦苦闘をしていたことを知った。


 しかし、それは深具による暗殺により、全て無駄となった。


「本当なら何も気にせず、学園や友達と触れ合うこともできたはずなのに。なのに…」


 隆雪は小雨に優雅な学園生活を送って欲しかった。


 それを復讐をするための学園生活にするつもりはなかった。


「それでも小雨は復讐をするのか?」

「い、いや、わ、私は…」


 小雨は応えられなかった。

 復讐することを目的に頑張ってきたのに、兄の隆雪から否定される。


 隆雪から言われれば納得しそうになるが、それは自分を否定する。


 小雨は葛藤している。


「いつも言っているだろ。『目的や目標はただ通過点と考えろ』と、復讐はただの目的でしかない。その先に何がある」


 それは小雨が匠に言ってきたこと。


 だけど今は小雨が捕われていた。

 兄を殺した者を殺そうと。


「だけど…」

「何も戦うなとは言ってない」

「?」


 小雨は葛藤しているが、隆雪が言うように「戦うな」とは言っていない。


「だって復讐をするなって…」

「そう言っただけ。それに僕を殺した者はこう言っていただろ?『我を倒した時、殺した理由を伝えてやろう』って。決して『殺せ』とは言ってない。それとも小雨は殺したいだけなのか?」


 隆雪は死際にその声をかろうじて聞いた。


 その時、深具は「自分を倒せ」と言っただけで、「自分を殺せ」とは言っていない。


 小雨自身が「倒せ」=「殺せ」と判断してしまったのかもしれないが、もし殺してしまっては兄を殺した理由を聞くことなんてできない。


 隆雪からすれば、小雨が何を目的に復讐しようとしているかは分からなかった。


 小雨は最初こそ復讐を誓い、モイヒェルメルダー学園を過ごしていたが、兄の言葉を思い出し、少しずつ落ち着きを取り戻して学園生活を送ってきた。


 しかし、最近になって夢として思い出し、兄の殺した張本人とも再び出会ったことで、その恨みが『呪化』として現れてしまった。


 そして、いつの間にか『倒せ』が『殺せ』と思ってしまい、殺すことを目的としていた。


「ここで小雨に選択を与える」

「選択?」

「そうだよ」


 隆雪は小雨に選択を与え、行き先を決めさせようとしていた。


「このまま復讐をするために修行するか、その者を倒してその先を進むか」

「……」


 隆雪はあえて立ち向かうなとは言わず、立ち向かえと言い、その立ち向かう上での気持ちを小雨に聞いている。


「本当なら小雨を当主させたくはないが、僕達以外に兄弟はいない。親戚からというのもあるが、家族は望まないだろう。だから、家族の連中を黙らせて当主を受け継いでくれ」


 自分が死んでしまえば、小雨を当主にさせないようにするのは難しいと思った隆雪は逆に当主を受け継ぐように言った。


 それはただ受け継ぐのではなく、家族が口を出させないようにする。


「それはどうするの?」


 そう思うのは仕方ない。

 小雨がフェアベルゲン持ちとはいえ、力業で勝てる訳ではない。

 さらに家族内での地位も低い。


 普通に言えば、何をしても無意味。


「今の当主がお爺様と言われているが、正式ではない」

「正式ではない?」

「そうだよ。やはり、当主と言うには何か証が必要。しかし、現当主は持っていない」

「じゃあ、何で当主?」

「それは前当主であるひいお爺様は当主の座を渡してしまったから」

「でも、証は渡さなかった?」

「そこはしきたり通りってことだろうね。証を渡すには勝負に勝たなきゃいけない。ただ、ひいお爺様は小雨と同様にフェアベルゲン持ち、普通にやれば勝ち目はない。だから、手加減はしていたみたいだけど、お爺様も父上も勝ててはいない」


