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『おとぎ国刑事訴訟(けいじそしょう)記録』―主文、被告人おとぎ話の主役たちを— 〜揺れる裁判官の天秤〜  作者: うちの猫
:〜お菓子の家殺人未遂事件:ヘンゼルとグレーテル裁判〜

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第二話:『口減らしの引き金』

「これより、弁護側請求に係る証人、ハインリヒ・フォン・アウエルバッハ、およびヘルガ・フォン・アウエルバッハの尋問を許可します」


裁判長である私の呼びかけに応じ、法廷の重い扉が開く。


入廷してきたのは、被告人両名の実の父親と、その妻である継母だった。父親は怯えたように肩をすくめ、継母は不快感を隠そうともせず、顎を鋭く突き出している。どちらの衣服も擦り切れ、飢えの色が隠せない。


二人は中央の証言台の前に横並びになり、着席の許可を求めることもなく、交互に宣誓書を読み上げた。


傍聴席の新聞記者:

「(手帳に激しくペンを走らせる)……実の親たちがついに引きずり出された。子供を森に捨てた張本人たちだ。この大人のエゴがどう事件に絡んでいるのか、ここからが本番だな」


傍聴席の一般市民:

「それにしても、あの親たちの服のボロさは何だ。本当に食べ物がなかったという噂は本当らしいぞ」


弁護人が鋭い足取りで証言台の前へと進み出る。まずは父親への尋問からだ。


弁護人:

「証人ハインリヒ。あなたは、被告人ヘンゼルおよびグレーテルを夜間の広大な森林地帯へ連れ出し、そのまま置き去りにしましたね。それは間違いのない事実ですか」


父親:

「……はい。間違い、ありません。私が、あの子たちの手を引いて、森の奥へ置いていきました……」


父親は証言台の手すりにしがみつき、涙をボロボロとこぼした。


父親:

でも、私だってあの子たちを愛していたんです! 捨てたくなんてなかった! すべては……すべては隣にいる妻、ヘルガに脅されたからなんです! このままじゃ家族全員で野垂れ死ぬ、口減らしをしなければお前を殺して私も死ぬと、夜な夜な枕元で責め立てられて、私は正気を失っていたんです!」


「違います!」

突如、隣に立つ継母ヘルガが、証言台の壇上を激しく叩いて声を荒らげた。


ヘルガ:

「私は『このままでは家族全員が餓死してしまうから、家計を縮小するための手段を考えなければならない』と、家族の未来のために現実的な相談をしただけです! 実際に子供たちを森へ捨てるという凶行を決断し、その手を引いて実行したのは、そこの父親本人です! 私は無理やり連れて行けなどと命令していません!」


父親:

「お前、よくもそんな嘘を……! 毎日毎日、飯を食うたびに『子供たちのせいで私たちの分がない』と呪詛のように吐き捨てていたのはどこのどいつだ!」


証言台の前で、実の夫婦が醜い責任の擦り付け合いを始める。法廷の秩序が乱れかけたその瞬間、検察官が席から鋭く起立した。


検察官:

「異議あり。 被告人の親たちの家庭内における内紛は、本件の住居侵入、器物損壊、および殺人未遂の事実とは直接の因果関係がありません。弁護側の尋問は、論点を意図的にずらそうとする不当な情状誘導です」


私は手元の記録から目を離し、冷徹な視線を法廷へと向けた。


裁判官:

「異議を却下します。……親たちによる『遺棄の態様(置き去りにした状況)』およびその強制力の有無は、被告人両名が当時どれほどの精神的パニック、すなわち『重度の人間不信』に陥っていたかを測る上で重要な間接事実です。検察官、着席しなさい。……弁護人、尋問を続けてください」


弁護人:

「感謝いたします、裁判長。……証人ヘルガ。あなたは家計の縮小と言いましたが、当時の王国の配給停止記録によれば、あなた方の村の飢餓指数は生存ラインを遥かに下回っていた。つまり、口減らしをしなければ、全員が二週間以内に餓死していたことは客観的事実ですね」


ヘルガ:

「……そうです。全員で野垂れ死ぬか、子供を諦めて大人が生き残るか、選択肢はその二つしかなかった。悪いのは私たちじゃない、この国の貧しさです!」


(裁判官の心の声):

「国の貧困、そして口減らしの現実。法律上、『義務の衝突』による緊急避難とまでは認められないが、親たちが極限状態に追い詰められていたことは否定できない。だが、この大人のエゴの犠牲となり、夜の森に放り出された子供たちの絶望は、どれほどのものであったか……」


私は、被告席で完全に人間不信の目で大人たちを見つめているヘンゼルとグレーテルに目をやった。


傍聴席の一般市民:

「全員が餓死する状況だったのか……。親を責めきれない部分もあるな……」


傍聴席の新聞記者:

「いや、だが実の親に二度も裏切られたんだ。子供たちが『大人という存在すべてが自分たちを殺しにくる怪物だ』と思い込んでも不思議はない。この人間不信が、魔女氏への過剰な襲撃(殺人未遂)を生んだのではないか?」


裁判官は机の上のペンを握り直し、証言台の親たちを見据えた。


裁判官:「両証人、自責の擦り付け合いはそこまでにしなさい。あなた方の遺棄罪の刑事責任については、後日開かれるあなた方自身の公判において、司法が厳格に処断します。本日、本廷があなた方の証言から採用するのは、被告人両名が置かれていた過酷な家庭環境の事実のみです。……証人は退廷しなさい」


父親と継母が、互いを睨みつけながら法廷を去っていく。


私は、被告人席で小さく肩を震わせている兄妹へ視線を移した。


裁判官:

「被告人ヘンゼル、および被告人グレーテル。実の親から二度までも遺棄されたあなた方の恐怖は察するに余りあります。親たちの裁判において、あなた方に『実親を処罰してほしいか、あるいは許すのか』という意思確認を行う局面が追って訪れます。司法の場で自らの意思を示すことは、今後のあなた方の人生を決める重要な権利です。そのことを、頭の片隅に留めておきなさい」


ヘンゼルは小さく、しかし明確に頷いた。


裁判官:

「……では、本件の審理に戻ります。検察官、弁護人。これより、被害者魔女ホレ氏の『お菓子の家』の建築目的についての審理へと移ります」


木槌が一度、静かに、しかし重く鳴り響いた。

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