彼女達の事情(その三)
白い湯気と漂う石鹸の香りの中、シャワーの音が聞こえる。
ここは天使が翼をおもいきり伸ばしても大丈夫なほどの広さと、銭湯なみの大きな浴槽が有る我が家自慢のバスルーム。
一足早く大きな浴槽に浸かっている真弓は、指先まで伸ばした足をゆっくりと上下に動かし、心地よさそうに鼻歌をうたっている……この曲は、間違いない『どろどろトライアングル』のオープニング『さらさら』だ。
(「どろどろじゃなかったのかよ」などと言葉がどこからか聞こえてきそうだが、説明が面倒なのでこの際、無視させてもらおう)
私は目を閉じ、彼女の鼻歌を聴きながら立った状態でシャワーで沐浴をし身を清めている……すると歌い終えたのか、鼻歌をやめた真弓が湯船にひじをつき、私の肢体をまじまじと見ている。
いくら姉妹でも、こんなに見られてると……恥ずかしいもので
「ちょっと真弓、そんなにじろじろ見ないで!」
私は慌て両手で胸を隠し、真弓に背中を向け翼でお尻を隠し恥ずかしさに顔を赤らめる。
そんなとっさの私の行動に、唖然とした表情を浮かべていた彼女は次の瞬間、軽くふきだすと、軽く笑みを浮かべながらとろんとした目で、ため息ひとつ、ゆっくり口を開く。
「はぁ、こう改めて見ると、お姉ちゃんて確かにいいカラダしてるな~って、髪は黒く艶々で、肌は白くて。胸とかお尻もあたしみたいに大きすぎないし、翼も綺麗な白で大きい……ほんと、あたしの自慢のお姉ちゃん」
内容はともかく、褒められて悪い気持ちにはならない、むしろ背中をくすぐられるような照れくささに口元がゆるんだ。
私は息を吐き整え、胸を覆っていた両手を離し、十分ほどで体を洗い終え、シャワーを止めて、回れ右をし「次どうぞ」と手招きをし、入れ替わるように真弓と交代し……ゆっくりと湯船に浸かり……さっきのおかえしとばかり、彼女の姿態をじっと見て率直な感想を口にすることにした。
「う~ん。そういう真弓だって、私以上にいい肢体してるわよ、ブロンドに近い茶髪、健康そうな薄褐色の肌に、豊かな胸、と安産型のお尻。いつも男の人に声を掛けられて……」
「ねえ、お姉ちゃん、お互い耳にたこが出来るくらい何度も言ってるけど、この胸はあたしのコンプレックスなのよ、これのおかげで胸ばかり見られ、馬鹿にされ、誰一人としてあたし自身(性格など)を見てくれないんんだから」
カンにさわったのか突然声を上げ声を荒げる真弓に私は反射的に
「ごめんなさい」と頭を下げると、真弓は苦笑いして
「いい、べつに慣れてるから……で、他には?」
「天界、魔界で唯一の半神半魔の天使その清らかな濃いグレイの翼おもつ、その存在すら羨ましいわ……ちょっとおてんばだけど私の可愛い妹よ」
「ありがと!」
上機嫌になり、身持ち良さそうに頭を洗う真弓を見て、私は心の中で本音を彼女にそっと呟いた。
(真弓……私は、容姿なんかよりも、その明るく真直ぐな性格が羨ましい)
そう、うっとりとした目で気持ち良さそうにシャワーを浴びる真弓の姿を見ていると……
「で、ご感想は?」
と、不意に彼女が見返すように私顔をじっと見て、質問してきました!
まさか!妹の姿態を眺めてるシスコンの姉と思われた⁈
豆鉄砲をくらったハトのような表情をしているであろう私は、不意な質問に驚きながら、けんめいに自然に振舞おうとするも
「かっ! 感想って⁈」
思わず声が裏返ってしまいました。
赤面しうつむく私を見て、真弓はかるく一笑し、シャワーを止めると……浴槽に浸かっている私の側に来るなり、ふちに座り足を湯につけ一息き、空中にサッカーボールほどの大きな水晶球を物質召還させ、浮遊させると、再び私の顔を見て、ゆっくと口を開く
「ええと、下界で直に会った……誰だっけ?」
「太郎さん」
「そうそう太郎君」
わざとらしい真弓の言動に、私はシスコンの姉と勘違いされてないことに一安心すると、すぐに太郎さんの顔を頭に浮かばせた
「思っていたとうりの、優しい感じの人でうれしい」
そして、真弓が手をかざすと、水晶球が数回光り……球体の中に、リビングであろうか、ソファーに座り戯れる太郎と、一匹の黒い毛並みの犬(柴犬?)の姿が映し出された。
「昨日も、普段はこういう風に水晶越しにしか見てなかったからね……あっ、この犬も元気にしてるんだ!」
よほど気に入っているのだろうか、真弓が嬉しそうに犬を指差す。
むりもない、なぜならこの犬は……
「ええ……でも、今度いつ彼と人間界で巡り会えるの……憂鬱で寂しい」
また……この先ずっと私は、水晶越しでしか彼を見守ることしか出来ないの?
