遠足・日本橋オタロード編(その一)
『いざオタロードへ!』(きっと楽しい所だろう)
期待に背中を押され、僕達は、色鮮やかににぎわう新世界、『グイーン』音を立て発車する路面電車なのに目もくれず……ただただ前進。
そして今、大きな交差点で横断歩道の信号待ちをしている。
僕は、はやる気持ちを抑えながら赤信号を見ながら、むかし聞いた噂話を思い出した
『大阪人は赤信号でも平気で渡るらしい』
(当然交通違反だからやめましょう)
(あ、そばの地下道を使う手もある)
しかし見る限り、この距離(片道三車線)と交通量の前、とどめは斜め前に警察署……では、さすがの大阪人であっても行儀良く待つしかないらしい……だが世の中当然、例外も居る。
そう、皆様おなじみのジョニー君である。
見て見ぬふりをする、周囲の人などお構いなしに、彼はしきりに体を動かしている。
(とにかく他人のふり)
視線をそらそうとした時、不覚にも目がったのか、ジョニーが話しかけてきた。
「太郎、変な顔してどないしたんや?」
他人のふりはあきらめ、ため息まじりに返す。
「それはこっちの台詞だよ……なぜこんな所で準備体操なんて?」
「愚問やな。見て分からんか?」
「うん」
うなずく僕に、ジョニーは『ニヤリ』と笑い親指で適当に後ろを差す
「通天閣のし返しに、この横断歩道を一番早く渡ったって『遅いな』て悔しがらせたるんや……運ええことに真弓はまだ気付いてへん」
(小学生か……くだらない)
ため息を漏らす僕の後ろから……優子の声が。
「真弓、やめなさい」
振り返る視線の先には……自販機の台座コンクリートブロックを短距離走のスターター代わりに足をかけ、既にスタート体勢で前を睨む真弓と、そんな彼女を止めようとしていてる優子の姿が……。
(優子さん……お互い苦労しますね)
鈍感な僕にすらわかる、背後からくる強烈な気迫に押されるように人が動き……気付けば彼女の前には一本の道ができ……。
その分ジョニーの前に人が来た……にもかかわらず、やる気満々のジョニーは
「よっしゃ、もうじきや」
信号を見るのに夢中で全くその事に気付いていない……。
両者かまえ、スタート(そのとき)を待つ……そして信号が赤から……青に変わった!
ジョニー。(気合十分)
「しゃあ!」
声を上げダッシュしようとするが、眼前の人ごみを「すんまへん、ちょう通してや」と懸命に交わしている……。
(頭を下げるなど、意外に礼儀正しい)
すると、その側を『一陣の風の如く』真弓が駆け抜けて行った!
「あ、くそ!」『ジョニーの叫び』
横断歩道(十数メートル)……彼女は前方から近づいて来る人や自転車を、まるでダンスを踊るかの様にかれいにかわし……あっさりゴールを決めた!
真弓は振り返り、肩で息をしているジョニーに
「ちょっとジョニー、用も無いくせに、人ごみの中で大声出すなんて……もしかして『一番で横断歩道渡って「勝ったぞ」なんて意味もない勝利宣言』なんて思ってた?」
「くそ」
視線をそらすジョニーを見て、自慢げに胸を張り
「図星……でも、またあたしの勝ちみたいね」
「こんな勝負、無効や!」
指差しだだをこねるジョニーを、彼女は花で軽く笑い飛ばす。
「良いわよ。その負け犬の遠吠えきいてあげる……第一初めからこんなの勝負でもなんでもなかったもん」
自慢げに鼻を鳴らす真弓を
(おいおい、真弓さんも勝負してただろ)と
僕と優子が共に驚いた顔で見る
「くう! いつか、わいの前にひざまずかせたる!」
「はは『いつか』ていつの事? 逆に今から楽しみだわ」
「なんやて!」
さっきのライオン以上に歯をむき出すジョニー。
(はあ、また長くなりそう。ここは優子さんの出番だけど、試しにやってみよう)
僕は二人の間に立ち、仲裁をしてみる。
「ジョニー落ち着いて……日本橋ってもうすぐだったよね……リーダーみたいに先頭に立って、案内してくれないかな?」
『リーダー。先頭』の単語が功をそうしたのか、上機嫌になるジョニー。
「おう、もうすぐやで。て、電気屋の看板、見えとるやんけ」
「あ、あの電気屋って最近あたし達の町にも出来た……でも大きい」
そして僕達は、高架橋の下を通過して……日本橋中央通りに到着。
相変わらずの交通量……両サイドのアーケードには、カラフルな建物……自動ドアの無い店……少し歩き辛くなるほどの人の波……そんな都会の景色に、またも興奮気味……つくづく僕は田舎者である。
妙に静かだけど……もしかして皆も僕と同じく興奮気味なのかな?
