遠足・天道寺動物園編(その四)
「なんやなんや!……何が起こったんや?」
突然の異常に状況が掴めず、少し取り見出し気味のジョニー………僕は、とりあえず優子さん達を守ろうと彼女達の前に立ち
「何か分からないけど……とりあえず、戻ろうか」と彼女達に指示し歩き始めた……。
しかし今度は僕達の後方、草食動物エリアの方から『ギ~~』と、校門を閉める様な音がしたかと思えば
「エリア移動地下通路、草食動物側、閉鎖完了!」
「よし、次だ」
大声で叫びあう男の声と遠ざかるる足音。
何か、嫌な予感がする……と僕は、不安にかられ軽い金縛り状態ないなる。
直後、園内放送が流れる
『皆さん落ち着いて聞いてください……只今当園、肉食動物エリアでトラブルが発生いたしました……係員の指示に従い落ち着いて非難して下さい……けして檻から脱走したライオンには近付かないで下さい! ……繰り返します。只今当園…………』
(えっちょっと待って……ライオン脱走って………何かの冗談、嘘だろ!)
そのあまりの出来事に、思考停止寸前の頭に悪い予感がはしり、僕は『逃げなきゃ』と来た道を戻ったが。
予感的中。草食動物側、地下通路入口は閉まっていた。
皆のところに戻り「大変だ入口が閉まって」声を上げる僕はあぜんとした
「おお、ライオンの脱走なんて事あるんやな……初めて知ったわ」
「お姉ちゃん、ライオンがお散歩中だって……会えるかな」
「ええ、楽しみね」
どうやら皆も僕と同じく、非常事態に思考停止寸前……否……混乱し、
優子さん真弓さん姉妹にいたっては『ライオンに会いたい』などとんでもないことを口走っている有り様!
(皆を守らなきゃ……けどどうしたら、とにかく考えるんだ!)
僕は思考停止寸前の頭をフル回転させるも、頭は空回りするだけで何も思い浮かばない!
自問し続ける頭を抱え焦っている僕の耳にライオンの唸り声がとどく……絶え間なくわき上がる恐怖で体が動かない……近付いてくる、嫌だ、信じたくない!
(嫌だ、いやだ、イヤダ……やだ、やだやだやだやだやだ!)
後になって思えば、あの……思考麻痺、慟哭し息を荒げ立ち尽くすだけの僕は……まさに案山子以下の存在だったろう。
そして……その動物は、エサの匂いに誘われたかのように、足取り軽く肉食動物エリア側の階段を駆け降り……僕達の目の前に姿を現した。
数秒後『ガチャン』金属音が響く。
(肉食動物側、地下通路入口が閉まったんだろう……閉じ込められた)
蛍光灯の光に輝くたてがみを揺らし、ゆっくりと歩み寄るライオンは……まさに『金色の王者』といったところだろう……が……今の僕にとってそれは『金色の悪魔』である。
眼前の恐怖に身動きがとれず立っているのがやっとな僕……非日常的な現状に混乱中のジョニー。
とは対照的に彼女達はなんとも『平常運転』に、嬉しそうな顔して僕達の前に立ち話しかける。
「こんにちは、ライオンさん」
「ガオ」
真弓に唸り返すライオン(なんともフレンディー)
そこへ優子が申し訳なさげに
「檻から出られ、喜ぶ気持ちは分かりますが。放送のとおり皆さんあなたを探してるので……良ければ戻っていただけませんか?」
「ガオ」
(ライオンが一歩下がった。もしかして言葉が通じてるのか)
「あたし達も一緒に行くから、戻ってくれないかな」
「お願いします」
「ガオ」
彼女達を避けるように前進するライオン
「戻って!」
ライオンにとって『眼前の女子どちらが弱いか』分かったらしく
優子に『どけろ』とばかり牙をむき唸る。
「ごめんなさい」
思わずあやまり、後ずさりする優子を見て、怒りしんとうした真弓は彼女の前に立ち、ライオンを睨み声を上げる!
