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遠足・新世界編(前編)

 テスト期間を無事のり越えた安心感に『明日は遠足』という高揚感でろくに眠る事ができながった僕は、まだ日も昇っていない早朝。

 五度寝を諦め時計に目をやる

「四時半……興奮して眠れないって僕は子供(ガキ)か」

思わず自分に突っ込みを入れると同時に思いついた。


(このまますぐ学校に行けば、先のカラオケで集合最後になった汚名をはらせるのでは……こうしてはいられない)


 思いつくなり飛び起き、ジージャン、ポロシャツにジーパンといったレトロな私服に身を包み『行ってきます』と朝食もそこそこに、身なりを整えるなり家を飛び出し……駆け足でバスが止まっている第二体育館前の駐車場に向かった。


 ちなみに第二体育館は、数年前に校舎と道を隔てるように建てられ、未だ県下でも指折りの大きさを誇っている。


……とさすがに息も上がってきたところで校舎が見えてきたので(何時だ)腕時計を確認すると『五時十五分』


(どうりで生徒はおろか人影が見えないわけだ……ということは、今回こそ一番のりになれる……だが油断は出来ない。毎度一番になる事が趣味のジョニーなら徹夜で待っていたとしてもおかしくない……しかし、花子がそうであるように女性のしたくは時間がかかる、だから優子さん達よりは早く着くだろう)


『最悪二番手か』などと憶測をめぐらせながらながら駐車場に駆け込むなり一呼吸

「みんな、おはよう!」

 なんともわざとらしいさわやかな声で挨拶をしながら顔を上げる目の前には、

腰の高さほどある大きなバスのタイヤにもたれかかって腕組をし少しうつむき加減のジョニー、その視線の先、第二体育館入り口階段わきにのベンチで座っている優子と、彼女の膝枕で、気持ちよさそうに寝息をたてている真弓の姿があった……。


(また僕が最後か、人生そんなに甘くない)

がっくり肩を落とす僕の気持ちを見ぬいたのか、ジョニーがにやにや笑いながら挨拶を返す。

「おはようさん。ええ挨拶やな」

苛立ちに似た悔しさを消そうと、視線を優子と真弓にうつす。


「おはようございます」

優子が小さく頭を下げる。


(しかしなんて気持ちよさそうに寝てるんだ)


 普段のどこかとげがある切れ長の目の女性が、今だけは、全てをゆだね眠る子猫みたいに無防備な表情をうかべてるあどけない少女になっている。


「寝てる真弓さん、可愛いですね」


「有難うございます、この子には秘密ですけど、この可愛さ、私のお気に入りの一つでもあるんです……ほら」

そう言って優子破魔弓の頬を指先でかるくつつくと

「ううん、むにゃ」

くすぐったいのか、つつかれたかしょを手の甲で撫でながらなんとも気の抜けた妙に甘い声と息をもらす


「熟睡してましね」

 まるで子猫のような反応をみせる彼女にふきだすのを我慢する僕に優子は、真弓の頭を撫でながら

「今日の遠足があまりに楽しみで、少ししか眠れなかったそうです」


(はは、小学生みたいだ)

「小学生かい!」

ジョニーの愚痴と僕の心の声が一瞬ハモったように感じた。


 その間も真弓のほほをつつく優子……しまいに彼女(真弓)は寝返りするかの様に、少し身もだえする。


 そんな光景を前に辛抱たまらなくなったのか、真弓の寝顔、反応を見ては、うすら笑いをうかべるジョニー

「真弓ちゃんの頬っぺた、わいもツンツンしたいんやけど。ええか?」


 だが質問に、不思議そうな顔をして質問で返した優子に『予想外』とばかり一瞬言葉を失う。

「……いいですけど、どうしてですか?」


「あ、いや『いつもと違って、ちと可愛いなて思うてしもたから』が理由じゃ、あかんかな?」

うすら笑いを、愛想笑いに変え照れくさそうに頬をかくジョニー。


「いいですよ……でも、起こさないよう、そっとお願いしますね」

微笑んで答えるなり優子は、ジョニーが真弓の頬をつつきやすいよう、上体をそらし穏やか(きょうみしんしん)な表情で様子を見ている。


「ほな、遠慮なく」

 許可をもらうなり、表情がうすら笑いにもどったジョニーは、しゃがみながら指を真弓の顔へと近づける、ジョニーの笑いをこらえるような口調と行動に違和感を禁じえない僕は、もう一度彼の指先を見ると違和感は的中

