第19話 新たなる支配者たち
今日はおうちにウルさん、パペットさん、レディさんが集まっている。アンノウンさんはまだレディさんの病院で療養中だ。みんなが黙る中、真っ先に口を開いたのはオールさんだった。
「整理するぞ。まず、シャドウを殺した奴は覇牢地区のドゥームロックだ。トラジェファミリーのボスの息子だな。シャドウが刀を投げた時に、一瞬だけだが顔が見えた」
オールさんは淡々と事実だけを告げていく。ソリさんは、オールさんの言葉に眉を寄せた。
「トラジェファミリーのボスの息子。つまりは……フェアディスティニーの兄か……」
ソリさんの過去についてはもう本人から聞いている。だから、彼が今なにを考えているのかも、何となくわかった。
「ドゥームロックは生きている。シャドウの刀には、ドゥームロックの血がついていなかった」
オールさんの言葉を聞いた瞬間に、パペットさんが槍を強く握りしめた。彼の顔からは笑顔が完全に消えている。
「私はシャドウ様の敵討ちに行くよ。ウル、君はどうするの?」
「俺は……俺も行きたいです。ついて行かせてください」
パペットさんは軽く頷いて、リビングから出ていこうと、扉の方へ向かった。ウルさんは私の方を一瞬だけ見て、オールさんとソリさんを指さす。
「オールナイフ、マックスソリチュード、小雪のことは任せた。お前らなら、正罪地区第一位のライトオーダーともやり合えるだろ」
そう言って、ウルさんは背を向ける。オールさんとソリさんが少し口元を緩めて頷いた。
その瞬間——
リビングのドアが勢いよく開いた。
「やあやあ、みんな! どうやら、パパの噂話をしているみたいだね!!」
ドアを開いて出てきたのは、黒髪をオールバックにした40代くらいの男性だった。真っ白なシャツの胸元は大きく開かれており、たくましい胸筋が見えている。爛々と光る金色の目とピンク色のサングラスが特徴的な男性だった。
「ライトオーダー!?」
ウルさんが後ろに転けて声をあげる。パペットさんは素早く飛び退いて槍を構えた。
「え、ライトオーダーさん!? この人が??」
このめちゃくちゃチャラそうなイケおじが、ライトオーダーさんなのか。意外すぎて、変な声が出てしまった。どう見ても規則に厳しい人には見えない。
「何の用だ。ライトオーダー」
オールさんがナイフを構えながら、厳しい声で問いかける。さりげなく、レディさんが私を背中に隠してくれた。多分、ライトオーダーさんから隠してくれているんだろう。
「シャドウが死んだね。一位が死んだから、二位と三位の者たちが次の二殺戦で殺し合って、一位を決めなければならない。ドゥームくんがシャドウくんを殺したらしいけど、一位と戦う時は書類審査が必要だから、ドゥームくんの殺しは無効になる」
ライトオーダーさんは、突然わざとらしく落ち込んだ声を出し始めた。
「でも、君たちは殺し合いたくないよね〜! パパも可愛い子達が悲しむ姿は見たくないなぁ。どうしようかなぁ」
「条件を早く言え」
「ドゥームロックくんを始末して。そしたら、君たちの二殺戦のルールを変えてあげる。それから……そこにいる可愛い異世界の子の処遇も考えてあげるよ」
くすくすと楽しげなライトオーダーさんの声が聞こえてくる。レディさんの背中に隠れているので、彼の白衣しか見えない。オールさんの厳しい声と、ライトオーダーさんの楽しげな声が交互に聞こえてきていた。
「話が俺たちに有利すぎないか?」
「え〜、断るの? 君たちにとってこれ以上ないくらい、良い条件なのに〜?」
ライトオーダーさんの言葉を聞いて、オールさんは苛立たしげに舌打ちをした。
「どうする、ソリ」
「その条件を飲む」
ソリさんはオールさんと顔を見合せて頷く。その瞬間、ライトオーダーさんはパチパチと拍手をした。
「うんうん! 良い子達だね。パパ、君たちみたいな良い子はだぁいすき!」
まだ警戒しているウルさんとパペットさんを無視して、ライトオーダーさんはドアの方へと歩き出す。
「また会おうね、小雪ちゃん」
最後に一瞬だけ、ライトオーダーさんの金色の瞳と視線が交わった。素早くレディさんが背中で私を隠すと、彼はまたクスリと楽しげに笑う。ライトオーダーさんの瞳には、支配者の色が宿っていた。
◇
ライトオーダーさんが出て行くと、レディは重々しいため息をついた。全員が無言をつらぬく中、彼は少し迷いながら口を開く。
「覇牢地区の第一位の男はチェックキング。トラジェファミリーの二代目ボスだよ」
レディさんの言葉に、オールさんが真っ先に反応した。