そんなのは嫌、だけどしょうがない……だて私は、彼と同じ(人間)じゃないもの。
おちこみため息をつき、殻に閉じこもろうとした私の頬を、真弓が人差し指で軽く突っつき、私を我に返してくれた……けど。
(私どうすれば良いの?)
すがるような目を向けてしまう私に、真弓はため息をもらし、困ったような表情で頭をかかえる
「はぁ、又すぐにおちこむ、それお姉ちゃんの悪い癖だよ、とりあえず、太郎君と会える良い方法……あたしも考えてあげるから、元気だして、ね」
そう励ますよう優しく声をかけ、私の頭をつよく撫でまわしてくれる……けど、
そのうち、かなり髪型を乱されてきた事に、さすがに私も、これにはたまらず
「いい加減になさい」
と声をあげ、反射的に真弓のてを払い除けるなり、逃げる様に距離をとり、立ち上がって、真弓と向かい合い、思わず彼女をにらんでしまった。
しかし真弓は、難なくそのきつい視線を正面から受け流すと、安堵の笑みをかえして口をひらいた。
「よかった、元気になって……で、そろそろ夕食の時間だから早く出よう」
そう真弓は立ち上るなり
「今日のおかずはハンバーグ~~」
と跳ねるような足取りで浴場の扉の前に立ち、辺り構わず勢いよく翼を広げ、したたる水や泡を一気に吹き飛ばすと、そのまま脱衣場へと駆け込んだ。
残った私は、真弓から飛んできて浴びせられた水や泡を、手でぬぐいながら「もう、毎度仕方な子ね」と一笑して、浴槽から出ると、もう一度かるくシャワーをあび流し……一足遅れで脱衣場へと入るとすでに、そこには真弓の姿は無かった。
私はドライヤーとタオルを併用し丁寧に翼と髪を乾かし、部屋着を着て、髪にくしをとおしながら視線を下ろすと、脱衣かごには真弓の服が、ほぼ変わることなくたたまれたま残っている。
(あの子ったらまた)
ため息混じりに肩をおとした私は、脱衣かごの服を手に取り、夕飯の準備までのわずかな間、真弓が居るであろう共同部屋にもどることにした。
そして部屋のドアを開けると、案の定そこには、あぐらをかき前のめりで、テレビ画面にかじりつく様に『どろどろトライアングル(録画)』を視ている、真弓が。しかも!
「真弓! なんて格好してるの!」
赤面して思わず声を上げてしまった。
だって、脱衣かごに残された服から予想出はしてたとおり、真弓は今、パンティー一丁のトップレスという『なんとも男らしい格好』をして、私の顔を見ている。
声を上げる私に、真弓は『今いいところなのに話しかけるな』と一瞬、不機嫌そうな顔で、私を睨み、すぐ、笑みを浮かべ笑いだす。
「ははは。なにお姉ちゃん赤くなってるの? もしかして、部屋で裸になてるのっておかしい? べつに減るもんじゃないんだから」
「恥ずかしくないの。服を着なさい」
「変なの、お風呂じゃあんなにあたしの裸、じろじろ見てたのに」
「じろじろなんて……もう、ああ言えばこう言う、とにかく服を持って来てあげたから、早く着なさい!」
「はいはい」
あっけらかんと答える真弓を必死でさとす私……
いつも繰り返しに、心でため息をつきながら服を渡すと、真弓は言われるがまま、そそくさと服を着るも、少し着崩れたじょうたいで、再びテレビにかじりついてしまう。
(まあ良いか)
毎度の事と少し呆れ顔で諦め落ち着いた私は、真弓から一歩下がったところで女の子座りし、一緒にテレビを視ることにした。
そして夕食の準備が始まった。




