遠足・日本橋オタロード編(その二)
しばらくオタロードを歩いて喉が渇いた僕は、近くに自販機を見つけるなり、みんなに声をかけた。
「みんな。ちょっとジュース飲んで休憩しない」
「せやな」
「はい」
「お姉ちゃん、なに飲む」
『じゃあさっそく』視線を向け、その品揃えに驚いた!
(さすが大阪、地元では見たことないジュースばかりだ。味的に当たりはずれもありそうだけど。買ってみよう)
まずは僕はおなじみ赤い炭酸飲料。
ジョニーも炭酸飲料……(けど『ココナッツ風味』て)
優子はスポーツドリンク(理にかなっている)
真弓は「ブラックよ」と声に出しながら、ブラックコーヒー(ドヤ顔で)
「そこの派手な車(痛車)がようさん駐車しとる、モータープールの端っこで飲もか」
「キャラクターへの愛は、とても伝わってくるけど……あたしは無理かな」
「真弓」
「いやバカにしてるわけじゃないの。むしろ『すごいな。よくやるな』て尊敬でき、る」
広い駐車場に歩いて……交差点に差し掛かった時だ。
横に数件並ぶ食堂からなんとも旨そうな油の匂いが……(丼屋か、ラーメン屋)
『ギュウ~』
条件反射とはいえ腹のむしを鳴らす僕に皆の足が止まり視線が注がれる……照れ隠しの苦笑いをし時計を見ると、既に十二時を過ぎていた。
そこで僕は、皆に聞こえるよう
「駐車場でジュースを飲むより、昼食にしませんか?」
と話を持ちかけると……優子も時計を見て同意してくれた。
「そうですね……皆さん、どの店でにしますか?」
優子の質問に『せーのっ!』と皆思い思いに指をさした。
ちなみに、優子と真弓は喫茶店、ジョニーはメイド喫茶、ともちろん僕はそばの丼屋を指さした……と、すぐにジョニーが鼻で笑いながら
「いやいや真弓ちゃん、無理は体に良くないで」
「なによ」
「ホントは太郎が指さしとるデカ盛り屋に行きたいんやろ?」
「なに馬鹿な事言ってんの」
と言いつつ生唾を飲む真弓に、笑いをこらえるジョニー
「だったら、なんで喫茶店指さしながらデカ盛り看板の写真じっと見とるんや」
図星をつかれたのか、黙り込む真弓へ、優子が心配気に
「そうなの真弓」
「お姉ちゃんまで。もう、今日は喫茶店の気分なの!」
「そか……すまんな太郎。喫茶店いくで」
「うん」
「それじゃ喫茶店にレッツゴー」
真弓が満面の笑みで回れ右して僕達の方を向き万歳をして歩き出そうと再び回れ右をしようとした
その時!
「きゃっ」
一直線に近づいてきた大柄の男に体当たりされ、バランスを崩しかけたが、ふんばり、怒声を上げる
「ちょっと! ちゃんと前見て歩きなさいよね!」
しかし、謝りもせず離れていく男の背中を睨み
「女にぶつかっておきながら『ごめん』の一言もなし⁈ ……たく」
人ごみに消えた男に、ため息をもらし。ぶつかった拍子にずれ落ちたショルダーバッグの肩ひもを直そうと手をかけた。
そのとき!
今度は、背後から猛スピードで現れた二人乗りした原付スクーターの男に強引にバッグをひったくられ。
これにはさすがの彼女も踏ん張る事が出来ず。足を絡ませ、コマのように回されながら倒れたが、まけじとすぐ叫んだ!
「ドロボー!」
「待たんかい、コラ!」
足を痛め立てずにいる彼女を見たジョニーが、血相を変え猛ダッシュで走り出し、僕も後に続き走り出した!
真昼のオタロード。
響き渡る叫びと怒号に、通行人が避ける。
しかしそれも、距離が経つに狭まり……「どけどけ!」と人ごみでもたついていている犯人のバイクに追いつくやいなや、跳び付き、地面に転がりながらも……見事、犯人の手からバッグを取り戻した!
(よし!)心中ガッツポーズをする僕。
しかし、事件はそれだけでは終わらない!
「ああ~くっそ!」
大声で怒号を上げるが、きちんとバイクを路肩に停めてから、ジョニーに向かう犯人……キレルのも無理はない。
勝手な言い分だろうが、犯人にとって『手にした獲物を、まんまと奪われた』のだから当然と言えば当然である。
「けくうう」
全身を強く打ち付けたのだろう。痛み顔をゆがませながら、ゆっくり立ち上がろうとするジョニー。
「ガキが、女の前だからって、調子に乗ってんじゃねえ!」
逆上した犯人達に蹴り倒されたジョニーは
「うううう」
唸ることしかできず、抵抗出来ない状態のジョニーを『ざまあみろ』とばかり笑いながらリンチし始めた!
