告白
十二月二十四日、クリスマスダンスパーティー当日の午後七時……残念ながら快晴で、雪の降るホワイトクリスマスとはいかなくとも、満月と星ががきれいな
息白く寒い夜空の下……太郎たちは、昼休みに決めた待合場所である、第二体育館正面駐車場のベンチに座っていると
「ヤッホー、お待たせ」
と寒さも吹き飛ぶくらい元気に手を振る真弓の声に、太郎達は立ち上がり、二人のそばに駆け寄り挨拶をする
「こんばんわ」
「こんばんわ、太郎さん」
「こんばんわ、て真弓ちゃん凄いドレス着とるな……似合っとるで」
「ありがと、ってむり……はははは、タキシードって、七五三みたい……ジョニー君はいくつになったのかな」
「十六ちゃい、てなに言わすんや」
「はははは」
「これはおかんが着ていけって言うた、おとんのおさがりや」
「優子の服は……ロングコート」
「ええ、あたしよりすごい服を着ている」
「いずれ見れるわ……太郎」と、真弓の台詞を優子が止める
「真弓……すいません太郎さん、会場に入る前に、少し人気の無い所で、二人だけでお話しできませんか?」
「えっ……はい」
人気の無い所で、という言葉がどうも気になるが……いつになく真剣な眼差しを向ける彼女に疑問を、ましてや、嫌らしい考えを持ってはいけないと思い、頷いた
「少しかかるかもしれないので、二人は先に入って、パーティーを楽しんでください……では太郎さん」
優子に導かれるように、太郎が二人に背を向け、歩き出そうとした時
「太郎さん」
さん付けをされ振り向く二人に、真弓は
「太郎さん、何が有ろうと平常心を忘れないで下さい」
「うん」
その返事を聞いた真弓は、さらに真剣な顔で
「では、姉さんを……どうかよろしくお願いします」
と、目を閉じ深く頭を下げた
普段なら絶対しない彼女の姿に戸惑う僕と、少し後ろでもの言わず立つ少し悲し気な優子の前で……彼女は時が止まったように頭を下げたまま動かない
(これは気安く、頭を上げてください、なんて言ってはいけない)
僕は深呼吸をし、彼女の頭を撫でるように手をそえ
「分かりました……行ってきます」
と言い残し、再び歩き出した
「ついたよ……パーティーで、いくらテンション振り切っても、こんなところ、人は来ないよな」
いくら人気の無い所とは言え……学食裏の、ゴミ収集場、焼却炉のそばを選んだ自身のセンスの無さに、独特な臭いの漂う中ため息を漏らす
「やっぱり臭い……ごめん……ほかの所に」
「いいえ、ここなら安心です」
と、ゴミ収集場を見ながら、安堵する様に笑みを浮かべ……ロングコートを脱ぎ……上半身が裸エプロンの様に背中丸出しのメイド服姿……色っぽい、いや
……そんな彼女の姿と行動に、これ以上になく戸惑ってしまい、つい後ずさるが(とにかく落ち着こうと)深呼吸
「……うん……それで僕に話したい事って?」
「その……私は……いいえ、私と真弓は……人間じゃないんです」
頭の片隅で……愛の告白ををされるのでは、等と淡い期待を浮かべていた考えの、はるか上空と飛び越えるとんでも発言だが
先程と変わらない、真剣な眼差しを向ける彼女に
「それは……確かに真弓さんの、運動神経だけをとれば人間ではないと言えなくは……でも、優子さんまでって」
「いいえ……そう言う意味ではなく言葉どおり、文字どおり、人間ではないんです」
(いくら真剣な目を向けられても……これは)
と彼女のしつこい『人間ではない』発言に少し呆れた僕は、少し頭を押さえ
「えと、俗に中二病と呼ばれる人が言う……魔法使いとか?」
「いいえ……私は病気ではありません」
「では、何だといううですか⁈ ……すいません、感情的になって……人間でなければ、何だと……」
少し声を上げてしまったが、真弓の平常心で、という言葉を思い出し、謝る
「天使です」
「えっ?」(それは自分が天使みたいに可愛いという、自画自賛?)「すいません、もう一度お願いします」
「私は、天使です」
優子の言葉に再び頭を押さえる太郎
(どう返答すればいいんだ……とにかく落ち着け……そう平常心だ)
