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第九十九話 太助と恵美

久しぶりの投稿。

遅れてしまった。

 

 ーー太助側ーーーー


「それで戦えるの?」

「私自身は戦えないよ。でも、この傀儡は堅いから。それに戦い方はあるよ。私も一応フェアベルゲン持ちだからね」


 普通、六歳までに戦い方を覚える者は少ない。

 フェアベルゲン持ちであろうと、戦闘型であればその可能性もない訳ではないが、恵美の場合はその機会がなかった。

 だけど、恵美のフェアベルゲンは戦闘に利用できる能力。


 傀儡についても、壊れないように陰秀が強靭な傀儡を作り、渡している。

 さらに五感や傀儡を動かすための神経が通っているのに対し、痛覚については通っていない。

 だから、本気でやっても問題ない。


「あ、うん…」

「なんか気が乗らないみたいだね」

「それはそうだろ。好きだった人に攻撃するんだから」

「だった?」

「いや、今も好きかも…しれない。まだ短い人生だけど、友達以上になる人はいない。それだけ未練があるからかな」


 太助は恵美と戦うことに気が乗らない。

 だって、今でも好きだから。

 その人に手をあげることはできない。

 だから、『呪化』が根強くなっているのかもしれない。


「私はその未練を絶ちに来た」

「え?……」


 恵美が目的を言う。


 それに太助は困惑する。


「太助には前に進んで欲しいからね」

「い、いやだ!」

「こんな時にタダっ子?」

「切ったら、恵美との思い出も…」

「そこまで切る?」


 今、迅澄達のような友達がいようとも、太助の心の真ん中には恵美がいるのだろう。

 それを忘れようとすると、恵美の全てのことがなくなりそうで怖いのだ。


「体が成長しても中身は成長してないんだね…。これじゃあ、暗殺者も波間谷家の当主もなることは難しそうね」


 暗殺者という点はモイヒェルメルダー学園を卒業後に候補があるからなる可能性はある。

 波間谷家の当主ついては次期当主として兄弟が太助にいるとはいえ、太助は長男で、さらにはフェアベルゲン持ちというのは結構なアドバンテージになる。

 太助自身がどうであれ、波間谷家にとっては社長自身が身を守れるのは嬉しいことなのだ。

 まぁただ、会社経営が大変になると思うが、そこら辺は対策を取っているのだろう。


 因みに畑見家の方は恵美の別に跡取りがいるので、恵美は波間谷家に嫁入りする予定だった。


「それは今関係ない!」

「関係なくないよ。だって私は太助を助けるようにって言われてるんだから」


 これは全て畑見家の策略により、恵美の人生を全て太助に捧げるようなもの。

 幼少期、モイヒェルメルダー学園在学中、暗殺者の時期(経営勉強も)、会社勤務、社長就任後、社長解任後とほぼ全てを太助とともに過ごすように恵美に言っている。


 太助が知らないことだ。

 幼少期は悠々と過ごし、モイヒェルメルダー学園在学中はフェアベルゲンの能力向上と身体能力向上をしていた。

 恵美のことを考えていながら、太助は恵美のことをあまり知らなかったということだ。


「え?…」

「でもそれは今日まで。これからは自分だけ、もしくは仲間とどうにかして」


 太助が困惑する中、恵美は太助に近づく。


「もう太助に構ってやれない。時間ないの分かっている?」

「は、はさみ?」


 恵美は腰からはさみ(文房具用)を取り出す。


「戦い方ははさみ。子どもで身の回りにある刃物ってはさみくらいでしょ。だから、早く始めましょう」


 恵美は器用にはさみを手で回し、それはガンスピンような手捌きだ。


 武器を使うのには身近な物が必要だった。

 ただ、武器を使うってよりかはフェアベルゲンを使うために必要だったというのが正しいのかもしれない。


「私は手加減しない」


 そして、右手を突き出し、はさみを広げて太助に刃先を見せる。


