第九十二話 夕実と李音の修行(一)
「え?何これ」
「すごい豪華ですね」
転移されてきた夕実と李音の目の前には豪華絢爛な屋敷が建っていた。
「待っていたよ」
その豪華な建物の前に建つ女性。
「貴方は?」
「私は伊遠政親。貴女達の相手となります」
伊遠政親は信正が活躍していた後に現れた戦国時代の武将。
東北地方にて勢力を伸ばした若き武将。
若過ぎる故に天下統一を出遅れてしまった。
もう少し早く生まれればこの人物が天下統一をしていただろうと言われた人物。
政親の特徴は『奥州の独眼竜』。
幼少期に患った病気(天然痘)により右目が失明し、隻眼となったのと戦功から政親を後に独眼竜と呼んだ。
目の前にいる政親も実際に右目を失明しているようで、右目に眼帯を着けていた。
「ところでなんで私達なんですか?」
「それについては貴方達の試練に関係します」
最近二人は前に戦った時から少し仲が良くなってきているが、李音は別で友達がいるだろうし、夕実は親しい仲という友達はいないだろうがもっとマシな人の方がよかったと思っている。
「貴女達に課す試練は極限までに姿を消し、気付かれないようにすること。貴女達は戦闘向きとは言いません。なので正直に言いましょう、貴女達は戦闘技術を鍛えたところでこれから戦いには勝ち抜けません」
「逃げ回れと言いたいんですか?」
馬鹿にされたと思い、ムカついてしまった李音。
「そういうことではありませんよね」
「どういうこと?」
対して夕実は政親が言いたいことが理解できていた。
「隠れていても意味がないということでは?」
「その通りです」
「ならどういうこと?」
唯一理解できていない李音に政親は説明をする。
「隠れていてもそれは完全に隠れられる訳ではないということ。もし可能ならそうして貰う方がいいですが、できないのであれば戦闘ではなく殺し、もしくはサポーターとして戦場に来て欲しい」
二人は戦闘が難しい、逆に隠れ切るのも難しい。
ならば、暗殺者のような戦闘か戦闘にはあまり出ずにサポーターに務めるかだ。
「そのためには能力の向上を集中的に行って貰う。ただ、それ以外を何もしない訳にもいきません」
どちらにしても能力向上は絶対。
だとしてもそれ以外をしないと戦場で生き残れない。
だから……
「そこで修行内容は能力を使用しながら私と戦闘をして貰います」
戦場に生き残るにはやっぱり戦闘技術も必要。
そこで政親は二人に能力を使わせた上で戦闘をして貰う。
第一は能力向上、第二は戦闘技術ということになる。
「まぁ、いいわそれで。いつも通りってことでしょ?」
「それで間違いありません」
李音にとって内容など考えていない。
とりあえず試練だけを理解すればいいと思っている。
「あと一つ。個人的に目標を言っておきます」
「何でしょう?」
「李音さんは方向性として相手に探られないようにすればいいのでは先程と変わらないのですが、夕実さんには方向性を決めて貰います」
「方向性?」
「はい。貴女の場合は李音さんのように相手に探られないように努めることも、逆に相手を探ることできます。ですが、次の戦いまでにはどちらも鍛えることはできません。だから、選んで貰います」
「その二つということは先程言っていたことを予想すると前者は暗殺者、後者はサポーターとなる感じですか?」
「その通りです」
「では後者はいいです」
選んだのは後者のサポーター。
その理由は元々探る方が使っていたというのもあるし、李音といる時は担当としてそちらをやっていたからである。
「分かりました。それでは始めましょうか」
二人の試練が始まった。
その日の夜、政親は今日のことを考えていた。
(正直に言って二人とも危うい。戦闘技術がなさすぎる。夕実はかろうじて型というものがあるようだが、反射速度が遅かったり、動きが鈍かったりする。李音さんは能力を酷使してますが、簡単に解けてしまう。それに意外と周りを見ていない)
政親は二人を分析していた。
元々『戦闘は勝つための情報収集』と考えており、戦闘に関することは基礎しか知らない。
何故なら学んでも意味はなく、個人差があるから。
だから、戦闘から学び、勝利を勝ち取ってきた。
それを可能とするのが政親の能力『第三の目』。
この『第三の目』は他の人から見えない目になっており、その能力は俯瞰視点の状態でその範囲に見えるものを全て見ることできる。
それは木の後ろにあるものさえも見ることが可能である。
そして、隠密度も見ることが可能で、姿、気配…と消すランクが上がる毎にその人物が薄くなる。
つまりはこの目からは隠れたところで意味がない。
逆に隠密度がどのランクかを確認することが可能な能力となっている。
これだけの能力だけあって知っている者は少ない。
何故ならその方が戦闘に優位にできるからである。
(はっきり言って姿を隠しているだけにしか思えない)
その上で二人を見た場合、熟練度の壁の影響で気配や存在を消したところで、姿だけが消えていることになっていた。
(これを限らなく消すとなると難しい。何か必要かもしれない)
そこで政親は何かを探すために『第三の目』をここに設置し、その場から移動した。
翌朝、政親は夕実に修業方法を変えることを伝えた。
「夕実さんには森に入り、能力を全力で使って下さい。場合によっては死ぬ覚悟もして下さい」
「……分かりました」
その言葉に恐怖を覚えた夕実ではあったが、これからの戦いはいつ死が訪れてもおかしくない戦いとなる。
それを理解している夕実は了承するしかなかった。
「私は?」
「昨日と変わりません。ですが、夕実さんを相手にしないということで昨日よりも厳しくいきます」
「そう、分かった」
夕実が別の修行に行くことで、政親は李音と一対一の修行を行う。
それ故に政複は厳しくするつもりだ。
夕実は二人と離れ、木に囲まれた場所に立つ。
「何があるのでしょうか?」
あえて内容を聞かなかった夕実であったが、見たところ周りに何かあるとは思えなかった。
そこに矢が飛んでくる。
「仕掛け?」
夕実はすぐに『認識』で気づき、躱す。
それから矢だけでなく、手裏剣や苦無、飛び道具を多くに、武器が飛んでくる。
昨日の夜に政親がやっていたのはこれ。
夕実の修行のために色々と準備していた。
「単純過ぎるように思えます」
その仕掛けは武器以外特に違いはない。
夕実に通用するようなことはなかった。
(やはりこれでは意味はなさそうですね。では次のステップへ行きましょうか?)