「うん、とにかく……なにか天使であることを証明出来ますか」
「はい」
そう頷き、指輪を外した瞬間
あたかも、彼女を中心に風が起こったかの様に、砂埃が周囲のちりや落ち葉を吹き飛ばした
言葉を失ってしまった僕の前で
「では少し暗いので、焼却炉に火をつけます」
彼女は、数メートル離れた焼却炉を指さして、僕が視線を向けた事を確認するるなり……フィンガー・スナップ(指パッチン)
すると、いきなり焼却炉内のごみが、勢いよく燃えだした
「アストラル・ワークス……俗に言う魔法、というものが……あっ」
「すごいけどこれじゃあ、手品師、良くても魔法使いだよ」
「はい……言いながら気付きました」
一呼吸、気を取り直した彼女は、焼却炉に立てかけている直径二センチ程ある、灰を掻き出す、L字型の小手を僕に手渡すと
「これを曲げてください」
「無理だよ」
何気ない口調の無茶ぶりを、あっさりと断る僕に苦笑する彼女
「ですよね……しかし指輪を外した今の私なら、簡単に曲げることが出来ます」
と言うなり、あっさりと曲げ……言葉を続ける
「ほらね……て、このままではいけませんね」
と手をかざし、その手が光ったと思えば、くの字型に曲がった小手が、見る間に元の直線へと戻っていく
「どうですか? 信じていただけましたか?」
「えっ?」
もう、さっきから休みなく起こる、架空的な現実に、驚きながらも平常心を保とうと、息荒く言葉を出せない僕に
彼女は、悲しげな表情でうつむき
「では最後に……その……翼をお見せします」
そう言って僕に背を向けた彼女はエプロンの肩ひもをずらし……その白い背中から……純白に輝く翼をはやし……再び正面を向き、僕の目を見て、
ゆっくりと翼を広げ
「信じて……いただけましたか?」
「うん」
「良かった」とこれ以上にない安堵の笑みを浮かべたとおもえば……なぜかまた悲しげな目をしささやく「……愛してます」
自身の心の声かと思えるほどの、あまりに小さな声に……僕は思わず
「はぁ?」
嘲笑するような表情と苦笑いを向けてしまう(自身にむけて)
「ごめん、今のはそんな」
慌て弁解するが……涙を流すことも忘れるほど悲しむ彼女に、僕の言葉は届くわけがない
彼女も自身を嘲笑するような表情で苦笑いをし
「私、ばかみたい…………いえ……こんな私ですが……太郎さん……そばに居て……思いを寄せて……良いですか」
「えっ、どういう意味?」
まだ驚きで思考停止寸前の僕
「えっ」と、時が止まったように動かなくなったかと思った……瞬間
波動!(アストラルバースト)
見えない衝撃波を出し、翼から羽を舞い散らせ……彼女は、膝から下が無くなったかの様うにふらつき、頭からうつぶせに倒れ……
背中の翼と、宙を舞う羽は光の粒子となり消えてゆく
数分後……思考と気持ちが落ち着いた僕は
(とにかく助けなきゃ)
と、目の前で倒れたままの優子に伸ばそうとした手は、突然現れた人影に蹴り飛ばされる
「お姉ちゃんに触るな」
そう僕の手を蹴り飛ばしたのは、真弓だった
真弓の後を追い駆けて来たジョニーが、息を切らせながら
「なにやねん! パーティーの途中いきなり、お姉ちゃん、て声上げたと思ったら走り出して……て太郎と、優子ちゃんどないしたんや!」
真弓は倒れたままの優子を見て、怒り心頭とばかりに声を上げる
「太郎お前、お姉ちゃんに何をしたか、言ってみろ」
「僕は」
「わあ、言い訳なんか聞きたくない!」
「そんな無茶な事言ったるなや」
ジョニーの忠告などお構いなしに、真弓は指輪を外し、優子の背中に手を当て目を閉じ……数秒後ため息交じりに苦笑いをし、僕を見て
「怒ってごめん……でも太郎君、あんたって相変わらず優柔不断ね……もうどうしてお姉ちゃん、こんな男に恋したの?」
「それって」
「そう、告白されてたの……愛してますって言葉、聞こえなかった?」
疲れた様な笑みを浮かべる真弓に、僕は優子の言葉を思い出しはっとする
