七十二話
目覚めは最悪だった。頭痛がする頭を押さえながら、隆幸は立ちあがった。
何も変わらないアパートの一室。時刻は十時半。会社についているべき時間帯だ。晴人も雑魚寝している。壁には楓がうなだれたまま寄りかかり、一定の寝息を立てていた。机の上には飲み散らかした食料や缶ビールなどが転がっている。
そうだった。昨日の夜は酒盛りしていたのだ。
「おい、平野、桜井、起きろ。もうお前ら全員遅刻確定だからな」
ピクリと楓の目が開いた。すぐさま机にあるデジタル時計を手に取り、さっと青ざめた。
「……とりあえず、インフルエンザにかかったと虚偽連絡しておかないと」
カバンからスマホをとり、電話をかけ始める楓の横で、晴人もあ~やっちった、と大して危機感なさげなリアクションをとる。
「つーか昨日の遠征のせいで疲れたわ。あ~気持ちわりぃ、二日酔いだこりゃ」
「まさか十二月に入って五日でこんな目にあうなんて……気が緩んでる証拠ね」
晴人がまた横になり、電話を切った楓は机に突っ伏した。
「殺してしまうって……それマジでいってんの?」
酔い覚ましの水をあおりながら、晴人は聞き返してきた。
「ああ。よくわからねーけど、たぶんあれは冷泉から伝送されたものかもしれない」
幽霊が夢に現れるという話はネットではよく囁かれている。これも呪いに関連している隆幸に対する忠告だろう。不思議と夢を信じずにいることができなかった。
探すのをあきらめないと、俺たちは殺される。
嘘とは思えない。分かっているだけでも翠と一真、二十八年前の主犯の三人が被害にあっているのだから。




