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出逢い(後編)(太郎)

 僕はジョニーと二人で、足の途に転がる『物体X』改め『空飛ぶ手提げカバン』をじっとながめていると……。


「ケダモノ! それ以上お姉ちゃんに近づくな!」


 再び響く大声に、僕達はそろって例の人影を見ると……それはすぐさま、こちらへ走ってきた!

 人影は、次第に姿となり、はっきりと見えてきた。


 優子と同じ制服を着ている……女の子だ。

彼女は白いリボンで纏めた茶髪の長いポニーテールをなびかせ……

薄褐色の肌に、活発そうな顔立ちをし、いかにも『体育会系・スポーツ少女』といった感じだ。


 そのすらりと延びた自慢の足をつかい、猛ダッシュで駆けてきて『あっ』という間に、僕達の前に来たかと思えば。すり抜けながらにカバンを拾い上げ、優子と僕達の間に仁王立ちして……僕とジョニーを……とくに先程、鞄を当て損ねたから、であろう僕をメインに睨んでいる。


 カラーコンタクトでもしてるのかと思えるほどの、ルビーの様にきらめいてる大きく赤い瞳と……少し大きな八重が二つかおを覗かせている。

それらは普段であれば、彼女を可愛く魅せるアイテムであろう。


 しかし、今の僕にとってその二つは……怒れるトラの如く、ギラギラ光る目……

震えもち上がる上唇から、はっきりと見える二本の牙………と、彼女の怒りの程を

見せつける凶器(アイテム)にしか思えず、身動き一つとれない!


金縛りか⁈

(ああ今なら「蛇に睨まれたカエル」ということわざの意味と。カエルの気持ちがよく分かる気がする)


「ケダモノ、なにこっち見てんのよ! さっさとどっか行ってよ! このケダモノ!」

ケダモノと二度もいわれたよ……声をかけてだけなのに、この少女は、僕達の事がよほど御気に召さないらしい。


すると……

「なんてこと言うの真弓! 謝りなさい!」

 優子が強い口調でその少女(真弓)をしかると、一瞬で、張り詰めていた空気が緩み『渇(かつ)』を入れられたように、僕の金縛りが解けた……が!


 優子にしかられても、真弓と呼ばれた少女は、僕達への威嚇のてを緩める事はなく……むしろ、より険しい目つきになり、気のせいか小さく

「ガルルルル」

と唸り声すら聞こえてきた。


「誰がケダモンやて~!」

 負けず嫌いのジョニーは、目を見開きツカツカと、真弓の真正面へと歩み寄り

わずか数センチの身長さを利用せんと、かるくつま先立ちし上から睨み返して、

ケンカを売らんばかりの強い口調で、彼女を威嚇し返した!


 一見、真弓にとって不利なこの状況、しかし、彼女はは臆する事なく、むしろこの状況すら楽しんでいるかの様だ。

強がるジョニーを「ふっ」と鼻で一笑し、小馬鹿にするように言葉を返す。


「そんなの、あんたに決まってんじゃない……それに、自分から突っかかってくるって事は、自覚してるって証拠よね?」

「う~」

今度はジョニーが唸りだした。


 など目の前で、こんな修羅場のが展開されているにもかかわらず、僕はのん気に(この真弓ちゃって優子さんの妹かな?)

等と、的中率のかなり高い予想をし……優子に一応の質問した。


「上田さん、ちょっと質問いいですか? ……真弓ちゃんて、もしかして妹さん?」

「はい……その、先程から妹が失礼なこと言って、ごめんなさい」

申し訳なさそうな表情で、目を閉じ頭を下げようとする優子に、真弓が大きな声で待ったをかけた!

「お姉ちゃん! こんな奴に謝る必要なんか無い! この茶髪、お姉ちゃんの胸を……あ~! 思い出すだけで胸がムカムカする!」

 真弓は渋い顔をして、胸のスカーフを握り締め、地団駄を踏み始める……そんな彼女を見て、ジョニーは何を勘違いしたのか『ハァハァ』と息を荒立て

「ほ~、ムラムラすんのか? ならその乳モミモミさすって看病したろか~?」

と、両手をスケベ面の側にもっていき、怪しいく指を動かしながらき……じわりじわりと、真弓にねじり寄る。


(はぁ、煩悩まるだし。友人として、なんとも情けない姿だ)


 眉をひそめ怯えた顔で小さくなる優子とは正反対。

これ以上にない相手を馬鹿にする様な顔をした真弓は、再びで鼻で笑う


「はぁ? モミモミさする? 意味不明なんだけど、この低脳……正にケダモノね!」


 はき捨てるように冷たく言い放った、正にダメ押しの一言だ。

頭にきたジョニーは声を上げ、真弓に襲い掛かる!