「何考えてんのかな⁈ 戻れ!」
ライオンからすると『とろうとする獲物に邪魔が入った』ようなもの……で、よほど気に入らなかったのか、ライオンの様子が一変……急に低いトーンで唸りだし……足を止め大きく「ガオ~~!」と僕達を威嚇する!
それは正に地を揺るがす『王者の咆哮!』
気が遠くなる、目の前が暗い……ああ、フラフラする……立ってられない…………………………………と突然!
「太郎君!」大きな真弓の声で我にかえる僕「これ持ってって!」
と彼女が何かを投げ渡す。
「うん」
受け取り、確認。
(バッグだ)
間違いない、真弓さんのライオンのバッグだ……と、続いて僕は先頭に居る真弓さんを見て『は』と息をのむ。
まるで映画に出てくる中国格闘家の様な、低姿勢で構える真弓さん。
『詳しくは、太極拳の一種『長拳』の弓歩衝拳』
それは、僕みたいな素人でも分かるほど完成されおり……ここにあるしゅ『武道の完成系』を見ているように思えるほどだ!
「真弓ちゃん、何考えとんねん⁈」
やっとわれにかえったか、声を上げ前に出ようと手を伸ばすジョニー、だが
「待ってください」
優子さんが腕を斜めに伸ばし僕達を制止させる。
「いや、待てって、危ないやろ」
「真弓ならこれくらい平気です」
「は」
『根拠がない』だけど力強く断言する彼女に、僕は言葉を返せない。
彼女達に良いところをとられ『立場逆転』した僕達男子は……正直、悔しい。
それ以前に、恐怖感で体が動かない。
………と、その間もライオンは唸りながら、真弓の隙をうかがうように………ゆっくりと通路いっぱいに蛇行しながら間を詰めてくる。
それを見て真弓は、ため息とともに口を開く
「嘆かわしい……百獣の王たるライオンも、地に落ちたものね……人に飼われてる程度で野生の観を失い……自分が今、誰に喧嘩売ってるのか理解出来ないようになるなんて……でも安心して……もしそのまま、あんたが、あたし達に傷を負わせる真似をした時には……後悔なんてする間なく、一瞬で終わらせてあげるから」
(見まちがえか)またしても彼女の目が赤く光って見える。
そんな彼女から放たれる、冷たい言葉と気配(殺気)に、流石のライオンも一瞬足をとめる……しかし『王者のプライドか意地』からか、数秒後再びゆっくり足を進ませる。
それに呼応するように、さらに構えを低くし(仆歩下截掌)……視線を尖らせ、不適にほほ笑む真弓。
(目の錯覚か)
この時ばかりは、彼女の可愛い八重歯が、ライオンの牙より鋭い牙に見える。
思わず息をのむ……凍り付く空気に、目を閉じため息まじりに呟いた彼女は、ゆっくり息を整え。
「せっかく会えたのに、もうお別れなんて……ほんと残念ね」
同時に、彼女を中心に場の空気が一変
謝罪にも似た、寂し気な声に、ゆっくりと近づいていたライオンもそれに気付いたのか、あげていた前足をおずおずと地に着けて地面を見………寂しげに何かを訴えるような鳴き声を挙げはじめた。
…………ライオンの訴えが通じたのか、彼女は目を閉じ額に手を当てかるく苦笑し、構えを解いた。
するとどうだろう途端に場の空気が穏やかになり……僕の金縛も解け……皆、安心し「ほっ」とため息をつき一件落着だ!
「そうだったの、分かってあげられなくてごめんね、もう怒ってないから……おいで」
片膝をつき、両手を広げ、優しい声と笑顔で誘う真弓に……ライオンは少し戸惑いながら、おずおずと足を進める……それを見た彼女は、もう一度
「ねえ早く……怖がらないで。ほら、おいで」
優しくはっきりした声で誘う……するとライオンは戸惑うのを止め、助走を付けて彼女に跳びついた……あぶない!
正に、動物博士もビックリするようなワンシーン!