「オラオラオラァ。さっきまでの威勢はどうした!」
すると蹴りの一発がジョニーの溝内に入り、彼は吐血し気絶してしまった!
これには傍観しかできなかった僕も、頭に血が上り怒号を上げる。
「やめろー!」(予想以上に声が出た)
拳を強く握り、眼前でジョニーをリンチする二人を殴り飛ばして、彼を助けようと駆けだしたが!
「おっと危ない」
「ぐ」(いつの間に)
さっき真弓にぶつかってきた大柄な男が、背後から現れ首に腕を回しヘッドロックされる。
(もしかして、と思ってたら。やっぱりお前も仲間だったか!)
「くそ!」
「ガキが暴れんな!」
離れようと必死にもがく僕を地面にたたきつけるようにねじ伏せる犯人。
その時!
「もうやめて!」
優子が僕を押さえ込んでいる男を引き離そうとその服を力いっぱい引っ張るが!
「このアマ、服のびるやろが!」
男は優子のむこうずねを蹴り、彼女が体勢を崩した瞬間、力いっぱい突き飛ばした!
一瞬顔をゆがませ倒れ……すぐに立ち上がろうとする彼女。
しかし、あえなくすぐに倒れてしまう……どうやら突き飛ばされた時に足首をひねったようだ。
……すると……優子の表情から戦意が消え、瞳に涙を浮かべてしまう。
(僕はなんて無力なんだ。ちくしょう……そういや真弓さんは『大好きなお姉ちゃんがひどい目にあってるんだぞ』)
(『動物園でライオンに立ち向かった勇姿』彼女ならなんとかしてくれる)
ねじ伏せられ抵抗すらしない僕は弱気になり、男のくせに、他力本願にも彼女にすがり、その姿を探す……しかし。
(頭を押さえつけられてるから、足しか見えない、まさに『足の森』)
一人ボケていると!
「やめろー!」
真弓の叫び声が通りに響き……『待ってました』とばかり首を振ろうとした時。
(!!)
真弓を中心につむじ風? 突風がおこり……その場に居る全員が足を止め彼女を見る……いや……彼女の圧倒的な存在感に、向かざるおえない!
「このクズ」
「なんだアマ! 俺らに立てつこうってか⁈」
犯人の一人、がたいの良い男が彼女を睨み立ち上がる
「ニンゲン」
不適に笑う真弓に優子
「真弓、落ち着いて」
「真弓ちゃん。ていうんだ」
ニヤニヤしながら近づく男に、真弓は買ったばかりの缶コーヒーを突き出す。
一瞬かたまる男
「なんだ『缶コーヒーあげるから許して』てか……それとも真弓ちゃん、俺と間接キスしたいのかな?」
「気やすく名前を呼ぶな……さもないと」
「さもないと、どうなるの。真弓ちゃん」
「お前ら全員……」
僕のそばで金属がつぶれる音とコーヒーのいい匂いがする
真弓は無言で、缶コーヒーを片手でたやすく握り潰した!
その細い腕からは想像も出来ない圧倒的なパワーは、まさに規格外!
しかし今、ねじ伏せられている僕の目には
怯えるあまり、力が抜けコーヒーを溢してしまった。としか推測できず……。
(真弓さんにも危害が⁈)
心配をつのらせ、無力な自分を恨む事しかできない。
しかし、そんな僕の視角外では……
真弓が殺気をおびた目で、犯人達を睨みつけながら、ゆっくり一歩ずつ前進する……その姿はまるで鬼人のよう!
すると僕を押さえ込んでる男の手が震えだし、怯えるあまり、たまらず立ち上がり
「な、ななな中身入りだと」
(確かにすごい握力)
声を震わせ、ジョニーを踏みつけている犯人の所に逃げて行った。
(このまま一緒に逃げてくれれば、いう事なし)
だけど、怒声を上げた立場上簡単に引けない男達は『お前が行けよ』とばかり顔を見合わせコソコソいる。
「あ! そこのお巡りさん、こっちです!」
突然あがる女の大声に顔を向けると、見ず知らずの女性が交差点で……曲がり角に向かって手を振り
「こっちです!」
彼女の声に『俺達も混ぜろ』とばかり周りの人達も同様に叫びだした!
(完全に形勢逆転。さあどうする)
ゆっくり上体をおこしながらニヤリと笑う僕……だけど……視線が高くなった事で飛び込んできた、周囲の光景にあぜんとなる。
(真弓さんは、みじんも怯えてなどいない……あんな表情)
こうなると……すでに真弓の迫力で弱気になっていた犯人達は涙目
「ふん!」
真弓が投げ捨てた缶コーヒーからこぼれる中身……それを見た犯人は声を震わせ……後ずさり。
「中身入りだなんて、もったいない」
「ああ、俺達庶民が太刀打ちできる相手じゃない」
(ビビるところがずれてる『純粋な力』ではなく『経済力(金銭感覚)』)
犯人の『ボケ』に『ツッコミ』を入れてやりたいが……雰囲気的に、今はぐっと我慢だ……笑止!