「つまり……ドゥームロックを殺せば、トラジェファミリーに狙われるということか。チッ、ライトオーダーの狙いはチェックキングだな」
「俺たちにドゥームロックを殺させる。チェックキングが俺たちを殺せば、一位から三位までいない天守地区はライトオーダーのものになる。逆に俺たちがチェックキングを殺せれば、王者のいない覇牢地区を揺さぶれる」
オールさんとソリさんは、あからさまに顔をしかめた。オールさんがソリさんの方を見ると、ソリさんは静かに首を振る。
「利用されるのは腹立たしいが、ヤツの言う通り俺達には他に選択肢がない。それに……ドゥームロックには、個人的に話したいことがある」
ソリさんは足を組みかえて、手元にある刀にそっと触れた。話したいことはやはり、フェアディスティニーさんのことだろうか。ソリさんの過去を聞いた今は、ドゥームロックさんの気持ちも考えてしまう。落ち込んでいると、レディさんは厳しい声で強く警告をする。
「もし、チェックキングに会っても、彼を信用してはいけないよ。あの男は他人の心を掴んで、動かすのが得意だからね」
「ちょっと待て! てめぇ、何でそんなにチェックキングに詳しいんだよ!」
ウルさんがレディさんの言葉に噛み付く。重い空気が漂う中で、パペットさんがレディさんに槍を向けた。彼は無言のまま、レディさんの喉元に槍を突きつけている。
「パペットさん! やめてください!」
「この男、すごく怪しいね。クルエルファミリーともトラジェファミリーとも無関係なんでしょ。この男がチェックキングについて知っている理由が分からない」
パペットさんの腕を掴むけれど、彼は無表情のまま、こちらを一瞥もしない。レディさんは真剣な顔で、パペットさんとウルさんを交互に見た。
「僕はチェックキングと少しだけ関わったことがある。それだけだよ。君たちと敵対する気はないし、ドゥームロックのことは何も知らない」
「信用できねぇな。まだ隠してることがあるんじゃねえのか」
鋭い殺気を飛ばすウルさんとパペットさん。ウルさんはハンマーをレディさんに向けた。ソリさんも殺気を飛ばしながら、刀に手を置いている。一触即発の雰囲気の中、オールさんが間に入ってきた。
「今は争ってる場合じゃねえだろ。俺達とお前らの利害は一致している。ここで争うよりも、協力し合った方が合理的なんじゃねえのか」
パペットさんは槍を退ける。すると、ウルさんも舌打ちをしながらハンマーをおろした。
「レディさん、怪我はしていませんか?」
「ありがとう、小雪ちゃん。僕は大丈夫だよ!」
レディさんは自身の喉元を見せて、怪我がないことを教えてくれる。ニコニコと微笑む彼は相変わらず可愛らしいけれど、今は不安の方が強くてあまり安心できなかった。
「クラムジーパペット、バッドウルフ、一時的な協力関係を結ぶぞ」
「チッ……仕方ねぇか……」
オールさんの言葉に舌打ちをするウルさんと無言で槍を見つめるパペットさん。二人とも仲良くする気は少しも無いようだ。
「おい、クラムジーパペット。お前が気に入った相手としか話さないのはソリから聞いてる。だが、協力関係を結んだからには、必要な時だけはちゃんと話せよ」
「パペット様に命令すんじゃねえよ!」
苛立たしげにオールさんに噛み付くウルさん。パペットさんは微動だにせずに、無視し続けている。私は少し離れた場所で、レディさんと話す。
「ハーフシャドウを失ったから、二人とも不安定なんだろうね。今が一番辛いときであり、一番頑張らないといけない時だから、さらに余裕を奪われているのかもしれない」
レディさんは、冷静にパペットさんとウルさんを分析する。私は二人のことを考えながら俯いた。今の私にはできることが何もない。レディさんは、私の頭を撫でながら、穏やかな声で言葉を紡いでいく。
「小雪ちゃんには戦う力はないけど、みんなを動かせるだけの力があるよ。洗脳でも支配でもないのに、不思議とみんな君を応援したくなるんだ。小雪ちゃん、君はすごい子だね」
顔をあげると、レディさんは穏やかに微笑んでいた。彼の言葉で少しだけ元気が出てくる。私はレディさんに微笑み返して、お礼を伝えるのだった。
「レディさん……ありがとうございます。レディさんの笑顔を見ていると、私まで笑顔になれるんです。レディさんも十分すごい人ですよ」
お互いに笑い合えば、暗い雰囲気も少しだけ落ち着き始める。レディさんは秘密を抱えているけれど、決して悪い人ではないと思っている。私は今までの彼と積み重ねてきた信頼を信じたいのだ。




