○○の中間テスト……気晴らし(後編)
そして堤防に上がり『マラソンスタート地点』とかすかに読めるる錆びだらけの看板の下。
同じく消えかけの白線上に、前傾姿勢で一列に並んだ私達は、いつスタートするのか
そわそわしながら太郎さんの口元に視線を注ぎ、その時を待つ
「皆さんの足を引っ張らないよう頑張らないと」
「そんなに気合入れなくても大丈夫」
焦るあまり思ってる事を口に出してしまったのか、太郎さんが優しく声を掛けてくれた。
『とにかく落ち着こう』と深く息を整える私の横で、突然ジョニーさんが真弓を指差し大きな声で
「なんぴとたりと、わいの前は走らせへん!」
「何、長距離で女子に勝つつもり?」
鼻で笑い返す真弓
「か。勝ち負けなんて関係あれへん……挑戦することに意味があるんや」
「ふ。急に弱気になって……でもその心意気はよし、うけてたつ!」
(またこの子は挑発にのって……)
心を落ち着ける息が、らくたんのため息に変わった時。
仲裁のため太郎さんが睨み合う二人の前に立ちゆっくりとした口調で
「おいおい、二人とも意地にならないで……これはあくまで優子さんの練習と、レクリエイションなんだから……楽しくしようよ」
「おう、わかっとる。楽しく勝つ(やる)で」
「ええ、お姉ちゃんのため勝つ(はしる)わ」
太郎さんの説得もむなしく、ひきつった笑顔を返す二人はひばなを散らしている。
「合図してから僕も走るから……それじゃみんな位置について、用意……」
「ドン」と口に出し、ジョニーさんは、フライングの猛ダッシュ!
卑怯な手段でみるまに離れていきます。
「男が二度も同じ場所で負けられるかい! 先手必勝や!」
「この卑怯者!」
真弓はフライングをした彼に激怒し、すぐさま体勢を低く『クラウチングスタート』の体勢で太郎さんを見て一言
「合図」
「ドン!」
にやりと笑い、砂煙が上がるほどの猛ダッシュ
学年女子一位を誇る彼女のスピードはとても早く、彼との差を徐々に狭めてゆきます。
「真弓ちゃん早……てもう何かめちゃくちゃになりましたが、とりあえず僕達もスタートしようか」
『まるで運動会みたい』
などとマラソンの練習そっちのけで二人を眺めていた私は、太郎さんに声を掛けられ、びくりと肩をすぼめ
「はい」
「では用意。スタート」
ゆっくり走りだす太郎さん……そして
(マイペースで追いかけていける)と余裕を感じ、前を見て思わず感謝する。
(今、目があった)太郎さんは気を使い、何度も気づかれないよう振り向いてはペースを調整していた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、優子さん体育実技、いい結果が出るといいですね」
「はい」
しばらくして……遥か前を走っている真弓ととジョニーさんを見ていた太郎さんが私へ顔と視線を向け
「スタート地点の看板に堤防の距離って書いてたよね?」
「はい、たしか片道一キロと書いてました」
「だったらそろそろ……」
「スタミナの切れる頃ですね」
(負けず嫌いの二人だから、ふらふらになりながらも競い合うだろう)
前を走っている二人に視線を移したことが合図のように、二人の走るペースは次第に落ちてゆき……抜かれまいと、よろよろ肩をぶつけ合いながら、ふらつき歩く始末。
「ここまで予想通りの展開になってしまうとは」
苦笑いまじりでつぶやく太郎さんにつられ、おもわず私も笑ってしまう。
「ほんとに」
とにかく二人の側で笑ってしまわないよう、気持ちと息を整えながら、息を切らして歩いている真弓とジョニーさんに追いつき、様子をうかがう。
疲労と息切れに顔をゆがませながらも『自分の前は行かせまい』と、ふらふら肩をぶつけ合う二人に、太郎さんが声をかける
「おいジョニー、大丈夫か」
「すまん、さすがに無理や」
「無理なら降参したらっていうか、いいかげん降参して……あたしだって限界なんだから」
「……お。それはとおまわしに降参するってことか?」
