↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/76

彼等の事情(その二)(太郎)(ときには昔話を。ポチとの出会い)

 そう、あれは忘れもしない六年前の出来事だ。

 当時、小学三年の僕は、とても内気で無口……そんな僕に、始めは声をかけてくれていたクラスメイトも離れてゆき……と友達をつくることに失敗した僕は、休み時間はいつも、騒がしい教室の中で一人、自分の席に座り本を読んでいた。

(もしかしたら、また声をかけてくれるとでも思っていたんだろう)

そんなある日の昼休み。


「なんや、そんなに縮こまって、保健の教科書(エッチな本)でも見とんるんか? わいも見せえ!」


 いきなり飛び込んできた声に、読んでいる本を取られた僕は、状況がつかめず、目を丸くして、顔をあげると……。

 そこには先週転校してきたジョニーが立っていた。


 ジョニーと僕の性格は、まさに正反対で、彼はこの頃から底抜けに明るく、人なつっこい、なら友達なんて大勢居ると思うだろう……。

 しかし金髪と、アイスブルーの大きな目が放つ独特な雰囲気に、クラスメイトは離れた場所から見守るだけで、誰も自ら近寄ってはくれない……話を戻そう。



 ジョニーは取り上げた本に顔をうずめるなり『何ともつまらない』と言いたげなしかめ面を僕に向け

「なんやこの本、文字だらけやんけ、好かんわ」


 言葉より先に突き返される本に、再び目を丸くした僕は、すぐ『なにするんだ』と、ほんの面白さについて反論しようとした時。


「なあ、わいと友達にならへんか?」

 突然の嬉しい申し出に、一瞬言葉を失った僕だけど、返事は決まっている。

「うん!」

 この出逢いがきっかけとなり、僕達はつきあいはじめる事となった。


 それから一年が経った、ある晴れた夏の日……。

僕達はいつものように、ここよりずっと川上の河川敷に自転車を止めるなり、競うように川原へ駆けて行き『どっちが遠くまで投げられるか』石投げを始める。

 梅雨時期、昨日までしつこく続いた大雨により、川の水量は多く、流も速く……川は、いつものせせらぎとは違うかおを見せている。


 そのうち、ただ石を遠投するのに飽きがきたものの

「そろそろ止めないか」なんて言い出せずにいる僕の前に、川上からどんぶらこどんぶらこと、何かが流れてきた。


 ドリアンのダンボール箱だ!

この際『なぜにドリアン?』というツッコミはおいといて……。


 当然僕達は、これさいわいと面白がって、その箱めがけ石を投げ続ける。

すると、そのうちの一つが偶然、段ボール箱のふちに当たり、快い音をたてた。


「わんわん!」

 ダンボールの中から、かん高い鳴き声がすると、黒色の子犬が顔をつき出し。

 瞬間、僕達は石投げを止め、流される子犬を追いかける!


 激しい流れに、石の当たった衝撃に、ただでさえ危ういバランスのダンボール箱が激しく揺れ、今にも逆さまになろうとした時……


 子犬がダンボール箱から滑り落ち、流されてゆく!


「わんわんわん……」

 激しい川の流れに浮き沈みする子犬は、鳴き続けることしか出来ない!


(子犬を助けなきゃ!)

 僕は子犬を助けたい一心で、迷うこと無く激しい流の川に入り、子犬の方へ! 

ジョニーが川沿いで僕を追いかける。

 これはまずい……見た目以上に水かさがあり、流れも激しい、こけないように歩いてたら、子犬との距離はひらく一方だ。


「あっ!」

 焦ったばかり、一瞬の油断が招く不運。

僕は、水流と川底の石に足を滑らせ、尻餅をうった常態のまま流される!


 そんな僕を追いかけ、川沿いを必死に走っているジョニー、とうとう息が上がり立ち止まってうなだれ咳き込みながらも、その口は、僕の名前を叫び続ける!









 僕は、もがくように泳ぎながら、なんとか子犬の側に辿り着き、抱き抱える!


 しかし動転した子犬は、僕の胸から離れようと必死に大暴れ。

子犬を抱える事で、右腕が使えない僕は、左腕一本で必死に水をかくしかない。

が、この激流には効果なく、溺れ、沈み息が出来ない!

(苦しい、やだ、誰か助けてよ)


 その時、頭痛の様に頭の中で声が響く

『このままだと貴方は死ぬわ、だからその犬を放しなさい!』

(やだ!) 僕はその声に逆らうように、力いっぱい子犬を抱く!

『放したって、その犬(こ)は死なないよ、だって』

『いいから放しなさい!』

(やだ!)

