七十九話
「嫌な予感がする」
晴人が住んでいる場所はそこまで離れてはいない。隆幸は走り出す。のほほんと歩ける場合ではなかった。楓は呪いに触れている。一刻も早く楓を見つけないとヤバい。
「タカちゃん!」
角を曲がるとちょうど晴人と合流した。
「コンビニに行ったんだけど、駄目だ、あいつ行ってねー」
「じゃあどこに行ったんだよ」
「俺もしらねーよ! くそったれ!」
晴人がレンガ造りの壁を思い切りなぐりつける。
「……お前、桜井の自室に行ったか? 書き置きとかなかったのか?」
不意に思い出して聞くと、晴人は虚を突かれた顔をする。
「見てねぇ」
「動揺しすぎだよ!」
どうやら何も考えず外へ出たらしい。
「とりあえず今から行くぞ!」
「ああ!」
隆幸らは再び晴人達の家へ向かって走り出した。
汗がほんのりとワイシャツを濡らしたころ、ようやく彼らの家に到着した。家と言っても安っぽいアパートの一室だ。一本の廊下を軸として左右と中央の三つの部屋に分かれている。
晴人は手早く鍵を差し込んで扉を開けた。
開かれる、貧弱な廊下。以前訪ねた時より、どこか黒々とした印象があった。彼は左の部屋へ迷わず入る。隆幸も晴人の後ろに続く。
扉を開けると、普段なら整備されている楓の机の奥が紙であふれていた。
「どうやら何か調べていたみたいだな」
「ああ」
手前には一枚の紙が置かれていた。どこかのサイトをコピーしたようだった。ノートパソコンも電源が切れている。ずっとオンのままで放置されたらしい。
晴人が手前にある紙をとる。
「……なんだこりゃ」
そこにあったのは文字の羅列。
『幽体はそのままの姿でとどまっていることはできない。よって新たなる器を見つける――つまり吸収することで生き長らえる。これを憑依と言い、最悪の場合は完全にすべてが乗っ取られる。代表例と言えば集合霊。ある一定数の器を手に入れ、器の意識すらも取り込み混濁状態となったものであり、その場合はとてつもない霊力と凶悪性を得る』
「なんでこんなもん調べてんだよ、あいつ」
晴人が楓の椅子にどかりと座り、難解な数学の問題を見た生徒のように首をひねった。
「分からない。……集合霊か」
オカルト板とかで何度か見たことがある。いくつもの幽霊とか神様とかがごちゃ混ぜになったようなものだった。霊媒師にとっても脅威らしく、その外見は異形と化しているそうだ。
だけどなぜそれを調べていた?
「いや、それよりも彼女が行くような場所の手がかりさがさねーと!」
晴人は紙を机に置き、さらに奥の紙の束を引っ張り出してきた。彼女の直筆のメモ用紙に、これまたネットのサイトのコピーなどが何枚もある。
「駄目だ、思い当たる場所ねーわ!」
紙を乱雑に地面に打ち捨て、乱雑に舌打ちする。その手には、楓からもらった銀のライターが握りしめられていた。
日時は、十二月七日だった。