そんな最中でも彼女は笑顔を崩さず……跳びついて来るライオンに、自らも跳びつき抱きかかえ……。
なんと真弓はそのままラオンがを押し倒したのだ!
『ドスン』着地の衝撃だろうか……今、少し地面が揺れた。
『ライオンと戯れる女子高生』誰が見たって非現実……だけど眼前で起こってるこれ(・・)が『真弓ならこれくらい平気です』の根拠である気がした。
その時、突然! エリア移動地下通路脇にある鉄の扉が開き、中から狩猟用ライフル銃を持った男性(猟師)が数人現れ、たがいに驚いた。
男が本部に無線を飛ばす
「緊急、緊急こちら三班。応答願う」
『こちら本部。どうした』
「はい。少女がライオンに……いえ。少女がライオンを襲っています」
『なにを言っている』
「私にもわかりません」
『とにかく。ライオンを見つけたのなら、手順どおり麻酔銃で眠らせろ』
「了解です!」
『とにかく本部の指示は絶対』とばかり、男は
「あぶないですからは慣れてください!」
大きな声で警告をするなり、銃口をライオンに向ける。
が、しかし銃口は震えている。
(無理もない、少しでも狙いがずれたら真弓さんが危ない)
「やめて! あ!」
叫びながら銃口の前に飛び出そうとする優子。しかし勢いあまって転んでしまった。
「いやー!」
響く彼女の叫びに、視線を向ける真弓。
(そういえば、ジョニーのやつはどうした⁈)
体が動かない僕は、急いで彼の姿を目で探す。
「おっさん! 何考えとんねん⁈」
不意な怒声に視線を下げると、猟師を睨み上げるジョニーが
(居た!)
彼は猟師の足元へ滑りこむなり、右手親指を安全装置代わりだろうか、引き金の引きしろにつっこみ……左手は銃の後部側面にあるコッキングレバーを強引に押し銃を傾かせ、装填されていた弾丸を強制排出させた……。
そして彼は地面に転がり落ちた弾丸を見て、両手を下ろし……安堵のため息を漏らすが……すぐに猟師を軽く睨み、きつい口調で一喝!
「オイおっさん! 人に、ましてや女に銃口向けるて、なに考えとんねん」
軽く息を整え、左手でライフル銃のバレルを持ち、銃口を下に向けさせ
「ええか……男が女に向けて良いのは『真心』と『股間のマグナム』だけや! そうやろ、太郎!」
『いい事言っただろ』ドヤ顔を向けられ、返事に困っている僕に「な!」と催促するジョニー
(そこで同意を求めるな!)
「な! な! な!」
『お前が返事をしないと話が進まない』とばかりにしつこく催促するジョニー
根負けした僕はため息を漏らし……わなわなと右頬を引くつかせながら言葉を返す。
「まあそうだろうな……しかし、最後の『股間の何たら』にはちょっとな」
僕とジョニーの会話をよそに
そばに立ち尽くしている猟師が『信じられない』とばかり唖然としてた表情で、自身の倍程の大きさはあろうライオンと戯れる真弓へ、遠慮がちに声と指を古わっせながら質問をする。
「き、君……ライオン、怖くない?」
「ぜんぜん、こんなに可愛いのになぜ怖がんなきゃダメなの?」
あっけらかんと質問を質問で返す真弓に、真弓と優子以外その場にいる皆が言葉を失う……すると彼女はあろうことか「ねえ」とライオンの頬を引っ張り上げ笑顔をつくる『百獣の王、なされるがまま』
「ジョニーと太郎も撫ぜてあげたら」
手招きする彼女の言葉にあまえて、数回ライオンの毛並み撫でた後……
動物園からの謝罪や、学校や家族へも連絡、新聞やニュース……兎に角ややこしい事になる
それだけはごめんだと……身振り手振りで必死にうったえ
笑顔の彼女達とは対照的に心底疲れた表情で動物園を後にした
さてこの後すぐ、日本橋オタロードだ!




