九十三話
体が動く。再び改札を抜け、学校行の電車へ乗りこむ。
「いえ、もう大丈夫です。もう来なくても」
「俺はお前の教師だ! 行くにきまっているだろう!」
電車の飛びこむ。誰もいない車両。
「……今まで、ありがとうございました」
「待て!」
「今だから言えます、先生」
高速で流れる景色。遅い。遅すぎる。間に合わない。一番前の車両に移る。速度は、変わらない。
「後でいい! 頼むから!」
「すみません。それは守れそうにありません」
鼻をすする音がした。声も、涙声だった。
「先生――」
「待て! 早まるんじゃない! 如月!」
「大好きでした。女として、先生が好きでした」
それきり、電話は切れた。空しく電車は動き続けていた。
学校に戻り、教室に入った時、すでに彼女はこと切れていた。
顔はフードで覆っていた。どす黒い顔を見られたくなかったからだろうか。首には麻のロープが首に巻きつけられており、地面には椅子が横に転がっている。
「あ……ああ……ああ」
地面に垂れる吐しゃ物。ギシギシとまだ揺れている死体。血だらけの両腕。
「あああああああああああああああああああああ!」
絶叫しても、無駄だった。全ては後の祭りだった。
いじめに気付かなかったなんて、そんな言い訳で逃れることだってできなかった。
あれから二十八年。自分は生徒のために尽くしてきたつもりだ。生徒のためなら何でもやってきた。贖罪という名で片付けられるはずなんてない。全ては自分が生きるために。自分を戒め、彼女が死んだ高校に勤め続けるのも。
それでも自分は愚かしいことに翠も真樹も、そして仁も救えなかった。呪いは連鎖し、次々と不幸な人を作った。
全ての原因を作ったのは自分だ。だから桐葉の言うゲームも、参加する責任がある。
「保高……」
この子も、その犠牲者の一人なのだ。何を企んでいるかは、薄々分かっている。
だからこそ行かないといけない。
「……如月」
飲み終えたカップをそのままにし、福田は立ち上がる。
「明日、全てにけりをつける」




