メイド喫茶
校門には、『メリヤス祭』と書かれた大きなアーチ
各クラスの大きな垂れ幕たちが、秋風にかすかになびく
壁や窓に張られた、手書きの宣伝ポスター、色とりどりのリースや風船
廊下では、笑顔で話しながら歩く制服を着た生徒の間を、仮想した生徒が忙しそうに走り抜ける
もちろんこの準備もしたけど……文化祭初体験の僕にとって、この変化はちょっとした異世界のように思える
周囲を見渡している僕の肩を、ジョニーが叩く
「何ぼさっと突っ立っとるんや、さっさと行くで」
「うん、優子さん達と交代する昼まで……どこから回る?」
「愚問やな太郎君……そんなの、わい発案のメイド喫茶に決まっとるやないか!」
「やっぱり、良いよ、行こう」
階段を上がいながら中庭を見ると、生徒達の不用品を出品したバザーや、体験コーナー等は
生徒や来客で繁盛していた
(これなら並ぶ事無く、すぐに入れる)
などと楽観視していた僕の期待は……階段を上がりきると同時に、あっけなく裏切られた
五十メーターは有るだろう長い列の最後尾では、メイド服を着た女子生徒が、恥ずかしそう、否、申し訳なさそうに
『最後尾、約三十分待ち』と書かれたプラカードを持っている
その彼女からメニュー表のコピーを渡される
「山田君に村上君、自分子クラスの出し物だから分かってるだろうけど、これでも見て暇つぶししてて……下の注意事項は、女子全員で決めた事だから文句言わないでね」
「うん」
「女子全員の意見ならしゃあないな……でも昼に勝負かけたけど……メイドにお任せパフェに、苺ケーキに、飲みもん五種類て、相変わらず少ないな」
ちなみに、注意書きにはこう書かれている
当メイド喫茶は、あくまで喫茶店であり、店員への握手やスマイル要求以外の、胸部や下半身への接触、過剰な要求はご遠慮願います
それに従っていただけない場合、メイドからの本気ビンタ等のサービスが行われ、けがをされる可能性がありますが……全ては、自業自得とご理解ください
なお店内には別途、食べ残しに関する注意書きが掲示してあります
ジョニーと居るいじょう、悪い予感しかしないのはなぜだろう
そして、ようやく入ることが出来た
黒板には、メニュー表、注意書き、下の名前の書かれたメイドの写真がランキングの様に貼られている
「お帰りなさいませ御主人様……案内役の優子です……二名様ですね」
「はい、優子さん、似合ってますきれいですね」
「有難うございます、私は案内役です、こちらのテーブル席でお待ちください、すぐに担当のメイドを呼んできますね」
そう言い残し、優子はカーテンの向こうへと消えるとすぐ、入れ替わりの様に真弓が現れた
恥ずかしさのメーターを振り切ったのか、どこか遠い目をした真弓は、僕達に気づくことなく、テーブルに着くなり、片膝をつき口を開く
「失礼します、ご、ご主人様って、え⁉」
「おう真弓ちゃん、なかなか似合っとるやないか」
「ジョニ……ご注文はお決まりですか……ご、ご主人様」
感情を噛み殺した、ひきつった笑みでジョニーを見る真弓
「ご主人様やて……真弓ちゃん顔ひきつっとるで、ほら、スマイル」
「こ、こうですか?」
手本とばかりにジョニーが、真弓の顔を見下ろすように、にゃりと笑い……真弓もかたち上、従わなければいけないと、さらに口角を上げるが
その顔、形相は、はんにゃの面ともいえるほど、いびつである
「真弓さん無理しないで、ジョニーも早く注文して……ちなみに僕は、アイスコーヒー」
「そうやな……ならわいは、メイド特製おまかせパフェ、をたのむわ」
ジョニーの注文を聞くなり、なぜか一瞬鼻で笑う真弓
「……はい、かしこまりました」
そして数分後……先程の、はんにゃの如き営業スマイルとは、打って変って
僕はおろか、周囲の客も見惚れてしてしまうほどの、満面の笑みを浮かべる彼女
「お待たせしました……真弓特製、イチゴ?パフェでございます……それでは最後の仕上げに、特別サービス、特製シロップをおかけします、
お好きなタイミングで、ストップ、とおっしゃってください、では」
