入部(太郎)
四限目終了を告げるチャイムが鳴る中、皆すぐに席をたたず『ようやく一段落』あくびしたり、伸びをしたりと開放感をたのしんでいるようで、それが分かる僕も、彼等の一員である事は言うまでもない。
(さあ昼休みだ、今日は学生食堂で何食べようかな)
席に座って伸びをしていると、ジョニーが僕の肩をポンと叩き、顔を覗く。
「なあ太郎、一緒に学食へ飯食いにいかへんか?」
「うんいいけど、上田さん達も誘っていい?」
僕の言葉に一瞬、渋い顔をしたジョニーは、『仕方ないか』といった表情で頭を掻きながら
「え。まあ、お隣さんになってもたんやから、しゃあないか……」
それを聞くなり僕は、彼の気持ちが変わらないよう立ち上るなり、まどなりの席(優子の席)で話している優子達の方に向きを変えた瞬間。
「なに?」
視線を感じたのか、僕より先に真弓が口を開いた。
相変わらず警戒心(敵意)丸出しの目で睨まれ、つい一歩下がってしまった。
(何やらご機嫌ななめ、だからか彼女の赤い瞳は迫力満点だ)
「優子さん、僕達、今から学生食堂に行くんだけど……良ければ一緒に行きませんか?」
僕は、真弓からのきつい視線を避けるように優子に向かって誘った。
「学食……ちなみにここって、肉のメニューって有る?」
「はい」
真弓に口を挟まれ、身構えながら顔を上げると……彼女は目をキラキラ輝かせさせながら
「学食行く行く、お姉ちゃん一緒に行こう」
と、まるで腹ペコの子供がねだるように、優子の肩を軽く揺すっている。
(まさか不機嫌の理由って、単にお腹が空いていただけ?)
「ええ」
心の疑問に絶妙なタイミングで、微笑み答える優子。
「ほな、行こか」
ジョニーの号令に僕達は、学生食堂へと向かった……。
教室を出て、僕とジョニーの前を、並んで話しながら歩く姉妹の背中をみて。
今になって、堤防での出来事を思い出した。
(ハンカチを返さなきゃ)
と、頭いっぱいで焦るあまり僕は、声もかけず優子の肩をかるく引っ張った。
「な! 何ですか」
ビクリと肩を揺らし、目を丸くして振り向いた彼女に、
「驚かせてごめん」
と僕はすぐさま頭を下げると……制服の内ポケットからハンカチを取り出した。
「優子さん、これ、先週堤防で置いていってくれたハンカチ、ありがとう、ちゃんと洗濯してアイロンもかけたんで」
「そんな、洗濯まで……差し上げるつもりだったのですが……ご丁寧に有難うございます」
ハンカチを受け取り、お辞儀をする優子の手から、
「何か挟まってるよ」
と真弓が紙切れを引き抜いた。
「ごめん、レシートだったら捨ててください」
早くとで謝る僕に、微笑みながら真弓が答える
「レシートじゃないし。第一、こんなの簡単に捨てらんないよ。ねえ太郎君……花子って誰?」
と真弓が『紙切れ』ではなく『(兄をよろしくと書かれた)メッセージカード』を見せる。
「小学三年生……僕の妹です」
「へ。へえ、妹いるんだ……いつか会わせてね」
「私も、お願いします」
「うん」
「相変わらずちゃっかり、いや、しっかりしとるな」
笑うジョニーに……自然と雰囲気が明るくなった時。
優子が軽く手を上げ中央に立ち提案してきた。
「太郎さん、ジョニーさん……もし良ければ、私達の事は気軽に優子、真弓と呼んで下さい」
僕は彼女達の呼び方のリクエストに驚いた、でも
「そんな……女の子をよびすてなんて出来ないから、優子さん、真弓さんと呼ばせてもらえないかな……むしろ僕達の事こそ太郎、ジョニーと呼び捨てにして構わないから」
「いえ、私の方こそ太郎さん、ジョニーさんと呼ばせてもらいます」
「ならわいは、優子ちゃん、真弓ちゃんて、呼ばせてもらうわ」
「だったらあたしは、太郎君、ジョニーと呼ばせてもらうわ」
「おい、なぜわいだけ呼び捨てやねん!」
「あたしとお姉ちゃんを『ちゃん』づけして子ども扱いしたからよ」
などと笑い。階段を下りながら、互いの呼び名を決めているうちに……僕達は、学生食堂の前に到着した。