「太郎君……お姉ちゃんへ、告白の答えがまだみたいだけど……これだけは言わせて……ありがとう……お姉ちゃんを、天使の存在を認めてくれて」
真弓はパーティー会場入り口同様、目を閉じ頭を下げた
ジョニーが、考えるようにあごに手をあて、真弓に質問する
「真弓ちゃんが、そないに頭下げるってことは、もし太郎が、天使の存在を認めなかったら、どないなってたんや?」
「太郎君には、あまり言いたくないんだけど……それでも聞きたい」
「はい」「もったいぶるなや」
「うん……お姉ちゃんが天使である事を、天使の存在を認めなければ……お姉ちゃんは、その瞬間消滅して、あんた達の記憶からも消えて……でも記憶だけ残されたあたしは、
太郎を絶対に許さない、それこそ殺したいほどにくむわね」
この事実から逃げようとしないか、太郎の目をじっと見ながら、真顔で話す真弓
それを知った太郎は、目を丸くし、呼吸が乱れ、悪寒に似た恐怖を覚えた
「そんな、失敗したら消えてしまうなんて大事なこと、なぜ先に言わなかった」
間抜けな言葉とばかり、真弓は太郎を、嘲笑しながら口を開く
「あんたバカ、そんなの言える訳ないじゃない……もし先に言ってたら強要してるようだし……お人好しのあんたの事だから認めざる負えなくなる」
「そうだよね……ごめん」
「ほんま、普段はあんなに大人しい優子ちゃんが、文字どおり命がけの告白なんて……わいより根性あるで!」
「ほんと……それと太郎君、改めて、ありがとう……お姉ちゃんが消えていないってことは、愛してるまではいかなくとも、天使であることを認めてくれてる」
「優子さんからの告白の返事は……彼女が目を覚ましてから必ずするよ」
「その言葉、絶対忘れないでね……よかったね、頑張ったねお姉ちゃん」
そんな、しんみりした空気を壊そうとしているのか、ジョニーが真弓を指さし、茶化すように口を開く
「優子ちゃんが天使ってことは、真弓、お前も天使って事か……むしろ悪魔って言ってくれたほうが信じるわ、ははは」
「ありがとう、悪魔ってところまで信じてくれて……」
とあっさり、翼をはやし、二人の驚いた顔を確認するなり消し、言葉をつづける
「あたしの場合は複雑で、天使と悪魔のハイブリット、なんだよね」
照れくさそうに、人差し指で自分のほほをつつく真弓に、つられたように、ジョニーも照れくさくなったのか、冗談交じりに
「おいおい、今の自分の正体明かすって……優子ちゃんの真似か、もしかしてわいもこと好きってことか……そんなん、照れるやんけ」
「ええ、大好きよ、愛してるわ」
急に真顔になり言葉を返す真弓に、思わず固まってしまうジョニー
「今のって、わいへの告白か?」
「そうよ……それで答えは?」
人生あまりの急展開にジョニーは、頭をおさえながら、聞こえないくらいの小さな声で(心の声が漏れる)
「いやいや、人生初の女の子からの告白が……え、用事のついでみたいに、こんなにあっさり」
「そうよ、私の初告白……恥ずかしいから、勢いが欲しかったの……ジョニー、あなたもあたしの事好きなんでしょ」
「なに勝手に決めつけとるんや! そんなわけあるかい、何恥ずかしいこと言わそうとしとるんや」
「ひどい……これでも勇気出して、告白、したのに」
「そんなの、知るか」
素っ気ないジョニーの言葉に、表情が暗くなり涙をこぼさんばかりに落ち込む真弓
いつもの嘘泣き演技だと思っていたが、瞳からこぼれだす涙と、それをこらえようと肩を震わせる真弓に、一瞬動揺するが、なだめようと頭をなで、
顔を赤くし照れながら
「お前こそ、なに勝手に落ち込んどるんや……誰も嫌いやなんて言ってないやろ……まぁなんや、はじめは女っ気がない
、いけすかん奴と思ってたけど、いろいろ話したり張り合ったりしてるうちに、なんや、好きになってきて……うん……なんか、常にそばにいることが当たり前の存在、
ずっとそばにいてほしい……けど、愛しているとは違うからな」
顔を赤くするジョニーを、嬉し涙をこぼしながら見つめる真弓……だが、彼女がそれだけですむわけがなく
「好き!」
ジョニーに抱き着いた!
