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殿下、親密度の向上って何ですか!?〜強引な王子は、ひたすら花びらを集める〜  作者: HARUHANA


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7.一人のための研究室

 入学してから、ノア殿下と顔を合わせる機会は、案外ないまま。教室内外で、殿下の話を聞かれても、答えられる程……知らないと、思い知る今日この頃。

 

 

 今日は、授業が早めに終わる日。

 お母様のいる研究棟へ、足を運ぶ予定で、放課後ユリアと別れた。

 学園の広大な敷地内には、教室棟と研究棟、図書館、寮と様々な建物が並んでいて、鼻歌混じりに新緑の道を進んでいく。


「ここが……研究棟だ」


 お母様がいるのは、二階。教室棟とは違って、白衣を着た生徒とすれ違いながら部屋の前に着くと、少し開いた扉の向こうから聞き覚えのある声が――


「――だから、あの花びらが――」

「僕は、止まらないよ。これは王族として――……頼む、内密に……」


 よく聞こえない……なんて、聞き耳を立ててしまった。

 すぐに後悔して、タイミングが悪かったと来た道を戻ろうとした時、思いきり扉が開けられてしまった。


「フルール!? ……あれ、入学式以来だね」

「フルールーーーー!」

 

 研究室の中から、勢いよく飛び出して来たお母様が、私を強く抱きしめた。

 

「お母様、会いに来ちゃいました」

「ごめんねー、家に全然帰れなくて」

「みんな寂しがってるよ。特に、お父様が」

「今度の休みこそ帰るわっ」


 私たちの会話を聞きながら、嬉しそうに微笑む殿下と目が合った。

 

「メイア教授は、まだこれから仕事だろう? 良ければ、僕がフルールを引き受けよう」

「可愛い可愛い私の宝物を、少しでも傷付けるような事があれば、容赦しませんからね」

「ははっ、肝に銘じよう。おいでフルール、僕が少し研究棟の案内をしてあげるから」


 えっと……、研究棟の案内を殿下が?


「フルール、顔が赤いわね」

「……これでも必死なのです」

「気をつけてね」

 

 殿下が、そっと手を差し出した。

 私と殿下が歩いていく後ろで、お母様の声が聞こえた気がして振り返ったけど、大きく手を振ってただけ。

 

「――自慢の娘が、舞い姫だったとはね。さて、私も解読を進めましょう。頑張って、私の可愛いフルール」


 


 逸れないようにと手を繋がれ……手を抜く勇気もない、私。

 

「同じ学園にいても、なかなか会えないね。今日は、とても嬉しいよ」

「……どちらを案内して下さるのですか?」


 なるべく顔を見ない!

 なるべく意識しない!


「今日は、この研究棟の最上階を案内しようかな。普段は立ち入ることが出来ないんだ」

「わ、私なんかが入っても良いのですか?」

「僕がいるからね。最上階は、僕に与えられた研究室だから」


 殿下の研究室……?


「研究もされているんですか?」

「うん。フルールのお母さんにも、僕の研究を手伝ってもらっているんだ。さっきは、その一環で部屋を訪れていたんだけど、まさかドアを開けたらフルールがいるなんて、なんかのご褒美かと思ったよ」

「ご褒美って……」

「そんな恐縮しなくて大丈夫。フルールに、ぜひ見てもらいたいものがあってね。本当に良いタイミングなんだ」


 最上階の七階へ着くと、両開きのドアが開いた。さすがに密室は……ってことで、ドアは大きく開いたまま。


「紅茶でも入れてくるから好きなものを見てて」

「お、お気遣いありがとうございます」


 ……でも、この七階って殿下の研究室だけ、よね?

 果たして、扉の開閉は関係あるのかな?


 大きな本棚やテーブルに広げられた書類。応接セットのソファテーブルもあって、古書の匂いが妙に心地よく感じる。

 読書が好きな私には、本棚に並べられたタイトルが気になって仕方ない。テーブルに広げられた、見慣れない文字にも興味を唆られる。


「綺麗な絵だろ?」

 

 紅茶を入れた殿下が、カップを置いて、テーブルに広がる一枚の挿絵を指差した。

 

「……何の研究をされているのですか?」

「僕はね、“舞い姫“の研究をしているんだ」

「舞い……姫?」 

「そう。稀に誕生する、“想いを花に変えてしまう存在“だよ」

 

 そう言いながら窓枠に腰を下ろし、乱れた私の髪を優しく触って、頬に触れた。どさくさに紛れて触れるなんて、不意打ちもいいところだ。


「……で、殿下。髪は自分で直しますから……」

「こんなチャンスは滅多にないんだ。フルールに近付くチャンスを、僕から奪わないで」


 心臓があまりに煩くて、まともに殿下の顔が見れない。

 

「フルールが三歳くらいかな。小さな花が舞っているのを初めて見たんだ」

「小さな、花?」

「そう。ふわふわ舞う花びらがとても綺麗で見惚れたのを、今でも覚えてる」

 

 ずっと……殿下が触れているせいで、頬が随分熱い。

 

「僕は、あの日からずっと君を見ていたよ。話が出来なくとも、遠くからいつも見ていた」

「ずっと……」 


 以前、ヒラリと落ちた花びらを、殿下が拾い上げた姿を思い出した。自分の手のひらを見ても、そんな気配はないけれど。

 

「見えるのは私だけなのかもしれない。王太子教育の中で、伝承について学んだ時、ピンッと来たんだ。その伝承は……少し残酷でね」

「あのっ! 私が、聞いても……?」

「構わないよ。父にもすでに許可はとってある」

「父って……国王陛下ですか!?」

「そうだよ」


 さっきからずっと、目が離せない――


「漆黒の瞳を持つ王が誕生する時、大輪の花を咲かせ、国の繁栄を約束する舞い姫。それが、フルール――君なんだよ」

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