「冗談。あんたこそ降参したいんじゃないの」
と口でも争い続ける二人
「体壊したりしないうちに、もう二人とも休んでください」
「なんの、わいはまだまだや」
「あたしだって」
太郎さんと私に声を掛け見られたことで『負けられない』と、競争心むき出しの顔で意地をはりあう二人。
「ごめん、ジョニー」
一言、太郎さんに片手で肩を掴まれた、ジョニーさんは『はぇ?』と、バランスを崩し力なくその場にしりもちをつき……肩をふつけあう事で実は支えあっていたのか、数歩先で真弓もバランスを崩し、しゃがみこみ、二人そろって悔しげに太郎さんの顔を見上げる。
「なにすんねん」
「男なら今回は真弓さんに勝ちを譲るか、いやなら、二人とも歩いてたんだから、引き分けにしてくれないかな」
「分かった、今回は勝ち譲ったる」
頭をかきながら強い口調の太郎さんにジョニーさんは観念したのか、舌打ちをし勝敗の提案をしぶしぶ受け入れてくれました。
が、真弓が太郎さんをにらみ声を上げる
「太郎『女だから勝ちを譲ってあげよう』だなんて、女を(あたしを)バカにしてんの⁈ そんなの不愉快だから要らない! 引き分けでいい」
「かっこええ事言うな……でもええんか、あとで後悔すんなよ」
「誰が、するわけないでしょ⁈ なんなら、あんたの勝ちにしてあげてもいいわよ」
「いらん、そいこそ余計なお世話や!」
などと二人は、普段なら喉から手が出るほどほしいであろう『勝者』を投げつけるように言い合いながら立ち上がり、そのまま(言い合いながら)ゆっくり河川敷へと歩きはじめました。
(もう付き合ってられない)
同じ気持ちなのか、私と太郎さんはそろってため息をつきました。
「……行こうか」
「はい」
数分後。
吹く風に頭を冷やされたのか、ジョニーさんと真弓が河川敷に到着した私たちに頭を下げる。
「ほんまごめん。わいがくさった意地張ったばかりに、雰囲気だいなしにしてもて」
「お姉ちゃん。太郎さん……マラソンの練習だめにして、ごめんなさい!」
私は、いつにもみないほどしおらしい態度と声で謝ってきた真弓の頭を撫でながら、優しく言葉を返し、彼女をなだめた
「真弓、ジョニーさんもそこまで謝らなくても……それにスタミナの残しておくのも大切な事ですから……怒ってませんから、頭を上げてください」
そして十分ほど休憩の後、かるく準備運動をし……また二人が競争しないよう(念のため)私と太郎さんが先頭を走り……ペースを落とすことなく完走。
河川敷のベンチに座り。
「優子ちゃん、結構やるやんけ。これやったら体育のテストもばっちりやな」
「ありがとうございます」
「当然でしょ。お姉ちゃん、まだ時間あるから、もう一本行っとく?」
などと話していると……ふいに、かん高い電子音が
あわてポケットをさぐる私達をよそに、太郎さんがアラームを鳴らしている携帯電話を取り出し。画面を見るなり
「え。もうこんな時間」
驚くなり、両手のひらで携帯をはさみ、申し訳なさそうな表情と口調で
「皆ごめん、妹に三時から犬の散歩頼まれて……自分勝手で本当に悪いんだけど、先に帰らせてもらってもいいかな?」
「ええでっていうか、わいらもここらへんで終わりにしよか」
が
「ああ、あのこの」
「ポチの散歩か」
「あれ? 犬とあわせた事あったかな……どうして名前まで?」
「犬といったらポチでしょ」
「ジョニーと一緒だ」「な!」
「とにかく皆さん、今日は私の練習につきあって下さりありがとうございました」
「じゃあ、一足お先に!」
太郎さんのその言葉で解散し後は、自宅でテスト勉強することにしました。
今、私に出来ることは……自分を含め皆さんのけんとうを祈る事のみです……。
読んでいただき、ありがとうございます。
『山田太郎たちの恋物語・Boys Meets Girls?』
第十二部『○○の中間テスト……気晴らし』
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by.メガネ君(作者)




