七十三話
カーテンを開けると、曇天の空が隆幸らを迎えた。風でガタガタと窓が音を立てる。
「だけど妙ね」
ぽつりと額に手を置いていた楓が、そう漏らした。
「妙って、何が」
「呪いを作っているのは、二十八年前に自殺した如月という女子生徒でしょ。なのに冷泉さんが『貴方を殺してしまう』というのはおかしくない?」
言われてみれば、少し違和感がある。これでは真樹が俺たちを殺してしまうと受け止められるかもしれないのではないか。
「聞き間違えじゃないか。そんなわけねーだろうしよ」
「……だよな。さすがにありえない」
そう言いながらも、隆幸は胸に何かが引っ掛かっているような、得体のしれない不安感を覚えていた。何か見落としている。そんな気がしていた。何かは分からないが……。
「ん?」
不意に、楓がわずかに口元に指を付け、目を細めた。
「どうした? 桜井」
「いや、ちょっと……」
言葉を濁した楓が、すくっと立ちあがった。先ほど酔いで倒れていたのとは全く違う、機敏な動き。
「ごめん、二人とも。ちょっと先に帰るね」
「おう。分かった。気をつけろよ」
「ええ。じゃ、また」
笑顔を作って小さく手を振るも、その目は隆幸らを見ていなかった気がした。もっと、何か、別のものを見ているような……。
そのまま部屋から足早に出ていく彼女を見送る。楓は振り返ることなく、外へ飛び出していった。早足で遠ざかってくハイヒールの音が響く。
「どうしたんだろう、桜井」
晴人も首を傾ける。先ほどまでとは違う、突然の行動に二人は呆気にとられざるを得なかった。
「とりあえず追うわ。悪いな、飲み散らかして」
晴人は放っておけないようで、そのまま慌ただしく上着を身につけた。
「おう。気をつけろよ」
玄関の戸を開き、背を向けたままグッドサインを作る。
扉が閉まった後、ようやく室内温度が二十度を下回っていることに気付き、暖房を付ける。あたりに散らかった缶ビールなどを適当に袋にまとめながら、隆幸は暗雲とした思いに駆られ、窓の外を再び見た。
「……冷泉」
今度は四人で、ビールでも飲もう。だから、もう少しだけ呪いには首を突っ込ませてもらうからな。




