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殿下、親密度の向上って何ですか!?〜強引な王子は、ひたすら花びらを集める〜  作者: HARUHANA


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14/16

14.胸の痛み

 翌日、いつものように登校した私の目に、二人の姿が飛び込んできた。


「今日から留学される、アブリル王女よ!」

「なんて綺麗なのかしら。しかも、王太子殿下のエスコートで登校されるなんて……絵になりますわっ」

「これから毎日、一緒に登校されるそうよ」


 ズキッ――


 この胸の痛みがこのまま毎日続くの……?

 少しだけ心が通ったと思ったのに、一気に引き離されてしまった気分になるなんて……。

 なんて自分勝手なんだろう。


 それでも、敵わぬ相手に挑む程、自信も度胸もない。だから……避けるように教室へ行く事が精一杯だった。


 それなのに――

 

「あら。フルール、おはよう」

「お、おはようございます。アブリル様」

「嬉しいわ、同じクラスでしたのね。改めて、宜しく」

「こ、こちらこそ……よろしくお願いします」

「早速だけど、お隣の席でよろしいかしら。授業は問題ないと思うけど」

「どうぞ……」


 この日を境に、私は嫌と言うほど思い知る。


「ねぇ、好きなものは何?」

「出掛けるなら、どこが良いかしら?」

「ドレスの好みを探ってるんだけど、仕立てるなら何処がお勧め?」


 私は……ノア様のこと、何も知らない。


 今更、ノア様を知りたいと後悔したところで、いくら私が手を伸ばしても届かない……。ノア様が手を伸ばしてくれるから、私は甘えていられたんだ。

 段々申し訳なくなってきた私は、アブリル様に申し出た。


「どうか、殿下と親しい方にお伺いください」と。



 闘争心なんて……湧かない。

 だって、相手は他国の、しかも大国の王女様。敵うはずのない相手に、もうこれ以上……心を乱されるのは、耐えられる気がしなかった。

 

 アブリル様にそれを伝えた日。

 放課後学校を出て一人、待機する馬車にも乗らず街に向かって歩き出した。

 別に目的もなく、ただ……頭を整理したかっただけ。高い時計塔を見上げて、昔お兄様と登ったのを思い出した私は、何も考えず階段を登り始めた。


 螺旋状の階段を登りながら、初めてノア様に会った庭園や、研究室でのやりとり、それに……一面に広がる菜の花を思い出した。最近の出来事には、必ずノア様がいて、いつも心を乱されてた。

 諦めよう――でも。

 諦めよう――やっぱり……。

 まるで、花びらを一枚ずつ抜いてく占いのように階段を踏みしめて、展望台に辿り着いた。


 暫くボーッと、ただ風に当たっただけ。

 柵に、もたれかかって黄昏ながら――

 

「諦め方を……誰か教えて……」


 目を閉じて、届かない想いで胸がいっぱいになる。


『ノア様……』


「探したよ、フルール」


 居るはずのない声に、耳を疑った……。

 

「どう……して」

 

 ノア様の視線が、今はとても切ない。

 こんな気持ちになるのなら、恋なんて知らなければ良かった……。手に入らないものを強請る駄々っ子の自分など、知りたくなかった。


 

「聞かせて」


 

 片膝をついたノア様が、私に言う。

 

「フルールの悲しむ理由を、教えて」

 

 私の悲しむ理由。

 

「もう、これ以上私に関わるのはどうかおやめください。私は……」

「私は?」

「……私は――」


 本当は認めたくないだけ。

 ただ、素直になって傷付くのが怖いだけ。


「私は、これ以上ノア様を近くに感じたくありません。だって……アブリル様は婚約者候補、ですよね? 大国の王女と王太子なら、国も民も喜びます! お二人が寄り添う姿を……きちんと祝福できるように、どうかもう私の名を呼ぶのはおやめください……」


 本人に聞こえないような、本当に小さな声で「好きだなんて……」そう溢れた口を塞ぎ、立ち去ろうと踵を返した。それなのに――

 

「はっ、離してくださいっ」

「無理に決まってるだろ」

「なぜですか! だって……きゃっ!」


 両手いっぱいに抱えてた"青い花びら"が、散らばって、ノア様に強く抱き締められた。


 ――それは、深い青。

 いつかノア様が言ってた……。花の色には意味があるって。悲しみは、青。

 不安も、戸惑いも、諦めようとした気持ちも。全てを映したような色。


 突き放そうとする私の力なんて敵うはずもなくて、痛いくらいの力。

 

「もう一度言って、フルール」

「は、離して!」

「頼むから、もう一度君の口から漏れたその小さな言葉を聞かせてくれ……頼む」


 勢いで出てしまった小さな呟きを……諦めなければいけない人に伝えるなんて、私にはそんな勇気はない。


 でも――


『ノア様が手を伸ばして下さらなければ何も出来ない』


 そう、後悔したのも確かで。知る努力を何もしなかった自分に、ため息が出たのを忘れているわけでもない。

 

 ……また後悔するの?

 二度と引き返せないかもしれないのに?


 私の言葉を、ただ黙って待つノア様に、想いを伝えるくらいは許されるの……?

 


「……ノア様が」

「うん」

「――好き……」



 ――二度目の、キスをした。

 強く引き寄せられた身体は、身動きが取れず、閉じた瞳からは涙が溢れた。

 脳裏をアブリル様が過るのに、今だけは、何も考えられなくなって。

 

 ゆっくり……ゆっくり開けた視界に舞う、無数の花びら。けれど、それは。


「……え?」


 ノア様の腕の中で、名前を呼ばれた瞬間――足元にばら撒かれた青が、ふわりと揺れて。


 淡く、色を変えた。


「……っ」


 一枚、また一枚と。

 深い青は、やがて優しい色へと溶けていく。まるで、心がほどけていくみたいに。


「フルール……」


 呼ばれるたびに、花びらは色を変え――

 気付けば、二人を包み込むのは、淡いピンクの花吹雪に変わった。


 ふわり、と胸元に花びらが集まり、導かれるように重なり合い、形を成していく。


 そして――


 二人の間に、ひとつの花が咲いた。


 それは今まで見たどの花よりも大きく、柔らかく光を宿した、美しい一輪。


「……綺麗」


 思わず、そう零れた。

 その花に触れた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなる。


『もう、誤魔化さなくていいのよ』


 誰かが、そう言ってくれてるみたい。


「ノア様……」


 ただ、まっすぐ見つめるノア様が微笑んだ。


「これが、開花――」と。

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