 太助は反応に遅れる。


「もちろん、殺すつもりはないけどね」


 まぁ、一応これは殺し合いではない。

 そのため、非殺傷用になっている。


「な、なんでそこまで…」


 太助ははさみによる恐怖ではなく、恵美に刃物を向けられたことにさらに困惑する。


「好きだからに決まってるでしょ」


 強制されていようが、恵美は太助を助ける。

 嫌いでこんなことはしないとばかりに。


「だから、分かって。いつまでも私の後ろにいないで、私の前に進んでよ」


 好きだからこそ、止まって欲しくない。

 自分には未来はないけど、太助は未来があるから、その先を進んで欲しい。


 見た目では分かりにくいが、恵美は涙を流していた。


「時間だって今日しか……」

「今日って?」

「私がこの世に居られるのは今日だけってこと」

「そ、そんな…」

「今回は無理やり頼んでしまったのもあって、一時的な能力しかして貰ってないの」


 霊を呼び込み、傀儡に憑依させた能力者は性格に難があり、陰秀じゃなければそもそも能力すら使ってくれなかった可能性がある。


 これを考えた陰秀は二人の『呪化』を『半呪化』にするために呼んだとはいえ、あまり時間をかける訳にもいかない。

 だから、一日で了承した。


 二人の問題は『呪化』だけではなく、基礎能力やフェアベルゲンもある。

 それについては自分でやる。


 こうも考えると陰秀は『呪化』を持っていたからというのが選ばれた理由ではあるが、今回の修行は『母の元に』に最低限自分を守れる能力を身につけるのが最終目的である。


 恵美も思い出話するつもりはあまりない。

 容赦なくやるつもりだ。


 恵美は右手に持つはさみを手首にある剣の鞘のような物にしまう。


 そして、手が空き、そのまま太助の首に近づける。


「うっ、え、恵美…」

「私は本気。太助の事情なんて知らない」


 恵美は太助の首を掴み、容赦しないと身体に教える。


「わ、分かっ…た…から…放…して…」

「あ、ごめんね」


 恵美は太助を放す。


「じゃあ、改めて始めよう」

「うん…」

「もう、太助の我が儘は聞かないから」


 まだ納得してないようだが、太助は剣を生成する。


 戦闘開始して数分後


「やっぱり、戦闘未経験は経験者には勝てないね」


 力こそ陰秀の傀儡によって強化されているとはいえ、熟練度も単純な戦闘経験もない。

 はっきり言ってしまえば初心者そのもの。


「そんなことない。はさみ使いの方はすごい」


 それでも、少ない期間にはさみを使い込んでいたことで、はさみ捌きは良い。

 元々、服も何も着ていなかった恵美は戦闘を行うために大きなコートを着る。

 その内側にはたくさんのはさみがあり、投げても問題なくそこのはさみを使って戦闘を続行することも可能。

 ただ、これだけがたくさんはさみがある訳ではない。


『回転付与』


 恵美が右手に持っていたはさみが広げた状態で恵美の掌の上で回転している。


 これは恵美のフェアベルゲンである『付与』の能力。

 いろんな物に効果を付与することができる能力で、単純な効果から複雑な効果、一つから複数の効果と最終的には強い能力となるフェアベルゲンだが、初期段階では物に一つだけ、単純な効果、付けたら消せない、一日に一回しか使えないとあまり強い能力とは言えず、恵美が何回か使えたり、少し複雑な効果を使えるようになったのはそれだけ熟練度を上げてきたということ。


 それでも効果を消すことはできず、使い捨てのようになってしまう。

 はさみを多く持つのもそれが理由。


 恵美は太助に向かって投げる。


 でも、ただ投げただけですぐに躱された。

 太助は思う。


(これはただの投げ道具では?)


 と、普通にそう考えてしまった。

 その間、太助は投げたはさみを見ている。


 そこに恵美がさらにはさみを投げる。


(視線誘導?)