どこか論点のずれたことを口にする男たちへ、大声で唸る真弓。
「ぎゅああ!」
放たれる殺気に唸り声、まさに野獣だ。
たまらず脱兎の如く逃げ去っていく男たち
『一件落着』
しかし安心するのはまだ早かった。
オタロードの中心で、獲物を見失った猟犬の様に、目を丸くし息を荒げ周囲を見回す真弓。
(クラスメイトやお姉さんがひどい目に合わされた事に怒り狂ったあまり正気を失ってしまったんだ! ……何とかしないと)
両手を着き、痛みを堪えながらゆっくり立ち上がろうとする僕の横を、足をひこずりながら優子が通過する。
そして優子は、唸り前進する真弓の前に立つなり、彼女の両肩をつかみその歩みを止め、憂いに満ちた顔で彼女を見はっきりとした口調で
「真弓しっかりなさい! 女の子がそんな顔しちゃだめでしょ!」
「ううう」
「私の言葉が聞こえないの⁈」
「ぞけ!」
乱暴に優子を押しのける真弓……と……堪忍袋の緒が切れたのか
「はしたない!」
声を上げた優子は、真弓がよろめくほど全力で彼女の頬を引っ叩いた!
「い!」
あまりの痛みで我にかえったのか、荒い息づかいは治まり……表情や目つきも大人しくなっていくなど、次第に正気を取り戻していく彼女目から涙が一粒こぼれた。
「お姉ちゃん……ごめんなさい」
「うん」
抱き合う姉妹……(ああ、すべて世は事も無し)
周囲を囲んでいた野次馬達も安心したのか歩き出し……オタロードは再び普段の平穏となった。
「私は大丈夫だから、ほら」
優子がジョニーの方を向くと
「ジョニー!」
全て思い出したのか、真弓はすぐさまジョニーの元へ駆け寄ると、路上に丸まり横たわったまま身動き一つしない、彼の肩をゆさぶった。
「あ、とにかくあそこに移そう」
僕達は応急処置をしようとジョニー仰向けに寝かし、真弓は彼の頭を、僕は胴体を、優子は足をそれぞれ分担して持ち……通行の邪魔にならないよう
人の出入りの少ない雑居ビルの玄関ホールにジョニーの体を運んだ
意識の無い人間の体は重いと聞いたことがあるが、まさかこれほどとは……
そして、ジョニーを玄関ホールに置くと……真弓は何度もジョニーの名を呼びながら、頬を叩き続ける……何度も何度も何度も
「ジョニー……ジョニー、ジョニー! ジョニージョニー!」
気のせいか? 次第にジョニーの頬を叩くペースが上がっていく……?!
すると……
「いたい、いたいて!」
ジョニーが意識を取り戻し真弓の手を払いのける……僕達は安心し、胸をなでおろした
「ほら……このとおりバッグは無事やって言いたいけど……すまんな、わいの血とかで汚してもたわ……堪忍な」
ジョニーは立ち上がり、バッグを渡そうと苦笑いしながら真弓を見ようとした瞬間!
「こっち見るな!」と真弓の平手打ちを食らう!
「痛! 何しくさる! ……って、お前……なぜ泣いとるんや?」
ジョニーは目の前で泣いている真弓に、優しく尋ねる。
「うるさい、バカ! まったくあんたって本当バカよ、大バカよ。あたしのバッグなんかのために、殴り蹴られて体中キズだらけで、服までぼろぼろにしたくせして……『大事に抱え込んでたから鞄は無傷や』なんてそんな間抜け! もう信じられないほどお人よしよ! バカ!」
真弓はジョニーに勢いよく抱きつきささやく。
「ありがとう」
するとジョニーは子供あやす親の様に真弓の頭を優しく撫で
「心配掛けたみたいやな、堪忍やで……で……バッグ取り戻したんやから、メイド喫茶いこか……」
どさくさまぎれにリクエスト……
すると真弓はすぐ泣くのを止め、今まで抱きついてたジョニーを両手で押して、離れ……彼を指差し、はっきりとした口調で
「それはそれ! これはこれ!」
「そんな、せっしょうな~~!」
そして再び、肩を落としているジョニーを最後尾に僕達は喫茶店へと向かった
その途中……真弓は心配そうな顔で、何度も振り返りジョニーを見ていた
それは多分……自身の不注意で彼にケガを負わせた、罪の意識からだろう。