僕は値段の割りに量の多い炒飯……ジョニーは迷わずカレーうどん……優子がサンドイッチとコーヒー牛乳を選ぶのを見るなり、真弓は彼女の真似をして同じメニューの食券を買った。
真弓が、長蛇の列に並ぼうとする優子の肩を叩いた。
「ねえねえ。お姉ちゃんの分は、あたしが持って行くから、かわりにテーブルの確保お願い」
「僕とジョニーの席もお願いします」
「はいもちろん……では、あの隅にあるテーブルにしますね」と指をさす。
「おおきに。助かるわ」
食券を渡し僕達に軽く頭を下げると彼女は、指定したテーブルに、ハンカチ・ティッシュ・学生証を、予約席のマーク代わりに置くと……気遣ってか、座らず僕達を見て待っている。
優子の確保してくれたテーブルに着くなり……優子の前に僕、右に真弓、右斜め前にジョニー、男女対面式の合コンのような配置に座る。
僕とジョニーは椅子に座るなり、早口で
「「いただきます」」
言うと同時に、食べ始めるが、そんな僕達の前で優子と真弓は、何やらお祈りをしてから食べはじめる。
(キリスト教なのかな? 同じ教徒のジョニーとは大違いだ)
そして食事中、
「そういえば真弓さん……さっきここに肉のメニューは有るかって聞いてたけど……もしかして、前の学校では」
「あそこ、宗教学校やからな……精進料理だけとか。ははは」
「バカにしてるの? それ(肉のメニュー)くらい有るわよ……ただ宗教上食べちゃダメな肉や野菜が有って大変よ」
(そうだね大変だよね……食堂のおばちゃんが)
談笑をしていると……不意に、ジョニーのカレーうどんの汁が、真弓の袖についた……おやくそくだ!
当然、真弓はしかめっ面でジョニーを睨みながら、ハンカチで汁を拭き取っている。
「ちょっとあんた! これ、シミになったらどうしてくれるのよ!」
ジョニーは目をそらし謝りながらも言い返す。
「えらいすまへんな~でも、あんたやったら避けること出来るんとちゃいます?」
「座った状態でそんな芸当、出来るわけないでしょ!」
「またまた、ごけんそんを」
ジョニーは茶化すように愛想笑いをし、再び『ずるずる』音をたでうどんをすすりはじめた。
それをふくれ面でにらむ真弓。
次の瞬間何かひらめいたのか笑みを浮かべ……仕返しとばかりにジョニーを茶化しはじめた。
「あんた達って、もう部活動してんの? でもまあジョニーの場合、どこにも入らず帰宅部だったりして……ははは」
「ははっ、わいら二人、文芸部に入っとるんやけど、あんたらも入部せえへんか?」
ごく自然と答えながら、勧誘するジョニーに……真弓は一瞬言葉を失い固まったが、すぐにテーブルを叩きながら笑い声を上げた。
「ははは! 太郎君ならまだ分かるけど……あんたみたいのが文芸部って冗談。 似合わないし、ありえないって! ははは」
「どういう意味や⁈」
「そんなの、鏡みりゃ分かるでしょ……ははは、冗談きついわ」
(はは。真弓さんの気持ちよく分かるよ……誰だって茶髪のチャラ男に『僕は文芸部員です』なんて真顔で言われたら……なにかの冗談としか思えないもんね)
「は~⁈ 冗談なんかゆうてへん!」
笑われたことに腹を立て意地になって強い口調で言うジョニーに、真弓も意地をはりだした。
「ふん! もし本当だったら、あんたの望みどうり入部してあげる……良いよねお姉ちゃん!」
「ええ。私は本好きだから良いけど……真弓、あなたは苦手でしょ?」
「う……大丈夫。こんな奴が文芸部員だなんて、嘘言ってるに決まってるんだから!」
(こんな火花散る雰囲気の中、口を挟むと余計に自体を悪化させるのは明白だから、当人同士で解決してもらおう)
僕はしばらく傍観することに決めた。
ジョニーはカレーうどんを一気に平らげると、立ち上がり
「ほな……文芸部が部室としてつこうとる図書室で部員名簿みせたるわ!」
と真弓に割り箸をつきつけながら『宣戦布告』を言い放つた。
真弓はそれを鼻先で一笑し、サンドイッチを口に一押し込むように一息で食べ、コーヒー牛乳で流し込むと、空になったビンを机にたたきつけ、立ち上がりジョニーの目を見て
「受けてたつ」
と彼の申し出を受けた!