 偶にフェアベルゲン持ちが生まれる城月家。

 兄の隆雪、父親や祖父はそれに恵まれず、それ以前のひい祖父は持っていた。


 その実力は初期メンバーと同じかそれ以上を持っているらしい。


 しかし、今は表舞台から降りて、悠々と暮らしていた。


 隠居した地から離れず、偶に来る城月家の者を修行に付き合ったりしている。


「だから、小雨にはひいお爺様に勝って欲しい」

「む、無理」

「大丈夫。ひいお爺様も本気でやらないから」


 正式な当主と認めるにはその当主がどう判断するのかどうかに決まる。

 断じて勝ち負けだけで決まる訳ではない。


「さぁ、どうする?」


 ここで隆雪が小雨に問いている選択肢は深具を復讐のために殺すか、深具を一つの通過点として倒すのかの二つになる。


 正式な当主の件については今後の小雨に任せることにする。


 小雨からすれば、家族に違和感はなく、隆雪が言うようなことはない。


 だから、どう判断するかは小雨次第。


 今重要なのは深具に対してどのように挑むのかを隆雪は問いている。


 隆雪は小雨が産まれてからはこのように考えていた。

 それは「兄は道を切り開く者、だけどそれを決めるのは妹である小雨自身」。


 今、小雨は復讐という道を辿ろうとしていた。


 そこに隆雪が別の道を切り開き、小雨に選択させる。


「私は復讐を果たす」

「そうか」


 小雨は自分の意志を優先させた。


「でも、復讐も通過点と考えたい」


 だけど、兄の意志も裏切りたくない。


「私は復讐を果たし、新たな道を歩き出す」


 小雨は自分の歩いていた道でもなければ、隆雪が切り開いた道でもない。


 選んだのはその間の道を切り開き、歩き出そうとしていた。


「小雨はそう決めたか」

「だめ…かな?」

「いや。ただ、復讐心に呑まれるなよ」

「分かっています」


 隆雪は納得したが、全肯定とは言っていない。

 でも、少しでもその先を目指してくれることが大事だと隆雪は思っている。


「それに当主もなりたいと思います」

「なるのか?」

「はい」


 そして、小雨は当主を目指すことを決める。


「それなら、この修行後にひいお爺様のところに行くんだ」

「そんなすぐにですか!?」

「これから小雨は大きな戦いに巻き込まれるんだろ?ひいお爺様はフェアベルゲンを持っているが、今回は参加しないと思う。あの人は戦争よりも修行を好む人だからね」

「でも、避けられない戦いと言っています」

「まぁ、あの人なりに防衛をすると思いますが、だからこそ早めに行くべきなのです」


 次に起こる戦いは能力者である限り、巻き込まれる可能性がある。


 現在、どのような立場にあるか分かりにくいひい祖父は自分の能力で、防ぐだろうと隆雪は思っていた。


 それでも、その時に亡くなって当主の件がよく分からない状態になっても困るため、先に行かせようとしている。


「分かりました」

「覚悟はできましたか?」

「はい」

「じゃあ、消える前に一つ小雨に教えます。これは僕よりも小雨の方が使えると思う」


 隆雪は月の城を解き、居合の構えになる。


 小雨は正眼の構えで隆雪を見る。


「行きます」


 隆雪は駆け出した。


 小雨から見たらあまり速いようには見えなかったが、常人からは速いのだろう。


 その隆雪は小雨から二メートルくらい離れたところで、方向転換。

 その時、右足を強く踏み込み、地面が少し凹む。


 それを小雨を中心に円を囲むように移動したがら、一定の間隔で同じように強く踏み、凹ませる。


 それを一周行うと、突然小雨のいる円が深く凹んだ。


「え!?」


 小雨は驚き、膝をつく。


 隆雪の方を見る。

 そこには隆雪がいなかった。


 すぐに気配を探り、隆雪が上空にいることに気づく。


『城月流−月裏げつり−』


 隆雪が太陽の光に隠れ、小雨がいるのは月の裏。


 隆雪は木刀を抜く。


 対して小雨は目を閉じて気配だけで対処する。


 隆雪の突きの攻撃、それを小雨は受け流す。


「やはりダメか。こういうのは僕には合っていないな」

「でも、逃げ場がなくなった」

「それが『月裏げつり』であり、鳥籠しろ。僕が生み出したものだが、これを小雨に使って欲しい」

「私に?」

「これは小雨の方が合っている」

「分かりました」


 小雨は城月流−月裏げつり−を貰い、受け継ぐ。


「それではもうそろそろ消えそうです」

「そ、そんなぁ、もっといたいです」

「ダメだ。小雨ももう大人になり、独り立ちしなければ」

「確かにそうですが…」

「小雨に城月家を頼みますよ」

「分かってます」

「少しでも友達と仲良くして下さい」

「分かってます」

「自分のための時間を作って下さい」

「分かってます」

「何があってもその人達を悪く思わないで下さい」

「では、やっぱり兄さんは知って…」


 隆雪は犯人を知っている。

 だけど、言わない。

 深具を挑む理由を無くすのはよくない。

 だから言わない。


 そして消える寸前に小雨に最後の言葉を言って、消えた。


 小雨は陰秀が来るまで泣き続けた。


今回は小雨と隆雪の話。

比較的に城月家の話をしました。

話がコロコロ変わり、時間をかけました。

城月流も何かと城と月の二つを掛け合わそうとして、変な格好をする流派みたいになっていますが、今後出るのかは未定。

最後の隆雪が見せた『城月流−月裏−』はクレーターを作り、城と見せる。

月裏という名前は月の裏がクレーターで凸凹だから、それから取りました。


城月家の家族については今後説明する予定。


そして、小雨達のひい祖父のような『母の元に』にも『解放者』にも入っていない者はいます。

でも、入っていなくても繋がりがある者もいます。


次話は陰秀との修行開始。

なんとか気持ちを変えることができた二人。

だが、まだ『半呪化』となった訳ではない。

それができることが達成条件。

翌日、陰秀との修行が始まる。

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