普通なら頬へと向かうまっすぐ伸びた一本の指が、かるく曲げた親指と人差し指の二本しかも頬ではなく鼻先へと向かっている。


(もしかしなくても、それで彼女の鼻をつまむのか、どうなっても知らないぞ)


『これ以上かかわっていられない』

 目線をそらしたが、普段は凛とした少女が軽い呼吸困難で、吐息をもらしながらくねくね身もだえする、姿を想像して視線を向けると……ジョニーの動きと表情が固まっている。


(もしや)など思考をめぐらせる間もなく、毎度おなじみのピンと張りつめた空気が……そう真弓が目を覚まし彼を睨みつけているのだ。


「何? この指」

殺気すら感じる視線と冷めた口調に、ジョニーは顔をこわばらせ思わず後ずさり

「あ、な何やろねぇ、とにかく、すんませんでした」

「何がすまないのか詳しく聞きたいところだけど、間単に想像つくし、今日は楽しい遠足だから許してあげるけど、次したら、分かってるわよね」

「はい、わい殺されます」

「そう、よく分かってる様でうれしいわ」


 事なきをえて……『新世界でどこ行く?』など雑談しているうち集合時間がちかづき、バスが暖機のを始めると、その低いアイドリング音に誘われるよう生徒達が集まりだし、十分もしないうちに駐車場が騒がしくなってきた。

気を利かせた運転手が、バスから降り

「生徒の皆さん、どうぞ自分のクラスが書かれたプレートのバスにお乗り下さい」

と大きな声で手招きする。


 僕達は(早く着いたんだから少しでもいい席を取ろう)とすぐさまバスに乗り込んでは迷わず最後尾の長い座席に右から真弓・優子・僕・ジョニーという順番で座ったものの……『思春期における男女の壁か』僕は無意識的に少し距離をあけて座って、改めて見る数十センチの空間に(僕の意気地なし)とため息をもらす。


そして時間となり、出発式や挨拶もそこそこに走り出したバスは、途中生徒を乗せながら、高速道路にのり、アクセルをふかし一気に速度を上げる


 盛り上がる車内で、今だあいた空間に落ちこむ友人なんてお構いなしにジョニーは情報誌『大阪ウォーク』を楽しそうに読み始め……もらした笑みに真弓が。

「なに、面白そうな雑誌読んでるじゃない。あたしにも見せて……ごめんお姉ちゃんちょっと寄って」

ぐいぐいとさきの空間がなくなる


「でさ、新世界って通天閣以外になにがあるの?」

「いろいろあるで。例えば元祖」北緯気なジョニーの言葉を遮り指をさす

「あ、動物園もあるの⁈」

「質問しといて人の返事きかんかい。在るででも新世界やなくて天王寺やけどな」


……言ってる間に県境、大阪に近付くにつれ高いビルが増えてきて皆のボルテージも高まっていく!

高層ビルがあればつい見上げてしまい、その高さに無償の興奮をおぼえてしまうのは……やはり田舎者である性か。


『すごい』と窓に張り付く真弓を見たジョニーは……にやりと笑い、なんともわざとらしい何か思い出したような仕草と口調で

「そやそや、そういえば少し行ったとこに『オタロード』ってえらい有名な道があんねけど……どうしょう」


『有名』という単語に反応した真弓が割り込んできた。

「え有名⁈ そこも行く!」

すると『予想どおり』とジョニーは不適な笑顔を浮かべる……


(はぁまた嫌な、否、また面倒な予感がするよ)


……そうしているうち……バスは目的地である新今宮のバス停に到着した。

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