白砂ビーチ花火大会!
まさか、先日の帰り際の軽い笑い話ですませたはずの真弓さんの予言が的中してしまうとは……。
八月一日朝のこと、僕はようやく夏休みの課題をすべて終え、問題集を閉じ、達成感に満たされ、気持ちよく伸びをしていると……側に置いている携帯が着信音を鳴らす
(はぁ、人が達成感の余韻に浸っているってうのに)
と軽くため息をつき、携帯の画面に出ている発信者の名前を見て、苦笑し電話に出る
「はい……朝から何ですか、メガネ君先輩」
「おや? テンション低いね……もしかして迷惑だったかな?」
「いいえ……ただ夏休みの課題を全て終え、余韻に浸っているところに……って、それより用件は何ですか?」
「いや~それはすまなかったね、用件というのは他でもない……今月の花火大会の件だが」
やはり予想的中、思わず笑いが込み上げてきたが寸前でこらえてると
「先約でも有るのかな?」
「いいえ……ただ皆考えてる事は同じだなと」
「そうか……では話が早い! 当日の午後七時、白砂ビーチ、海沿いのバス停に集合……というのはどうだろう?」
「いいですよ」
「そうか……ではこれから同じ事を皆に伝えるとしよう!」
「先輩、それってもしかして……」
すると僕の言葉を遮るかのように
「朝から迷惑おかけたな、すまん」と言い残すと一方的に電話起きり……取り残された僕は、もやもやした気持ちで携帯を眺めている
相変わらず分からない人だ……
それからしばらくして再び、携帯が着信音を鳴らす!
(多分相手は……)と僕は画面を確認せずすぐに電話に出る
「で、どないするんや?」
これまた予想的中……電話の相手はジョニーだ
「勿論行くつもりだけど……優子さん達はどうだった?」
「それやったら問題あらへん……真弓ちゃんに、出店で勝負せえへんか? ちゅうたら一発で食いついてきおったわ……いやぁ、単純で助かったわ~~」
(単純ね、確かに……ってそれをお前が言うか)
つっこみたい気持ちを抑え、僕は一呼吸し……。
「去年と同じく男二人に女子小学生一人……と悲しくも怪しい図、になずに済んでよかったよ……そういえば花火大会って、今月の第一日曜で合だったよな?」
「そや、例年どおりや! ……ほな明日、バス停に集合やで」
…………そんなこんなで……翌日の夕方……………………
「じゃあ行こうか」
「うん」
そう言って自宅の台所で僕と浴衣姿の花子は祭り会場につくまで倒れない程度にと、母さんの作ってくれたおにぎり一つ食べ、手をつなぎ一緒に家を出て……
待ち合わせ場所のバス停へと向かった。
その道中……まぶしい夕日を正面に、商店街を通っている僕と花子の前を……かたや浴衣姿と、かたや露出の多い服装という雰囲気の異なる二人の女性が
談笑しながら歩いているが、逆光で顔がはっきりと見えない
もしやと思い、目を細めじっと観察するように彼女達見ていると……花子が僕の手を離し
「優子お姉ちゃん、真弓ちゃん!」
と大きな声で手を振りながら一直線に駆け出した……その声に彼女達は足を止め、こちらへ振りかえった……間違いない優子さんと真弓さんだ!
