出逢い(前編)(太郎)
ゆっくりと黄昏に染まりゆく町並みの中を、我先に家路を急ぐ人の群れ、家々から漂う旨そうな夕食の匂いが、自然と彼らの足取りをより早くさせている。
何処にでもありそうな、毎日繰り返される『お馴染みの風景』……。
そんな喧騒から少し離れた、人通りがほとんど無い静かな川原の堤防を僕、山田太郎は、親友のジョニーと二人横並びに歩いて下校している。
(詳しくいうと僕が川側、ジョニーが畑の多い宅地側だ)
親友と横並び、無言のまま、ただ歩いてる事に、なんともいえない気まずさを感じた僕は、気付かれないようちらりと目をやると彼は、いつの間に拾ったのか右手に短い木の枝を持ち、それを指揮者のタクトのように振り回しながら、気持ちよさそうに鼻歌をうたっていている。
(一・二・三・四あの振り方四拍子か……ってあんなに気持ち良さそうにしてるんだ、邪魔しちゃいけないな)
空気をよんだ僕はため息一つ、視線をそらし、ぼんやりと景色を眺めて歩く……道端や川原におりる斜面ノ所々に自生する、ツクシや、タンポポの花が、なんとも春らしい。
そして時折、下から聞こえてくる元気な掛け声に目をやれば……今日も河川敷で、地元少年野球の子供手達が、今日も練習している。
(どれどれ)とスコアボードを見てると、八回の裏か。
あの背番号、昨日の強打者……さあ、どう出る?
さぁ、ピッチャーがセットポジションに入った、その時!
「なあなあ!」
最高に良い場面でジョニーが僕の肩をしつこく叩き揺さぶる。
当然僕は一気に不機嫌になり、渋い顔で睨むようにジョニー(この時だけは邪魔者)を見る。
不機嫌な僕とは正反対に、ジョニーはなにやら嬉しそうに進行方向をつつくように何度も指さしている
「前方に可愛い子みっけたんや! おい太郎、見てみいや……あそこ」
見なきゃ永遠に叩き続けるだろうな、と僕は渋い顔のまま上げジョニーの指さす方に視線を向けた。瞬間……その光景に心を奪われたのか、僕の視線は釘付けになった。
僕とジョニーが目にしたもの……それは、長い黒髪を四月の心地よいそよ風になびかせながら、僕達の少し前を同じ方向へ、一人歩いている、女性の後ろ姿。
(背丈からして高校生か?)
この町では見慣れない、セーラー服とブレザーのいいとこ取りをたような洒落たデザインの白い制服を着ている。
(何処の学校に通ってるんだろう?)
そんな事を一人ぼんやりと思案してる僕の横で、ジョニーはブレザーの内ポケットから携帯電話を取り出し、すぐさまカメラモードに切り替え
「あの感じ女子高生か? 顔見えへんけど、とりあえず今晩のオカズに一枚」
と、膝を曲げ姿勢を低く、撮影体勢をとる。
(ヤバイ!) 心が叫んだ。
僕はとっさに、ジョニーの前の飛び出しすやいなや両手で彼の携帯のレンズをで覆った!
「な!」
予想外の行動をとった僕に驚いたジョニーは、後ろへ数歩ふらつき撮影を止め携帯をおろし、僕を睨み一喝。
「太郎、なにすんや、撮れへんやろ⁈」
声を荒げもんくを言うジョニーを尻目に、僕は彼女の後姿を見て……(よかった、気付かれていない)彼女に間接的にでも迷惑させずにすんだ……と安心し、息を整え、再びジョニーに視線を向けるなり少し強い口調で
「ジョニーこそ何してたんだ! あれって盗撮だぞ! 僕まで巻き込まれるところだった!」
注意するものの、納得しきれないジョニーは少々不満げな表情を僕に向け
「すまん……分かっとる、分かっとるんや……でもな……男ちゅうもんは……」
そう二人でプチ問答をしてると……突然! 僕の後ろの方から
「きゃっ!」と可愛い叫び声が聞こえた。
気になってすぐ振り返り、声のした方を見ると、僕達の前を歩いてた彼女が尻餅をついている。
(アスファルトの上で尻餅なんて痛そう、ケガとかしてないか?)
僕は心配になり、まだ尻餅をついてる彼女のもとヘと急ぎ駆け出した……すると僕の後を追うようにジョニーが一緒についてきた。
(さすが親友、心強い、きっと彼も僕と同じ気持ちなんだろな……そうあってほしい!)