不敵な笑みを浮かべながら、その真っ赤なシロップをたらそうとする真弓
「ちょい待て待て待て待てぇ」
「待て?」
シロップをたらしながら、わざとらしく聞き返す真弓
「すとっぴ、ストップ!」
「はい」
「ニコニコしながら何入れてとんねん」
「タバスコ・デス、ですが何か?」
「いやいやいやいや、ですが、やないやろ! 瓶にドクロ描いとるやんけ」
「口から火を吐くドクロなんて、変わったデザインですね……死ぬほど辛い、だそうで……ちょっとしたアクセントでございます」
「それに、なんやそのわざとらしい猫かぶりは」
「メ、メイド喫茶ですから」
「普段とギャップ有りすぎて……気持ち悪いわ、わいらにだけは、普通にせぇ」
「五百円、いただきますが、よろしいでしょうか?」
「金とんのかい……五百円なら出したる、もう、メイド喫茶『miser』やめて……あきんど喫茶に改名したらどないや」
どや顔で言うジョニーに、さっきまで黙っていた僕もこれには少し「ははっ」と笑ってしまった
「これは罰ゲームか、いやがらせか」
「メイド服着て、あんたなんかに跪き頭を下げさせられた、罰ゲームの仕返しよ……おかげですっきりしたわ」
「わいこそ、こないな美味いもん食わせてもろて有難うな、旨かったわ、ごちそうさん」
「え? おのこしするの」
そう言う真弓の視線の先には
『お残しするようなイケナイご主人様は五千円以下の罰金、又は、一時間見習メイドとなり、男性でもメイド服を着ていただき
接客、呼び込みのお手伝いをしていただきます』
と、何とも可愛らしい丸文字で恐ろしい規約が書かれている
その効果は絶大らしく……見回す限り、全てのテーブルに有る皿は、舐め上げた様に綺麗なものだ
「ああもう、食うたらええんやろ!」
「わぁ嬉しい、頑張って」
「一口くらい、手伝おうか」
「いや大丈夫や! それにこれは、わいが自分で頼んだやつや……見てみぃこの早く降参せえって言わんばかりの、にやけずら……負けてたまるかい」
そして、ジョニーは、見事に食べ終えるが、ひりつき残るからさに腫れた唇と舌で、口がうまく閉じることが出来ない
「この後どうするって……それどころじゃないよね……支払い済ませてくるから、先出てて」
ジョニーの口を直す良い方法はないかと考えた結果
(辛い物には、甘い物が良いんじゃないか!)とあまりな脊髄反射的な回答で
学食前自販機で、大人気のパックのいちご牛乳を大量に飲ませた
「この甘さ、これこそ苺や!」
「良かった、ちゃんと声も戻ってる……僕はウエイトレスと皿洗いだけど……ジョニーは調理に呼び込みも頼まれてるからね」
「後一時間ちょい有るから……わい、行きたい所あんねんけど」
「うん、付いてくよ……たしか『アニメ・ゲーム同好会』の展示と自作ゲームのテストプレーだったよね」
「そや……真弓ちゃんも行くかも、言うとったから先行って、真似出来んほど高得点叩きだしといたんねん……あの格好のまんま悔しがっとるとこ見てみたいな」
「さすがにあの格好のままは、無いと思うよ」
午前十一時半……メイド喫茶の閉店と正午からの執事食堂へ改装が行われている教室に戻り、僕たち男子はテーブルの配置や看板の入れ替え等を行い
そして改装が終わると、「疲れた、午後は楽しむぞ」とはしゃぐ女子達が、正午からの男子と入れ替わる
「お疲れ様」
「頑張って下さいね」
「後から必ず行くからね」
「おう、楽しみに待っとるで」
僕は制服の上にエプロンを……ジョニーはブレザーを脱ぎ、ワイシャツの袖をひじまでまくり、夏祭りのような水色のはっぴを羽織った
それはまさしく執事というより、タコ焼き屋台のおやじ、といったふうぼうである
「さあ、執事食堂開店だ!」
読んでいただき、ありがとうございます。
『山田太郎たちの恋物語・Boys Meets Girls?』
第三十七部『メイド喫茶』
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by.メガネ君(作者)