「このアマ~!」

高く振り上げた拳を真弓めがけて一気に降りおろす!


(何やってんだアイツ! )僕は心で叫んだ


 全ては一瞬の出来事……だがその時だけは、目の前の全てがスローモーションの様に見えた。


 ジョニーに体当たりし、突き飛ばしてでも、彼女を殴るのを止めようと、体に力を入れたが間に合わないと諦めた瞬間(とき)、僕の横で

「ふっ」と声がした。

 真弓が僕よりも遥かに早い動きをみせ、その表情はとても冷たく、冷静そのもの。

 彼女は、ジョニーの攻撃を、難無くかわすと、空振りし体勢を崩した彼の背後に

すかさず回り込み、体勢を立て直そうとする、彼の背中を平手打ち

再び体勢を崩し、ノーガードになった彼の横っ面を、カバンで叩いた!

「天誅!」

正に改心の一撃。


 ジョニーは、なんともあっけなく気を失い、半回転しながらその場に倒れた。

真弓の完璧なノックアウト勝ちである。


 あっという間の勝負の決着、一方的で勝負にすらならなかったと思うが……。

数秒間の放心状態から我にかえった僕は、すぐさま周囲を確認すると


 足元には、気絶し、横たわる敗者ジョニーの体が、ころがっており。

その側で、笑みを浮かべ彼を見下ろし、僕の視線に気付くなり、自慢げな顔をこちらに向ける勝者真弓。


 そして目の前には、妹である真弓が、ジョニーを問答無用、一撃でノックアウト

させた事に、どう対処すれば良いのかと困った顔で、右往左往してる優子の姿が。


 数秒の沈黙の後……。

真弓が不適に素敵な笑みを浮かべ僕に歩み寄る。途中……前で横たわるジョニーの体を『ひょい』とまたぐ、その失礼な行為に目を丸くし驚く姉を尻目に……彼女は僕の耳元に顔を近付け……低くはっきりとした口調で


「彼にごめんて伝えておいて……それと、分かってると思うけどさ~」

とささやき『念』を押してきたのだ。


(この状況、断る選択など無いことは明らかだ)と僕は、瞬間で理解し

「正当防衛って言いたいんだろ? 分かってるよ」苦笑しながら頷いた。


 そのやり取りを見、僕の言葉を聞いた優子の表情に落ち着きが戻り、一安心といった感じに、安堵の息をもらしている……これにて一件落着。


 そして、真弓はにっこりと笑みを浮かべると回れ右をして、優子の側に駆け寄り

「お姉ちゃん、帰ろ」

と優子の手を引いて帰ろうと数歩足を進めたとき


「お、おのれ……覚えとれ……今度おうたらな~」


 ようやく意識は取り戻したものの、まだ体に力が入らないのか、

僕の膝枕で倒れたままのジョニーが、残りの力を振り絞り震える指で真弓をさし

雑魚キャ特有の名台詞を……これにはさすがの僕も呆れてしまった。


 案の定……少し離れた所から

「はははははは」

真弓の笑い声がはっきりと聞こえ……そのまま彼女達は一礼をし、その場を離れた

……姿が小さくなっていく


僕はため息をつき、倒れているジョニーを見て

(そっと回復を待つべきかか、病院に連れて行くべきか)

悩み少し途方にくれていると……


 不意に、優子が僕達の前に走って戻ってくるなり、彼女はしゃがみ、倒れてるジョニーと僕、それぞれに

「ホントに、ごめんなさい」と頭を下げ「これ、使って下さい」

と言うなり、鞄から、半分水の入ったペットボトル(もしかして飲みかけ?)と、

白いハンカチを取り出し、そっと僕の脇に置き……立ち上がり。


「さようなら」と言葉を残し、彼女は真弓の側に戻り、再び歩き出す……そして時折心配するように、こちらを振り返えりながら……彼女達の姿は遠くへと消えた。


 そうして今……僕は、とり残されたように沈む夕日を見ながら、膝の上で横たわるジョニーの回復を待っている。


 黄昏に染まる町……繰り返される毎日……川原の堤防……そして、出逢い。

こんな些細な出来事が、僕の日常、生き方を大きく変えるなどとは、

この時の僕には、知るよしもなかった……。

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