九十八話
歌うような桐葉の言葉とともに空が赤くなった。ブラッドムーンだからというレベルではない、見たことがないほどの鮮血の空。
「何あれ!」
真樹は窓の外を見る。赤くなった空から一本の光線が、音もなく一直線に校庭に突き刺さった。目がくらむような、黄色い光線。人を貫けそうなほど、その光は細く、鋭かった。それは途切れることなく、ぐるりと校舎周りをコンパスのごとく一周していく。
「おいおい冗談だろ? 何が起こってんだ!」
隆幸も窓に両手を当てて、食い入るように外の光景を傍観する。生きていて一生見るはずがないであろう現象。一体桐葉は何を起こしたのだ?
窓の外――校庭には、学校を取り囲むようなカーテンが形成されていて、奥の住宅街がかすんで見えた。結界。このカーテンに名を付けるならばまさしくそれ。
「これで外と中とは完全に隔離されましたぁ! 学校からは出ることはできませ~ん」
のんきな声とともに、校舎までもが赤く染まった。灰色も茶色も、部屋が全て深紅色へと変貌した。
しかしすぐに色が戻る。
「……悪い夢なら覚めてくれよ」
隆幸が渇いた声をあげた。
コンクリート製の地面はひび割れ、壁には多数の落書きが現れている。真樹たちがいる高校の面影は残ってはいた。しかし、真樹たちが見知っている学校ではない。こんなにぼろぼろではないし、治安の悪い落書きは先ほどまでなかった。
「呪術の副作用ですかね~。ま、どうでもいいですけど」
動じていない彼女の口調に、真樹たちは我に返る。
桐葉の好き勝手にさせていたら、まずい。
直感がそう告げていた。




