六十七話
翠に招かれて、真樹たちは居間へ通された。暖かい炬燵に入る。冷えていた体がほぐれる。ずっと歩き続けていたせいで両足がポキポキと鳴った。楓と晴人は隣同士で炬燵に入っている。
「ごめんね、うちのお父さんが。」
翠は右手でお茶を各々のコップに注ぐ。申し訳なさそうに眉を八の字にしている翠は、思っていたよりもハキハキしていた。もう呪いの影響を受けてはいないのだろう。
「いえ。ありがとうございます、マジで助かりました~」
一気にお茶を飲み干す晴人を、楓がもう少し遠慮しなさいよと小突く。
「仲が良いですね、お二人は」
「そりゃもう結婚しますからね。最高の嫁ですわ」
「ハル君、それは言わなくていいから」
パタンと机で顔を隠す楓の耳が赤い。真樹は大恋愛してきたんだろうな、と今更ながら羨ましくなった。
「貴女が西条さんね。平野さんから聞いてます。大変な思いをなさっているとか」
わずかに笑顔に影が差したのを、真樹は見て取った。
「岩見さんのことは、資料室で知りました。急に訪ねて申し訳ございません」
現在進行形で呪いに触れている真樹は分かる。あの恐怖も、頼った人に危害が及ぶ苦しみも。
翠はいいえ、と一拍置いてから、お茶をちびちびとすすった。
「……本当に怖かった。何年前かにあった自殺事件の教室へ肝試しに行った時、私だけあれが見えたの」
「あれって……首をつった人、ですよね」
背後につられた女性の影。隆幸の情報が正しければ、如月歌月の霊魂。
「ええ。心臓止まるかと思ったわ。今も夢に出ますし」
翠は人差し指を眉間に当て、しばし目をつむった。口元が震えていた。思い出したくないのだろう。
「あれは、そうね。十九年前。私含めた五人で夜の学校に侵入したの。実際いじめにかかわった主犯三人をはじめ、クラスメイト達が次々不幸な目に遭ったという話だったから、やっぱり好奇心だったの」
真樹と同じだ。あの夜も真樹は一人、好奇心で一年四組に入って、このありさまだ。