『同志よ』少しわっくわくしながら、横を向くと。
ジョニーは『心の古里』だけあって普段と変わらず自然に歩いている。
優子は、僕と同様目を輝かせながら楽しそうに歩いている。
しかし一人、真弓だけは違い、なんとも不満そうなしかめっ面で、腕を組み歩いている。
「真弓さんどうしたの?」
機嫌をとろうと話しかける僕に、彼女は苦笑し、落ち込んだ様な口調で答える。
「あ、ごめん。なんか不快にさせちゃった?」
「いや。不満そうな顔してたから」
「まあ……想像してたのと違うっていうか……だって日本橋って大きな電気街でしょ……なのに、あちこちに漫画の絵があるし……その……エッチなビデオ売ってる店が堂々と大通りに建ってるから、見てよお姉ちゃん……顔赤く、何度も視線そらして……まるで不審者」
「うう」(言われてみると、おっしゃる通り。なんて言えない)
「想像とかけ離れすぎて……なんか訳分かんなくなっちゃって」
「まあ、気持ちは分かるよ……ドンマイ!」
独特な雰囲気の歩道、人ごっみの中突然あらわれる自転車に驚きながら歩いていると……ジョニーが真弓の側に来て、彼女の肩に手を乗せ近くの建物を指差す
「なに」
不機嫌そうに答える彼女に
「うっ。しんどそうやな……でもあの建物を曲がったら、お楽しみのオタロードや」
「よかった……やっとこの雰囲気と、人ごみから開放されるわ」
小声で返すジョニー「いや。人ごみ……に関しては。どやろな」
真弓は安心したように胸をなでおろし、建物の角を曲がり……ゆっくりと顔を上げるなり
「え」
思わず声を出し、数歩後ずさりし、目を丸くして僕達を見る。
まあ無理も無いか……彼女の正面のビルには、両手を広げお出迎えしてる栗色の髪をした女の子の巨大な絵があるんだから……
「マロンブックスのマロンちゃんだ」
笑みを浮かべる僕に、真弓は驚いたような口調で
「えっ? まさかあんた、前に来たことあんの?」
「僕も今日が初めてだよ……でも以前『読んどけ』てジョニーから、日本橋周辺の観光案内本を渡されて、ある程度は知ってるつもり……さっきからの反応真弓さんてアニメやゲーム、オタクって人が嫌いとか?」
「だからさっきも言ったけど『日本橋は西日本最大の電気街だ』ってって思いこんでたから、そのギャップについていけなかっただけ」
(何十年前の幻想だか)
アニメの電柱広告を指さす真弓に、優子が反応する。
「あ、それ真弓がすすめてくれたアニメ……面白いですよね」
(え! 何ですと⁈ でもここは平常心)
「あ……と『どろどろトライアングル』なら、僕もジョニーも見てる」
『良い気かけができた』と笑みを浮かべる僕のそでを、真弓が引っ張る。
「あ分かってると思うけど 、この事ジョニーには絶対言わないでよね」
「う、うん」
幸い。このやり取り……マロンちゃんの夢中なジョニーは気付いていない
数分後……始は歩きづらかったオタロードを行き交う人の流れや、雰囲気二も慣れてきた。
すると真弓が僕と優子に
「お姉ちゃん、太郎。ちょっとごめん」
一言かけるなり、ジョニーの方へ駆けて行った。
(きっと『動物園でバッグを買ってくれた事』『自分達に向けられてた銃口の前に立って守ろうとしてくれた事』の礼を言おうしてるのかな?)