そして食べ終えた僕達は、すぐに学食を出て、一路、中央本館三階に在る図書室へ向かった……。
ガラス張りのドアを開けたとたん。
入学当初の僕と同様に、優子と真弓も唖然とした表情で室内を見回している。
一分後……我に返った真弓が『図書室ではお静かに』と書かれた張り紙なんてお構いなしに、声を上げる。
「なんで学校の図書室にマンガ本やら豪華なリクライニングシートが在るのよ~向こうでは寝そべって読書するコーナーまであるし」
「個性的な図書室ですね……あ、綺麗なシャンデリア」
「そないな事より、わいが嘘いうてない証拠見るとちゃうんか⁈」
ジョニーの言葉に真弓は、図書室に来た目的を思い出し手を叩き
「そうだった。この奇想天外な図書室に圧倒されて忘れてたわ」
「ええか。ここで待っとけよ」
ジョニーが、貸し出しカウンターから文芸部の部員名簿を持って来るなり、自分と僕の名前を指差し、鼻をならした。
「ほらこことここ、わいと太郎の名前あるやろ?」
「ええ」
悔しげな表情でうなずく真弓に、ここぞとばかり言いよるジョニー
「じゃあ、約束どうり入部してもらうで、忘れたとは」
真弓がため息まじりに、了解する。
「はいはい、ちゃんと覚えてるわよ……入部してあげる、放課後ここに来ればいいのよね?」
「そうや」
まじまじと部員名簿を見ながら……優子が感心したような口調で呟く
「しかし部員さん、多いいですね」
(この文芸部の名簿見たら言いたくなるなるよね)
僕は少し得意げに文芸部員の多さと、この図書室の関係『カラクリ』について説明する。
「ほぼ全員が帰宅部みたいな部員だけど、時々図書室に来て本を借りるだけでも、ちゃんと部活したことになるんだから……その全員がここの部員になったから……部員も部費も多いい……だから、部室として使ってる図書室もこんなに改装できる……それと……あそこに居るのが部長で二年のメガネ君先輩」
マンガ本の棚の側の椅子に座り、マンガ本にかじりついているメガネ君先輩を、手のひらでしめす。
「私達、ちょっとあいさつしてきますね」
と優子は真弓の手をとり、メガネ君先輩の側に行くので……僕とジョニーも少し心配で後をついていく。
「あのすみません……メガネ君先輩ですか?」
「いかにも……何かね?」
無愛想な低い声と視線が彼女達をひるませる
「はじめまして先輩……一年三組の上田優子と妹の真弓です……私達、本日から入部予定のなので、よろしくお願いします」
そう言い礼儀正しく一礼する優子。
と、それを横目で見て、慌て頭を下げる真弓。
すると彼は、おもむろに立ち上がるなり、カバンから入部届けの用紙とボールペンを取り出し
「こちらこそよろしく。では、この入部届けにサインを」
優子達が入部届けを書いてメガネ君先輩に渡す
「確かに受け取った……知ってると思うがそこの太郎君とジョニー君も、うちの部員だからね……では今日の放課後から来て大丈夫だから、待ってるよ」
メガネ君先輩はニヤリと笑みを浮かべながら立ち上がるなり、マンガ本を本棚に返すと……制服のブレザーをマントのようにひるがえし「はははは」と周囲に聞こえるほどの笑い声を上げ、上機嫌で図書室を出て行った……。
その背中を指差して、ため息交じりに苦笑いをしながら
「何あれ、変わった人……はっきり言って苦手なタイプね」
と眉をひそめて言う真弓にジョニーも短い苦笑いをして
「まあな、でもわざくれ言わへんでもええ面倒臭いやろ」
と一応のフォローを、その二人のそばで
「喜んでましたね」
「うん、メガネ君先輩の笑顔なんて、初めて見たよ」
(先輩、女子部員が一度に二人増えた事が、そんなにうれしいのかな? でも……これでいっそう倶楽部活動が楽しくなりそうだ!)
やあやあ皆、今日も読んでくれて、ありがとう。
『山田太郎たちの恋物語・Boys Meets Girls?』
第六部『入部』
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僕はとても嬉しい。
と……部員一同、頑張っていこうと思うから、これかもよろしくお願いします。
by.メガネ君先輩(文芸部部長)




