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彼女達の事情(その二)(優子)

 ここは天界……。


 とはいえ、やはりこの時間帯は、地上界と同じく天界(ここ)も家路を急ぐ天人や天使で、少し動きづらい程にぎわっています。


「行こ(まったく、ここでもあたしの場合時間かかるんだから)」

せかすように真弓が私の手を引っ張り、神殿入り口『入出界ロビー』へと歩き出し……。その受付窓口でそれぞれ『名前住所、異界(どこ)(人間界)で何をしてきたか』など、毎度の簡単手続きを行い、同じく毎度の倦怠感(けんたいかん)で一杯のため息をもらします。


 手続きを終え、窓口を離れようと回れ右をした時

「あたし見たいテレビがあるの、だから飛んで帰ろう」

 焦り早口でしゃべる真弓が、私の手を少し強引に引っ張り、早歩きで天使専用の飛翔空間へと向かっていき……到着するやいなや


「先に、帰ってるね」

と手を離した真弓は、周囲の安全などお構いなしとばかりに走り出し……走りながら制服の背面を霊体化させ、そこから翼を実体化させるなり

 彼女は周囲に突風が起こるほど翼を力いっぱい羽ばたかせ、一気に高く舞い上がり、そのまま振り返ることなく両翼で雲を引くほどのスピードで離れていきます。


 急においてけぼりにされ、呆然と上を見上げる私……そんな静まり返った空気の中を、真弓が羽ばたいたさいに翼から抜けた、灰色の羽たちが、宙を漂い光の粒子となり消えていく……。


「あのスピード、また飛行のうで上がったんじゃないか~!」

「上昇すぐに輪っか。音速超えてたしな」

「天界のバルキリースカイレースだろうて。ははは」


 周囲のざわめく声に『はっ』と我にかえった私は、すぐさま

「毎度毎度、妹がすみません」

と周囲に居る天使の皆さんに頭を下げる……と、苦笑いとともに

「ははは、もう慣れました」

「いや~、むしろあの元気すぎる風が有るからこそ、天界に帰って来たんだと実感できるよ」

「今日も真弓ちゃんは元気で少しうらやましいです」

「そんなに気にしなくても大丈夫だよ」


「ああ、今日のパンチーは黒か……ああ、ありがたやりがたや」

(おい!)


 など(最後のは除き)沢山よせられる優しい言葉に安堵した私は

「ありがとうございます……すいません妹を追いかけたいので、これにて失礼させていただきます」

私はもう一度、深く頭を下げ、周囲の安全を確認した後、背中の翼を実体化し羽ばたかせ、彼女の後を追いかけます。


 十数秒後……神殿から少し離れ、真弓を追うため全速力で飛ぶ私の眼下には、天上界の町並みや建物が、すごい勢いで流れています。


『天上界の建物』と言われ、皆さんが頭に思い浮かべるデザインは、私の思うかぎり多分……雲で出来たモコモコと柔らかくカラフルなもの、又は、ギリシャ神話に出てくる様な石やレンガ造りの重厚な建物、だと思います。


 その予想や期待を裏切るようで申し訳ありませんが……少し長く説明しますと

神殿や城など歴史的な建造物以外の、大半の建物は……かつて地上界(人間界)で大工、建設業をなさっていた方々の魂『天人』の手により建てられたものなので、そのデザインは地上のものと差程変わらず、私達の家も白い外壁にスレート瓦の二階建て、雲の上に建っている事以外、いたってお馴染みのデザインとなっています。


 と、つまらない説明はここまでにして、元の話に戻りましょう。


 自宅の玄関前には、ドアレバーへと手を伸ばす真弓の姿が……どうやら、お望みのテレビの時間に間に合ったらしく、にんまりと笑みを浮かべています。

私はすぐさま急降下し、着地するさい、わざと彼女の側で翼を羽ばたかせ、髪形を乱れさせた。


「わあ! おいてけぼりにしたからって、いくらなんでもひどいよ、お姉ちゃん」

真弓が手櫛で髪を直しながら困り顔で、私をにらむ


「髪形乱してごめんなさい、でもね真弓、飛ぶ時は周囲の安全をちゃんと確認からにしなさいって、もう何回言ったら分かるの⁈」


 私の忠告に真弓は、腰に手をあて、軽くため息をもらし、うつむき加減に首を振りながら近付き、じっと私の目をみて、言い返してきました


「は~。分かってないのはお姉ちゃんの方……いい『思うがまま、自由に生きる』これぞ魔族の本懐……半神半魔のあたしらしくて良いじゃない……それに今日も心優しい天使さん達は許してくれたんでしょ?」


