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六十八話

 「一人ずつ教室に入って。だけどみんな何も出てこなかったって言ってた。私が入った時だけだった。突然カーテンが開いて、ガラス越しに首をつった制服の女子が映ったのは。その子の顔は、いじめで自殺した生徒のものだった」

 柔和な笑みは消え、どこか思いつめた表情になっていく。隆幸がギリッと鈍く歯ぎしりをした。隆幸らも確か好奇心で肝試しをしたのだ。楓も晴人も視線を彷徨わせていた。淡々と翠は体験を語る。

 「その日から全てが変わった。次々とありえないことが起こって、何度も命の危機に晒されて。窓にも首をつった人のシルエットが映ったこともあった。協力してくれた友人も……事故にあって病院に」

 協力者にも呪いは感染する。

 「何で飛び降りたんですか。それに、あんな出来事があった教室で」

 晴人が頬杖をついて聞くと、翠は首を横に小さく振った。

 「信じられないかもしれないけど、分からないんです、私も」

 「分からないって、飛び降りた自覚症状はなかったのか」

 晴人がオールバックを撫でつけながら聞く。とても信じられないといった様子だった。

 「うん。いつの間にか飛び降りてた。意識を失う直前、体に冷たい何かが入ってきて、気づいたら病院でした」

 それは……。

 一真と同じだ。

 動悸が速くなり、きりきりと痛む。意識を手放したらいつの間にか飛び降りている。自覚症状すらなく命を奪おうとする現象に、確かな悪意が感じとれた。暖かい炬燵に入っているはずなのに悪寒が走った。

 不意に真樹の足に翠の足が触れた。

 熱をもった翠の足は、極寒の地にいるかのごとく震えていた。汗でぬめっているのは、熱いせいか、それとも……。

 「だけど、呪いから解放される方法はある」

 「解放される方法?」

 真樹は反復する。そんなものが存在するのか。隆幸もわずかに身を乗り出す。

 「どうすればいいんだ? それは」

 「他県に移る。そうすれば呪いは消える」

 確かに翠は呪いを受けているような衰弱ぶりは見えない。どういう原理かは分からないが、少なくとも効果はあるのだ。

 「その代り私は自分の生まれ故郷には帰れなくなっちゃったけど」

 充分幸せだからいいんだけどね、と翠はさびしそうに笑った。


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