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第3話 二殺戦?なにそれ怖い

キラーガーデンに来てから、一週間が経った。毎日卵焼き生活を送っているけれど、ソリさんは何も言わない。だが、オールさんは少し不満そうだった。


「今日も卵、明日も卵……毎日卵焼き。二人とも我慢できているのが凄い。特にソリさんが満足そうなのが凄い」


今日のお昼ご飯も卵焼きの予定である。ソリさんは甘めが好きなので、毎日甘めの卵焼きを作っていた。私が来るまで本当に炭しか食べていなかった二人は、毎日卵焼き生活でも文句を言わない。


「小雪、買い物してきたぞ〜」


冷蔵庫を漁っていると、オールさんに声をかけられた。


「なあ、今日は鮭でも焼いてみようぜ」


「鮭ですか! 良いですね!」


スーパーで買い物をしてきたオールさんが、鮭を取り出してフライパンの上に乗せた。


「よし、お前の出番だ!」


「はい! 任せてください!」


全力で頷くと、火をつけて調整する。焼き方とかは全く知らないので、思い付きで何とかするつもりだ。火をつけてから思ったのだが、油を引いた方が良かったかもしれない。


「なあ、何か焦げ臭くないか?」


「確かに……」


ひっくり返そうとした鮭は、フライパンにベッタリとくっついている。中々取れなくて焦っていると、オールさんが油を持ってきた。


「油を入れてみるか」


「なんで!?」


パチパチと凄い音が鳴って、油が飛び跳ねる。私は慌てて、火を止めた。火事にならなくて良かったと、心底安堵する。しかし、次の瞬間には鮭の変わり果てた姿を見て、大きな声を出していた。


「鮭が炭になった!!」


「マジか。油で滑りが良くなって、ひっくり返せると思ったんだが……」


無惨な姿になった哀れな鮭さん。あっという間に炭の出来上がりである。オールさんは頭を掻きながら、深くため息をついた。


「今日の昼飯はまた炭か……」


「え〜、この炭は私も食べないといけないんですかぁ」


落ち込んでいると、ソファに座っていたソリさんが立ち上がった。こちらへ来ると、スマホの画面をオールさんに見せる。


「次の二殺戦(にさつせん)の相手だ」


「ふーん。雑魚だな」


スマホの画面には黒髪黒目の屈強な男性が写っている。迷彩柄の服を着た男の人だ。強そうに見えるけれど、二人にとっては雑魚らしい。


「二殺戦って何ですか?」


「キラーガーデンでは、月に二回だれかと殺し合う。相手を殺せれば、階級が上がってより良い暮らしができる。それが二殺戦だ」


「何それ怖い」

 

オールさんは平然と言っているけれど、やはり一般人にとっては物騒な世界だった。不意に、オールさんは自身のスマホを操作し始める。


「俺の方も雑魚だな。まあ、俺とソリに張り合えるやつなんて、そうそういねぇけどな」


「同意だな。雑魚ばかり相手にしてもつまらん」


ソリさんは退屈そうに、コートのポケットに手を入れた。これが強者の余裕というやつだろうか。


「その二殺戦ってやつは、いずれ私も参加させられるんですか?」


恐る恐る右手をあげると、二人は顔を見合わせた。オールさんは肩を竦めて、軽く首を振る。

 

「どうだろうな。まあ、正罪地区(せいざいちく)のライトオーダーに見つからなければ大丈夫だろ」


新キャラのライトオーダーさん。名前的に、命令が好きそうな真面目な人だろうか。イメージで、本を持った髭の生えたおじいさんが頭に浮かんだ。


「チッ……あそこは面倒だ」


二人は嫌悪感を露わにして話している。何となくオールさんの方が不機嫌そうに見えた。


「とりあえず、そのライトオーダーさんに見つからなければ、私は二殺戦に参加しなくても大丈夫なんですね!」


「アイツは規律に厳しいからな。よく分かんねぇ女がこの世界にいるとバレたら殺されるぞ。もしくは、アイツの部下のマッド野郎に実験体にされるか……どっちにしろ、ろくな事にはならねぇな」


「ひえっ……」


オールさんの言葉に、思わず一歩後ろに下がる。私が思っているよりも、この世界はハードモードらしい。不安になって床を見つめていると、ソリさんが近づいてきた。彼のブーツのつま先が見える。


「正罪地区に行かなければ、ヤツらに会うことは無い」


「ソリさん……?」


もしかして慰めてくれたのだろうか。顔を上げた時には、彼はもう距離を取って、少し離れた位置にいた。オールさんの方を見ると、彼は少し気まずそうに視線を逸らした。


「怯えさせたか? 悪かったな。だが、そういう奴らがいるってことは頭の中に入れておけ」


彼はパンッと手を叩くと、空気を変えるように笑顔を見せる。


「何かあっても、俺たちが守ってやるよ! 大事な家政婦だからな」


「わわっ、髪の毛が抜けちゃいます! ハゲる。ハゲちゃいます」


大型犬を撫で回すように頭に触れられて、必死に抗議の声をあげる。だが、呆気なく無視をされてしまった。


「綺麗な黒髪だな……」


ぐしゃぐしゃになった頭を整えるように、オールさんはゆっくりと私の髪を梳く。


「私の髪の毛、何本か抜けてませんか?」


「雰囲気が台無しじゃねぇか!」

 