「…………」

「だったらいいじゃない、問題なし!」

 ある意味正論に、少し返す言葉を失っていましたが、彼女のワガママぶりに、私は声をあげずにはいられません


「善意の上にあぐらかいちゃ駄目!」


 真弓は、一瞬ちらりと私に目をむけ、鼻で笑うと、そっぽをむいて聞いて、ドアを開け玄関へ……彼女の態度に、むきになった私は、負けじと言葉を続けます


「半神半魔だから、というなら貴女だって半分は神族でしょ! だったら、思いやりと、博愛の心を~」


 私に背を向け靴を脱ぎながら「はいはいはい」適当に返事をすると、

振り向きざまに「で、なに?」と、あっけらかんとした表情と言葉を返してきた。


 毎度繰り返される問答に、さすがに呆れ、おそう頭痛に片手で頭を抱えながら

「今日はもういいわ……また今度、落ち着いた時にでもじっくり話し合いましょう」

話題を終わらせる私に……

「は~い」

明るく返事をした真弓は『口うるさい姉を論破してやった』と言わんばかりの得意げな笑みを浮かべ、鼻を鳴らしながら玄関を上がると……廊下の突き当たりのリビングに居るであろう、お父さんに聞こえるよう大きな声で


「ただいま~」と、いつもの挨拶をする。


 しかし、返された言葉はいつもの「お帰り~」という優しい家族の声ではなく、どこかつめたく低いお父さんの声だった……。


「二人とも! ちょっとこっちに来なさい!」

その怒を内包した大きな声が、私達の居る玄関まではっきりと届いてきたのです。


 なぜお父さんが怒こっているのか、私は今朝からの事を思い出そうと少し頭を傾けた瞬間、早押しクイズのように答えが出た。


もしかしてお父さん、先程の地上での出来事を視て、怒ってるの?

無理もありません。

 半神半魔であれ(まだ)悪い行いをしていない人を(一方的に)罰したのですから……。


 そう私は、お父さんに怒られる事を覚悟し、少し伏せ目がちに玄関を上がり、そのままリビングへとのびる廊下を、真弓と一緒に歩いてきます。


 無言……姉だから分かりことがあります。

いつも元気な真弓でも、このお父さんの声に刺激され、先ほどの地上での行いを反省ているのでしょう。

(そうでしょ真弓……反省してるんでしょ?)


 元気づけるため言葉をかけようと、彼女の方へ視線を向け……一瞬、私は目を丸くし、疑いました。


 真弓は反省するどころか……獲物を狩ってきた猟師のように、誇らしげな表情でまっすぐ正面を向き、足取りも軽く歩いています。


 まったく彼女らしいというか……あっ、逆に私が元気付けられてしまいました。

そのまま私達は、怒っているであろう、お父さんの待つリビングの扉を開け、中へ入りました。


……案の定……。


 地上で起きている様々なモノを視る事が出来る……昔でいう『魔法の水晶』と同じ働きをする。大画面の『千里眼モニター』の画面には、先程の地上での出来事(問題のシーン)が、リピート状態で映し出されています……。


 それを食卓の椅子に座り、しかめっ面で視ていたお父さんが、扉の閉めた音に気づき、私と真弓の方を向くと、すぐに問い詰めてきました

「女の子、いや、天使ともあろう者が、これはどいゆう事かな~?」


 お父さんの言葉に『反省しています』『二度としません』などお決まりの言葉以外返すことが出来ないと委縮し、怒っているであろうその顔を真っ直ぐ見れずに俯いている私の私の左側に居た真弓が一歩前に出てました。

(もしかして私をかばおうと?)


 顔を上げる私の予想と反し、自信満々に鼻を鳴らし、胸を張って答える真弓の姿が。

「ケダモノへの天誅、いわゆる愛のムチね」

(また真弓ったら余計なことを……これじゃ火に油よ)


 すぐさま私は、燃え上がるであろう父の怒りの炎を、今のうちに少しでも沈めるべく、フォローする台詞を言おうと口を開いた瞬間!

お父さんが、テーブルに手を付き立ち上がると、真弓の前に歩み寄り、右の拳を前に突き出しました。

(真弓ごめん、フォロー出来なかった)


「真弓、ナーイス天誅!」


 お父さんも、私の予想を裏切り。その拳には、ピンと親指がたっていた。

「えっ」

思わず声が出る……そのまま状況がつかめず、おろおろ戸惑っている私の前で

「でしょ~もっと褒めて」

と真弓は、にっこり笑みを浮かべながら、撫でてもらおうと、お父さんの拳の前に軽く頭をさげる。


(ほんと真弓って、お父さんが好きよね、家族など心を許した相手には無防備……まるで子犬みたいで、可愛い)


すると笑みを浮かべたお父さんは、拳を解き、優しく真弓の頭を撫で、頷き

「当然だ……ふらちにも、わしの娘達の胸を触ろうとしたのだからな……まだ足らないくらいだ」


「そうそう……ありがとう」

頷きあいづちをうった真弓は、父さんから離れ……私の側に立ち嬉しそうに一度鼻を鳴らした。


急に熱が入ったのか、お父さんがテーブルを軽く叩き立ち上がると、自信に満ちた声で宣言しました

「娘達の胸を揉んで良い男は父である、わしだけだ!」


「そうそう……って、おい!」

すかさず絶妙なタイミングで真弓の突っ込みが入った!


