九十二話
福田は一人レストランで珈琲をすすっていた。隆幸と晴人とともに訪れた場所。騒がしいはずなのにもかかわらず、一切騒音が耳に入ってこない。空は暗く、八時を回っている。
「……ここも、変わらないな」
二十八年前もこうだった。いつもざわついており、よく如月と一緒に食事をした。彼女はまっすぐな生徒だった。不正を許さず、自分にも他人にも厳しい。そういう人だった。それ故、クラスにもなじめることはできなかった。
「先生」
彼女が死ぬ前に、福田先生は連絡を受け取っていた。
「どうした? こんな夜更けに」
電話を受け取った時は、自宅の最寄り駅の改札を抜けた時だった。
「……先生の声が、聞きたくて」
いつもとはかけ離れた、機械のように淡々とした声だった。
「どうしたんだね? 如月!」
心をかき乱す胸騒ぎとともに、不安でケータイを握る力が無意識のうちに強くなる。電話の奥で鳴る、ガタガタと物を動かす異音が、それに拍車をかけていた。
「先生。……先生はいつも私の味方でいてくれました」
ガタン、と何かがひときわ大きく響く。
「ああ。もちろんだ。どうしたんだ? 今どこにいる?」
ぞくぞくと震えたのは、そ冬の寒さだからではない。
「学校です。先生の教室」
時刻は、もう十二時を回ろうかとしているころだった。
「待ってろ、すぐ行く!」
行かなければならない。自分の教室に。本能がそう告げていた。




