お引越し(その一)(太郎)
今日は五月五日『こどもの日』
久しぶりに昨晩はゲームに夢中にった僕は……もうろうとした頭で部屋着のまま、ベッドにダイブ……そのまま爆睡して朝を迎え……遮光カーテンを閉め忘れた、間抜けな僕の顔にこれでもかと容赦なく朝日がふりそそぐ。
(まぶしいな~)
何度となく寝返りをうち抵抗するが、効果なく……かんねんした僕は、まだ眠たい目をこすりながら、渋い顔で時計を見る。
「まだ六時前かよ」
『早起きは三文のとく』なんてよく聞くけど……休日に限ってそれ(早起き)は、なぜか損をしたように感じてしまうから不思議だ。
時間的に二度寝をあきらめ、ゆっくりと上体を起こし、ベッドから立ち上がって、二階自室の窓を開けると……僕の気持ちとは裏腹に、晴天のもと気持ちよさそうにおよぐ鯉のぼりがちらほらと見える。
「屋根より高い鯉のぼり……」
などと口ずさむように歌いながら、近所の庭にたつひときわ大きい鯉のぼりを眺めていると、不意に僕の後ろで、ベッドにころがって(寝て)いる携帯が着信音を鳴らす。
(こんな朝早く誰だ? たぶんジョニーからで『ひまだから遊ぼうぜ』とか?)
「どれどれ」僕は鼻で笑いながら、携帯電話の画面を確認して、予想外の相手に驚き、危うく携帯電話を床に落としかけた。
無理も無い、優子さんの名前が表示されていたからだ。
僕は(待たせたら悪い)と思いながらも一度深呼吸して、電話に出る。
「はい、もしもし優子さん」少し声が裏返る。
『残念! 真弓ちゃんでした!』
再度、予想外の相手にいひょうをつかれた僕は、軽く咳き込んでしまった。
『ははは太郎君、せき込んで面白い』
『こら真弓、良いかげん電話かえしなさい!』
『やだよ、もうちょっと』
電話のむこうで笑う真弓と、彼女をしかる優子の声が聞こえたきがした。
場面を想像しながら、息を整え質問する。
「えっ真弓さん? こんな朝早くにいったい何ですか?」
すると真弓は、きゅうに少し甘えた声を出した。
『いきなり電話してごめんね……実はあたし達、商店街の近くに引っ越してきたんだよね、ベッドとか大きいのは業者の人に運んでもらったんだけど、まだ他にもたくさん荷物があって……ね』
(手伝えと……でも、いつの間に引越ししたんだ)
僕はすぐに状況を、分析整理し、疑問に思いながらも、しぜんに答える。
「了解、手伝うよ……でも引越しなんて力仕事、さすがに僕一人じゃきついからジョニーも呼びたいんだけど、今から電話していいかな?」
引越しの人手を得た。と一安心したのか、普段の明るい声にもどる真弓。
『あっ、それなら大丈夫! さっきお姉ちゃんが、ぎゃくにあたしのスマホで電話してくれたから……ははは! ごめんジョニーの反応思い出して、ははは、それじゃ午前七時半に商店街一丁目にあるアーケード入り口の柱の前で待ってるからね、必ず来てよ!』
そう言うなり、真弓は僕の返事を待つことなく電話を切った。
とんとん拍子に話が進み、うむも言わせず切れた電話に呆気に取られ、数秒間、かるい思考停止状態で携帯電話を見ていた……と我にかえり、ため息を漏らす。
(はあ。仕方ない……ジョニーも来るみたいだから、とりあえず行こう)
そして着替えている僕の背後で、ドアがひとりでに開いた……と思えば、眠そうに目をこすり、あくびをしている、花子がノックもせず入ってきた。
「おはよう、お兄ちゃん……どこ行くの?」
僕は、うつらうつらゆっくり上体を揺らしている花子の様子を見て
(よし、まだ寝ぼけてる……これならわざわざ誤魔化さなくても大丈夫そうだ)
と軽く鼻で笑い『バカ正直』に答える
「この前のハンカチを貸してくれた女の子の家に、引越しの手伝いに行くだけだから……遅くても夕方のポチの散歩までには帰ってくるから大丈夫」
『正直者がバカを見る』その油断があざとなったのか、予想に反し、花子は目をまるくして僕の顔をじっと見た。
(しまった油断した! だが妹よさっきまでの眠気はどこ行った?)
完全に目を覚ました花子は駆け寄って来るなり、足に抱きついて離れやしない。
「お兄ちゃん、この前(ハンカチの女の人に)会わせてくれるって言ったのに、ウソつくの⁈ わたしもちゃんと手伝うから、連れていって! お願~い!」
そういえば、不意とはいえ確かに『会わせる』なんて言ったな。
まいったな……このふくれっ面だとそのうち『嘘つき~!』なんて大声で駄々をこねられ、両親、とくに母さんに見つかったらまずいな、ううん……。
離してくれない花子の視線を受けながら、うなりあい、軽い自問自答に悩んだ末、僕は深くため息をもらし、しぶしぶ要求をのむことにした。
「はあ、負けたよ……連れてってあげるから、向こうの人に絶対、迷惑なんてかけず、大人しく引越し手伝うんだぞ、分かったな!」
「うん」
「じゃあ、すぐ動きやすい服に着替えて来い」
「は~い」と言いながら手を上げ私室に戻る花子。
(まったく、毎度げんきんな奴だよな)
そして五分後……『おまたせ』と、ジャージ姿で現れた花子の手を引き、待ち合わせ場所に向け、家を出た。
……しばらく歩くと……。
相変わらず遠くからでもすぐ分かるど派手な色合いをしてる商店街のアーケードが見えてきた。
到着するなり周囲に目をやったが……まだ優子さん達の姿はなく……『来たら怒ってやろう』と、にやけ面で腕組みをしているジョニーが居た。
(また良からぬ事を)
僕は腕時計を見ると『七時十五分』……少し早くついたみたいだ。
再び横に目をやると、中腰でジョニーが花子の頭をなでながら、ズボンのポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。
「花子ちゃん、手伝いに来てくれたんか? おりこうさんやね、ほら、あめちゃん食べ」
それを両手で受け取った花子は、笑みを浮かべ、お礼の言葉を返し、すかさず僕も礼を言う。
「有難う、ジョニーさん」
「毎回だけど、あめ有難う、この借りはまとめて返すよ」
とかるく頭を下げる僕に、照れくさそうに苦笑いをかえすジョニー。
「はははいやいや、そないな事、気にせへんでええで」
そして……
「カラオケとか、携帯購入って、いろいろあったのに……いきなり引っ越して」
「そうだよね……でものんな家に引っ越したんだろう?」
なんて、他愛のない雑談で暇をつぶしていると……。
商店街の人なみから優子と真弓が現れた……(『お~い』て手を振ろう)
なんて思っていると、どうやら彼女たちも僕達を見つけたのか、真弓が指さしてしては、駆け足でこちらへ向かって来た。