お父さんは一度苦笑いをし笑い出し、つられて真弓も笑い出した……そんな二人の問答を聞いて、落ち込むのが馬鹿らしく、思わずふきだしてしまい……改めて前を見ると……二人がじっと私を見て、微笑んだ。


(もしかして。今のやりとりって、私を元気付けるため、わざと?)


「まあ、とりあえず、わしの言いたいことは以上だ……優子、驚かしたようですまんな……二人とも行って良いぞ」

そう言うとお父さんは、なにかを納得したように一人頷き、私達に背を向け椅子に座ると、千里眼モニターのスイッチを消して、テーブルの上の雑誌を読み始めました。


とり残された私と真弓は

「どうする?」と互いに少し困った顔を見合わせて、首をかしげ

「とりあえず部屋(姉妹の共同部屋)に鞄を置いて、部屋着に着替えよう」と一緒にリビングを出ました。


 部屋に行く途中の廊下にて

「そう言えば真弓、貴女の視たかったテレビ番組って何だったの?」

「お姉ちゃんも見てるから知ってるでしょ、 毎週水曜日、夕方五時半からしてる、テレビアニメ『どろどろトライアングル』(女子向けアニメ) 」

「えっ? それなら毎回録画してるじゃない」


「ちっち。分かってないなお姉ちゃん……確かに録画はしてるけど、そのうえで、リアルタイムでも視るというファンのこだわりを」


 真弓の返事にあきれ言葉を失った私は、少し混乱した頭で歩いていると数秒後、部屋のドアを開け……先に入った真弓が窓のカーテンを開けると、風と共に夕日が部屋中に広がり、そのまぶしさと風は『ぼ~っ』としていた私の頭をもとに戻してくれた。


 そして勉強机の側に鞄を置いた私達は、すぐに制服を脱ぎ始め……私は先の話題を続けます

「録画しながら視る、真弓の心境は今一つ分からないけど、私も『どろどろトライアングル』は好きよ」


「意外、お姉ちゃん、ただあたしに合わせて、仕方なく視てると思ってたもん」


「そう? だって、あの恥ずかしがりやで臆病な男の子が必死に悩むところなんて、なんだか可愛いじゃない」


「お姉ちゃんには、あれが、そう見えるんだ……あたしには 優柔不断で、トラブルばかり起こしてるくせして『自分は悪くない』なんて無責任に呟き続ける、へたれ男子主人公にしか見えなくて、腹が立つわ……で、そんな奴に恋して、尽くす二人のヒロインが、もう可哀想で目が離せない」


(姉妹といえど、感想は人それぞれという事ね)

と私は苦笑いをして、話題を曖昧に終わらせ……。そして、アニメ試聴後……満足げな真弓に


「真弓、夕食前に一緒にお風呂、入らない?」

「うん、入る」

 私の何気ない提案に、真弓は弾むような声で頷いた。


 白いTシャツにスパッツといったラフなペアルックをした部屋着姿の私達は、二階にある自室を出て階段を下り、玄関の側にある脱衣室へ……


 待ちきれなかったのか、私が脱衣室の扉を閉めるよりも早く、真弓は部屋着や下着を脱ぎ散らかし、帯のようにきつく何重にも胸に巻いたさらしを解き投げ捨て、その開放感に胸をはり深く息を吸いこむと同時に翼を実体化させるなり、勢いよくドアを開け広いバスルームへ駆け込んだ。


 真弓の背中を見送った私はため息一つ、彼女の脱ぎ散らかした服の後片付けを始めるます……

 もう何度したことか、私は手馴れた手つきで裏返ったまま散乱する部屋着やズボンをたたみ脱衣かごに入れ、さらしをバームクーヘンのように巻き、たたんだ部屋着の上に添えた。

その間わずか一分、神族ゆえかまさに神業といえよう


 もう一度周囲を確認し、優子はようやく服の裾に手を掛けゆっくり脱ぎ始め……息を整えながら翼を実体化させると、静かにドアを開け広いバスルームへ……。

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