『もうって後ろ! ダメー!』


 その声に後ろを向いた僕は……目の前に迫る橋脚に(ぶつかる)と理解するも、身動きできず……流されるまま、橋脚に背中を勢いよくぶつけ!


 そのまま徐々に、意識が薄れゆく中……僕は必死に願った。

(僕はどうなったいいから、子犬を助けなきゃ! 子犬を助けなきゃ子犬を助けなきゃ……子犬……助けなきゃ……こ・い・ぬ)


……そして……。

「わん! わん! わん!」

「太郎! 太郎! 太郎!」

 かん高い子犬の鳴き声と、泣き出しそうなジョニーの声に目を覚ます……。


(あれ?)

 いつの間にか、僕と子犬は、大きくカーブした川岸に、押し出されるように流れ着き、仰向けになっていた……。

 堤防や橋の上にはたくさん人が居て、僕を見てる……はっきりしない頭の中で、今度は『ピーポーピーポー』と救急車のサイレンが響いている。

(助かってよかった)


……そして僕と、子犬と、ジョニーは、すぐさま救急車で近くの総合病院に運ばれ、手当てを受けた。


 その後、病院に両親が駆けつけて来て……泣いてる母さんに怒られ、父さんにも怒られたけど、そんな父さんに母さんの居ない所で頭を撫でられ誉められたのは今でも誇らしく覚えている


 ちなみに、運が良かったのか……僕は擦り傷と、軽い打撲。

子犬は濡れて体温が低下だけで、無傷。

ジョニーは……両足の筋肉痛と擦り傷、大声を出しすぎ喉(のど)の炎症。

即日退院。


 そんな事より子犬はどうしたかって?

 子犬を助けた三日後……。

自宅(山田家)の小さな庭で、僕はジョニーと子犬の名前をめぐり、まるで犬の喧嘩の如くキャンキャンと口喧嘩をしている。


 ジョニーには秘密だけど……一晩中、お父さんに泣いてすがりつき、頼んだ(だだをこねた)結果……子犬を僕の家で飼って良いことになったんだ。


「日本人で犬っつうたら『ポチ』やろ!」

自信満々にジョニーが子犬を指さす。 負けじと僕も

「川で流れてたから『桃太郎』!」

「それって、ちと可哀想やろ」

 もっともなジョニーの指摘に、黙り込んでいると……


「それやったらドリアンの段ボールから出て来たんやから……『箱太郎』か『ドリアン太郎』やろ」

「そっちの方が、可哀そうだよ……だったら、浦島太郎?」


 もうそれは『犬の名前』ではないだろう……などと……この様に互い意地の張り合いすること、小一時間……。


 不意の閃きに僕は、声と手を挙げて提案する。

「はいはい! だったら、どっちの名前が気に入るか決めてもらおうよ!」


 ジョニーの返答も待たずに、子犬を抱きかかえるなり、僕とジョニーの前に座らせると……ジョニーも納得してくれたのか、首を縦に振り


「おう、なるほど……名前を呼びまくって、来てくれた方ににするっちゅう事やな」

「うん」


 そして、三角形になる様に、少し離れて立つなり、われさきにとお互いつけたい名前を連呼し始めた。


……なんともベタで単純だが、フェアーな決め方だ。

 しかし僕達の予想と反して、子犬は首を傾げるばかりで、座ったまま一歩も動いてくれない。


「ううん、しゃあない、アレ出すか」

ジョニーが側に置いてた鞄に手を突っ込む

(ずるい、もしかして骨とか餌を……だったら僕だって)

すぐさま僕はドックフードを用意して、どうだとばかりジョニーを見る。


ジョニーがおもむろに取り出したもの、それは

(エロ本だと~!)

心で叫び咳き込んだが、すぐに(勝った)と笑みを浮かべ、ゆっくりと腰をおろし、

「桃太郎、桃太郎……ほら(いつもよし少し高い)ご飯だよ」

と再び名前を呼び始める。


「どやポチ、おっぱいのでかいねえちゃんやぞ、ええやろ」

そのフレーズと写真にピクリと耳を動かした子犬は、僕はおろかドックフードにすら目もくれず、ジョニーの元へとかけよるなり、ひろげられたエロ本に「ク~ン」と鼻を鳴らし体を擦り付けている。


「え?」

 幸せそうな子犬に、放心常態の僕は言葉もなく、立ち尽くすだけだった。

その日から子犬の名前は『エロ犬』いな『ポチ』……に決定した。

(オスの本能。恐ろしや)


 どうやら当時の僕には、子犬が食欲よりも性欲を選んだ事が相当ショックな事だったらしく、その後の記憶は、霧がかかったようによく思いだせない…………。


と切りのいい所なので、これにて回想おわり……話を、現在に戻そう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。