そして僕は、ケガして立ち上がれないのか女の子座り(あひる座り)をし、少しうつむき加減の彼女の側に立ったは良いが、思わず走ってきたものだから、何をして良いのか分からない……とりあえず。
「あの、その……あ、大丈夫です。か?」
優しく声をかけようとしたが、その歯切れの悪さに、声なんかかけなきゃよかったと、変に後悔して、黙り込む僕に
「……はい」
返事がかえってきたことに安堵のため息をつき、顔を上げると……振り返った彼女と偶然目があい、一瞬息がつまった。
「可愛い」その吸い込まれそうな大きい焦げ茶色(ダークブラウン~ブラウン)の瞳に一瞬みとれてしまったが、僕はすぐさま脳をフル回転させ、つづく言葉を探し口を開く
「ケガしてない? とりあえず立てる?」
と言い。伸ばしかけた手を引っ込め、ズボンでかるく拭いてから、再度、彼女へと手を伸ばした。
「はい大丈夫です……すみません」
彼女は軽く頭を下げ、僕の手をとった。
(あっ……)
母さんや妹以外の女性の手に触れるなんて何年ぶりだろう……多分、幼稚園や小学校の運動会、フォークダンス以来だと思う。
僕より一回り小さい彼女の手は、とても柔らかく温かかった。
そして僕の手を握りゆっくりと立ち上がった彼女は
「有難うございます」と再度頭を下げ……スカートや服についた埃を、両手で丁寧に払い落とている。
やるせない妙な沈黙……。
とにかく何か言わなきゃ……そうだ、とりあえず目にした時から気になる彼女の制服について質問しよう。
「その、ひざとかケガしなくて、よかったね……その、ところでその、見慣れない制服だけど、それ、どこの学校の?」
たどたどしい僕の問いかけに、彼女は服についた埃を払い落とすのを止め、僕を見て、制服の胸元(胸当て)に金糸で刺繍されれいる翼を模したような校章を指差しながら
「あ、これですか? これはリリジョン(宗教)高校の制服で……申し遅れました、リリジョン高校、宗教科一年、上田優子といいます」
と、優子は簡単な自己紹介をし微笑んだ
優子さん、僕達と同じ高一か……って、自己紹介してくれたんだから、僕も自己紹介をかえすのが普通だよな?
「あっ、僕はメリヤス高校、普通科一年……名前は、山田太郎、で、こっちの彼が、村上ジョニー……それで、あの」
(は~、自己紹介って毎回へんに緊張して上手く言えないんだよな、はっきり言って苦手だ)
台詞に詰まり、困っている親友(僕)がすぐ側に居るというのに、ジョニーは
『そんなのお構いなし』とばかり、優子の胸と顔を交互に見ながら、鼻の下を伸ばし口を開いた
「しっかし、ええ乳してまんな~」
なんとも彼らしい、おきまりの一言である。
そんなことを言われた時の女性の反応、というのは「古今東西」共通しており
当然、優子も例外ではない、すぐに彼女は手で胸を隠し、一瞬で怯えた表情になり
ゆっくり一歩一歩、後ずさりする……。
しかし逆効果。あろう事か彼女の反応が、オスとしての本能に、火をつけてしまったのか、すけべ面丸出しになったジョニーは、本能のおもむくまま、優子の胸に手を伸ばす……優子危うし!
その時!
「くぉら~!」
町中に響かんばかりの大声、怒声が飛んできた。
驚きのあまりビクッと肩が揺れた僕は、すぐさま声がした方に目を向けた。
すると堤防の上、僕達の居る場所から数十メートル後方に人影が一つ、こちらを見返すように立っていた。かと思えば、両腕を広げ片足立ちになり、体をねじった。
あのポーズ、数分前、河川敷のピッチャーマウンドで見たような……ヤバイ!
瞬間的な推理と直感、なによりも本能的にわき上がる悪い予感に僕はしゃがみこんだ。
予感は的中、人影から何かが飛んできた!
僕は慌てジョニーに同じ体勢をとるよう「しゃがめ!」と大声で警告したが
まるで聞いちゃいない。
それどころかむしろ、僕が優子のスカートの中を覗こうとしてるなどと勘違いしたらしく。
「太郎、ええ度胸しとるの~直にパンッ!」
「!」
円盤の様に、高速回転しながら飛んできた『物体X』は、僕の頭上をかすめ……台詞途中のジョニーのスケベ面に、めり込まんばかりの勢いでクリーンヒット!
そのあまりの衝撃に耐え切れなかったジョニーの体は、美しい放物線をえがき
数メートルほど後方に飛ばされ……仰向けに倒れた。
自業自得とはいえ、結果、被害者となったジョニーにはわるいが、僕は
(こんな漫画みたいな場面も起こりえるんだ)と一人、心の中で関心した。
「っ! ……痛た~! なんやねん⁈」
すぐに治らない痛みに、顔を歪めるジョニーは、右手で額をさすりながら
上体を起こし、前に落ちてる『物体X』をかたきとばかり睨み付けるが、すぐに
「カバン?」
と頭に疑問符を乱舞させ、首をかしげた。
それもそのはず、例の人影から飛んできた『物体X』の正体……それは
どこにでもありそうなデザインをした、茶色いレザーの手提げカバンだった。
(おい、あんな遠くから投げたのか? なんてパワーとコントロールだ)
思わず感心してしまった。
今回も、読んでくれて、ありがとうございます。
『山田太郎たちの恋物語・Boys Meets Girls?』
第二部『出逢い』
僕達と優子さん真弓さんとの出会い、どう思いましたか?
面白い、気に入ったと思っていただけたら是非
ブックマーク ・ ☆一つでも良いから、評価をいただけると……
僕の学校生活にも潤いが出て。なにか変化が起こるまれるかもしれません。
よろしくお願いします。
by.山田太郎(主人公)




