彼等の事情(その一)(太郎)
ここは、下校途中にある川原の堤防……。
遠くビルの谷間に沈んでゆく夕日が、いつになく目にしみる。
その眩しさに、目を細め手をかざし視線を下ろすと……初対面の僕達に気をつかい置いていってくれた、優子さんの飲みかけの水のペットボトルとハンカチ。
……ついでに、まだ「うう……」とうなっているジョニーが倒れている。
(どうしよう)
立ち尽くしてるうち…………足が痛くなり、僕は地面にあぐらおかき、その原因を作ったジョニーの顔をかるく睨んだ。
(しかし……このままにしておくのもまずい……たぶん『これで手当てして』と置いて行ってくれたんだから)
と僕は、ハンカチに水をつけ、ジョニーの顔を拭いてやろうと
左手でペットボトルを持ち、キャップを開け、右手でハンカチを持ち
ペットボトルを傾ハンカチにけてると……
不思議なことに自然と視線がボトルの口へと注がれ……不覚にも僕はその場の雰囲気に流されたか
(このペットボトルって優子さんの飲みかけ、なんだよな……つまり僕が今これを飲めば……『女子と間接キス』)
といった『思春期の男子小学生』独特の甘い誘惑が頭をよぎり戸惑った。
(口づけたい……けどそんな事をすれば、彼女の善意に泥を塗ってしまう)
僕は、頭で分かっていても無意識にペットボトルへと向かう、とがった口を寸前で止める事に成功し、軽く下唇をかみ、ため息を漏らす。
「ふっ……もったいないな」
不意に聞こえた声にビクッと肩を揺らし、慌て下を見ると、ジョニーが少しゆがんだにやけ顔で、僕を見ている。
(見られた。もしかして今までの全部? 多分下から見た僕のひょっとこ顔は、かなり間抜けに見え、笑えただろう)
思わぬところで友に弱みを握られた。と困惑しながら、僕は、ぎこちない愛想笑いを返すと……その震える手でボトルの水を全て使い、ハンカチを濡らすと。
「汚れんうちに、口の方からたのむわ」
「うん」
ジョニーのリクエスト通り、口を拭こうとした時。手に当たるほどの鼻息に思いとどまり彼のひょっとこ顔を見て。
(このまま顔を拭いたりしたら……間接的に女子の口の中に、顔面をつっこむ……かなり上級者な)
看病はしてやりたいが今は、話題を変えようと周囲を見渡すと……川原に架かる橋に目がいき……ふと、昔の事を思い出した
「ジョニー、ここ覚えてるか?」
「そんなことより、早う、乾いてまうやんか」
(やっぱり)と少し考え
「ああ、それなら後で、僕のハンカチに、僕の水筒の残りを」
「遠慮します!」
「ふふふ。そんな~」
僕からの不意な提案に、ジョニーは急いで上体を起こして景色を見渡しながら
「ああここな……覚えとるで。わいら昔、ようここで遊どったな」
そして自然と僕達の心は、成り行きに流されるように、昔の事を思い出しはじめる…………。