 太助はすぐに気配で察知する。

 恵美が先程のはさみは視線誘導で、その隙に攻撃が当たると思ってやっていると太助は思っていた。


 そう思った太助はまたも躱す。


 しかし、通り過ぎた後、はさみが方向を変え、太助に向かう。


「追跡…。なら、ふんっ」


 太助はすぐにこのはさみには『追跡』の効果があると分かり、ナイフを生成し、はさみの持つところの穴を通し、地面に刺す。


 恵美はすぐに次の行動をしていた。


『倍化付与』


 恵美ははさみを剣サイズに大きさを変える。

 少しバランスの悪い武器だが、しっかりと持ち、駆け出す。


 ガッキン


 剣とはさみが打ち合う。


 しかし、技量では太助の方が上手。

 それに元々はさみは戦闘用に作られた物じゃないので、力も入りにくい。


 太助は剣ではさみを払い、柄頭で手を叩く。


「あ」


 恵美ははさみを落とす。


 その隙に太助は追撃を……しなかった。


「どうしたの?」

「いや、いざ斬りつけようとすると、止まっちゃうんだ」


 いつもなら敵の武器を払ったら、追撃し、攻撃しようとするだが、その前に止まってしまった。

 それはやはり本能的に斬りつけたくないからだろう。


「そう、でも戦ってくれるだけで嬉しいよ」


 恵美は別に怒ることなく、戦うことだけをいいと思っていた。

 まぁ、攻撃が止まったのは驚いたけど、そこまでさせようとは思っていので、このまま続ける。


 それから数時間後、特に変わることなく、恵美も特に何かしているようには見えない。


 そこで太助は何か声を聞く。


「恵美、泣いているのか?」


 その声は恵美のすすり泣く声だった。


「気にしないで」

「いや、無理だよ」


 太助は攻撃をやめてしまう。


「続けて…」

「そんなじゃ…」

「続けてよ!」

「恵美!」


 泣きながらも恵美に太助は肩を掴み、恵美の顔を見る。


 恵美は落ち着く。


「どうしたんだ?」

「言うから。続けて」

「分かった」


 このまま実行するべきではないだろうが、時間がないのも理解している太助は戦闘を始める。


「それで?」

「うん、本当は太助と思い出話をしたかった。でも、時間ないのは分かってたよ。だから、我慢してた」


 恵美だって怒ったり、太助に強要したい訳じゃない。

 思い出話や今どうしているか、いろんなことを話したい。

 でも、時間がない以上は優先できない。


「こんなことのためにはさみを使ったり、能力を使ってきたんじゃない。全て太助のためなんだから!守ったり、一緒に成長したり、見守ったりしたかった!」

「え?」

「でも、言ったら太助がもっと深くに行っちゃうって思ってたから言いたくなかった」


 恵美は人生全てを太助に捧げる覚悟でいた。

 別に家系のこととか会社間のこととか関係なく、一緒にいたいと思っていた。


 それを簡単に阻害され、さらには太助を苦しめることになってしまった。


 ここで自分の気持ちを伝えてしまえば、余計に恨みを積もらせてしまうのではないかと思い、黙っていた。


 でも、太助と戦っているうちに「自分は何で太助と戦うことになったのだろう。自分の武器は太助に向けるものではない。敵に向けるものじゃないのか」とこの状況が恵美を混乱させた。


 でも、太助はあまり理解できるものではなかった。

 それは恵美が自分に気にかけていることは分かっていたが、所詮自分と許嫁になったからで、本心からだとは思っても見たかった。


長くなりましたが、一話分にしました。

次回も同じくらいになるんじゃないかな。


恵美のフェアベルゲン『付与』は能力こそ強いですが、その代わり熟練度が低いと、使いにくい能力となります。

基本的に付与しているのは「能力」ではなく、「効果」と表記しています。

これは単なる使い分けで、「効果」は熟練度はなく、その壁はないのですが、通常、能力を使う時に熟練度やフェアベルゲンによる身体能力上昇した分が微量ながら威力を上げてくれる。

「効果」はそのバフ的なことがない。

威力が同じだと『付与』が強すぎちゃうので、まぁバランス調整です。


そして『効果付与』による太助に与えた「効果」ですが、ここではしません。

多分、今回の修行では使わない予定。


『呪化』については弱体化というより緩和?なのかな。

現状、どう表記すべきは分かんないです。

発動自体は可能ですが、気持ち次第で負担が変動します。

場合によっては堕ちて、暴走してしまうので、そう易々と使えない設定にしてます。


最後の恵美の言葉については恵美が分析し、予想したもの。

何が言いたいかというと、深具は単なる雇い人でしかないから、その先の敵を見極めて欲しいってことで言っている。


それと本編で詳しく説明しなかったのですが、恵美が戦闘をしようとしていたのは単純に今の太助の実力を知るためというのもあるが、『効果付与』は『付与』を使って、スキルポイントのようなものを貯めてから使用する。

特殊なだけに条件が多い。

人生に一回、あくまでもそれは「効果」、発動には何回『付与』を使ってからじゃないとできない、さらには熟練度が高くないと発動すらしない、そして発動後は高い熟練度がないと熟練度を消費してしまう。

こんなところかな。


次話は小雨と隆雪の話。

久しぶりに生徒と指南役となり、戦闘を行う二人。

何もかもが小雨の方が上のはずが人生ずっと剣術に命をかけた隆雪には勝てなかった。

お互いに全力で打ち合い、嬉しそうな二人。

隆雪が小雨に贈る贈りものとは。


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