「あ、花子ちゃん、こんにちは」
真弓がしゃがんで、花子の頭をなでる……と、僕もようやく彼女達の側に来て
「こんにちは……優子さん、浴衣姿、可愛いですね」
「ありがとうございます……太郎さんこそ浴衣、似合ってますよ」
「ありがとう、実はこれ、父さんが若いころ着てたものなんですよ」
にこやかな顔で話している僕の側で、花子が不思議そうな顔をして真弓を見ている
「なに花子ちゃん……あたしの顔に何かついてる?」
「ううん……優子お姉ちゃんは浴衣なのに、どうして真弓ちゃんは浴衣じゃないの?」
「それはね……ジョニー君に勝つためなの……だから花子ちゃん、応援よろしくね!」
「??……うん!」
そして僕達は再び歩き出し…………バス停に着いた時には、夕日は水平線に浸かり……夜空には一番星が光っていた
バス停の看板の側で、ジョニーと、メガネ君先輩が談笑している
「今晩はメガネ君先輩」
互いに挨拶もそこそこに
「よし、これで皆そろったね……では花火大会に出発!」
メガネ君先輩の号令で、僕達はゆっくりと歩き始め……会場に近づくにつれ人の数が増えていく………
いつかの河川敷の七夕祭りとは大違い……すでにこの時点で歩きづらい
ようやく会場に辿り着いた……
入口の側にかき氷の出店があるが、このての出店は会場内、歩けば大抵三つ四つ有るだろから後回し……とにかく今は、落ち着きなく回りを見回している
ジョニーと真弓の、勝負への欲求を処理するとしよう……
と、丁度おあつらえむきに射的の出店が突き当たりに見えてきたので、僕はわざとらしく指をさし
「射的か……まだあんなレトロなの、需要有ったんだ」
案の定……僕の言葉に反応した二人は、一目散に射的へと向かい……息ぴったりに「おっちゃん、一回分」と代金をカウンターに叩き付ける様に置き……コルク銃と、コルク弾の載った小皿をうけると
「いざ勝負」と睨み合い、射的を始める…………
そして、僕達が着いた時には、彼等の側には数枚重ねの小皿タワーが出来ていた
「一二三……八試合目か……」と苦笑し料金表に目をやりビックリ!
おいおい、一回三百円て、初っぱなから二人ともいくら使ってんだ?
さすがにもったいないと感じ、僕は遠回しに
「そろそろ勝負はつきそうか?」
「あの、でかいぬいぐるみ、落としたのが勝ちや」
「でもあれ、そこからじゃ見えないだろうけど……後ろにつっかえ棒有るぞ」
「そんくらい知っとる……でもな、男には不可能と分かっとっても避けられへん闘いっちゅうもんが有るんや……分かるやろ?」
「どことなく……」
「勇ましいですね」
ジョニーの言葉に感動している優子の側で
「キャプテンはろく、の名台詞キター」
と目を輝かせてるメガネ君先輩の側で花子がため息を漏らしながら首を横に振っている
これが、反面教師、というものだろうか……普段、自分の立ち位置にいる花子に苦笑してしまった
「そろそろ、少しだけ本気出しちゃおうかな」
「頑張れ~~真弓ちゃん}
「ありがと」
次の瞬間……彼女の目つと、取り巻く空気が変わった!
両足を肩幅に開いて立ち……理想的なライフル射撃の姿勢をとり、獲物に視線を向け……もう一度足踏みをするように地面を踏みしめ姿勢を整えた彼女は……息を止め狙いを定める……………
発射!
放たれた弾は、ぬいぐるみの下、わずかに開いた脇をすり抜け、つっかえ棒を吹き飛ばす!
「すきあり!」と、すぐさまジョニーが狙いを定める
しかし彼女は、目にもとまらぬ早業でコルク弾を再装填し、第二射をうち、見事勝利と戦利品のぬいぐるみをつかみとった
「真弓ちゃん凄い!」
拍手かっさいして喜ぶ花子に、照れくさそうに
「いや~それほどでも……あるけど……はい、これあげる」
そう言い、真弓は花子にぬいぐるみをプレゼントする
「ありがとう」
花子は満面の笑みでぬいぐるみを抱え、ほおずりをして、少し離れている優子のところへ駆けていく……相当気に入ったようでなによりだ
「真弓さん、花子にぬいぐるみをありがとう」そうい言って軽く頭を下げると……彼女は照れくさそうに返事をするが
「はは、いいって……それより皆は?」
その言葉に僕も、焦って周りを見渡す……!
あ、居た!