「いきなりなにすんねん、離れえ、お姉ちゃん倒れたままの大変な時やろ」
「そうだけど、我慢できなくて、あと五分このままで」
「巨乳押し付けられる感覚があと五分、悪うないなって、なにわいも寝ぼけた台詞はいとるんや……ってびくともせえへん、ていうか、わいの目おかしくなったんか」
ジョニーの『目がおかしくなった』という言葉に疑問を感じながら……これは俗にいう『ツンデレカップル』かと、太郎までつられ顔が赤くなりかけたが……ふと気づき
「水をさすようで悪いんだけど……焼却炉の火どうしよう……他人が来るかも」
「そうねこんな所、他人に見られたらたいへにょね」
「けど、バケツも消火器もないぞ」
「そんなの簡単よ」
と真弓は焼却炉に手の平を向け、そのまま下に向けた……とたん調光器の光の様に、火の勢いが見る間に弱くなり、消えてしまう
が動じなかった……どうやら今の僕達は目の前で超自然現象が起こっても動じない態勢が出来ているみたいだ
さあ一件落着、と言いたいところだが……文字通り……(僕達の)目下、特殊な問題が横たわっている
そう、いまだ目を覚まさない優子さんだ
「とりあえず、どうやってお姉ちゃんを運び出すの?」
「校門と裏門は、教師がいるから、呼び止れれてアウトだ」
「そこの、へいを越えて」
「いくら女の子でも、気絶している人間は意外と重い……だったら下水を」
「汚い、お姉ちゃんを汚さないで!」
僕と真弓さんの白熱していく口論に、白けた顔のジョニーが、最善策という水をさす
「さっきから、なにつまらん漫才しとんねん、そんなん焼却炉そばの、車両搬入口通ったらええやんか」
「「確かに」」
「そうと決まったら、あたしがお姉ちゃんを運ぶから、太郎君は」
「ごめん……優子さんは僕が運ぶよ……彼女がこうなってしまっているのは、僕の優柔不断が原因だから」
と、太郎が優子に手を伸ばした時
「ちょっと待って」
「やっぱり駄目?」
「ううん……ただ、指輪を外してるあたし達に触るなら気を付けて……例え何が見えようと、動じないで」
「ほんまやで……太郎、きばりや」
真顔で忠告する二人を疑問視しながら……彼女に触れた僕は、一瞬でその意味を知った
高熱を出したように頭がふらつき、けんたいかんが襲う……こんな状態で彼女を、抱え上げられるのかと、仰向けにして持ち上げた彼女の体は軽かった
が、視界がおかしい……空にはオーロラの様な天の川が見え……離れたところに居る人の気配や……見えてはいけないものまで見えてしまっているようだ
「うっ」
「そう、これが天使の視界よ……大丈夫?」
「うん……少しずつ慣れてきた……よし行こう」
「おう」
と、先行するジョニーに導かれるまま、僕達は学校を後にした……目指すは、三人の中で学校から一番近い僕の家だ!
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『山田太郎たちの恋物語・Boys Meets Girls?』
第四十一部『告白』
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by.メガネ君(作者)