李音の相手をしながら、『第三の目』で夕実を見ていた政親は李音に見えないように森に向かって合図を送った。
飛んでくる武器を躱していると突然音が聞こえる。
「な、何?」
夕実は『認識』を強める。
「こ、これ、動物?近づいてくるのは猪でしょうか?」
音から動物だと分かり、さらには猪と分かった。
ただそれだけで躱せることができる訳ではなかった。
「は、速い。ちょ、ちょっと待って」
その猪は普通ではなかった。
体長二メートル、木の太さのある足、口から出ている鋭い牙と大型の猪。
普段落ち着きのある夕実でさえ、慌ててしまうほどだった。
夕実は横に飛び、必死に避けた。
それにより、猪は木に激突した。
木は倒れるが、猪はすぐにこちらに来る。
「え?え?う、嘘ですよね…」
猪に注意をしていた夕実は『認識』で別のものも確認した。
猪とは別の大型の動物達。
その動物達が夕実の方に向かってくる。
夕実は必死に逃げる。
「ど、どうやって能力向上をすればいいのですか!」
ちゃんと『認識』しているとはいえ、今の段階では戦闘ができるとは思えない。
(動物は一定ではなく、不規則に行動する。ただどこにいるかで能力を使っても意味はありませんよ)
政親はこれが夕実の能力を向上されるだろうと判断し、このようにしている。
そんな政親はちゃんと李音の方も見ている。
「はい、甘いです」
「あーも、なんで見つかるのよ」
李音はナイフを持ち、『無音』で政親に攻撃しようとするのだが、政親は木刀で容易く叩かれる。
「能力どうのこうの前に匂うんですよ」
「匂う?って臭くないでしょ!」
「いえ、臭いとかではなく、匂ってダメということです」
「はぁ!?良い匂いがするのが女性の嗜みでしょう」
元々ギャルの李音は少し強い匂いがするものを付けている。
それは流石に『無音』がどうにかできる訳がない。
今までは李音を見つけるのに大変で、咄嗟の行動ができなくて他の生徒が負けていたのだろう。
でも、よく嗅いでみると意外と簡単に見つかってしまうのだった。
「ひっ」
「口には気をつけて下さい。私の時代では打首でしたよ」
「は、はい。すみません」
一瞬で間合いを詰め、木刀を首筋に当てる。
李音は恐怖を覚え、従うことにする。
「別にオシャレがダメではありません。とりあえずは漏れないように覆いましょう」
「わ、分かりました」
(まぁ、私もオシャレですから、分からなくもありませんが)
政親も当時はオシャレさんと言われており、国内の服装だけでなく、西洋の服装も興味があったようで、全体に豪華な服装だった。
政親は李音にあるものを着させる。
「え?……」
それを着て、固まる李音。
それはただ布を頭を巻いただけだった。
「とりあえずこれで。見た目は悪くても我慢を」
「なんでよ!」
「また口答えですか?」
「す、すみません。我慢します」
また首筋に当てる政親。
「無理はいいません。戦いが終われば買い物に行きましょう」
「え?いいんですか?」
「さらには奢ってもいいですよ」
「本当ですか!」
「はい」
李音は大いに喜ぶ。
「でも、今からの戦いために今は厳しくいますよ」
「そ、そうですよね」
そのために厳しい修行をしなければならないと思い、落ち込む李音であった。
予定通りに投稿できた夕実と李音の修行(一)でした。
今回の相手は伊遠政親で、モデルは伊達政宗です。
少し取り入れた部分もありますが、性格とかはオリジナルとなっています。
それと『第三の目』は右目が失明する前からあった能力で、その時はそこから見たものを映像として脳に浮かんでくるような感じでしたが、失明してから熟練度もあって左目の横にそこの映像を見ることが可能となっています。
あと前回の織部信正の能力ですが、まだ非公開ということしています。
まぁ、色々と使ってますし、ちょっとヒントらしきことも言っているのでもしかしたら分かるかも。
次話は続きとなりますが、基本的に政親は夕実と戦わないと思います。
大型の動物に追いかけまくる夕実。
不格好な服装で政親に挑む李音。
二人は試練を超えられるでしょうか。
そして夕実は生きていけるのだろうか。