感心するのもつかの間……
ジョニーのそばに立った真弓が声を上げた。
「あのさジョニー、さっきは……て! いやらしい顔してなに見てんのよ!」
「ビックリした、なに急に大声上げとんねん」
「は⁉ あんたこそ『心のふる里』だからってあたし達無視して、なに勝手な行動してんのよ! それに女ずれの状況で、なに見てんのよ⁈」
メイド服姿でビラ配りをする女性に見とれているジョニーの耳を引っ張る。
「あ痛たたたた! はなして~や。 確かにさきさき行ったのは悪かった……でも見てみ」
ジョニーが真弓の手を払うと、彼女はジョニーの見ていたメイド服姿の女性を見る
「なに? あんた、あんなのが良いの?」
「おい、あんなのってな。 メイドさんやぞ、男の浪漫や!」
「なに訳の分かんないことを」
「男の浪漫やな、太郎」
運悪く追いついてきた僕に気づいたのか、ジョニーは突然振り返り……優子と歓談している僕に、何やら同意を求めてきた……ので。
(状況が理解できない。 が、面倒くさくなりそうだ)
「え、なに?」と答える(とぼける)しかない。
「はあ……あんた達って最低……」
ため息をつく真弓に状況をつかめない僕と優子は、顔を見合わせ首をかしげるしかない。
しばらく歩いていると……不意に足を止めた真弓が、ショーウインドーに並ぶマネキンを眺め、指さしながらうれしそうに。
「ねえこの服屋、入ってみない?」
我慢できないのか、彼女は返事を待たず足取り軽く店へ……。
確かに並ぶマネキンが着ているの、目を引くばかりしゃれたものばかり。だけど、よく見ればそれは、背面に張られたポスターのキャラクターが着ている。いわゆる『コスプレ衣装』である。
そして服屋店内……。
「うう。何か違う」
都会のブティックと思っていたのか。 愚痴をこぼし
日本橋の街並みに、店内。二度つづいた『理想と現実』あまりのギャップに打ちのめされたのか。肩をおとし店内を徘徊する真弓がふと顔を上げると……食い入る様にメイド服を見てるジョニーを見つけると(この憂さを晴らしてやろう)と思ったのか、ニヤリと笑い、少しばかにした口調で
「道でも見てたけど、なに? もしかして着たいの?」
「ん……て(ジョニーのメイド服姿)想像してもたやんけ! 女子に……例えば真弓ちゃんに着てもろて、わいの事『ご主人様』て呼んでもらうとかな。どや?」
「は⁈ なにそれ、なんて罰ゲーム?」
「罰ゲームなんて、そがなきついこと言わんと……ほら『ご主人様』て」
ジョニーはハンガーに掛かっているメイド服を取るなり、キャスター付き姿見を、真弓の前に滑らせ、重ね合わせ
「ほら、似合っとるやんか」
鏡に映る姿を指さす……彼女も一瞬見入ったものの
「無理、無理」
突き返すように、すぐさまメイド服を戻し……何事も無かったように優子の側に駆け寄るが……
「真弓、見てたわよ。普段の派手な服と違う、大人しい服。似合ってたのに」
「もう、お姉ちゃんまで!」
真弓は予想外にも、優子が見ていた事、ほめられたこととに。声を出し照れ隠しする。
(相変わらず仲良し姉妹だ)
その後……半時間ほど店内を散策した僕達は『もう少し居たい』とぐずるジョニーの背を押し、店を出、次の目的地へ向かった。