私の言葉を聞いた瞬間、オールさんは吹き出して笑い始めた。ツボに入ったのか、とても楽しそうに笑っている。


「本当に面白い女だな……」


彼は口元を緩めて、柔らかく目を細める。ついに変な女から面白い女に昇格したらしい。オールさんの目が以前よりも優しくなった気がする。

 

「よし、昼飯にするか!」


「俺はその炭を食うつもりはない」


オールさんが炭になった鮭を指さす。ソリさんは不快感を露わにして、低い声で告げた。私は頷きながら、恨みがましい目でオールさんを見つめる。


「なんだよ、その目は」


「ぺろおじさんが油を入れるから、こんなことになったんですよ」


オールさんは私の頬を鷲掴みにして、意地悪な笑みを浮かべている。急に距離を縮めてくるから、この人は油断ならないのだ。


「ん〜? 俺に不満があるのか?」


「大ありですよ! 炭になっちゃったでしょ!」


オールさんは、ぐっと顔を近づけてくる。唇が触れそうな距離まで近づいてきて、ドキリと心臓が跳ねた。


「おいおい、この程度で真っ赤になるのか? このままキスしたらどうなるんだろうな」


私の顎を掴んでいた彼の指が唇に触れた。思わず目を閉じてしまう。視界が暗くなると、唇をなぞるように動く指の感触が、やけにはっきりと伝わってきた。


「あっ……」


頭が真っ白になって、キツく目を閉じてしまった。甘ったるい空気をかき消すように、ソリさんが不機嫌な低い声を出す。


「いい加減にしろ。くだらない事に時間を使うな」


「おっと、からかいすぎたか?」


オールさんは手を離して私から離れる。私はまだ早い鼓動を感じながら、胸元を強めに掴んだ。


「おい、昼飯を作れ」


「あ、はい!」


ソリさんに言われて、私はまた卵焼きを作る。ソリさんは卵焼きを作って欲しかったから、オールさんを止めたのだろうか。


「甘めにしろ」


ソリさんは卵焼きが好きすぎる。油断して、つい半目でソリさんを見つめてしまった。


「なんだ」


「なんでもないです〜」


ふいっと顔を逸らす。ソリさんは相変わらず威圧感が凄くて、冷や汗が出てくる。正直に言うと、彼のことはまだよく分からなかった。怖い人だけれど、拾われた日以外は殺気を向けられてない。


「小雪が怯えてるぞ〜」


オールさんが笑いながら、ソリさんの肩を叩く。ソリさんは威圧感を消さないまま、私を見下ろしていた。


「この程度で怯えるな。他の奴らに狙われた時に逃げれんぞ」 


ソリさんはそう言って、リビングのソファに戻って行った。オールさんは、柔らかく口元を緩ませる。


「ソリはな、お前が殺気に慣れるように、わざと圧をかけてるんだよ」


「え……わざとですか?」


何のためだろうか。オールさんの言っていることがよく分からない。私が首を傾げていると、オールさんは私の頬をつつく。


「ソリの圧に慣れれば、他の殺人鬼に狙われても動けるだろ? 恐怖で体が動けないと、死ぬからな」


「私のために訓練してくれていたんですね」


ソリさんは私が逃げられるように、慣らしてくれていたんだ。少し信じられない気持ちで、ソリさんの方を見る。


「ありがとうございます!」


「ああ……」


笑いかければ、ソリさんが少しだけ表情を和らげた気がした。少しずつではあるが、二人との距離が確実に縮まっているのが嬉しい。頬が緩んでいるのが自分でも分かった。


「こーゆき!」


機嫌良さげに、オールさんが私の首の後ろに手を回してくる。彼は笑顔でとんでもない発言をしてきた。


「次の二殺戦は三日後だ。俺とソリはテレビに映るから、ちゃんと見とけよ!」


「テレビで殺人が見れるんですか!? グロいのは嫌です!」


不満の声を出したのに、オールさんは明るい笑顔を見せてきた。


「ソリなら一瞬で終わらせるから、グロくないぞ。大体、そういうのにも慣れておくべきだろ」


「私は元の世界に帰る予定なので、あんまり慣れたくないですよぉ……」


元の世界の話を出すと、オールさんは部屋中を凍りつかせるような空気を出してきた。嫌な跳ね方をする心臓に、思わず胸元を押さえてしまう。私は心臓の音がオールさんに気づかれていないことを祈っていた。


「そうかよ。でも、テレビはちゃんと見とけよ」


目が合った時、彼は冷たい笑みを浮かべていた。


「はーい……」


オールさんの少し低くなった声に気付かないふりをして、私は軽い口調で言葉を返した。

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