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殿下、親密度の向上って何ですか!?〜強引な王子は、ひたすら花びらを集める〜  作者: HARUHANA


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5.トキノヒト

 寝ても覚めても、殿下を思い出してしまう。

 無情にも、あっという間に入学式を迎えてしまった。



 チラっと化粧台へ目をやれば、髪飾りが丁寧に鎮座している。間違いなく、リナの仕業だ。

 身分も容姿も申し分ない、誰もが羨む王子様で。悩むのすら、羨ましがられるかもしれない。


 ……でも、恋も愛も知らない私が「はい、結婚しましょう」とは言えなくて。髪飾り一つ、付けるか悩むような私が、選ばれて良いんだろうか。


「お嬢様、よく眠れましたか?」

「え、えぇ。おはよう、リナ」

「皆様、制服姿を楽しみにしていらっしゃいますよ」

 

 真っ白なワンピースに、ブルーのリボン。ふんわり広がるスカートがとっても可愛い制服だ。

 この制服が着たくて、留学される方もいるとか。

 

 食堂へ行くと、お父様もお兄様もとても嬉しそう「おめでとう」と言ってくれる。

 ちなみにお母様は、学園内の研究棟で教授として研究に追われていて、ほとんど自宅にいない。

 

 そして食後、ついに……この時が来てしまった。

 

「で、お嬢様! こちらの髪飾りは如何します?」


 ジーっと見つめたところで、答えは出ない。でも――

 

「……ハーフアップにして……髪飾りを付けて」

「かしこまりました。お任せください!」

 

 随分嬉しそうに鼻歌なんて歌いながら、パチンッと髪飾りが付いた。否定的に捉えられるのは嫌、なだけ。

 それだけ、のはず。


 初日から遅刻する訳にはいかないと、時間通りに馬車に揺られ、学園側の馬車留めに到着した。ここから正門まで、徒歩で向かうようになっている。

 

「フルール、おはよう。ついに入学式ね」

 

 声を掛けてくれたのは、ユリア。

 フィニー伯爵家の次女で、家族同士とても仲が良く、大好きなお友達の一人。私の親友だ。

 

「おはよう。ユリアがいて心強いわ」

「その髪飾り、とても良く似合ってるわ」

「えっ、あ……ありがとう。か、可愛くて付けてきたんだけど……」

 

「あぁ。本当に良く似合っているよ、フルール」


 ……えっ、なんで……どこから? 

 今、植木の中から出てきませんでした?

 

「きゃぁぁー」

「王太子殿下よ!」

 

 あっという間に、人集りが出来た。

 新入生にとって、初見の美丈夫な殿下は、何よりも注目の的なはず。

 

「な、なぜ殿下がこ、こちらに?」

 

 挨拶も忘れて呆気に取られた。まさか、朝一番に会ってしまうなんて……。隣にいるユリアも、殿下だとわかると硬直してる。


「なぜ? 愚問だな。もちろん、私の愛おし――」

「殿下!!」


 セーフ! セーフです!

 今なんて言おうとしたか察してしまったじゃありませんか! 間違いなら遮ってしまった事を今すぐにでも謝罪させて頂きますけど、今絶対「愛おしい」って言いかけましたね? 私の自意識過剰なら良いんです。思わず大きな声を出してしまったけど、大事になる前なら構いませんっ。

 

「入学式に遅れてしまいますので」と、慌ててユリアを引っ張りながら足早に逃げた。

 

「フルール! またあとでね〜」

 

 ……殿下、声が大き過ぎます!

 チラッと後ろを振り返ると、大きく手を振っているが、もちろん振り返せるはずもない。

 

「フルール、もしかして殿下と――」

「待って! もしかしてって何!? 今のは……」

 

 あんな大勢いる場で、名前で呼ばれるなんて思わなかったし、まともな挨拶もせず逃げてしまった。


「フルール?」

「……大切な友人に隠し事はダメね。でも、ここだけの話にして」

 

 部分部分、端折りながら説明した。

 

「なんて素敵なお話しなの! 私までドキドキするんですけど。きっと殿下は、髪飾りが気になったから、門で待ってたのね」

「……声が聞こえた時に、頭が真っ白になって挨拶もろくに出来なかったわ」

「全く気にしてないわよ。だから「愛おしい」って言い掛けた訳かぁ」

「……ユリア!」

「あらっ、話の流れから私が気付かないとでも?」

「うぅ……」

「学園生活の楽しみがまた増えたわ。何かあれば相談して!」

「とても……楽しそうね」

 

 顔を手で仰ぎながら、教室を目指す。

 私は、ユリアと同じAクラス。漸く自分の席を見つけ、座っていると……何だかとても、視線を感じる。

 

「おはようございます。フルール様、ですね?」

 

 一人の女生徒に声を掛けられた。

 

 "……こっ、これは!"

 

『あなたが殿下と親しくするなんて不敬!』の流れかもしれない。小説を嗜む私なら、容易に想像出来る。

 とにかく、冷静に、冷静に。

 

「コルザ侯爵家長女、フルールです」

「私、ロザリア公爵家長女のブリーズと申します。一言言わせて頂きたいのですけど……今朝の様子を拝見しましたが――」


 やっぱり今朝のことだ。

 あんな大勢の前で、しかも新入生が殿下から声を掛けられたら、それはそれは不快に思う方もいるはず。

 ……自分の行動に、もっと責任を持たないと――

 

「まさに時の人、ですわ! 皆、フルール様とお話ししたいと思ってますの」


 責任を持たないと――、トキノヒト?


「今、なんて?」

「今や、時の人ですわ。だって、あの王太子殿下の愛しい方ですもの! ですが、勘違いしないでくださいませ! 王太子殿下と親しい方だからお話ししたい訳ではございません。純粋に、お美しくマナーも完璧なフルール様と、仲良くなりたいのです」


 ……イトシイカタ?


「今朝の出来事がもう広まるんですから、さすが学園! この調子なら今頃、全学年に――」

「ブリーズ様、何のお話ですか?」


 興奮気味に、早口で話すブリーズ様から、怪しげな単語がポンポン出てくる。

 

「わたくしったら、一人で突っ走ってました。お許しくださいね。今朝、王太子殿下とフルール様の会話がありましたでしょ? フルール様が立ち去った後、大きく手を振る殿下が仰ったのです」


『私の愛しい人は、今日も可愛いを振り撒いているな。なぁ、ラメットもそう思うだろう。あんなに制服が似合う生徒が他にいるか? いや、いないな』


「と、仰って傍にいた生徒と会話されていたのです。それを耳にした生徒が多くいまして……って、フルール様!? 大丈夫ですかっ?」


 膝から、床に崩れた。

 ……無理。いろいろと、無理――


 止めた意味……

 全くないんですけどーーーーーー!!

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