人ごみの中、ジョニーの頭が見える
「お~~い! ジョニー!」
僕の声は、人々のざわめきにかき消され彼には届かない……みるみるうちに皆との距離が広がっていく……かき分けれそうもない人の流れに(仕方ない)と諦め
最悪、単独にならないように、僕はすぐ真弓の側に戻り……身振り手振りで事のてんまつを話すと、彼女は「この役立たず」と言わんばかりの深いため息と視線を向けた後、腰に手を当て
「仕方ない、か……ちょっと疲れたから、そこのベンチで休みましょ」
そう言って彼女は、少々強引に僕の手を引っ張り人ごみを抜け、出店の並ぶメイン通りも抜けると…………
彼女が手を離したので、僕は疲れたようにため息をつき周りを見ると……街灯の側の自販機があったで
「真弓ちゃん、咽かわいてない? おごるよ」
「ありがとう、じゃあ、あんたと同じやつ」
「了解」
すぐに僕はペットボトルのスポーツドリンクを二本買い……一本を渡すと「ありがとう」と言い不満そうな顔でペットボトルを見ている
なるほど彼女はたぶん炭酸飲料が欲しかったのだろうな……希望に添えなくてごめん
ドリンクを一口飲んで、僕達は少し歩き………出店の裏、人気のない静かな松林に設置されているベンチを見つけた真弓は「ちょっと休憩」と座り、横に座るように、
と座面を叩く
先程から……普段の言動からは想像の出来ない行動をとる彼女に僕は戸惑っている……
そう、普段の彼女なら……強引に人ごみをかきわけながら皆を探したり……それに飽きたら、そのまま一人、又は僕を強引に連れまわして、祭りを楽しんだりするはず
「ねえ!」
一人考え込んでる僕に、彼女は少し大きな声を出し、ぐうで座面を叩く
「ごめん、ごめん!」
僕は急いで彼女の側に座り……思春期特有現象……男女意識し少し横にずれる……しかし彼女はお構いなしにその距離を詰め寄る……その幾度かの攻防戦の末僕はあきらめ……彼女の顔を見て
「それで……なに? 僕に聞きたい事でも有るの?」照れくさく後ろ頭を掻きながら質問すると
彼女は突然、いつもになく真剣な顔で僕の目を見て質問してきた
「ねえあんた、お姉ちゃんの事スキ?」
なんともストレート!
思春期の小学生か? 今の時代そんなこと、こうもストレートに………花子でも言わないだろう……と思わずせきこみ、飲んでいるスポーツドリンクを噴出してしまった!
「なんですかいきなり?」
咳き込みながら苦笑し答えると……彼女は勢いよく立ち上がり、座っている僕の前に立ち肩を強く掴み、僕の目を見て、しっかりとした声で
「あたし、本気で質問してるんだから、真面目に答えて!」
そう言う彼女の、力強く真剣な目を見て僕は……息を整え目を閉じ……優子さんの身体、優しい声、仕草を思い浮かべ……
「正直、恋愛感情というのがどんなものか分からないけど……好きですよ……ずっと仲良くしていたい……それが今の僕の気持ちなんだけど、どうかな?」
僕の言葉を聞いた彼女は、苦笑し
「ふふ……あたしに同意を求めないで……とりあえず嫌われてなくて良かった」
一度深呼吸をしたかと思えば、再び彼女は僕の肩を……握り閉めるように強く掴み
「じゃあさ、その気持ち……たとえなにがあっても変わらない?!」
そう意味深に質問する彼女に、僕は呆気にとられたような声で
「えっ? それってどういう意味……」
すると彼女は俯き口を閉ざした……沈黙の空気が僕達を包む……数分後、彼女が静かに口を開いた
「それはね、あたしとお姉ちゃんが………………」
その瞬間
彼女の後ろの浜辺で、大きな花火が上り……その音と衝撃は周りの音も、僕に向けられた彼女のメッセージも、全てをかき消すほどのものだった
「………わらない?」
軽く耳鳴りがする……大切なところを聞き取れなかったような?
「ごめん、聞き取れなかった……もう一度お願い」
聞き返す僕に、彼女は
「べつに……いずれ分かる事だから」
と呟き、話を切り上げる様に、一人立ち上がり背を向ける……その背中は、どことなく悲しげで……まるで
「これ以上聞かないで」と言ってるように見えた
そして彼女は、まだ上がり続ける花火を見ている……再び沈黙の空気が立ちこめようとした時……
「ねえ、もっと近くに行こうよ」
なんとか気を取り戻した彼女は、再び僕の手を引っ張り、浜辺の方へと歩き出した
そして僕達は浜辺に到着した……まだ上がり続けている連発花火にみとれていると
後ろの方から「た~~まや~~!」と、聞きなれた声の掛け声が聞こえたので振り向くと
そこには、ジョニーと優子が、花子をはさむ様にして花火大会会場の特設ベンチに座っていて……彼も僕と真弓に気付いたらしく手招きをする
「おう、こっちやこっち」
僕と真弓は人ごみを掻き分けながら進み、僕はジョニーと花子の間に座り、真弓は優子の隣に座り「一安心」といった顔をする
連続花火が打ち終わり、十分ほどの休憩時間……
「二人で、どこ行っとったんや?」
「ごめんごめん、それよりメガネ君先輩は?……一緒じゃなかったの?」
「それはこっちの台詞や、わいも太郎らと一緒におると……まあ、あのヒトの事や、適当にそこら放浪しとるんやろ?
「ははは……言えてる」
するとジョニーは急に真顔になり「ちょっとっよっと」と僕のとなり、女子三人談笑中の真弓にとんでもない質問を
「真弓ちゃん、二人きりなのをええことに、太郎にヘンな事されなんだか?」
「おいおいおいおいお!」
思わずあせる僕……そんな僕を不思議そうに見る花子と、不安そうに見る優子……
ばんじきゅうすか?
すると真弓がこの状況を「ははは!」と声を上げ笑い飛ばし
「ジュースおごってもらっただけ……ヘンな事って……あんたじゃあるまいし、何もされなかったわよ!」
「こいつは一本とられたわ……っておい!」
とまあ、僕の濡れ衣も晴れたところ? で再び連続花火が上がり始める……しかし、こうも連続花火が続くと、少々飽きる……
……あれ?……
この花火の打ちあがるリズムといい、爆発するさまざまな音程といい……これって
「あれっ……これってあたし達の学校の校歌じゃ?」
とほぼ同時に真弓も気付きその隣で優子も頷いている
居ないメガネ君先輩……上がる校歌の似た花火……「まさかね……」と花火から視線をそらし横を見ると、そこには乾いた笑顔のジョニーが座っていた
……どうやら花子以外……いや……多分この会場に居る、メリヤス高校文芸部全員、が同じ結論に乾いた笑い声を上げているに違いない……
花火がやみ……しばらくすると、この『事件』の当事者とおぼしき男が照れくさそうに後ろ頭を掻きながら近づいて来たので僕は息を整え……答えを予想しながらも思い切って訊いてみた
「メガネ君先輩、先程の花火は……もしかして」
「そうお察しのとおり、さっきの花火は僕が企画して打ち上げたものだよ……で、ご感想は?」
やっぱり……まあ、予想は付いてたので驚かずにすんだけど。
「正直凄かったです……しかし、よく参加する事が出来ましたね」
「う~~ん、言ってしまえば不景気のおかげかな……ま、素直に喜べる話ではないけどね……その為、花火大会なんかに出資しようなんていう企業が減って……巡り巡って僕のところに話がきたってわけさ」
「なるほど……で、ちなみに部費いくら使ったんですか?」
「ああ、ざっと一千万ほど」
一同「えっ!」
一瞬で、時が止まった!
「まっまっまあ、今のは聞かなかった事にしておきます」
本当、メガネ君先輩には付いていけない……
「えっそう……で、この後予定はあるのかな?」
「いいえ……ってもう九時回ってるので、補導員が巡回する前に……そろそろ帰ろうと思います」
「なるほど了解した……ではまた近いうちに電話させてもらうよ………では、帰り道に気を付けて……お休み!」
手を振り、離れて行くメガネ君先輩を見送った僕達は……少しの間……最後の特大花火が散りゆくのを見……未成年に帰宅を促す放送が流れるなか……
「おやすみなさい」
「おやすみ、またね」
「皆さんおやすみなさい……ではまたいずれ」
「じゃ、またね~~!」
「ほなまた~~」
と皆、満足げに笑顔で手を振り帰路についた…………………。
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『山田太郎たちの恋物語・Boys Meets Girls?』
第三十一部『白砂ビーチ花火大会!』
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by.メガネ君(作者)




